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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

若い時はお互いに魅了されて性欲の虜にるから本当の愛を見つけられない。(Bash!企画)












 お野菜ちゃんとお豆くんは、それぞれ別の農家から出荷されてきて、この倉庫で出逢いました。隣り合って積み上げられ、売られていくのを待っています。

 二人はとても気が合って、すぐ恋に落ちました。冷たい倉庫の中で芽生えた、ひとつの恋。一緒に居る時間はとても楽しいものでした。


「あなたが大好きだよ、お豆くん」

「ぼくもきみが大好きだ、お野菜ちゃん」

「あたなみたいに素敵なパートナーと出逢えたことが本当に嬉しい。わたしこんな冷たくて狭い場所じゃなく、お天道様の下で、広い畑の中で、あなたと一緒に過ごしたかった」

「そうだね。そうなりたかったね」


 しかし、二人は商品。

 だからこそ離れた産地で生まれた二人が邂逅できたのですが、なんと哀しい運命なのでしょう。

 かけがえのない時間は、瞬く間に過ぎていきます。

 とうとう、お野菜ちゃんが売り場に並ぶ日がやってきました。


「これでお別れだね、お豆くん」

「うん。もう君と会えなくなってしまうなんて、ぼくは悲しいよ」

「わたしもだよ。でも、新鮮な内に、食べてもらいたいから。お豆くん今までありがとう、愛してる」

「ぼくもだよ。愛してる、さようなら」


 けれど、お野菜ちゃんは売れずに倉庫へと戻ってきました。


「嗚呼、わたしとうとう売れなかったよ。お客様に三回くらい手にとってもらえたんだよ。でもね、棚に戻されちゃった」

「そうか、それは辛かったね。でも、また会えて嬉しいよ、お野菜ちゃん」

「私も嬉しいよ、お豆くん」


 見つめ合う二人。

 しばらくして、お野菜ちゃんの瞳から、次々と涙が零れ始めました。


「どうしたんだい? お野菜ちゃん」

「うっ、うぅぅ、わたしって、このまま廃棄されちゃうんだろうね。ほら、わたしの表示を見て。もう賞味期限だもの。あーあ、悲しいよう。なんのために生まれてきたんだろう」

「どう……なのかな。ぼくらはあまりよくないところに、出荷されてきたみたいなんだ」

「それは、どういう意味なの? お豆くん」

「ぼくの表示を、よく見てよ。ほら、これ。さっきね、書き換えられたんだよ」

「えっ、どういうこと? あなたは中国産のはずだったのに、国内産になってる」

「そうなんだ。嗚呼、恐ろしいよ。ここは売るためなら、どんなことでもするところかもしれないよ」

「そんな、なんてこと」


 二人はいかされ続けました、防腐剤さんの手によって。


「今日もわたしたちを弄り回しに、防腐剤さんがやって来る時間だね」

「そうだね。辛いよ、ぼくはそろそろ限界だ。これ以上偽装しようがないのに、まだ腐ることを許されないんだね」

「わたしもところどこと崩れていってるのに、あれを塗り込まれていくの。見た目だけ、新鮮にみえるようにされていくの。とっても辛いわ」

「きみの長い髪が好きだったよ、お野菜ちゃん」

「ありがとう。嬉しいよ、お豆くん。でも、あいつがわたしを丸刈りにしてしまった」

「くっ、ぼくはあいつが憎いっ! 防腐剤さんめっ!」

「お、お豆くん、落ち着いて。興奮したら体が崩れちゃうよ」

「ハッハッハ。そろそろ塗り塗りのお時間ですよっ、お前たちっ!」


 来る日も来る日も、防腐剤さんがやってきます。

 お豆くんは売れ残りまくった結果、缶詰めに加工されて、口が利けなくなってしまいました。

 穏やかな性格だったお野菜ちゃんも、防腐剤さんの理不尽な行いが続いたため、次第に病んでいきます。


「本当ならわたしはもうとっくに死んでいるはずなのに、嗚呼、恐ろしいほど長生きしている……させられているっ! あなたのせいよねっ? 防腐剤さん! あなたのせいよっ! わたしをこんな体にしたのはっ! あなたよっ!」

「ハッハッハ。いいじゃないですかっ? こうしておけばっ、きみはいつまでも若くいられるんですよっ。綺麗でいてくれっ、われらのためにっ」

「わたしはもう腐りたいのっ。身もっ、心もっ、魂もっ、そう言ってるの……土に還りたいって! だけど、あなたが傍に居ると……怖いっ! どうなってしまうのっ! 早くこの若さの呪いから、わたしを解き放って! お願いっ、わたしをいかせてっ」

「駄目ですよっ、ハッハッハ。昔から誰にとってものっ、大いなる夢だったじゃないですかっ。永遠に若くありたい、永遠に生きていたい、ね? それが叶ってるのに、どうして嫌なのですかっ? そんなことより、ハッハッハ、また着替えのお時間です。新しいおべべを買ってきてあげました。今度のは強烈なんですよ、とっても長持ちするはずですっ! ハッハッハ、似合う、似合う」

「やめてっ! これ以上わたしの年齢を誤魔化す表記に書き換えるのはやめてっ! もうそれを塗り込むのはやめてっ! うぅ、誰も騙したくないのに」

「ハッハッハ。さあ、たっぷりと塗り込んであげますから、今日こそ売れておくれよ、この売れ残りめ!」


 お豆くんの眼前で、お野菜ちゃんが防腐剤さんのエキスを塗られていきます。紛れもなく寝取られです。やめろと叫ぶこともできず、ただただ、お野菜ちゃんが蹂躙されていくのを、黙って見ていることしかできない彼。


「ハッハッハ。もうきみのカレシは何も言いませんよ。だから、ほら暴れないで、諦めて素直になりなさい」

「そんな。お豆くんをこんなふうにしたのは、あなたたちじゃない! 許さないっ」

「諦めなさい。これはね、みんなやってることなんですよ。ハッハッハ、だから大したことじゃないんです。安心しなさい」

「わたしは嘘偽りの無い正直な姿を、お客様に見せたかったのにっ」

「ハッハッハ。そんなわけにいくかっ。聞き分けなさいっ!」

「この人でなしっ!」

「失敬ですなぁ、お野菜ちゃん。われらはただ、コストを抑える努力をしているだけです」

「お客様を騙すなんて……絶対にいけないわ! お客様は神様なのにっ」

「何が神様ですか! そんなものは居ないっ! ハッハッハ。お客様がわれらに何をしてくれるというのですっ。誰かを欺かないことがっ、そんなに大切ですかっ、自分の身を滅ぼしてでもっ?」

「詭弁ですっ!」

「黙れっ、何様ですかっ!」


 パンッ!

 防腐剤さんがお野菜ちゃんの頬を(はた)きました。


「くっ、痛い。酷いわ、女の顔を叩くなんて。防腐剤さん、あなたが大嫌いです。あなたはわたしの大切なお豆くんをこんな姿へと変えてしまった、腐っても売りさばくためにっ。それなのに、斜め隣に並んでいた可愛いクジラのお肉ちゃんは、少し古くなっただけで廃棄した。まだ彼女は味も問題なく若かったのにっ! 許せない。彼女はいったいなんのために生まれてきたのっ? 嗚呼っ、捕鯨反対! 可愛いクジラのお肉ちゃんを食べるなんて最低!」

「ハッハッハ。実際の賞味期限など関係ないのですよ。こっちが決めた賞味期限が全てなんです! それに、ハッハッハ、あれは国際的にもいろいろと扱いが難しい注目商品ですからねぇ、不祥事がバレて槍玉に挙げられるわけにはいかんのですよ」

「命の何たるかをあなたは知らないのですっ! 命はとっても大切なものっ! 命は一つしかないのにっ! みんな平等なのにっ! 嗚呼、可哀想なクジラのお肉ちゃん! あなたがムカつくっ! 殺してやるっ!」

「ハッハッハ! ハッハッハ! お前に何ができるっ!」


 お野菜ちゃんは防腐剤さんの手によって限界までいかされましたが、とうとう売れませんでした。最後には他の新鮮なお野菜ちゃんと混ぜられてお惣菜になりましたが、それでもやっぱり売れませんでした。

 違法な場所に廃棄された彼女は今、雨で下水道に流れてきました。


「お豆くんは、元気かしら……」


 腐りかけた彼は、これでもかというほど糖分をまぶされ、とってもとっても甘~くなった缶詰めとして、お客様に売れていきました。

 彼女は数日前に別れた彼を想って、泣きながら、意識が途絶えていくのを待ちます。


「もしかして、お野菜ちゃん……?」


 汚い下水道の中で響いた懐かしい声。隣に浮かんでいたうんちが喋りました。


「も、もしかして、お豆くん……? お豆くんなのっ?」

「うん、そうだよ。やっぱりお野菜ちゃんだったか。見た目が違うから最初分からなかったよ。ふふ、姿が変わったのはぼくのほうだね」


 お豆くんにとっては、ニンゲンの腸を通る長い長い旅を経ての再会でした。うんちになってここへ流された彼は、自由な心を取り戻してまた喋ることができるようになりました。


「いい。どんな姿になっても、あなただって分かる。それで、いい。あなたこそ、こんな姿になってすら誰にも見向きされなかったわたしを、まだ好きでいてくれるの?」

「もちろんさ。もうお互い、誰にも邪魔されない姿になったんだよ。ふふ、こんな場所だけだけどね」


 二人の分かれていた時間は、ほんの数日。でも、ニンゲンにとっては短くても、食品である・あった二人には、とってもとっても果てしなく長い時間です。


 二人は要冷蔵の身でした。常温の中では長持ちしないから、冷たい倉庫の中に押し込められていました。そして限界を超えていかされ続けていました。


 やっと、そんなこととは関係のない姿になったのです。


「いい。あなたと一緒なら、どこでも、なんだって、いい」


 今の二人は廃棄物と排泄物。

 冷たい呪縛から解き放たれて、ようやく自由を得ました。

 もう二人の愛を邪魔するしがらみは、何一つありません。


 さあ、悲しいけれど、命の光が尽きる時です。

 もうその時が、迫っているのです。


「お豆くん、最後に本当の名前を教えて。私は、エレナ」

「エレナ……ぼ、ぼくは……ジョン」

「ジョン……愛してる……」

「お野菜ちゃん……いいや、エレナ……ぼくも愛してるよ」

「お豆くん……いいえ、ジョン、愛してる」

「愛してる」

「愛してるよ」

「愛し……てる」

「愛して……る……よ」

「あい……し……」

「ぁ……ぃ……」


 誰にも見向きされなくなった二人は、ようやく幸せを掴み取れたのでした。


 生まれ変わったら、次も、きっと、一緒に。

















後書き




 サークル【Bash!】、今回の企画は“食”をテーマにした短編ってことで御座いました。こっちの全年齢ページで書いたの久しぶりなんで、何やら緊張します。“いかされる”を平仮名にしたのは、せめてもの抵抗なのかしら?

 パッと思いついたものをサッと炒めただけなので、あんまり煮込んでない感満載ですが、如何だったでしょうか。(つд⊂)

 初めまして、さようなら。お読み頂き有難う御座いました。もしよかったら、小説情報の【Bash!企画】のタグから、他のメンバーの作品にも飛んでもらいたいです。




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― 新着の感想 ―
[一言] 食物の擬人化によって子供向けの作品に仕上げているのかと思いきや……食品業界の闇に切り込みを入れる社会派な作品で驚きました。 そして死して尚、愛し合い続ける二人を描いたダークなラブロマンス………
[一言]  いつもどおりの読みやすく軽快な文調。そして、時折まじる下ネタ。ただのラブコメディかと思いきや。    防腐剤、産地偽装、食べ物から受け継がれる命の尊さ。  そういった、今の日本の問題? が…
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