表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/51

三十五話 生死の境で思い出すのは

※今回、初のクラウド様視点です。

 ___ゆっくりと、重たい瞼を開く。


 ……ここは、どこだろうか? 俺は一体、何をしていた?


 確か俺は、事故に遭って……。でも、どうして事故なんかに遭ったんだったか……。

 確か、誰かを庇ったような、そんな記憶がある。でも、その肝心の『誰か』がわからない。


 なんだか長いこと、この場所で眠っていた気がする。気持ちがふわふわして、なんだか心地良い。


 それからようやく辺りをゆっくりと見回すと、そこには一面の花畑が広がっていた。

 とても綺麗だ。恐らく、別荘の近くにある花畑だと思う。


 もうしばらく来ていなかったはずだが……なんだか、最近誰かとここに来た気がする。

 でも、頭にもやがかかって思い出せない。


 花を踏んでしまわないよう、丁寧に花畑の中を歩く。身体は、不思議と軽かった。


 すると、この場には似合わないような、一軒の酒屋が花畑の中心に建っていることに気付く。


 ____その瞬間、俺はようやくここが夢の世界……いや、生死の狭間にある空間だということに気が付いた。


 ならば、ここは俺の過去の記憶の中なのだろうか。そうなら、手遅れになる前に早く現実世界に帰らなければ……。


 そう思っているのに、俺はなんだかその酒屋にどうしようもな惹かれてしまって……吸い寄せられるように店の扉を開く。


 店内は騒がしい。だが、その奥のカウンターで一際目立っている女性がいた。

 庶民の服を着ているが、靴はとても手入れが丁寧にされているし、なによりも髪が美しい。

 そして、酔っ払っているのに姿勢は全く崩れていない。


 間違いない、彼女はどこかの家のご令嬢だ。だが、どうしてそんな女性がこんな酒屋に一人で?


 俺は興味が抑えきれず、彼女の隣に座る。


「隣、失礼する。マスター、俺にも彼女と同じものを」

「……あなた、だぁれ?」

「……随分酔っ払っているんだな。俺は……そうだな、君は『黒薔薇公爵』の噂を知っているか?」


 なんだかすぐに名乗るのはつまらない気がして、悪戯っぽく問うてみる。

 すると、彼女は少しだけ考えた素振りをしながら口を開いた。


「知ってるわよ、すごくこわい人だって噂だけ聞いてるわ」

「そうか……じゃあ、俺がその恐ろしい『黒薔薇公爵』だと言ったら?」


 驚かせたくて、そんなことを言った。

 だが、彼女の反応は意外なものだった。


「別に、こわくないわ。それよりも、私はまた誰にも愛されずに捨てられる方が、もっと怖いもの!」

「……捨てられたのか? 誰に?」

「婚約者よ! 妹に奪われたの! 私の人生、いつもそうなのよ……両親の愛も、私の大切なものも、全部妹が奪っていっちゃうの……」


 そう言って、彼女は泣き出してしまった。どうやら泣き上戸だったらしい。


「そうか。君はこんなに綺麗な髪をしているのにな」

「……その髪も、両親にとっては疎ましいんですって。でも彼は白百合のようだって褒めてくれてたのに……結局裏切られてしまって……」

「白百合……か。俺も黒薔薇じゃなくて、それくらい優しくて美しい花だったらよかったのにな」


 つい、本音が口から出た。

 すると、彼女は眉を顰めて、急に怒り出した。


「そんなことない、黒薔薇はとても美しい花よ! みんな、黒薔薇を怖がるなんてひどいわ」

「……そう思うか?」

「えぇ! 確かに黒薔薇には怖い意味もあるけれど……【永遠の愛】や【決して滅びることのない愛】という素敵な意味もあるのよ?」

「それは……知らなかったな」

「あら、『黒薔薇公爵』なのにこんなことも知らないなんて、まだまだね」


 そう言って、彼女はクスクスと笑った。

 その笑顔がとても美しくて……俺は、何も言えなくなってしまった。


「……あのね。知らない人は黒薔薇を怖がるけれど……黒薔薇はとっても素敵な花なのよ。こんなに愛に纏わる言葉があるんだもの。だから大丈夫よ、あなたは_____


 ***


「……ウド様……クラウド様……どうか目を、覚ましてください……」


 急に声が鼓膜に響いて、もう一度ゆっくりと瞼を開く。そこには見慣れた天井。


 ……どうやら、俺は現実世界に帰ってくることが出来たらしい。

 どんな夢を見ていたんだったか、あまり思い出すことは出来ないが……。

 すごく、懐かしくて優しい夢を見ていた気がする。


「クラウド様……!? 良かった、目を覚まされて……本当に良かった……!!」


 俺の手を握っている美しい女性が、涙を流しながら喜んでいる。

 その光景に、なんだか胸が温かくなった。


 彼女はとても美しくて、声を聞くだけで安心感を与えてくれる。

 そして、どこか愛おしくて、懐かしい。


 なのに、俺は____






「……すまない。……君は、一体誰なんだ……?」

「………………え……?」


 ____彼女のことが、誰なのかわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ