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第一章 航宙試験 (7)

第一章 航宙試験


(七)

 旗艦アルテミッツの司令階では、「航宙艦開発センター」のトオル・カジヤマ少佐が、一時間後に行われる高速航宙試験に参加するアルテミッツのスタッフとテストを共にする他の艦のスタッフにテストの説明を行っていた。・・と言っても各艦のスタッフは当然自艦の管制階で聞いているのだが・・

「航宙戦艦「アルテミッツ」、「シューベルト(旧アルテミッツ)」、巡航戦艦「ボルドー」「ブルゴーニュ」、航宙空母「ライン」、「トロイ」、航宙重巡航艦「トリトン」、「ネレイド」が今回のテストの参加艦艇です。

 これらの艦は、航宙経路がクリアである事を確認後、同時に発進します。発進時刻は「一四○○」です。安全の為、各艦の乗員は、シートを必ずホールドモードにして下さい。発進十五分前に全艦に確認します」ここまで説明すると一呼吸置いたカジヤマ少佐にウエダ副参謀が、

「我々が高速航宙すると、他の艦は0.五光時置いていかれるが、再度こちらに戻るのか」

これを聞いたヘンダーソンは、

「高速航宙試験の行き先はADSM24への跳躍点付近だ。そこで艦隊が着いて来るのを待つ」

ヘンダーソン司令官からの言葉にウエダ副参謀は、「分かりました」とだけ答えた。


「高速航宙試験に参加する全艦に告ぐ。こちら旗艦「アルテミッツ」艦長ハウゼー大佐だ。これから十五分後、高速モードに移る。全艦の乗組員のシートをホールドモードにしろ」

 このメッセージが放送されると「アルテミッツ」の艦橋の中でも各管制官が次々とシートをホールドにした。

 シノダ中尉も自分が座るシートをホールドモードにすると背中、尻、足の部分にシートが密着するように包み込んだ。

「結構密着感が強いな。こんなにホールドしなければいけない程、高速航宙試験ってすごいのかな」などと考えながら時間が来るのを待った。

 全艦への通達が終わると更に

「レーダー管制官、再度航路チェック。障害物ないか確認」

「航路管制官、航法間違いないか確認」

「進路確認。障害物なし」

「航法確認」次々と報告が駆け巡った。


 そして十五分後、

「全艦、発進」ハウゼー艦長の指示が伝わると今までスコープビジョンに移っていた映像が変わり始めた。

 全艦が最高艦速・・通常一〇時間かかる一光時を五時間で移動可能な・・スピードに変わると、シノダ中尉は自分がシートにホールドされているのも忘れ、目を見開いて食い入るようにスコープビジョンを見つめた。「すごい。まるで色々な光のカーテンだ」

 スコープビジョンに映る、星々の映像が変わった。正面に映る遠くの星雲や星は動かないが、スコープビジョンの斜めから横方向に映る映像が流れるように早くなった。

 跳躍中の映像とは、違う映像である。多元スペクトル分析によって映し出される色々な色の星がまるで光のカーテンのように流れていくのである。

 他の参謀や管制官もいつも見慣れている映像とは、違う景色に魅せられていた。

 

 十五分後、艦橋に警報音が鳴り響いた。

「なんだ!」突然の警報音にハウゼー艦長は、コムをすぐに口元に動かし、レーダー管制官に聞いた。

「重巡航艦「ネレイド」が、遅れています。映像出します」レーダー管制官の言葉と同時に今回の高速航宙試験に参加したアテナ級航宙重巡航艦「ネレイド」が急激に遅れ出した。

「ネレイド」の艦体が小刻み揺れている。

片弦出力で振られそうになる艦を両弦出力制御ユニットと姿勢制御ユニットそして慣性補正ユニットが最大出力で一斉に姿勢を調整しているので有った。もし、この機能がなければ、「ネレイド」は、回転しながら闇の中に消えて行ったであろう。

 シノダ中尉は、「あのままでは艦が左右に捩じ切れそうだ」スコープビジョンに映し出される映像を見ながら、ちらっとヘンダーソン司令官の姿を見た。

ヘンダーソンは、眉間に皺を寄せながらスコープビジョンに映る「ネレイド」の苦悩を見ている。


 左舷推進エンジンの中央が白いガスが張ったような状態になっている。

「どうした。ネレイド」ハウゼー艦長は、大声でコムに叫ぶと・・数分後、「ネレイド」から

「リバースサイクロンユニットに異常発生。左舷パッケージユニット損傷。艦速を通常に戻す為、減速中です」

 重巡航艦「ネレイド」の中で発生した故障は、核融合炉から出されるエネルギーを「ターボユニット」で増幅し、新開発の「リバースサイクロンユニット」に送り込む。

「リバースサイクロンユニット」では、従来の何十倍も増幅されたエネルギーを整流し、推進ノズルへと吐きだす。「ターボユニット」から「リバースサイクロンユニット」までをパッケージ化することにより従来艦を高速航宙させる構造を考えた。

 この「リバースサイクロンユニット」に亀裂が入り急激に推進ノズルへのエネルギー放出が減少したのであった。「白いガス」のようなものは推進エネルギーが漏れたものだ。 幸い、爆発には至らなかったが、「ネレイド」は、通常航宙は行えなくなる。

 右舷側推進エンジンが左舷側エンジンと同期して急激に推進力を弱めているはずだが、左舷側のエネルギー漏れが発生した時、右舷側はフル出力で有った為、各ユニットがフル稼働で「ネレイド」の進路進行を修正しているはずであった。それでも、右に左に艦を振っている「ネレイド」の中は相当のGが掛っているはずだ。搭乗員は大変な思いをしているだろう。

 

 更に十五分後、「ネレイド」は通常航行の四分の一の艦速にまで落ちた。旗艦「アルテミッツ」、「ライン」等、同時に高速航宙試験に入った艦も一時先行したが、「ネレイド」と同行に入った。

 ハウゼー艦長が、

「ヘンダーソン司令官。「ネレイド」より連絡。今の事故にて起きた被害は、「推進エンジンカバーパネル」損傷。外部隔壁損傷。事故時、急激な艦の回転でシートより放り出された事により重傷者一名、軽傷者七名でました。以上です」

 ヘンダーソンは、ハウゼー艦長の報告に頷くと「航宙艦開発センター」の実質的な責任者であるカジヤマ少佐を見た。

「どういうことだ。カジヤマ少佐」は、ヘンダーソン司令官の言葉に一瞬考えたが、言葉を選ぶようにゆっくりと説明を始めた。

「詳細については、調べてみなければ分かりませんが、外部からの観察では、「ターボユニット」から送り出されたエネルギーが高圧すぎて「リバースサイクロンユニット」をオーバーフローさせたのだと思われます。結果的に「リバースサイクロンユニット」に亀裂が入り、現状に至ったと思われます。通常は考えにくい現象ですが、見る限りにおいては、そう判断します」

「「ネレイド」は、今回のミッションに同行できるのか」ヘンダーソン中将の質問にカジヤマ少佐は、

「輸送艦に「リバースサイクロンユニット」のパーツがある為、修理は可能ですが、「ネレイド」の故障個所を特定し、修復時間を見積もらなければ正確な時間は言えませんが、少なく見積もっても一〇時間以上は必要です。修復しない状態では、通常航行も不可能です。まだ星系内なので駆逐艦を一隻つけて「アルテミス9」に帰港させるのがベストと考えます」そう言うと航宙艦開発部長ミネギシ大佐の顔を見た。

 ミネギシは苦虫を潰したような顔でヘンダーソン司令官の顔を見ながら顎を引き「仕方ありません」という態度を取った。 ヘンダーソン中将は、

「これから後の複数艦による高速航宙試験はどうするのかね」とミネギシ大佐に言うと

「複数艦による高速航宙試験は、引き続き行います。予定艦八隻の内の1隻に故障が起きたとはいえ、星系内です。止める理由はありません」ミネギ大佐は、新型戦闘機「アトラス」の大成功を前に自分たちだけが引く訳には行かないという思いを言葉に現していた。

 ヘンダーソン中将は、ミネギシ大佐の顔を見ていたが、少しの間をおいて参謀たちの顔を順次見た。自分たちも続けたいという顔がそろっていたのでヘンダーソンは、

「高速航宙試験を再開するが、「ネレイド」の検証と修理の為にカジヤマ少佐かミネギシ大佐が一緒に戻る必要があるのではないか」と聞くとミネギシ大佐は、

「ここより「航宙艦開発センター」に報告を入れ、対応に当たらせます。私とカジヤマ開発課長は、以降テストの為,このままこの艦隊に残ります」そう言うとカジヤマ少佐の顔を見た。カジヤマ少佐はうれしそうな顔をして頷いた。ヘンダーソンは、

「分かった。「航宙艦開発センター」の報告にどのくらい時間必要とする」

「三〇分あれば大丈夫です」カジヤマ少佐の返答に一瞬考えたが、ヘンダーソンは、

「分かった。「ネレイド」の帰港手続きも素早く済まそう」そう言うとコムを口元に持っていった。


 三〇分後、「ネレイド」の艦長の悔しさを受け流しさながら、帰港を納得させると・・本来は命令ですむが・・残る航宙戦艦「アルテミッツ」「シューベルト」、巡航戦艦「ボルドー」「ブルゴーニュ」、航宙空母「ライン」、「トロイ」、航宙重巡航艦「トリトン」は、高速航宙試験に入った。


五時間後、高速航宙試験の参加艦艇は、ADSM24跳躍点から三〇光分の位置に来ていた。

「ハウゼー艦長、後続艦隊に連絡。高速航宙試験艦隊は、予定通りADSM24跳躍点より三〇光分の所定の位置に到着。後続艦隊が追い着くまで定位置にて待機する。と連絡してくれ」

「はっ、了解しました」ハウゼー艦長は復唱後、そう言うと、通信管制官に自分の前にあるスクリーンパネルより連絡した。コムによる口頭の連絡は、誤りを招く為、必ず自分の声をテキストに落とした後、それを通信管制官に送るのだ。

 数分後、通信管制官から連絡完了のメッセージが届くと

「ヘンダーソン司令官。後続艦隊に連絡完了。高速航宙試験参加艦艇は、所定の位置にて待機します」と言った。



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