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六十一話 裏切り

「…………お久しぶりですね、レインフォード伯爵」


 私がニコリと微笑みながら挨拶すると、父は一瞬だけ顔を歪めたあと、すぐに柔らかな表情へ変わった。


「これはこれは、グレンウィル公爵ではありませんか。この度は、私の娘が何かいたしましたでしょうか?」


 ……父は私の挨拶なんて聞こえなかったかのように、クラウド様に話しかけた。


 クラウド様の機嫌が一瞬で悪くなったのが、背後から伝わってくる。


「お言葉ですが……今あなたに話しかけていたのは、私ではなく妻のアイリスでは?」

「あぁ、それは失礼いたしました。……アイリス、久しぶりだな。調子はどうだ?」


 父はそう言って、穏やかな口調で私に話しかけた。


 ____気味が悪いわね。


「調子ですか? 丁度今日、お母様の行いによって危うく命を落としかけたところです」

「ちょっと! 何を言っているの!?」


 私が父に告げると、母が焦ったように叫び出した。


 ……なるほど、どうやら刺客を送り込んだのは母の独断のようね。

 おそらく、だけれど……よっぽどお茶会での出来事が気に入らなかったのだわ。





 私の言葉を聞いた父の表情が、一気に冷たいものになる。


 ____空気が、変わった。


「おい、お前……私に何も言わず、一体何を勝手にやったんだ?」

「ち、違うのよ……! それは……そう、アイリスの勘違いで!!」


 父に詰め寄られた母が、苦し紛れの言い訳を口にする。 


 どう考えても無理があるでしょうに。


「あら、言いましたよね? こちらには証人がいると……。ちゃんと、彼女が喋ってくれましたよ。私を殺すよう、レインフォード伯爵夫人から命令を受けたと……」


 私が淡々と告げると、母の顔が一気に真っ青になる。


 ____あぁ、一体私は今まで、何に縛られていたのかしら。


 こんなに簡単な事だったのに……。


 今までの私は、本当に弱かった。

 でも、もう違う。


「レインフォード伯爵夫人。あなたがしたことは、グレンウィル公爵夫人の暗殺未遂です。それが何を意味するか……わかりますよね?」

「ひっ……ち、違う、本当に違うのよ……! そ、そうだわ、貴方からも何か言ってちょうだい!!」


 追い詰められた母が父に縋るような目を向けた。


 しかし、父はその言葉を遮るように口を開く。


「黙れ、恥晒しが! グレンウィル公爵家に刺客を送り込むなど、貴様は何をしているのだ? 女の癖に勝手に動くなど……! 処罰されるのはお前だけだ! 私は何も知らんのだからな!」

「そ、そんな……!」


 父の言葉を聞いた母は、信じられないといった表情をしながらその場にへたり込んでしまった。


 ……これには、私も驚いた。


 父と母の夫婦仲は、決して悪くないと思っていたのに。

 まさか、こんな簡単に切り捨てるなんて。






 ……いいえ、違うわね。


 この二人が仲良く見えていたのは、今まで私という共通の「ターゲット」がいたから。


 でも、突如私の方が立場が上になって……更にはメアリーがいなくなった今、この二人の仲は最悪なのだわ。


 ____本当に、くだらない家族だったのね。




「すみませんね、グレンウィル公爵……この女のことは、好きに処罰していただいて構いませんので……。どうか今日のところはお引き取り願えますと」


 父が手を捏ねながら、クラウド様に擦り寄るような声を出した。


 しかし、私の目的はまだ何一つ達成されていない。


 私の目的は____ベラを救出することと、この家を没落させることなのだから。


 ……けれど、暗殺未遂が母の独断だった以上、私には父を追い詰める手札がない。


 ここまで追い詰めたのに……これで終わってしまうの?

 そんなの、絶対に嫌……!


 でも、一体どうすれば…………と思った、その瞬間だった。





 ____バァン!


 何者かによって、玄関扉が勢いよく開かれた音がした。

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