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四十五話 本当の夫婦になった日

「もう一度お話……ですか?」

「あぁ。……こっちへおいで」


 そう言って、クラウド様は大きなベッドに腰掛けてから、両手を広げる。

 私は少し躊躇いながらも、おそるおそるクラウド様に近寄った。


 その瞬間、クラウド様が両手を私の背中に回して、力いっぱい抱き締めてきた。


 思わずバランスを崩して、抱き合ったままベッドの上に倒れ込む。


 ……心臓の音が、聴こえる。でも、それがクラウド様のものなのか、私のものなのかはわからなかった。


 なんだかこの状況がおかしくて、ついクスクスと笑ってしまう。


「……リリーは泣き顔も美しいけれど……やっぱり、笑顔が一番似合うな」

「それは……クラウド様も同じですわ」

「いや、リリーの方が似合う」

「そんなことありません、クラウド様の方が似合います!」

「…………ははっ、これじゃ決着はつかなそうだな」

「ふふ、そうですね」


 ……こんな風に軽口を叩きあえるなんて、夢みたい。

 一週間前まではこれが当たり前だった。でも、この一週間は真っ暗闇のトンネルを一人で歩いているような気分だったから。



「ねぇ、クラウド様……お話って、なんですか?」

「あぁ……まずは、謝らせて欲しい。リリーを不安にさせたこと。本当に、すまなかった」

「……謝らないでくださいませ。私だってクラウド様を不安にさせてしまいましたもの。それに……記憶がなくなった後も私のことを好きになってくださったなんて……本当に嬉しいです」

「リリー……」

「……あぁ、この人は何度だって私のことを愛してくれる……。そう感じることができましたから」


 私の言葉を聞いたクラウド様は、優しく微笑んでから私の髪を撫でた。


「……それは、君だって同じだろう」

「え?」

「あの場で『政略結婚だ』と嘘をついたのは、何度も恋愛結婚だと主張しても俺が信じないと思ったからだろう?」

「……はい、その通りですわ」

「実際に、俺は信じられなかったと思う。だって、俺が人を愛することなんて……一生ないと思っていたからな。……リリー、君に会うまでは」


 そう言って、クラウド様が私の頬を優しく撫でる。


「リリー。……目を瞑って」


 低くて甘い声で囁かれて、少し鼓動が早くなるのを感じながら瞼を閉じた。


 ____唇が、重なる。


 あぁ、私やっぱり、クラウド様とのキスが好き。とても温かくて、幸せな気持ちになれるから。

 こんなにドキドキするのは、クラウド様に対してだけだわ。


 唇がゆっくり離れると、クラウド様は私の頬をつんつんと指でつつく。……これは、遊ばれてるわね。

 もう、クラウド様ったら……。でも、全く悪い気はしない。


 それから満足したらしいクラウド様が、思い出したようにゆっくりと言葉を紡いだ。


「そういえば……俺も調べたんだ。リリー、君のアイリスという名前は……花の名前でもあるんだな」

「実はそうなんです。ふふ、綺麗なお花なんですよ。私にはもったいないくらい」

「そんなことはないさ。アイリスも、リリーもどちらもとても美しい。君はもう白百合令嬢じゃない、『アイリス』そのものなんだ」


 ____白百合じゃない。


 その言葉を聞いた瞬間、私を縛っていた鎖が解けていくような感覚を覚えた。


 そうよ、私はアイリス。

 アイリス・グレンウィルなんだわ。


 そう思うと、自然と涙が流れてきた。嬉しさなのか、なんなのかはよくわからない。

 でも、なぜだか魔法にかけられたような気分だった。


 クラウド様が私から離れて、ベッドから立ち上がった。それから、棚から何かお洒落な小箱を手に持って、ベッドの前に跪いた。


 私も慌ててベッドから起き上がり、クラウド様に向き直る。


「____リリー。遅くなってしまったけど、俺と結婚してくれてありがとう」


 そう言って、クラウド様が小箱をパカッと開ける。

 中に入っていたのは……ダイヤモンドが豪華にあしらわれた、とても美しい指輪だった。


「結婚指輪は、結婚式の時に改めて用意をするけれど……。今は、この婚約指輪を受け取って欲しいんだ」


 ____夢を、見ているのかしら。


「……クラウド様、どうしてそんな素敵なものを……?」

「実は、リリーが酒屋で言ってくれた言葉をもう一度口に出してくれたら、渡そうと思ってずっと隠し持っていたんだ。そうしたら、本当の夫婦にようやくなれる気がして。……さぁ、お手を」


 クラウド様に促されて、ゆっくりと手を差し出す。

 少しだけ指先が震えてしまったこと、気付かれてしまったかしら。


 私の薬指に、指輪がピッタリと嵌る。まるで、最初からそこに飾られているのが決まっていたみたいに。


「……ねぇ、クラウド様、アイリスの花言葉を知っていますか?」

「…………いや、知らないな? リリー、ぜひ君の口から聞かせてくれ」


 そう言って、クラウド様は私を愛おしそうに見つめる。


 私は嬉し涙を流しながら、ゆっくりと口を開いた。


「白のアイリスの花言葉は……【あなたを大切にします】という意味なんです。クラウド様、私、あなたを一生大切にします」

「俺も、黒薔薇公爵の名に誓って【永遠の愛】を君に捧げるよ」

「……私、幸せです。世界で一番……。クラウド様も、幸せですか? 幸せだったら、もう一度キスしてください」


 ____その直後、クラウド様がキスをしてくれたかどうかは……言うだけ野暮って話よね?

次回、第三章最終話です。

(第四章で完結予定)

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