二十四話 私を愛してくれるひと
「きゃあっ!!」
馬車の窓ガラスが勢いよく粉々に割れて、破片が馬車内に飛び散る。一瞬何が起きたのかわからなくて、馬車の中の空気が混乱で包まれた。
「……っ! はぁ、はぁっ……!」
メアリーが甲高い叫び声をあげたのと同時に、急に呼吸ができるようになった。
どうやら、この状況に驚いたカルヴィン様が縄を手放したらしい。乱れた呼吸で、必死に酸素を取り込もうとする。
そしてその直後、勢いよく馬車の扉が開かれた。
そこに、いたのは。
「リリー!! 無事か!?」
……あぁ、この人はいつだって、私を絶望から救い上げてくれる。
私のことを、信じて愛してくれている。
「っ……クラウド様っ……!」
____クラウド様が、私を助けに来てくれた。
急いでクラウド様の元へ駆け寄りたかったけれど、手足が拘束されていて動くことができない。
クラウド様はそんな私の様子を見て苦しそうに顔を歪めながらも、側に落ちていたガラスの破片で手首と足首の縄を切ってくれた。
「リリー、悪かった。俺が来るのが遅くなったせいで、リリーの美しい肌にこんな痕を残してしまって……怖かっただろう」
そう言って、クラウド様が優しく私を抱き締めてくれる。私は震える手でその大きな背中に腕を回してから、「平気です、あなたが来てくれましたから」と、精一杯強がりながら告げた。
私が生きていることを確認して安心したのか、クラウド様は私を抱き締めていた腕の力をゆっくりと緩める。それから私の髪を優しく撫でた後、目を細めた厳しい視線をメアリーとカルヴィン様に向けた。
「ひっ……!」
先程まであんなに余裕そうな態度を崩さなかったメアリーが、カタカタと震えだす。腰が抜けているのだろう、ドレスの裾をくしゃくしゃにして、床にへたり込んでいる。
カルヴィン様は何の声も発さなかったけれど、その顔は真っ青に染まっていた。
「さて……お前たち、俺の大切な妻に手を出して……覚悟はできているんだろうな?」
そう言ってクラウド様は、腰に差していた剣を素早く抜いてから、切っ先をメアリーの喉元に突きつけた。




