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二十九話 失ったもの、手に入れたもの

「本当に、アイリス様は優しすぎます! あんな人達、もっと厳しい処罰を与えた方が絶対いいですよ!!」

「もう、セーラったらまだ納得していないの? もう一ヵ月も経ったのに……」

「私は十年経っても言い続けますからね! それくらい、アイリス様のことが大切なんですから! 絶対クラウド様も同じですよ!」

「ふふ、ありがとう」


 ____あの波乱の新婚旅行から、一ヵ月が経った。


 私がメアリーとのお茶会で連れ去られた時、一番に動いてくれたのはセーラだったらしい。

 メアリーの零した紅茶を拭くために戻ってきたセーラは、私とメアリーが二人ともいなくなっていることに驚いて、走ってクラウド様の部屋まで報告してくれたらしいのだ。


 それだけじゃなく、セーラはメアリーが乗ってきたはずのモールディング侯爵家の馬車がなくなっていたことにも気付いていたらしい。そのこともクラウド様に同時に報告をして、話を聞いたクラウド様が急いで馬を走らせた結果、なんとか私達のいる森に辿り着くことができたのだとか。


 ちなみにクラウド様が馬車の窓を割った理由は、馬車の中にいる私を見つけた時に「普通に馬車を開けたら間に合わないと思ったから、まず窓を割って怯ませた」からだとか。

 けれど、私から話を聞いたセーラは「絶対違いますよ! アイリス様が首を絞められているのをみて頭に血が上ったからに決まってます!」と言っていたけれど。


 そんなセーラは事件後、私を守れなかったことを相当悔やんでくれていたようで、何度も何度も謝ってくれた。クラウド様と別荘に戻った時なんか、私が無事なことを確認して号泣してから、私の身体に残る傷跡を見て土下座をしながら謝ってきた。


 一ヵ月経った今でも、「私がもっとちゃんと警戒していれば……」と泣きそうな声で言っているくらいだ。

 私はむしろ、セーラのおかげで命が助かったと思っているし、そのことも伝えているのだけれど……優しいセーラは自分のことが許せないらしい。

 でもメアリーのことだから、どんなにセーラが警戒していてもどうにかして私を連れ去ったと思うんだけどな。


 最近はようやく落ち着いてきたようで、罪悪感や悲しみよりもあの二人に対する怒りが強くなってきたみたい。少々怒りすぎな気もするけれど……セーラが元気になってくれて何よりだ。



 ところであの二人の末路はというと……。

 まず、カルヴィン様は結論から言うと、終身刑となった。

 私に一方的に婚約破棄をした挙句、実際に私を拘束したり首を絞めたりしたことが決定打となったようだ。計画を立てたのがメアリーということもあり、処刑とならなかっただけまだマシな判決だろう。


 そして、メアリー。

 彼女は身分を剥奪されたうえで、隣国の修道院に入った。その後の詳しいことはわからないけれど……事件後に一度だけ差出人不明の手紙が届いて、そこには「ありがとうございます。さようなら」とだけ書かれていた。

 もう夜遊びはできないし、豪華な暮らしもできないし、隣国で文化も違うでしょうから、彼女には辛いことばかりだろうけど……。でも、きっともう大丈夫だと思う。

 根拠はないけど、そんな予感がした。


 そして……一番問題なのは、私の両親だ。

 私に縁を切られ、メアリーも失った二人は、それはもう荒れに荒れているらしい。事業は上手くいっていないようで、親戚中に金の無心をしているのだとか。

 それどころか、何度も公爵家に「アイリスを返せ」「金銭的補助をしろ」と手紙を送ってきているみたいで……。


 いつの日か、私はきっと両親と対峙しなければならない日が来るのだと思う。家を出たあの日に、もう縁は切れたと思っていたのに……。

 血の繋がりというのは、本当に面倒だわ。


 ……本当は、あの二人に会うのはまだ怖い。でも、私にはクラウド様やお義母さま、そしてセーラを筆頭とした使用人の皆がいる。

 私はもう、一人じゃない。


 だから……早く、私が酒屋でクラウド様に申し上げたという言葉を思い出して、クラウド様にお伝えしたい。いつになったら思い出せるのかはわからないけれど……。


 けれどあの新婚旅行で、確実に私とクラウド様、そしてセーラとのの仲は深まったと思う。

 皮肉な話だけれど、それだけはメアリー達に感謝しないといけないわね。


「……アイリス様ったら、鼻歌なんて珍しいですね。あ、もしかして……今日のディナーは三日ぶりにクラウド様と一緒だから嬉しいんでしょう? クラウド様、事件のこともあって最近大忙しでしたもんね~」

「ふふ、えぇ……そういうことにしておいてちょうだい」

「え、何ですかその意味深な発言は! もったいぶらないで教えてくださいよ~!」


 自分でも気付かないうちに、鼻歌を歌ってしまっていたみたい。なんだか浮かれていて恥ずかしい。

 セーラは頬を膨らませながら、私の髪を完璧にセットしてくれている。本当に、セーラが侍女でよかったわ。


 可愛らしいセーラに免じて、少しだけ私の心を教えてあげることにした。


「私、今すごく幸せだわって……そう考えていただけよ」



 この先きっと、何があっても私達はきっと乗り越えられる。この時の私は、そんなことを無邪気に信じていた。

 ____近い未来、クラウド様の身にあんなことが起こるとも知らずに。

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