四十八話 これが私の戦闘服
窓から差し込む光の眩しさで目を覚ます。
「……嫌になるほど、良い天気ね」
あの手紙が届いてから、二週間が経った。
今日は、母との決戦の日。
……私はこれから、レインフォード伯爵夫人が主催のお茶会に出席する。
ゆったりとベッドから起き上がったのと同時に、控えめなノック音が響いた。
「入っていいわよ」
「失礼いたします。アイリス様は今日もお早いですね」
「セーラほどではないわ。……それに、今日は少しばかり気合いを入れないといけないから」
入ってきたのはセーラだった。
いつも通りテキパキと働いてくれているが、その表情はいつもより暗い。
「…………本当に、参加されるのですか」
「あら。出席の返事を出したのに、当日になって欠席だなんて……それこそグレンウィル公爵家の名に傷を付けるようなものよ」
「……クラウド様には申し訳ないですが……私には公爵家の評判よりも、アイリス様の身の安全が一番なんです……!」
セーラが涙ぐみながら訴えてきた。
この子は本当に、いつだって私のことを考えてくれる。だから、私もセーラには誠実に応えようと思えるのよね。
「あのね、セーラ。私はもう、守られるだけの伯爵令嬢ではなくなってしまったの。今は、グレンウィル公爵夫人として、家を守る立場なのよ」
「それはそうですが……」
「私が逃げれば、クラウド様はもちろん、屋敷の皆が路頭に迷うようなことになってしまうかもしれない……。だから私は、逃げるわけにはいかないの。セーラなら、わかってくれるでしょう?」
微笑みながらそう告げると、セーラは小さな声で「お嬢様は、ずるいです」と呟いた。
「私はもう、お嬢様じゃなくて奥様なのよ」
私がそう言うと、セーラはようやく諦めたのか困ったような顔をした。
そして、「そうでしたね、申し訳ございません。……ですが、セーラはいつだって、アイリス様の味方ですよ」と言って笑ってくれたのだった。
***
朝食を終えて、いよいよお茶会に向かう準備が始まる。
まずは、ドレス選び。
でも……これはもう決まっている。
私が迷わず手に取ったのは、初めてお義母様にお会いした時、レミが着せてくれた赤いドレスだ。
このドレスは、自信がなかった私を変えてくれた魔法のドレスだから……。
今日もきっと、私に自信を与えてくれる。鎧のようなものよ。
靴は、クラウド様がプレゼントしてくださった赤い靴。
素敵な靴は、私をきっと素敵な場所に連れていってくれる……そう信じているから。
そして髪は、お義母さまの髪型を真似させていただいた。
セーラのセットはいつだって完璧で、文句なしの仕上がりだった。
最後に、祖母のイヤリングを自分の手で耳に飾る。
……メアリーの想いを乗せながら。
これで、私の武装は完了。
「セーラ、今日もありがとう。じゃあ、行ってくるわ」
「はい。……ご武運をお祈りしております」
屋敷から出る時、セーラはそう言って見送ってくれた。
クラウド様もお忙しいはずなのに、馬車の前で私を待ってくれている。
私はクラウド様に見守られながら、一人で馬車に乗り込んで、クラウド様に告げた。
「行ってまいります」
「あぁ。……信じてるよ、リリー」
「はい、私もクラウド様と……私自身を信じています」
馬車がゆっくりと走り出す。
大丈夫、私は負けない。
だって、こんなに素敵な戦闘服を身に纏っているんだから。
____遠ざかっていく公爵邸を見つめながら、私は屋敷の皆に想いを馳せるのだった。




