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五話 前公爵夫人の本性

 レミがゆっくりと扉を開ける。私はおそるおそるクラウド様たちのもとへ近づいて、もう一度カーテシーを行った。


「お待たせいたしました。改めまして、レインフォード伯爵家令嬢、アイリスと申します」

 それから顔をあげると、ぽかんと口を開けて固まっているクラウド様と、目を大きく見開いてこちらを見つめてくる前公爵夫人の姿が目に映った。


「あ、あの……やはり、変でしょうか? 私などがこのような素敵なドレスを着用するなんて…………」

「な、な、な……………!」

 前公爵夫人がわなわなと震えだす。やはり私には不相応だったのだろう。さっきも怒らせてしまったばかりなのに、また怒らせてしまう。どうしましょう。


「すみません、やっぱり似合わないですよね! お気に召さないようでしたらすぐに着替えますので……!」

「なんて可愛いの!!!!!!」

「…………え?」

 目をキラキラさせてそう叫んだ前公爵夫人に、今度は私が目を見開いてぽかんとしてしまった。

「貴女の評判は前から知っていたのよ! 容姿端麗で完璧な白百合令嬢と呼ばれているって! なのにこの息子、そんな素晴らしい素材を全く活かさないで私のもとまで連れてきたものだから頭に来ちゃって!!! あぁ、なんて可愛いのかしら! これから娘になることだし、アイリスちゃんとお呼びしてもよろしくて!?」

「え、あ、は、はい!」

 勢いに押されて返事をすると、前公爵夫人はパァっと顔を明るくさせた。

「ありがとう! 私のことはお義母さまと呼んでくれると嬉しいわ!!」

「はい、お、お義母さま……!」

「きゃーーーーー!!!」


 ……なんというかもう、完璧に想定外である。てっきり歓迎されていないと思っていたのに、こんなに大歓迎されるなんて思っていなかった。なるほど、クラウド様やレミが言っていたのはこういうことだったのか。


「奥様、そんなに一気にお話されてはアイリス様もお困りになってしまいますよ」

「はっ……! そうよね、ごめんなさい、びっくりさせてしまったかしら……?」


 前公爵夫人……いえ、お義母さまが困ったように眉を下げる。さっきまでは圧がすごがったのに、一気に子犬みたいに見えて、なんだかとても可愛らしい方だと思った。

「困るだなんて、そんなことございません! 確かにすこし驚きはしましたが、その……可愛いなんて、両親にも言われたことがなかったので、お義母さまに仰っていただけて、すごくうれしかったです」

 そう言って、二人を安心させようとする。お義母さまはそんな私をみて、「笑った顔もなんて可愛いの……」とうっとりとした表情を浮かべた。


 お義母さまがようやく落ち着いたところで、クラウド様が先程から一言も喋っていないことに気が付いた。具合でも悪いのだろうか。

 そう思ってクラウド様の目の前まで近付いて顔を覗き込みながら、「クラウド様……?」と問いかける。すると、クラウド様は顔を赤く染めながら「近い……!」と顔を背けてしまった。お義母さまはとても褒めてくださったけど、クラウド様はお気に召さなかったのかもしれない。だって、公爵邸にいた時の余裕綽々なクラウド様の態度とは大違いだもの。

 なんだか申し訳ないなと、少し反省した。


「その……実はこのドレス、クラウド様の瞳のように綺麗だなと思って選んだのです。でも、やっぱりクラウド様の好みではなかったでしょうか……?」

「は!? い、いやその、だな…………まぁ、いいんじゃないか」

「本当ですか? それなら安心いたしました」

 及第点、といったところだろうか。なんにせよ、引かれているわけではないなら安心だ。

 なぜかクラウド様がお義母さまに「根性なし」と罵られていたけれど、それは見なかったことにしておくことにする。


「ところでアイリスちゃん、これから少しだけ、二人きりでお茶でもどう?」

「はい、喜んで」

 本当は帰らないとまずいことはわかっているのだけれど、お義母さまの優しさがあまりにもあったかくて、すぐに頷いてしまった。

「嬉しいわ! 今日は天気がいいから、お庭で紅茶でも飲みましょう。レミ、準備お願いね」

「かしこまりました」

「じゃあアイリスちゃん、案内するからこっちへいらっしゃい」


 お義母さまに連れられて外に出る。お庭には色とりどりの季節の花が咲き誇っていて、とても美しい光景が広がっていた。

「わぁ、綺麗……!」

「ふふ、ありがとう。ガーデニングが趣味なのよ」

「このお花、お義母さまが育てられているんですか? 本当に素敵です」

「そんなに褒めてもらえるなんて、世話している甲斐があるわ。さぁ、座って頂戴」

 お義母さまによってテラスに案内される。白いお洒落なテーブルに、可愛らしい椅子が庭の雰囲気によく合っていて素敵だ。まるで夢の中にいるみたいで。


 レミが紅茶を淹れてくれて、お茶菓子も用意してくれた。こんな美味しそうなお菓子、家で出してもらえたことあったかしら? いいや、なかったはずだ。こういう可愛くて美味しいものはいつも、メアリーのものだったから……。


 感傷に浸っていると、お義母さまが優しく微笑みながら口を開いた。

「さぁ、準備も整ったことだし……二人きりでお話、しましょうか」

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