第10話
第10話
「今日もダメだったなぁ…」
仕事終わりの夜の道をアイシャは歩いていた。その姿はどこか元気がなかった。
「軟膏のにおいを改善するにはどうすればいいのかな……」
アイシャはルークが言っていたことを考えていた。かれこれ二週間近くたっていたがその答えに
たどり着けずにいた。アクスに聞こうとも、何度も作ればいずれその匂いはなくなるさ。としか
教えてくれずどうしようもなくなっていた。アクスの言っていた通りあれからずっと軟膏を作り続けているが
ちっともにおいが消える気配はない。
「まさか、これは師匠が私に課した課題なのかな……」
困り果てたアイシャの声は夜の街に消えた。
「さて、これからどうするか…」
仕事終わり閉められた店の中にアクスはいた。視線の先にはアイシャが作った軟膏。
「ここを越えられるか否かで薬師としての資格があるかが決まる。そのためにはあまり余計な口を
出さないようにしないとな……」
そう、この軟膏をどうするかはアクスが課した課題ではなく、すべての薬師の卵が必ず当たる壁であり
試験なのだ。
「できれば越えてほしいが…それも本人次第か」
アクスは軟膏から目を離し静かに店を後にした。残されたのは2つの軟膏。一つはとても臭く、もう一つは
無臭だった。
「今日も一日よろしくお願いします!」
「おう、今日も軟膏よろしくな」
最近この店では軟膏の安売りを行っている。もちろん理由はアイシャが失敗作を作るからだ。軟膏の値段を
下げる代わりに効果は保証できない試作品だと掲示して安売りを行っている。そのため普段に比べてお客の人数は
少し増えるにとどまっていた。ただでさえ人数が少ないのにアイシャはずっと軟膏にかかりっきりなので実質
一人で切り盛りしているアクスにとってそこまで増えないのは売り上げが下がるにしても大歓迎だった。
逆にアイシャは焦っていた。自分の軟膏がうまくできないせいでアクスに迷惑をかけていると思っているからだ。
「早く変なにおいがしない軟膏作れるようになりたいなぁ……」
今日も工房にアイシャの溜息が響いた。
「おい、アイシャ。軟膏ばっか作ってても飽きるだろ。一回休憩してこれ作ってくんねえか?」
これが、今回俺ができる最大限のアドバイスだ。これでだめなら手伝いやめさせなきゃなんねえ。
頼むぜアイシャ。
アクスの手の中にあったのは瓶に入った液体のようなものだった。
「これは『かおり油』っていうんだ。作り方は簡単だから。軟膏の研究に行き詰った時にこの油でリフレッシュしな
これのふたを開けて部屋に置いとくといい匂いがして疲れが解けるんだ。試してみ」
そういってアイシャに瓶を差し出すが
「結構です。今忙しいので」
と断られた。
「…そうか…わかった。これはここに置いておくからな。いつでも使えよ。あ、あとこの工房は夜も使っていいからな~」
「わかりました」
アイシャは必要最低限の会話を済ませるとまた作業へ戻って行った。
「大丈夫かねえ……」
アイシャにばれないように溜息をついた。
「ふう~~~~やっぱりできないなあ」
夜になってもアイシャの作業は続いていた。
「どうすればいいのよ」
うまくいかない憤りといまだにできない自分への怒り。二つの感情に苛まされアイシャは限界を感じていた。
「もう何も思い浮かばないよぉ…どうすればうまくいくかなあ…」
師匠に聞こうにもこたえてもらえないし八方ふさがりだ。
その時、師匠が残していったかおり油が目に入った。
「師匠は疲れが解けるって言ってたけど…物は試しだ!」
そういって瓶のふたを開けるとその途端、とてもいい香りが工房の中を満たしていく。
「あ~なんだか少し落ち着くな~いい香りだし…………いい香り?」
その途端頭の中に一つのイメージが浮かんだ。これなら!!
「久しぶりだな、アクス」
「そんな久しぶりでもないだろ。ルーク」
「まあそうだな、んじゃ前みたいに軟膏くれ」
「ほれ」
そういって投げ渡したものはアイシャが作った軟膏だった。その軟膏からは…
ほんのりと花の匂いがした。
「こりゃあ…アイシャちゃん成功したのか!?」
そうアイシャは軟膏の無臭化どころか。軟膏ににおいを付けることに成功したのだ。
「ああ、自慢の弟子だ。こんな短期間でできるとは」
できたときのアイシャはすごかった。アクスをハグしてそのまま5分くらい動かない程度に興奮していた。
「やっと!、、やっと作れましたよ!!師匠!!」
「おう、お疲れさん。よく頑張ったな」
抱き付いてきたアイシャの頭を撫でる。
「おめでとう、これで薬師見習いから3流薬師にランクアップだな」
「師匠!、あのかおり油ありがとうございました。」
「疲れがとれと様でよかったよ」
アイシャの満面の笑みがまぶしくて目をそらした。
アイシャの興奮は、この後夜まで続いた。




