表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/49

四十三話 思い出の鍵は『愛』

 翌日の昼頃。

 仕事を早々に片付けてから、俺の自室にアイリス嬢とマリアンヌを招いた。


 もちろん、セーラという侍女に扉の外で見張りをしてもらった状態で、三人以外の人間が中に入ってこないようにしている。


 マリアンヌが不思議そうに口を開いた。


「クラウド様、一体これから何が始まるのですか?」

「今から……俺はアイリス嬢に大事な話をする。マリアンヌにも話があるから、聞いていて欲しい」

「…………」


 マリアンヌは依然首を傾げている。

 一方、アイリス嬢は全てを悟ったような表情をしつつも、凛とした姿勢を崩さずに立っていた。


 その姿が美しくて、眩しくて、決心が揺らぎそうになる。

 だが、もう決めたのだ。


 俺は、ジリジリと焼け焦げそうな胸の痛みを堪えながら、重たい口を開いた。



「アイリス嬢、俺と離縁してくれないだろうか」



 マリアンヌが、「えっ」と小さな声を漏らす。その表情は心做しか嬉しそうに見えた。


 そして肝心のアイリス嬢は……深く息を吸ってから、諦めたように笑った。


「そうなのではないかなと、思っておりました」

「……すまない」

「いいえ、仕方のないことですわ。愛のない結婚など……虚しいだけですものね」


 アイリス嬢が、下唇を強く噛み締める。それでも、堪えきれなかったらしい涙がぽろぽろと零れ落ちた。


 ____どうして、君が泣くんだ。泣きたいのは、君と離れる決断をした俺の方だというのに。


「俺は……この一週間君と話して、アイリス嬢には幸せになってほしいと思ったんだ。だから、政略結婚なんかではなく、本当に愛した相手と結ばれて欲しい」


 そうでなければ、俺が強引に君を奪ってしまいそうだから。


「……一体、何が起こってますの……?」


 マリアンヌだけが、この場の状況を飲み込めていないようだった。


 でも、今はアイリス嬢との最後の時間を大切にしたい。


「……アイリス嬢、俺の申し出を受け入れてくれるだろうか」


 俺の問いかけに対し、彼女は涙を指で拭ってから、美しい笑顔を浮かべて返事をした。


「はい、あなたが望むのなら、離縁を受け入れます。……知っていますか? 黒薔薇の花言葉には、【永遠の愛】という意味があるんですよ」


 ____その言葉を聞いた瞬間。

 頭が、激しくズキン!と痛んだ。


 なぜだろうか、俺は、この続きを知っている気がする。


 でも、なぜ。


 ……そんな俺の様子には気付いていないようで、アイリス嬢は言葉を続けた。


「だからね、きっと大丈夫です。あなたは呪われてなんかない。人を愛して愛されることができる、『愛に溢れた人』なんです。私のことは忘れてしまっても、そのことだけは、覚えておいてくださいね」


 _____ドクン。


 アイリス嬢の言葉を、俺は知っている。

 どうしてだ?

 俺は、この言葉をどこで聞いた?


 ____ドクン……ドクン……ドクン。


『……あのね。知らない人は黒薔薇を怖がるけれど……黒薔薇はとっても素敵な花なのよ。こんなに愛に纏わる言葉があるんだもの。だから大丈夫よ、あなたは人を愛することができるし、きっと愛されることもできるわ。なんて言ったって、あなたは『愛に溢れた人』なんだから、ね?』


 ____そうだ。


 俺は、数ヶ月前にふらりと寄った酒屋で出会った令嬢に、そう言われたんだ。


 そして、俺はその言葉とその笑顔に、一瞬で心を奪われて、それで……。


『……君の名前を、聞いてもいいだろうか』

『私? アイリス・レインフォードよ』

『そうか。なぁ、アイリス嬢。俺と結婚してくれないか?』

『えぇ〜? でも、そうねぇ……もう婚約者もいなくなっちゃったし、あなたとの結婚も、案外楽しいかもしれないわね!』


 そう言って、酒で赤くなった顔で笑った彼女を見て、俺は絶対にこの娘を幸せにすると誓ったんだ。


 ____どうして、今まで忘れていたんだろうか。


 俺がアイリス嬢に惹かれていたのは、偶然なんかじゃない、必然なんかじゃない。


 アイリス嬢の想い人は、俺の知らない誰かでもない。

 彼女が好きだと言った『思い出の花畑』に行ったのは、紛れもない俺だ。


 激しい頭痛に、思わずその場に蹲る。


「クラウド様っ!?」

「クラウド様……!?」


 俺を心配したであろう二人が駆け寄ってきてくれて、それぞれが手を差し伸べてくれた。


 ____俺は迷わず、アイリス嬢の手を取る。


 アイリス嬢は驚いていたが、そんな表情さえも愛おしく、美しいと思った。


「……クラウド、さま……? なぜマリアンヌ様ではなく、私の手を取るのですか……?」


 震える声でそう問いかけてきたアイリス嬢に、俺は微笑みながら世界一愛しい人へ言葉を紡いだ。




「……それは、君を愛しているからだよ。リリー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ