三十四話 あなたを誰より愛してる
ドクン、と心臓が大きく脈打った。
お話? 一体それって、なんの……。
まさか、まさか、まさか……。
脳裏をよぎった最悪の想像を振り切るように、首を横に振ってからセーラに問いかけた。
「クラウド様は……ご無事なの……?」
「……一命は取り留めました。ですが……この先は、アイリス様の目で直接見ていただいた方がよろしいかと存じます」
____怖い。
両親と対峙した時よりも、メアリー達に、殺されそうになった時よりも、何倍も怖い。
でも、いかなくちゃ。
クラウド様に、ちゃんと会って謝らないと。
「……わかったわ。セーラ、私をクラウド様の元へと連れていってくれる? 部屋の前まででいいわ」
「わかりました。では……参りましょうか」
セーラの後ろを歩く。
この家の廊下、こんなに長かったかしら。
まるで、長くて暗いトンネルを歩いているように感じる。
いつもなら、私の後ろにセーラが控えてくれているのだけれど……。
今日はとてもじゃないけど、廊下を堂々と歩くことなんてできなかった。
セーラがゆっくり立ち止まる。
「……着きました。では、この先はお二人でごゆっくりとお過ごしください。……何かありましたら、いつでもお呼びつけくださいね」
そう言って、セーラは自分の持ち場へ帰っていった。
私は……深く、深く息を吸って吐いてから、ゆっくりとクラウド様の部屋の扉をノックする。
……返答は、ない。
でも、今回ばかりは入らなきゃならない。
「……失礼します」
ゆっくりと、部屋に足を踏み入れる。
そこにあったのは、クラウド様の大きなベッド。
____そしてその上で、静かに眠っているクラウド様がいた。
「クラウド様……」
私は一歩ずつ、重い足取りでクラウド様の側に近付いた。
顔色が悪い。いえ、それどころか真っ白だわ。
頭には痛々しい包帯が巻かれている。私を庇ったせいで。
「クラウド様、起きてください、クラウド様……」
何度も何度も名前を呼ぶ。でも、クラウド様は何も仰らない。
いつもみたいに優しい声で、「リリー」と呼んで欲しいのに。
____クラウド様、お願いします。目を覚まして。私、まだクラウド様に伝えてないことがあるんです。
「ねぇ、私、まだ、クラウド様に……愛してるって……伝えてないの……」
私、こんなに弱かったかしら。強くなったと思っていたのに、クラウド様を失うことがこんなに怖いなんて。
指先が震える。
クラウド様がいなくなってしまったことを考えるだけで、胸にぽっかりと穴が空いてしまうような……そんな感覚が襲ってくるのだ。
____私、クラウド様のことをいつの間にか、こんなに好きになっていたんだわ!
こんな状況になって初めて気付くなんて、私は大馬鹿者だ。
「お願いします……クラウド様、目を覚まして……愛してる、愛してるんです……」
勝手に涙がぼろぼろと溢れていく。
それでも、クラウド様は目を覚まさない。
どうしよう、このままクラウド様が目を覚まさなかったら、私、また一人になるの?
そんな想像をして、頭が真っ白になる。なんだか現実味がなくて、小説でも読んでいるような気分だった。
……クラウド様の手を握る。
その手は冷たくて、まるで氷のようだった。
その冷たさが、私を現実へと呼び戻してくれる。
「神様、なんでもするから……クラウド様を返して…………」
私は人生で初めて、神に祈った。
けれども、クラウド様は目を覚まさない。
私はこの日、クラウド様の部屋で眠った。いえ……眠れずにクラウド様の手を握っていたら、いつの間にか寝てしまっていただけだ。
____結局一週間経っても、クラウド様が目を覚ますことはなかった。
次回、初のクラウド様視点です。




