六十二話 素敵な夢を
「な、何者だ!?」
これには流石の父も大きな声を上げたが、すぐに目を見開いて固まってしまった。
そう、伯爵邸に入ってきたのは……武装した公爵家の兵士達だったからだ。
「その者達を捕らえよ!」
全員が呆気に取られていた中、クラウド様が凛とした声で兵士達に命令をした。
「ハッ!」
兵士達は勇ましく返事をして、すぐに父と母を拘束してしまった。
母は絶望しきった表情をしていて、最早抵抗する気力もないようだ。
まぁ、当たり前よね。
公爵夫人の暗殺未遂なんて……処罰されて当然の大事件だもの。
その一方で、さっきまでの冷静な姿は何処へやら……騒ぎ立てているのは、父の方だった。
「おい、愚民共! 私は何も関係ないだろう!? 馬鹿なことをしたのはこの女だけだ! 私は関係ない!」
「それは、暗殺未遂の件に関してだろう? 貴様には、別件で王家から正式な書状を預かっている」
「……べ、別件……ですと……?」
父の顔が、サッと青くなる。
私は何も言わず、ただ成り行きを見守ることにした。
……母への裁きは、もう終わった。
だから、父を裁くのはクラウド様を信じて任せるわ。
____きっとクラウド様は、あの時の私のお願いを叶えてくれたのだろうから。
クラウド様が丸められた書状を開き、父の眼前に突きつけた。
「レインフォード伯爵。貴様は、事業が傾くのを防ぐために人身売買を裏で行っていたようだな。それも、若い女子供を狙った悪質なものを……」
「な、な、なぜ……それを……!?」
「グレンウィル公爵家の力を舐めるな。……この件は、既に王家にも報告済みだ。貴様らが行ったことは立派な王国法違反だぞ」
「あ、あ……あ゛ぁぁぁぁぁ!!!」
父が、狂ったように叫びながら膝から崩れ落ちた。
その瞳には、確かな絶望と怒りが滲んでいる。
「……連れて行け。この刺客の女も共に連行しろ」
「ハッ!」
母は生気を失ったような表情で、ブツブツと何かを呟きながら連れていかれる。
その目の焦点は合っていない。
……父にも裏切られて、もう心が壊れてしまったのだろう。
そしてその父はというと……拘束された状態で醜く顔を歪ませながら、最後の最後に私の方を振り返った。
「全部……全部、お前のせいだ、アイリス! お前さえいなければ……!!」
……この人は、最後まで自分の罪を認めることが出来ないのね。
「私がいなければ? いいえ、違います。私がいたから事業が上手くいったのです。それを台無しにしたのは、他でもないあなた達でしょう」
そう冷たく言い放つと、父はギリ、と歯軋りをした。
私はそんな父に微笑みかけながら、ゆっくりと口を開く。
「さようなら、お母様、お父様。____最期くらいは、素敵な夢をみられるといいですね」
……いつかのメアリーの言葉を借りて……。
いいえ、メアリーの想いを背負いながら……私は二人に別れを告げたのだった。




