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月明かりのキス 2

前回の続きです。


 入寮日の次の日は新一年生の入学式があり、入学式の次の日が始業式。

 始業式が終わると、いよいよ2年生生活のスタートだ。


 朝、下駄箱を開けると上履きの上にいつものごとく手紙が入っている。内容はおそらくラブレター。いったい私なんかのどこがいいのか、入学してからこのかた学校が休みの日以外この手の手紙が入っていない日がなかった。

 封を開けずにそのままゴミ箱に捨てる。これも入学してから変わらない。もともと恋愛には興味がなかった。

 ましてや今、好きな相手がいるのだ。片思いとはいえもらうわけにはいかない。

 私の好きな人は私を待っている。

 手紙に気がつき「相変わらずモテるね」と笑いながら私の隣に並ぶ。

 好きな子以外にモテてもねぇ・・・・・・小声で呟く。

「何か言った?」

「なんでもないよ」

 この間の私の話。彼女はどう思ったんだろ・・・・・・。


 あれからカオリとはよく話すようになった。とりとめもないことばかりだけど、誰でも好きな人との会話は嬉しい。

 好き。

 そう自覚したのは、あのキス事件からだいぶ時間がたってからだった。

 好きかどうかを考える前に、よりによって同性の子にキスをしてしまったショックのほうが大きく、それどころではなかった。

 3学期の中間テストを目前に控えたある日、悩みすぎて寝不足の日が続いていた私はとうとう体調を崩し、朝から保健室のベットの上にいた。

 うとうとしては目が覚めるを何度か繰り返し、そろそろ教室に戻ろうかと思ったそのとき、何人かが保健室に飛び込んできた。

「先生いないよ。どうしよう」

「とりあえず冷やしたほうがよくない?」

 怪我でもしたのかな。あいにく校医の先生は不在で薬棚には鍵がかかっている。

 カーテン越しからも慌てているのがわかる。

 これは1時間ぐらいしたら校医がもどってくるから、と教えたほうがよさそうだ。

 ふらつく体をなんとか立たせカーテンに手をかけた。

「カオリ大丈夫?」

「平気」

 聞こえてきた名前と聞き覚えのある声に、私は再びベットに横になった。

 鼓動が早くなる。

 よく聞こうとして呼吸が止まる。

「それにしてもあいつらも段々嫌がらせがエスカレートしてるじゃん」

「あたしは大丈夫だから。それより誰か休んでるみたいだから静かにしようよ」

「カオリったら、もう。今日はたまたま運がよかったけど、階段で足を引っ掛けて転ばすなんて。カオリ死んでたかもしれないじゃん」

「そうだよ、カオリ。うちらがいなかったら今頃救急車騒ぎだったよ」

「・・・・・・うん」

「はぁ~。元はといえばあの馬鹿のせいだよね。北条蓮の!」

 自分の名前を呼ばれてギクリとする。

 そっとカーテンを開けて隙間からのぞく。

 カオリが足に氷を当てながら座っている。

 それを守るかのように何人かがいらいらしながら囲っている。

 好かれているんだんな・・・・・・と関係ないことを思った。

 それと同時にどうしたらいいのかわからなくなる。

 自分が彼女にしたことは、後先も考えない馬鹿な行為だった、それはわかる。

 でも、綺麗だと思ったんだ。

 照明に光った涙。薄く開いた唇。

 自分と同じように涙を流すほど、演奏に感動したんだろうかと気になって目が離せなかった。

 小さく息を吐くのを見ていたら、たまらずキスをしていた。

 周りの人たちとか全く考えずに、自分でも気がついてたらしていた。

 今でもあの日の自分の行動を考えているけど、ただキスをしたくなったとしかわからない。

 あの事で嫌がらせを受けているのだとしたら、その責任は自分にある。

 あの時は自分でも自分のしたことに動揺して、きちんと謝ることすらできなかった。

 謝ろうと思ってた。

 けれどタイミングが・・・・・・いや、責められるのが怖くて避けていた。

 普段はあまり人に好かれたり嫌われたりする事にそれほど頓着していないけど、彼女に嫌わているのを知るのが怖くて仕方がなかった。

 でも今、怪我をして目の前にいる。

 ここで謝らなければたぶんもうずっと謝れない。

 どうしよう。今更何と言って謝ればいいのか・・・・・・。

「大丈夫だから、そんなに怒らないでよ。それに北条さんは関係ないから」

 心臓が、呼吸が、頭の動きが、一瞬止まる。

 私をかばった?

 そのカオリの一言で、私はどこか守られたような気がした。

 大丈夫なわけがない。

 それなのにたいした事じゃないと笑っている。

 原因の私をかばおうとすらしている。

 私にはない本物の強さを彼女に見た。

 そしてその強さに自然と惹かれた。

 それからカオリのことが気になり、春休みを迎える頃には好きになっていた。

 新学期、寮の部屋が同室になり、生まれて初めて緊張をした。

 どうやってあの事を謝ればいいのか、困惑した。

 何を話したらいいのかわからなく、部屋でカオリを待っている間も逃げ出したくて仕方がなかった。

 でも、カオリは最初は緊張していたみたいだったけど、その晩にはもう普通に話しかけてくれた。

 だから私もきちんと謝ることができた。

 カオリのおかけだ。

 少しずつ会話が増えお互いに「レン」「カオリ」と呼び合うのになれた頃には、もう後戻りができないほど好きになっていた。


 クラスメイトと朝の挨拶をしながら席に着く。私の左斜め前の席でカオリが小さく声を上げた。

「どうした?」

 ここ2日間、私は過剰なほどカオリへの嫌がらせに目を光らせていた。

「現国忘れてた。ちょっと美由の所で借りてくるね」

「ついて行こうか?」

「平気」

 そう・・・・・・声に出さず心の中で呟く。

 カオリの口から「美由」と聞くたびに心がざわつく。

 元同室だったから仲が良いのは理解しているし、二人の間に友情しかないのも知っている。けれど落ち着かない。

 自分の事を好きになってほしいとは言わない。けれどもっと近づきたい。

 できればただの同室者でクラスメイトじゃなくて、友達のポジションでいいから必要とされたかった。

 授業開始ギリギリに戻ってきたカオリは、現国の教科書を笑顔で私に見せて席に着く。

 その後授業が終わるまで、一度も私に振り返らない。

 私に笑顔を見せてくれるだけで、善しとするか。

 あるいは無理やりにでも距離を縮めるか。

 悩み事は尽きることなく、欲が出てきた分増える。


「レンは明日外出するの?」

 始業式から3週間経ち、新しい暮らしにも慣れはじめた土曜日の夜。

 長い髪をタオルで乾かしながらカオリが尋ねてきた。

 私はお風呂上りのカオリにドキドキしていたので、すぐには答えられずに「どうだろ」と誤魔化した。

 本当は机の引き出しの中に、明日までの映画のチケットが入っている。「一緒に行こう」と言い出せずにいたままだった。

「もし予定がないなら一緒に街にでも出かけない?」

 毎週のように誰かしらと街に出かけているカオリ。

 私は逆にどこも出かけずに一人寮に残っていることが多かった。

「・・・・・・どこか行きたい所でもあるの?」

 美由さんじゃなくていいの?心の中だけで聞いてみる。もちろん答えはない。

「実は見たい映画があって。その映画明日までなんだけど、一人で見るのはちょっと怖くって」

「怖いって、ホラー映画なの?」

「うん」とにっこり。

 残念。机に入っているのは思いっきり泣けると噂の恋愛映画だ。

「カオリってホラー系好きなの?」

 イメージ的にはファンタジーとか恋愛系が好きそうなのに?

「うん!大好き!でも怖がりだから怖いシーンはあまり好きじゃないんだ」

 またもやにっこりと笑う。私が好きと言われたわけじゃないのに、なんか幸せな気分。

「いいよ、行く」

「やったぁ!美由なんかああ見えてホラー系とかダメでさ、全然付き合って繰らなかったのよ。だから観るのをなくなくやめた物も多くて・・・・・・。レンが同室でよかった」

 今から楽しみだと、いそいそと目覚まし時計をセットする背中を抱きしめたい。

 抱きしめて、思いっきり甘えさせて・・・・・・。

「・・・・・・おやすみ」

 電気を消して私もベットにもぐりこむ。

 きっちりと目覚ましをセットして。


 微かな規則正しい寝息をたてるカオリ。

 かわいくてかわいくて、学期が始まってから無防備なカオリの寝顔を見るのが癖になった。いつものようにふっくらとした頬に手を当てると、自分から擦り寄ってくる。

 こんなにも好きなんだ・・・・・・。

 改めて感じる時間。

「・・・・・・好きだよ」

 怖くて、こうして寝ている時じゃないと言えないけど、どうにかなりそうなぐらい君が好き。

 そっと額にキスをする。


「ああ、怖かった」  

 翌日の日曜日の昼下がり。

 ファーストフード店で観て来た映画の感想をお互いに言い合っていた。

 コーラーをずずっと飲みながら

「大丈夫?もし今夜怖くて眠れなかったら私と一緒に寝る?」

 冗談半分、願望半分。

 ハンバーガーを頬張りながら、首を横に振る。

 怖いの好きなのに怖いのが苦手と宣言したとおり、怖いシーンになると目をつぶっていたカオリ。

 目をつぶっても耳は聞こえるので、ぎゅっと私の手を握っていた。

 それでも、強がって見せるなんて、かわいいな~。

「ふ~ん。んじゃもし今夜私のベットに来ても入れてやんない」

 今度はあっかんベーをしてきた。

「なにそれ。すっごい不細工な顔」

 二人で笑いあう休日。うん、悪くない。


 夜、最後まで大丈夫といっていたカオリだったけど、目がベットに入る私を追いかけて、顔にはでかでかと「もう寝ちゃうの?」と書いていた。

 私はそれに気がつかない振りをして「おやすみ」

 わざと背を向ける。

 豆電球のオレンジ色。時計の秒針が進む音。

 どのぐらい経ったのか、小さい声で「レン、もう寝ちゃった?」とカオリが私を覗き込んだ。

 もう少し意地悪をしてやろうと思ったけど、それはかわいそうなので「起きてるよ」と答える。

「そう・・・・・・」

 返事をしたっきり、私のベットから自分のベットにもどる気配がないカオリ。

 両手に枕を抱えている。

「あ、あのね・・・・・・」    

「クスクス。。・・・・・・一緒に寝る?」

 と、布団を持ち上げ、一人分のスペースをあける。

 ちょっと迷っている。自分のベットを見て私のベットを見る。

 小動物みたいでかわいい。

 もう一度「おいで・・・・・・」

 こくっと頷き、おずおずと私の布団に入る。

「あったかい・・・・・・」

 二人寝るには狭いので自然と身体が密着する。カオリの手が私の手を握ってきた。

 一瞬身体が緊張する。

 頭をもぢ上げた欲望を無理やりねじ伏せる。

「今度こそおやすみ」

 耳元で囁くとくすぐったそうに笑った。

 好きだよ。

 そう、言ってしまえたらいいのに。

 でも何かが変わりそうで怖い。壊れてしまいそうで怖い。

 怖いからいえない。

 言えないからつらい。

 今を失うぐらいなら、つらくても言わないほうがいいのかもしれない。

 そろそろどうするか、どうしたらいいのかを決めなくちゃいけない。

 そんな気がする。 

     

前回の続きです。

今度は北条蓮からみた内容です。


こんな小説でも、なんとお気に入り登録が数件されていました。

驚きです。

びっくりです。

そしてありがたいです。

文法間違いだったり誤字だったりと、拙すぎる文章なんですが、それでも嬉しいですね。

深夜にもかかわらず「うひょひょ~」と大声で喜んじゃいました。

本当にありがとうございます!

感想を書いてくれている方たちにも感謝です。


もともとボーイズラブ大好きでしたが、やはり女性からみるときゃ~とはなるけど、きゅんってしたり、どきどきしたりしにくく、丁度某小説がアニメ化され、いわゆる百合文化も浸透してきたころ、「そんなにきゅんきゅんしたいなら、YOU自分で書いちゃいなYO!」と友人に言われ、深夜ノファミレスでキャーキャーいいながら書いていたこのシリーズ。

今まで友人にしか見せていなかったのですが(ほら、下手だし)別の友人が「YOU,文章かいてるならネットで投稿しちゃいなYO!」と言われ、「ME書いちゃうZE!」と、本当にその場のノリ的な感じで始めたので、読者数0とか予想してたんですよね。

なので本当に本当にありがたくもあり、驚きもあります。


次回で「月明かりのキス」は終わりの予定です。

でも、シリーズ物なのでシリーズは終わりません。

もちろん「月明かりのキス」の次の話もただいま執筆中です。

楽しんでくれれば嬉しいです。


ではまた。来月頃に!!


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