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神の追憶楽曲  作者: 白乃
7/9

漆 白にとって大切な



 「ちくしょう…」

 ディオスは周りに聞かれない位の小さな声で呟いた。

 ディオスの左右には二人、体格が良く背の高い男性が槍や剣を手に持ったり腰に下げたりして居る。

 まるで其の二人はディオスを護っているように思われる。実際ディオスの警護の為の人ではあるが。


 しかし、本来、ディオスは警護をして貰える程地位は高くなく、全体的に見ると貧しい暮らしをしている部類に入る。


 ―…実際街外れの…丘の上に住んでいるし…―


 勿論、警護を雇えるほどお金の余裕も無かった。

 そうであるのに今、警護がつく理由は、今から十数分前に遡る。

 (何でこんな面倒臭いことに…!)




 其れは、聖なる人が決定した其の時だった。

 聖なる人は世界で唯一人、聖地の奥へと足を踏み入れることが出来る、特別な人間である。

 其の人が決定した。其れを見届けた人の歓声は酷く壮大なものだった。

 そして、無常にも其の決定が、ディオスが編み出したフィルティーン捜索の作戦を見事にぶち壊したのである。


 「ま、さか…オレが…?」

 本当に微塵も自分が信託で選ばれると思っていなかったディオスは半ば混乱気味だった。

 もっと他に適任は沢山いる、そう何度も何度もディオスは思考をめぐらせた。

 一方隣に居るローレルも何て声をかけたらいいのか、分からないらしい。ただただ光に包まれるディオスを見ている。


 「……すまない、本当に…作戦が……」

 「い、え……。其れは…だ、いじょうぶ…で、すが……」

 ローレルも声が途切れ途切れで、如何やら状況を性格に把握できないらしい。大丈夫ではないはずなのに大丈夫と言ってしまっている時点で重傷である。

 事実として受け止められても、理解力が付いて行かない、そんな状況である。

 目はうろうろと宙を彷徨っていた。


 やっとのことで出た言葉は、「万に一つにでも…こんな可能性は無いと…?」

 此れを聞くのが精一杯だったらしい。

 なんて顔してんだよ、普通のディオスならそう言っただろう表情をしながらローレルが聞くとディオスはこくこくと頷く。

 何処かローレルの声は震えている気がした。とても衝撃的だったのだろうか。ディオスはそんな事を思いながら答える。


 「そもそも可能性として考える方が…馬鹿げていると」

 「…ですよ、ね…ディオスさん、信仰…とかしていなさそうですもん……」

 ローレルは、はははと乾いた笑い声を漏らした。声だけでたような笑いをローレルが浮かべていると、体格が良く背の高い男性二人が近づいてくるのが見えた。


 「あれ…は?」

 ローレルが近づいてくる二人を見つけてディオスに聞いた。ディオスは其方に目を向けて、ああ、と相槌を打つ。


 「あれは警護だ。おそらく…オレの…」

 「……ということは…」

 「時計塔に入ることになるな、オレが」

 「……」

 「大丈夫だ。あいつ等に見つからない様に、フィルティーンは見つける」


 だから心配すんな、ディオスは優しく安心させるようにローレルに言った。


 しかしローレルは俯いてしまう。ディオスは其の姿を見てどうかしたのか、と声をかけようとした時だった。

 「貴方ですね?」

 「聖なる人」

 男性二人がディオスの前まで来て確認を取った。ディオスは二人を見上げるような体勢で其の言葉に肯定する。


 「大変済みませんが、お供の方はお連れ出来ません。少々お待ちを」

 そう言うと男性二人はディオスを誘導して時計塔へ足を向けた。


 「ローレル、ちょっと待っててくれ、な」

 ディオスは一言言い残すと二人に連れられて時計塔に向かった。


 ローレルは一人残されたまま其の場に縮こまっていた。

 力が抜けたように顔を膝に埋める。其の体勢のまま溜息をつくと、よりいっそう縮こまったように見える。


 「まさか……」

 ローレルはぽつりと声を漏らした。

 「……本当に…彼が…」

 ゆっくりと身体を起した彼の表情は何処か冷たい。白い肌はよりいっそう青白く見られる。


 「…ディオスさん。神の審判に選ばれし者は…此方にとっては…いえ、王子にとってはとても…重要なんですよ…」

 もう姿の見えなくなったディオスにローレルはぽつりと呟いていく。誰もその言葉を聞き取るものは居ない。


 「彼の行く末を決める者、審判によって罪を洗い流す暁光。……今度は…今度の最期は…何が…待っているんでしょうか…」

 ローレルの問いに答える者は居ない。


 ローレルの視線の先にはと系統に入るディオスの姿が見え、そして其処には唯、ディオスを包んでいた光の残存が其処に残っていただけだった。




 ローレルを残してディオスが連れて行かれるのは時計塔の最上階である。

 といっても然程高い塔ではなく、上るのも螺旋階段である。


 「はあ…長い…」

 「決まりですので、ご辛抱を」

 「…あ…い、いや…済みません…」

 早くも時計塔に入り、螺旋階段を見ていたディオスは思わずといったように呟いただけだった。

 でも、其の言葉を注意深く聞いていたらしい護衛の二人のうち一人は律儀にもディオスの呟きに答えた。


 (反応しなくていいっつの…反応されるとこっちが情けなくなる……)

 一つ気付かれないようにため息をついたディオスは、螺旋階段から目を離すと中を見渡した。


 ひんやりとした空気が立ち込めていた。


 塔と言うには乏しい広さだった。

 中は何にも無く、所々に蝋燭や絵画が飾ってあるだけだった。

 こんなところに隠れるスペースは無い。ディオスはそう確信すると螺旋階段を見上げ、


 「行こう…」

 自分に言い聞かせるようにして言った。


 多分、これをフィルティーンが知っていたら、面白そうに笑うだろう。

 少しの間しか一緒にいないが彼の性格がつかめていたディオスはそう思った。

 確信は無い、唯の勘。


 全く素性の知れないヒトのことなのに、何時の間にか放って置けなくなっている事を軽く嘲笑しながらディオスは螺旋階段を上り始めた。


 会話の無い螺旋階段は、そんなに長くなくても、上り詰めるには感覚的にはとても長かった。




 着いた頃にはディオスは精神的には疲れていた。

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