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神の追憶楽曲  作者: 白乃
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弐 白き人の探し物



 ディオスは其の場から動けずに居た。と同時に、先程あった少年、フィルティーンを囲む純白を身に纏った者達から目を逸らせずに居た。


 人数は多くない、目に見える人数なら四人だ。丁度正方形を描くように彼らは立っていた。

 立っていたというのもおかしいかもしれない。何故なら其の四人は地面から十数センチ浮いていたのだ。


 其の場から動けずとも、ディオスの思考は驚くほどクリアだった。此の人達がおそらくフィルティーンの言っていた人たちだろう。


 それから長い時間ディオスはそうしていた気がする。気がするというのは、其れはあくまで体感時間であって、実際の時間とは異なるかもしれないからだ。


 そして、時を最初に動かしたのは純白を身に纏った中の一人だった。


 「やっと…追いつきました…」


 其の声は妙に透明感のある、青年の声だった。

 そして直後ディオスの目の前に居る別の者が続けて言った。



 「さあ、もう観念してお戻り下さい、王子!!」



 「……」



 はじめ、ディオスは何を言ったのかが理解できなかった。

 フィルティーンが妙に深刻そうに言っていたからだろうか、命でも狙われていると思っていた分、其の言葉には不意打ちを食らった。


 「……お…うじ…?」

 普段そんなに動揺を表に出すことは無いディオスだが、此れは流石に動揺したようだ。

 やっとのことで出した言葉が「其れ」だった。


 其の小さな呟きは、純白達にも聞こえたらしい。

 ゆったりとした、何処か優雅を思わせる素振りディオスの方へ振り向いた。


 その瞬間、隔てるように小さな風邪が彼らの間をすり抜けていった。其の風にディオスの近くに居た一人のフードが空を舞った。


 其の中から出てきたのは…



 「……え…」


 これまた何もかも真っ白な人間だった。


 人間という言葉は語弊があるかも知れないが、ディオスが見た限りでは、人間と見た目は然程変わらない。あくまで見た目の話であるが。


 ただ、上から下まで真っ白ということと、其れはまた人とは思えない程綺麗な容姿をしているということは何処か人ではない気にさせる。

 目の色に限ってはこれまたとても色素が薄い。

 いや、瞳まで白だった。

 色はあるのかもしれないが、白以外ディオスには思い浮かばない色だった。


 そして、其の表情は何処かとても幼いように見えた。

 初めはとても大人っぽいイメージを持ったディオスだが、今改めてみると目の前の純白はディオス自身と差ほど年は離れてないように見える。

 精々同い年か、其れより少し低いくらいだろう。


 「誰…ですか…?」

 ディオスも勿論だが、其れと同じくらい、目の前の純白は困惑しているように見えた。

 如何やらディオスに気付いていなかったようだ。


 「…俺は……」

 言い掛けてディオスは途中言葉を濁らせる。

 見ず知らずの、フィルティーンを追うと言う彼らに名乗るのは少し躊躇われたのだ。例え、相手がどんなに悪人に見えなくても。

 其れは元々のディオスの性格だからだろうか、いや一般的に考えても普通の行動ではある。

 敵かもしれないという可能性を抱いたまま、みすみす自分の情報をくれてやるほど、ディオスは自分が堕ちたものとは思っていない。


 声の無いままの沈黙が暫く過ぎた。

 実際そんな時間は経っていないのかも知れないが、ディオスにはとても長く感じられた。

 緊張と重い空気が切り詰めた中、風の音だけが其処に変わらずにあった。

 風が頬をなでる感触は、目障りなものではなく優しげに包む様な感じであり、其の感覚がディオスの緊張を和らげてくれている様な気がした。

 其の風に励まされるように、また、この沈黙を破るには名乗るしかないなと覚悟を決めて静かに言った。


「俺は…さっき偶然そこのフィルティーンとであった…此の街の者…ディオス…だ」

 そう告げると目の前の純白は安心したようにほっと胸を撫で下ろしていた。其の表情から困惑は消えていた。


 「そうですか。済みません、吃驚させてしまって…」

 そういうと目の前の純白は地に降り立った。

 そしてディオスに向き直ると一礼した。ディオスもつられて頭を下げると、目の前の純白は自己紹介を始めた。


 「初めまして、ディオス様。わたくしはレイの楽園の者、ローレルと申します」

 「レ…イ?の楽園…?」

 ディオスはローレルと名乗った目の前の純白の言葉の中に聞きなれない単語があり、顔を顰めた。

 レイの楽園。聞いたことが無い地名だったのだ。


 「聞いたことがありませんよね、わたくしも今日は初めて此の地を訪れました」

 「初めて…?此の大陸が?」


 其れは初耳だった。思わずと言ったようにディオスは目を少し見開いた。

 何故なら、ディオスの住むこの東の大陸は人の生まれ故郷といわれている、聖地がある。

 此の世界に住むものは必ず生まれたときに此の地を訪れ、此れからの人生の安泰と幸福を願って聖地で祈りを捧げる。

 そういう決まりが此の世界にはあった。


 だから、聖地がある此の地を訪れていないというのはありえない話だった。


 「ええ…。話せば長くなるのですが…如何しましょう…って!!」

 其の時初めて気がついたというようにローレルは急に大きな声を出した。


 「……?何だ…?」

 ディオスは慌てた様子のローレルに不不信感を感じ、如何したのかと訊ねた。

 ローレルは眉毛を八の字にしながら泣き付く様な声でぼそりと言った。


 「王子が居ません~」

 ローレルはそういってディオスの服の裾を掴んだ。

 それは暗にディオスも逃がすかと言っていた。一緒に探せということらしい。


 「…フィルティーンか…そういえばあいつ、御前等から逃げていたんだっけ?」

 「……等…?わたくしのほかにも王子を追うものが…?!」

 確認する様にディオスが口にした時だった。御前等という言葉にローレルは反応した。

 ローレルの表情はすぐさま真剣なものへと変わり、ディオスに真相を問い質す様に服を更に強く引張った。


 「え…其処の三人だよ、御前の他の」

 「は…い?……ああ…なんだ…」

 他の三人と聞いて、ローレルは再び安堵の息を漏らす。先程の真剣さはもう微塵も感じられない。一体なんなんだとディオスが思った時だった。


 「アレは、僕の作った幻影です」

 何時の間にか一人称が僕に変わっていたローレルはぱちんと指を鳴らす。

 如何やら僕の方がローレルの本当に一人称らしかった。

 そしてぱちんとなった音を合図として、周りに浮いていた三つの純白たちは霧の様に消えた。


 「…幻影……」

 「其の方が逃げ場なくなると思って…でも…やっぱり…」

 其の言葉の続きを、ローレルは言おうとしなった。言葉が途中で途切れる。

 ローレルはがっくりと頭を下げ、其の場に手をついた。

 見えない口元から盛大な溜息がはかれたが、ディオスは如何反応していいのか分からず其のままローレルを見ていた。


 このままローレルを置いていってもディオスには何にも害は無かったが、ディオスが話をさせていた、其の所為でローレルが探していたフィルティーンが逃げてしまったと考えると、少し後味が悪かった。

 それに、逃げようにも今だローレルの手はディオスの服の裾を少し掴んでいた。

 ディオスもローレルと同じ様に溜息をつくと、ローレルの前に手を差し伸べた。


 「……?」

 目の前に差し出された手を見てローレルが首を傾げた。


 「早く立てよ。俺も一緒に探してやるから…」

 「……!!本当ですか!?あ、有難う御座います…!」

 そういってローレルはぱっと表情を明るくすると、ゆっくり立ち上がって再び笑みを浮かべた。


 離さない様にしていたのは誰だと言いたかったディオスだが、黙っていた。




 さて、あいつは何処行ったんだ?とディオスは考えながら空を仰いだ。

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