雪、ひとひら
街は静まり返っていた。
よく知っているはずの場所なのに、どこか知らない世界のようで、寒さのせいだけではなく友哉は身を震わせる。
あたりを見回すと、いつもの公園の入り口が待っている。
きい きい
そちらから、かすかに聞こえる金属音は泣いているかのようで。
おそるおそる足を踏み入れてみれば、見知った少女が一人、ブランコをこいでいる。
「みくちゃん!」
安堵の息を吐き出すと、少女の姿も白く煙る。
「……ともやくん」
どこかぼんやりしたような顔が上向くと、一瞬後には、はなやかな笑顔が戻ってくる。
いっしょに遊ぶ? と問われれば、うなづく以外の答えはなかった。
それからはいつも通り。
きのう食べたお菓子のはなし。
テレビ番組の口真似に笑いころげ。
きいきいと、リズミカルに重なる鎖の音。
それがいつしかひとつになっていてることに気付いた。
「どうしたの?」
声をかけるも、少女はただ首を振るだけだった。
さっきまで楽しそうだったのになぜだろう? 友哉のブランコもつられて動きを止める。
痛いほどの静けさが公園に満ちる。
腰かけた板からは冷たさが這い上がる。
吐く息に、ふわりと別のなにかが重なった。
「あ……」
二人で見上げた灰色の空から、白いものが降りてくる……雪だ。
ほてった頬にはひんやりとして心地いい。
そこへすっと、少女の指が触れる。
「また、いっしょに遊んでくれる?」
なんでそんなことを言うのだろう。いつも一緒にいるはずなのに。照れくさい。
笑ってごまかそうとも思ったが、どこか哀しそうな眼と出会うと、とまどいつつも首を振った。
なにかいわなきゃ、と口を開こうとすると、どん! と肩を強く押される。
とっさに握った手が鎖をつかむより早く、指は空を切っていた。
浮いた尻が、頭が、地面に向けて落ちる。
全身を襲う衝撃に、息が詰まり……眼を開けた。
「―― 友哉! わかる、聞こえるの?!」
自分を呼ぶ声に答えようにも、思うように声が出ない。
覆いかぶさるように呼んでいるのは母だった。そのすぐ後ろには父と、知らない大人たち。
声にかぶせて、耳慣れない機械音が鳴りつづける。
ピッ ピッ ピッ ……
どこだろう、ここは。
さっきまで公園にいたはずなのに。また知らない場所に出てしまった。
「みくちゃんは……」
どうして、急に突き飛ばしたりしたのだろう。
「美久ちゃんは…大丈夫よ。またいっしょに遊べるからね」
どうしてみんな、哀しそうな顔をしているのだろう。
灰色の空を背景に、あの少女がどんな顔をしていたのか、今はもう思い出せない。
「泣く必要なんかないの。ほら、早く元気になることだけ考えなきゃ」
そっと頬に暖かな指が触れる。
自分は泣いてなどいないから。
そこにあるのはきっと、雪だ。




