五十九話 エスコート
「えっ!? い、今からですか!?」
「えぇ、もちろんよ。早くしないと、ベラの命が危ないもの」
私の宣言にセーラはひどく驚いていたが、私の意志は固い。
ベラの偽物を横目で見ながら、私はセーラに侍女達を数人集めるよう指示をした。
セーラが早足で部屋を出ていったのを確認して、二人の衛兵に声をかける。
「衛兵さん達、その刺客の手首を後ろで縛って、逃げられないようにしておいてくれるかしら? 私は今から着替えなくちゃいけないから、あなた達にお願いしたいの」
「ハッ! かしこまりました!」
最早彼女は抵抗する気力も残っていないようで、大人しく部屋の外に連行されていった。
それから少しして、セーラ含む侍女達が部屋にパタパタと入室する。
「みんな、こんな夜更けにごめんなさい。けれど……どうか私のために力を貸して欲しいの」
私がそう言って頭を下げようとすると、セーラがそれを制するように「おやめください」と声を上げた。
「そんなの当たり前じゃないですか! 私達はみんな、アイリス様のことが大好きなんですから!」
「……ありがとう。じゃあ、早速ドレスに着替えたいのだけれど……お願いしてもいいかしら」
「もちろんでございます」
私の号令で、侍女達が素早くそれぞれの持ち場についた。
侍女達が用意してくれたのは……クラウド様がプレゼントしてくれた、赤いドレスに赤いハイヒールだ。
コルセットをキツく絞められてから、私はその真紅のドレスを身に纏う。
____やっぱり、いいわね。
お義母様に贈っていただいたドレスもそうだけれど……。
クラウド様と私の瞳によく似た赤いドレスは、私を強くしてくれる。
「アイリス様、御髪はどうされますか?」
「そうね……せっかくだもの、お母様達が大嫌いなこの白髪を見せつけてやりたいわ」
「あはは、わかりました。では、サラサラに梳かして髪は下ろしましょう」
セーラが私の髪を丁寧に梳かしていく。
その間に、私は祖母のイヤリングを耳につけた。
……今では、このイヤリングを見るとメアリーのことも思い出すようになったわね。
____ようやく決着をつける時が来たんだわ。
「アイリス様、今日も完璧です」
「みんな、本当にありがとう。……では、行きましょうか。セーラ、着いてきてくれる?」
「はい、もちろんです!」
侍女達に見送られながら、私とセーラは部屋を出る。
途中で衛兵達を拾って、玄関ロビーまで急ぎ足で向かった。
____そこには予想通り、誰かが腕を組んで扉の前で立っている。
そんなの当然、一人しかいないわよね。
「クラウド様!」
「……リリー、まさか俺を置いていく気だったのか?」
「そんなわけありませんわ。クラウド様でしたら、きっと何も言わずとも、屋敷で起こっていることを察知してくださると思っていましたもの。現に、こうして待っていてくれているでしょう?」
「信頼してくれているのは嬉しいが……無茶はしないでくれ。君が怪我をしたと聞いた時、俺は心臓が止まりかけたんだから……」
そう言って、クラウド様は私の首筋を切なそうになぞった。
……少し、擽ったくて恥ずかしいわ。
「ご心配をおかけして、申し訳ございません。ですが、こうしている間にもベラは苦しんでいるかもしれないのです」
「……君は本当に、優しくて強い女性になったな」
「ふふ、クラウド様がいつも私をそうやって褒めてくださるので、私も自信がついたのです」
「言っておくが、本気で思っているんだぞ。君は困難を乗り越える度、どんどん強くなっていくから……俺は置いていかれそうで不安になる時があるくらいだ」
「置いていくなんてしませんよ。私はいつも、あなたの隣にいます」
私はそう言って、クラウド様に手を差し伸べる。
いつもクラウド様が私にしてくれているように、今度は私がクラウド様をエスコートするの。
クラウド様はそんな私を見て、困ったような顔をして笑った。
それから、優しく私の手を取る。
「ケイン、こんな夜更けにごめんなさい」
「いいえ。アイリス様の無茶ぶりなんて珍しいですから、むしろラッキーですよ」
「あら、ありがとう」
馬車の扉を開ける。
いつもなら、クラウド様にエスコートしていただいて乗り込んでいるけれど……。
今日くらいは、このまま私がエスコートしたっていいわよね?
「ではクラウド様、お乗りください」
「……帰りは、俺がエスコートするからな」
「ふふ、わかりました」
少し拗ねているクラウド様と一緒に馬車に乗り込んで、それから続いてセーラが乗り込み、最後にベラの偽物が乱暴に投げ込まれた。
馬車がガタン、と揺れて、いつもより速く走り始める。
____いざ、レインフォード伯爵邸へ。




