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神の追憶楽曲  作者: 白乃
4/9

肆 黒い渦



 「ちくしょー…全然見つからない…」

 ディオスは人を掻き分けながらレイの楽園の王子らしい、フィルティーンを探していた。


 しかし、何分人が多すぎる。やはり其処から一人を見つけ出すなんて可能なのか。そもそもディオスの読みは当たっているのか。

 其れさえも分からないままディオスは何時の間にかフィルティーンを一生懸命に探していた。


 人の多さゆえ、ローレルとも離れたら再会するのは困難と思われた為、手分けして探すことが出来なかった。

 其の所為か探すことは予想以上に手間取った。

 何故再会場所を指定しないかと言うと、ローレルがこの町の店や銅像等、目印になるものを知らないからだ。


 教えても町の道など知らないローレルが其処に辿り着けるかと言ったら、まず無理だろう。

 そう思ったディオスは不本意ながら二人で探していた。



 「たく…何で今日はこんなに人が…」

 「知りませんよー僕が知ってるわけ無いじゃないですかー」

 「其れもそうだな。知ってたら怖い」

 ディオスはそういうと通りから外れて路地裏へ向かった。

 その間ローレルは何処へ行くのか分からないと言うような表情でディオスの後を追った。

 路地裏に入って直ぐの所でディオスは足を止めた。

 「如何したんですか?」

 「いや、これ以上がむしゃらに探しても無駄だと思ったんだよ」

 「其れもそうですねー」

 ローレルはそう言いながら今まで歩いてきた道をちらりと横目で見た。

 其処には沢山の人日が通りを歩き回っている。


 「……何時もこんな感じなんですか?」

 「いいや…。こんなことは…年に一回………あ」


 ディオスはローレルの言葉に否定して、この状況をローレルに話した時だった。

 不意に何かを思い出したようにディオスははっとする。

 「…何か?」

 「いや、思い出した。神託だ」

 「神託?」

 ローレルは聞き返したが、直ぐにあ。という声を漏らす。


 「そうか…神の審判のことですね」

 「神の審判かどうかは知らないが…オレたちは聖地の巡礼に行くことの出来る神聖な人物を選ぶことを…神託と呼ぶ」

 「僕達は其れを神の審判といってますけどね。なんせ其の人物は神の地を踏むことが出来る、トクベツな人ですから」


 一口に巡礼といっても、ローレルが言うように普通の人がやる巡礼とは異なる。

 神託を受けた巡礼する神聖な人は、聖地に足を踏み入れるだけでなく、其の奥に眠る、祭壇へと足を運ぶことが出来る。

 普通の人は、其の地を汚すことを許されておらず、聖地に入って直ぐのところにある門までしか入ることは赦されない。


 「其の神託が…行われる日だ。今日は」

 「そう…でしたね…!王子に気を取られて忘れてました」

 「だからだ、こんなに人が集まっているのは…!」

 ディオスはもう一度辺りを見渡した。其処には人があふれかえっている。

 巡礼をしない一般の人でも、神託には選ばれたいと思う者は多い。

 何故なら其れは、神の加護を受けるということ。つまり、人生の繁栄を約束されると言われている。

 だから、人々は今か今かと神託を待ち、自分が選ばれることを心の中で祈っているのだ。


 「虫が良い奴等…」

 「…え?何か言いましたか?」

 「いや。何でも。其れよりフィルティーンも土地勘は無いんだよな?」

 「ええ、ありません。王子も…此処へきたのは初めての筈です」

 其れを聞いてディオスはそれなら、と少し考えた。


 「…フィルティーンはここに居るかもしれない…」

 「え、何故…」

 「考えるまでも無いだろう。こんな人が居たら…此の町を知らない御前ならどうする?」

 「人が居ないところを……あ」

 ローレルは言いかけて思いついたらしい。

 フィルティーンもローレルと同じくレイの楽園の人であり、其の上此の町に接点はあらず、初めて来たも同然。

 もし、此の町に居るのなら、路地裏に居る筈なのでは、と考えたのだ。


 「ま。あえて人にもまれそうでもありそうな奴だが――…」

 「やっぱりディオスさん。凄いです!」

ローレルディオスの呟きを無視して感激して目をきらきらと輝かせた。ディオスは小さく溜息をつきながら、路地裏の奥へと進み始めた。



 路地裏は通りの人の声が遠くに聞こえるのと、店の室外機か何かの機械音が少し聞こえるだけで、案外静かなものだった。

 通りは五月蠅すぎるな、とディオスが考えていた丁度そんな時だった。

 「…怖いですね…」

 ローレルが怖いと言ったのは。


 「は?」

 「こういうところは野蛮な不良共が出てくるのでしょう?」

 「……まさか。そんな漫画みたいなこと……」


 そう言ったディオスの言葉が不意に途切れた。


 「……」

 「…ディオスさん、その…まさか…」

 「…その、まさか。だ」

 ディオスがそういうと、今まで自分達しか居なかったはずの路地裏に人影が現れた。


 「……」

 「…へっへ…馬鹿な奴等だな…!」

 其の人物は斧の様な武器を持ち、ディオスとローレルを一瞥した。

 ディオスは全く動じず自分よりも一回りも二回りも大きな相手を睨みつける。


 「こぉんな所でうろつきやがって…襲ってください何ていってんのかぁ?」

 ディオスの目の前の人物がそう言った瞬間、同じ様な出で立ちの、武器を持った者が数人姿を現した。


 それでもディオスは表面上、全く動じていなかったが、内心少なからず焦っていた。

 武器さえあればこんな奴等は直ぐに片付けることが出来る。しかし、ディオスは今運悪く武器を何も持っていない、丸腰だった。

 加え相手は武器を持っている。


 多勢に無勢、逃げることはディオス一人だったら辛うじて出来たかもしれないが、今はローレルが居る。

 其れは無理だと思われた。


 (ちくしょー…今日は神託の日だからって…居ないと思っていたんだが…)

 そうディオスが考えているうちに彼等は確実に距離をつめる。其の様子は金目の物を頂く。其れしか頭の無い獣のように思われた。


 (金なんてもってねっつの……けどこうなったら…)

 ディオスは決心を決め、後ろにいるローレルに小さく呟いた。


 「おい」

 「…?何でしょう…」

 「オレが囮になる…其のスキに…逃げられるか?」

 「え…」

 「此処を真っ直ぐ行けば通りに出られる…。オレが…あいつ等の注意をひきつけるから…其のスキに…」

 ディオスは気付かれないように小さく指差した。ローレルは其れを目で追う。しかし、ローレルはうんとも言わない。


 「…?」

 「…駄目です…」

 「は…?」

 ディオスがローレルの言葉に首を傾げた時だった。

 奴等の一人がディオスの眼前にまで迫っていた。


 「…っ!!」

 「は、精々俺等に金寄越してくたばりな!」

 そう言ってディオスの目の前の男はローレルと引き離す様に持っていた剣を振るった。


 「…!今…だ!」

 其れはディオスにとって好都合だった。さらに幸いにも奴等はディオスしか見ていない。

 ローレルは戦力外と思われ、後ででも片付けられると思われたらしい。


 ディオスは今のうちに、と目で合図を送るが、ローレルは振るわれた剣をよけたっきり其の場から動こうとしなかった。

 そして、ローレルは顔を上げると、怒ったような表情で叫んだ。


 「出来ないと言いました!当たり前でしょう…!ディオスさん、一人置いて…怪我させるような真似、僕には出来ません!」

 「…なっ…!」

 其の言葉を聞いてディオスだけでなく奴等も吃驚したらしい。其の場の視線がローレルに集まる。


 「…こんな雑魚…ディオスさんが囮になるまでも無いんですが」

 ローレルは其の口調からは想像も出来ない程黒い笑みを浮かべて奴等を挑発した。

 勿論、奴等は反応した。

 「なんだと…糞餓鬼…!!」

 奴等の内の一人が言った其の言葉が合図となったらしい、奴等は一斉にローレルに襲い掛かった。


 「っは、武器を持っているとは名だけの下郎共が…」

 ローレルはそう言うと何時の間にか持っていた杖を振り上げた。

 「僕程度に倒される恥を教えてあげますよ」

 そう言った瞬間、掲げた杖が目映い光を放った。


 「な、んだ!?」

 「……」

 ディオスも、奴等も其の眩しい光に目を開けていられなくなった。

 ディオスが次に目を開けた時は驚くことに奴等は全て其の場に倒れていた。


 「…な…」

 ディオスが小さく声を上げるとローレルはディオスの近くに来た。

 「大丈夫ですよ、気絶しただけです」

 「いや…そうじゃなく」

 流石のディオスも突っ込まざるを得なかった。

 其れを聞いてローレルは首を傾げる。何のことかよく分からないらしい。

 「御前…見かけに寄らず強いんだな」

 「いえいえ、僕が強いんじゃありません。此の屑共が弱いだけですよう、ディオスさん」

 其れは、完璧と呼べるような、笑顔だった。しかし、其の裏には物凄いどす黒い物が渦巻くのをディオスは其の目で確かに見た。

 その笑顔を見てしまったら、どうやって倒したのか、何て聞けなかった。おそらくはレイの楽園の者には皆そなわってるほにゃららという力ですよーとかいうに決まっている。ディオスは勝手にそう結論付けた。

 そして、コイツは見た目が真っ白で天使のようでも実は相当真っ黒…と認識しなおし、路地裏から出ることにした。

 こんな奴等がうろついているとフィルティーンも知ったら、もう此処から出ているだろうと思ったのだ。


 路地裏から出るまでの間、ディオスはローレルが敵ではなくて良かったと思っていた。




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