五十四話 本当の自由を手に入れるために
クラウド様が目を見開きながら、私に問いかける。
「……本気なんだな?」
「はい。私が本当に自由になるためには……根本的な解決が必要だとわかりました。だから私は……生まれ育ったあの家を、没落させたいのです」
私の迷いのなさを、クラウド様も感じ取ったのだろう。
クラウド様は一瞬だけ目を伏せてから、私の瞳をしっかりと見つめ直して口を開いた。
「……わかった、君のために力を尽くそう。それで、俺は何をすればいい?」
「レインフォード伯爵家の事業がうまくいっていないのは、クラウド様もご存知ですよね?」
「あぁ。あれだけ金の無心をされてしまえばな……。だが、最近は少し緩和されたのだと思っていたが……」
「えぇ、それが不自然なのですわ」
クラウド様が怪訝そうに眉を顰めた。
私は、毅然とした態度で言葉を続ける。
「変だと思いませんか? そんなにお金に困っていたはずが、急に公爵夫人である私を呼べるような大規模なお茶会を開けるようになるなんて……」
「言われてみれば、確かにそうだな……」
クラウド様は考え込むように腕を組んで、神妙な顔をしながら頷いた。
「それで、リリーはその要因についてなんだと思っているんだ?」
「……詳しい事情はまだ何もわかっていませんが……。セーラの調べによると、レインフォード伯爵家の羽振りが急に良くなったのはここ1ヶ月の話らしいのです」
「それは……何か新しい事業を始めたとしても、随分急な話だな……」
「そうなのです。ですから……その期間で何か、怪しい商売に手を染めたのではないかと。あの両親なら、やりかねませんから……」
……正直、この話は全て推測に過ぎない。
けれど……そもそもレインフォード伯爵家の事業が上手くいかなくなった一番の要因は、私が家を出ていったことにある。
幼い頃から様々な教育を叩き込まれていた私は、当然経済や政治の知識もあった。
だから、楽をしたかった両親は家業の何割かの管理を私に丸投げしていたのだ。
まるで、それが当然の役目だというかのように。
……そんな私が引き継ぎもできずに急に家を出たのだから、家が傾きかけるのも不思議な話ではないのよね。
そしてあの両親が、こんな短期間で新たな事業を成功させられるなんて到底思えない。
「……なるほどな。確かに、有り得る話だ。つまり俺は、奴らが何をしているのかを探ればいいんだな?」
「話が早くて助かります。その間、私も公爵夫人としていつも以上に家を守れるよう頑張りますから……。伯爵家の調査は任せてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ。そもそも、俺はリリーを苦しめたアイツらのことを許していないからな」
そう言って、クラウド様が私の額にキスをした。
私もクラウド様の頬に優しく唇で触れると、クラウド様は優しい顔をして私の頬を撫でてくれた。
その甘さだけで、どんな苦難でも乗り越えられるような気がしてくる。
____待っていてね、お母様にお父様。苦しんだ分、ちゃんとお返ししてあげますから。
……メアリーの分までね。
キスをしながらそんな物騒なことを考えていると、いつの間にか馬車は公爵邸に到着していたのだった。




