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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

正しき道へ

掲載日:2026/10/21

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 自分は、正しい道を歩んでいるのか?

 ときに、迷いが生まれてしまうことがらだと思う。今とそれまでを振り返ってみて、現実と理想のギャップを感じるとき、ふと頭をよぎってしまうだろう。

 中には迷いなく進んでいて、そのようなことを考えるいとまもない人もいるかもしれない。でも、自分のフルスペックもいつまで理想に耐えられるかは不明だ。

 衰えるかもしれないし、事故などでいきなり失われてしまうかもしれない。そうして、右肩上がりを保てなくなったとき、高いモチベーションを維持し続けることは、果たしてできるだろうか。

 メンタル的にも影響のでかい、正しい道問題。もちろん物理的にも重大だ。間違った道をえっちらおっちら登り続けたところで、目的とする場所へたどり着けない。

 いや、特に目指す場所を設けなかったとしても、今歩いている道でさえ正しいのかどうかは分からない。たとえ脳が判断できずとも、身体のどこかしらが様々に感じ取り、合図をしてくれることもある。

 私が以前に体験したことなのだけど、聞いてみないか?


 あれは、電車通学をしていた学生時代のことだった。

 当時、うちの学校ではちょくちょく、長期の休みをとる生徒が何人かいたんだ。

 戻ってくるよりも、休んでいく生徒の数のほうが多く、いよいよ私のクラスにも欠席者が出てきた。

 表向きには病欠になっている。しかし、欠席者と仲がいい人によると、「道を間違えたんじゃないか?」という意見がちらほらと出てきたんだ。

 どこか慣れていない土地にでも向かって、そのまま帰れなくなってしまった……だと、なんだか大ごとだ。でも、平日に堂々と学校を休んで旅行に行っているのだとしたら、やたら肝が据わっている。しかもひとりやふたりじゃないなんて。

 いったい、どのような根拠で道を間違えたなどと評したのだろう?

 疑問に思う私は、その発言をしたひとりに話を聞いてみたんだ。


 狐につままれる、とは古来よりある表現だ。

 人ならざる狐狸のたぐいに化かされて、正しい認識を見失ってしまい、道が分からなくなってしまう、と。

 それに似たようなものか、というと当たらずとも遠からずだという。

 もっと大きく、道全体でこちらを陥れようとしてくるのが、「現代風」なのだとか。タチの悪いものに引っかかると、いつまでたっても戻ってこられなくなる。

 そうならないためには、こちらも知恵を見せつけてやらなきゃいけない。鋭く察知してやり返してやらなきゃいけないんだ。

 そのための方法をいくつか伝授してもらったけれど、今回紹介するのはそのうちのひとつだ。


 実践する機会は、それから半月ほどしてから訪れた。

 学校からの帰り道の途中、下り坂へさしかかったときに、ふと足裏から頭のてっぺんにかけて、しびれるような痛みが走ったんだ。

 のみならず、喉奥から口へこみあげてくるもの。胃液のたぐいとは思えなかった。はっきりと固形物の気配。かなり細い。

 ぐっと、吐き出してみると、それは縫い針のような形をしていた。もちろん、飲み込んだ覚えなどない。

 しかも、その針には髪の毛がぐるぐると巻き付いていて、身体を隠していたんだ。


 よもや、本当に聞いていたケースに出会うとは思っていなかった。ならば、これから起こるべきこともまた事実のはず。

 私はすっと、三歩うしろへ下がった。すると、信じられないことに自分とそっくりの後ろ姿をした男が、先ほどの位置へ立っている。

 分け身だ、と友達は話していた。

 あの痛みと髪まみれの針を吐き出すとき、自分の身は分かれることができる。戻れば、ほんの一部を置き去りにできる、と。

 私の分け身は、ほどなく勝手に動き出した。この姿は、分け身を出した本人しか見ることができないと、友達はいう。

 そして分け身は、何歩か先の電柱横へ通りかかった。

 ふと、電柱の脇に大穴が開いた。いや、大口というべきか。そこからカエルのベロのごとく飛び出した触手らしきものが、分け身をとらえるや、口の中へ取り込んでしまい、口そのものもまた閉じてしまった。

 口が開いて閉まるまで、ものの数秒とかからない早業。下がったきり、動向を見守っていた私は、息を呑んだね。これが道を正しく歩めなくなる原因かと。


 にわかに信じがたいが、このようなケースもあると聞いていて助かった。そして対策も承知している。

 私は手近な石を拾い、先ほど穴を開けた電柱の側面へ投げつけたんだ。

 命中とともに、寺社の釣り鐘を思わせるような長鳴りが耳を打つ。普通の電柱ならば、ごつんと音を立ててそれっきりになるのが関の山だろう。

 その長い長い音がやんだあと、念のため電柱から距離を保ちながら前を通り過ぎたがなんともなかった。その後に続く人たちを見ていても、同じだったよ。

 以降、欠席が続いていた人たちもばらばらと学校へ顔を出すようになってきた。

 どうやら、正しい道を引き戻すことができたっぽいんだよ。

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