表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雪、ひとひら

作者: 空猫休憩室

街は静まり返っていた。

よく知っているはずの場所なのに、どこか知らない世界のようで、寒さのせいだけではなく友哉は身を震わせる。

あたりを見回すと、いつもの公園の入り口が待っている。

 きい きい

そちらから、かすかに聞こえる金属音は泣いているかのようで。

おそるおそる足を踏み入れてみれば、見知った少女が一人、ブランコをこいでいる。

「みくちゃん!」

安堵の息を吐き出すと、少女の姿も白く煙る。

「……ともやくん」

どこかぼんやりしたような顔が上向くと、一瞬後には、はなやかな笑顔が戻ってくる。

いっしょに遊ぶ? と問われれば、うなづく以外の答えはなかった。


それからはいつも通り。

きのう食べたお菓子のはなし。

テレビ番組の口真似に笑いころげ。

きいきいと、リズミカルに重なる鎖の音。

それがいつしかひとつになっていてることに気付いた。

「どうしたの?」

声をかけるも、少女はただ首を振るだけだった。

さっきまで楽しそうだったのになぜだろう? 友哉のブランコもつられて動きを止める。

痛いほどの静けさが公園に満ちる。

腰かけた板からは冷たさが這い上がる。

吐く息に、ふわりと別のなにかが重なった。

「あ……」

二人で見上げた灰色の空から、白いものが降りてくる……雪だ。

ほてった頬にはひんやりとして心地いい。

そこへすっと、少女の指が触れる。

「また、いっしょに遊んでくれる?」

なんでそんなことを言うのだろう。いつも一緒にいるはずなのに。照れくさい。

笑ってごまかそうとも思ったが、どこか哀しそうな眼と出会うと、とまどいつつも首を振った。

なにかいわなきゃ、と口を開こうとすると、どん! と肩を強く押される。

とっさに握った手が鎖をつかむより早く、指は空を切っていた。

浮いた尻が、頭が、地面に向けて落ちる。


全身を襲う衝撃に、息が詰まり……眼を開けた。


「―― 友哉! わかる、聞こえるの?!」

 自分を呼ぶ声に答えようにも、思うように声が出ない。

 覆いかぶさるように呼んでいるのは母だった。そのすぐ後ろには父と、知らない大人たち。

 声にかぶせて、耳慣れない機械音が鳴りつづける。

 ピッ ピッ ピッ ……

 どこだろう、ここは。

 さっきまで公園にいたはずなのに。また知らない場所に出てしまった。

「みくちゃんは……」

 どうして、急に突き飛ばしたりしたのだろう。

「美久ちゃんは…大丈夫よ。またいっしょに遊べるからね」

 どうしてみんな、哀しそうな顔をしているのだろう。

 灰色の空を背景に、あの少女がどんな顔をしていたのか、今はもう思い出せない。

「泣く必要なんかないの。ほら、早く元気になることだけ考えなきゃ」

 そっと頬に暖かな指が触れる。

 自分は泣いてなどいないから。


 そこにあるのはきっと、雪だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ