月明かりのキス3
前回の続きです。
レンと一緒のベットで眠ったあの日から、何か変。
レンと自分の間に確かにあった、温かい何かが消えてしまったような感じがする。
朝起きて一緒に学校に行って、一緒に寮に帰る。
今までと何も変化ない日常だけれども、自分でもはっきりとはわからない何かを感じる。
どこがおかしいのか見付けたくて、レンを見ることが多くなった。
そしてあたしと視線が合うとさりげなさを装って視線をそらすレンに心がざわつく。
そしてそれを寂しく、辛く感じる自分もわからなくなっている。
レンとの関係と自分の気持ちがどうしたらいいのか答えを見つからないまま、あと数日で待ちに待ったGW休暇を迎える。
「レンはGWは帰省するの?」
二人で洗濯室でのんびりと洗濯が終わるのを待っていながら、誰かが置きっ放しにしているファッション雑誌を読んでいたレンが
「帰らない」と顔も上げずに短く返事をする。
最近レンはあまりあたしと会話をしなくなった。元々おしゃべりタイプじゃないけど、あまりあたしと話したくないのかと思えるほどに言葉数が減っていた。
そんな明らかな変化にあたしは毎回戸惑う。
「ずっと寮にいるの?」
「・・・・・・うん」
「去年もそうだったの?」
「・・・・・・うん」
「・・・・・・そうか~。あたしも今年はここに残ろうかな~」
軽く言ったけど、本当は少しでもレンと一緒にいたいから。なんで急にそっけなくなったのかその理由も知りたい。でもそれよりももっとレンに近づきたかった。
このままGW休暇を迎えてしまったら、休暇明けどんな風にレンと接すれば良いのかわからなくなる。だからこのままじゃ駄目だと思う。
「・・・・・・帰ったほうがいいよ」
「え?」
水の音がうるさくてよく聞こえない。
「なにも私が残るからといって、カオリまで残らなくても良いよ。私は平気だから」
心が冷える。もしかして拒絶された?それともあたしの勘違い?
「・・・・・・そ、そんなに強がらなくてもいいじゃない。本当はあたしがいないと寂しいくせに」
声が震える。レンの冷たい態度をどう受け止めたら良いの?
どうやったらレンはあたしの顔を見て、以前のようにやさしい目で笑ってくれるの?
わからない。
わからないよ、レン。
「別に寂しくないよ。丁度一人になって考え事をしたいって思っていたから。むしろいてくれないほうがいい」
やっと雑誌から顔を上げて、あたしを見てくれた。
見てくれたのに、言われた言葉が心を刺して痛い。
痛くて痛くて、どうしようもないほど寂しい。
「・・・・・・あたし、要らないって言われたら、もう何も言えない」
「・・・・・・カオリ?」
泣く姿を見せたくない。
あたしは逃げるように洗濯室を飛び出した。
どうしたらいいんだろう。
あたしは何を間違えた?
「少しは落ち着いた?」
コーヒーが入ったマグカップを渡しながら、ミユが静かに聞いてきた。
そのあったかさにまた泣きそうになる。
「・・・・・・なんとか」
気を抜くとまた泣きそうになるけど・・・・・・と付け足した。
「私はさ、てっきり二人うまくいくって思ってたんだけどな。現にカオリはレンといつも一緒だったわけだし。ずっと仲良くやっていたんでしょ?」
仲良くやっていたと思うけれど、それはあたしの考えでレンはそうじゃなかった。
迷惑だったんだ。
「・・・・・・喧嘩したの?」
「わからない。あたし馬鹿だからレンが迷惑しているって気がつけなかったから、レンに嫌われてるって気がつけなかった」
ぎゅってカップを握る。
あたし自分で言っていて自分で勝手に傷ついている。
「そういえば去年一度だけあんたの事聞かれたことがあった」
「あたしのこと?なんて?」
「佐々木香穂理さんは元気にしているかって」
元気にしているか?
去年?
「なにそれ」
「さぁ?でも真剣な顔で聞いてきたから、今は少し元気がないけれど、そのうち元気になるから大丈夫だと思うって答えておいた」
「そ、そうしたら?」
「そのうちっていつなんだろ」
「?」
「そう言って自分の席に戻っていった」
ゴクリとコーヒーを飲み、ミユの話の続きを待った。
「で、後になってわかったのよ。あれってたぶんあんたが上級生たちの嫌がらせで落ち込んでいたから、心配したんだと思う」
レンがあたしを心配?罪悪感とかじゃなくて?
去年の嫌がらせで確かにあたしは落ち込んでいた。
怪我をしたこともあるし、心労で寝込んだこともあった。
そんなあたしをレンは心配してくれていたの?
「そんなレンだから二人はうまく良くと思ったのにな」
泣きながらミユの部屋に飛び込み、ろくに話もできずにわんわんと泣いていたあたしを、ただ黙って抱きしめてくれたミユ。
「こんなんだったら今年もミユがよかったな」
つい弱音が出る。
「こらっ」
頭を軽く叩かれる。
「弱気になるのはまだ早いぞ。理由を知りたいならぶつからないと」
「・・・・・・無理だよ。これ以上嫌われたくないもん」
「だからってこのままにはできないでしょ?前でも後ろでもなんでもいいから、とりあえず進まないとだめだよ」
「う・・・・・・ん」
「それに、私が思うに嫌いだから冷たくなったわけじゃないと思うけれど。むしろその逆な気がする」
「逆?」
「そう逆。後は自分で考えな。・・・・・・ほれほれもうすぐ消灯時間だよ。自分の部屋に戻ってレンと話し合ってみな」
「部屋に戻るの嫌だなぁ・・・・・・」
本音をぽつり。
「ヒントをあげる。レンは私の事が好きじゃない」
と言って、コーヒーがまだ残るマグカップを取り上げた。
仕方なく廊下に出ると、そこにレンがいた。
「レン・・・・・・」
びっくりした。
レンはあたしと目が合うと、黙ってあたしの手を引いてあたしたちの部屋206号室に入る。そして向かい合う状態でお互い自分のベットに座る。
謝らなくっちゃ。
でもどういったら良いのか、また失敗しっちゃったらどうしようかとなかなか言えずに、言葉を探していると「いままでずっと美由さんと一緒だったの?」
静かな声だった。もう怒っていないのかな。
「うん」
「・・・・・・親友だもんね」
レン?
「どんなにがんばっても親友には勝てないか。・・・・・・それで美由さんに慰めてもらってたの?」
まただ。また冷たい目であたしを見る。
不安と恐怖で心がすくむ。
でも、ミユが言ったように今のままじゃレンもあたしも駄目だ。このままじゃ駄目になる。
だから・・・・・・。
「・・・・・・あたしもレンに聞きたいことがあるの」
怖いけど、でも進む。前でも後ろでもいいから進みたい。
勇気を出せ!自分!
「どうして最近冷たいの?あたし何か怒らせるようなことした?」
まっすぐにレンをみると、レンがあたしから視線をそらす。
「別に・・・・・・」
一言。たった一言で、あたしが必死に伸ばした手を払いのけた。
泣いちゃだめなのに。
でも止まらない。
悲しくて、ショックで。悔しくて。
近づきたいのに、近づけなくて。
「・・・・・・もういい」
悲しいのを通り越して、行き場のない感情でぐちゃぐちゃする。
感情が爆発する。
「もういい。もう言わないし話しかけない。それでいいでしょ?そうしてほしいでしょ?お望み道理そうしてあげるわよ」
思いっきりレンの顔に向かって枕を投げつける。
枕の次はぬいぐるみ。ぬいぐるみの次は本。
悔しい。あたしの気持ちなんてレンには届かない。
こんなに大切に思っているのに。大事なのに。
失いたくないぐらい、代わりがいないぐらい大好きなのに。
・・・・・・大好き?
教科書を投げる手が止まる。
あれ?ちょっと今何を考えた?
大好き?あたしが?レンを?
「うそ・・・・・・」
「?」
チラリとレンの顔を見る。
腕で顔をかばっているレンと目が合う。それだけなのにドキドキする。嬉しくなる。
「・・・・・ちょっと待った」
「カオリ?」
あたしが物を投げつけてこないのでレンが不思議そうな顔をする。
それをあたしも呆然と見つめる。
「・・・・・・距離を置かれたみたいで寂しくて辛くて。でも大切で、諦めたくなくて、でも辛くて。でも失いたくないと思ってどうしたら良いのかわからないけれど」
支離滅裂な話にレンが驚いている。
「・・・・・・目が合うだけでドキドキして。笑いかけてくれるだけで嬉しくて・・・・・・」
そして大好きで・・・・・・。
最後の言葉はレンからのキスで閉じ込められた。
「・・・・・・レン?」
またキス。
「私もカオリが好きだよ。ずっと好きだった」
レンの言葉が嬉しくて自然と笑顔になる。
「あたしも、レンが大好き」
そしてまたキス。
気持ちが通じたのがとても嬉しくて、素肌にレンの手が滑り込んできても怖くはなかった。
明かりを消す。
レンの白い肌が月明かりの中青白く輝く。
レンの手があたしをなぞる。
キスの合間にお互いに愛を囁く。
怖いとか、
緊張とか、
そんなものより、たまらなくレンが欲しい。
もっと触れて欲しい。
もっと触れたい。
もっとレンの体温を感じたい。
もっとぐちゃぐちゃにしてほしい。
もっと好きだと言って欲しい。
止まらない欲求を
「もっと、キスして」
激しいキスでレンが答えてくれる。
頭がとろけそうになる優しい愛撫。
レンの指があたしの中に入ってきたとき、
痛いのにでも嬉しくて、幸せで。
知らず知らず涙を流すと、
レンがキスでその涙を拭う。
「カオリ・・・・・・愛してる」
レンのハスキーな声の囁きに、あたしもどうにかなりそう・・・・・・。
ふっと目を覚ますとレンが隣で寝ている。
初めて見るレンの穏やかな寝顔に、愛おしさがこみ上げる。
窓の外にはきれいな満月。
二人で一緒に月を見上げたこともあったね。
一緒に映画を見て、笑いあったね。
そしてこれからもそんな毎日が過ごせるね、レン。
そっとレンにキスをした。
GW休暇のため帰省するミユをレンと二人で見送る。
二人一緒にいることでミユもどこかほっとした様子。
「ふ~ん。仲直りできたんだ、おめでとうさん。まぁ、仲直り以上の仲になったみたいだけど?」
ずばり当てられて耳まで真っ赤になる。
「なな何を言っているのよ。べ、別にそんなんじゃないよ」
必死に誤魔化す。レンも黙っていないでフォローして欲しい。
「キスマークついてる」
ちょんっと首を指で軽く叩かれ
「嘘っ!」
咄嗟に首を隠すとミユがクスクスと笑う。レンは呆れ顔。
「冗談よ」
校門の前にミユの実家から向かえに来た車が止まる。
「でわでわ、お二人さんごきげんよう」
あたしたちも大きく手を振り返す。
静かな寮。いつもは消灯まで騒がしい廊下も今は誰もいない。
人目を気にしなくていいから、仲良く手をつないで部屋に戻る。
こうやってどちらともなく自然に手を握ろうとするってすごい。
今同じ事を考えているってわかる瞬間。
きっとこういう瞬間がこれからもどんどん積み重なっていくんだね。
そう思うとすごく嬉しい。
「あ、そうだ。ミユが車に乗るときレンに何を言っていたの?」
「ああ、うん。・・・・・・片思い脱出おめでとうって。やっと報われてよかったねって言われた」
「へ?そんなに前からあたしのこと好きだったの?」
「・・・・・教えない」
むくれるレン。決してあたし以外には見せない表情。
嬉しいのを隠して
「ケチ!教えてよ!ねね、いつからいつから?」
二人でじゃれあう。
まだ教えない。
まだ恥ずかしいから。
でもいつか、
こうして二人で一緒にいるのが当たり前になったら、
聞いて欲しい、
教えてあげたい。
どれほど君が好きなのか・・・・・・。
読んでくださって有難うございました!!
今回で「月明かりのキス」は終わります。
ただシリーズ1弾目なので、シリーズはまだまだ続きます。
(続けてもいい?)
さて今回は2年生の4月からGWまでのお話。
メインカップル(笑)ができるまでのお話です。
私はいつもノートに一度書いてからネットに乗せるのですが、徹夜で書いたラブレター並みに、ノートに書いてある文章は乱雑ですので、清書のつもりでネットには書いています。
が!
そうなるといろいろなシーンがカットされてゆきます。
なぜなんだろ?
「このシーンはいらねーだろ」的なシーンをカットカットしていくと、
ノート一冊分もあるものがこんなに短くなるんです。
わお!
ただ一箇所だけ、変えてもいなければカットもしていないシーンがございます。
それはもちろんナニのシーン。
卑猥やえぐさではなく、きれいなシーンを意識しましたが、どうでしたでしょうか><
すこしでも「きゃ~~」となってくれたら嬉しいです。
さてお次は
サブキャラのミユの話です。
女の同士の恋愛がわからない、彼氏もいるミユさんですがどうなるんでしょう?
まったく私もわかりません!これからノートに書くのです。
できれば10月までにはUPしたいと思います。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。
最後に。
エッチシーンをアドバイスしてくれたBLマニアの友人たちへ。
YOUたちのおかげで卑猥にならずに書けました!
ありがとう!!