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二十二話 ずっとあなたが妬ましかった

「……さま。お姉さま~。そろそろ起きてくださ~い」


 耳元で囁かれながら容赦なく体を揺さぶられて、重たい瞼を無理矢理開く。

 ____私、意識を失っていたのね。どのくらい時間が経ったのかしら……? まだ頭はぼんやりとしているけれど、とにかく、この場から逃げなければ……!


 そう思って体を動かそうとしたところで、手首と足首が縄で拘束されていることに気付く。驚いて顔をあげると、メアリーが穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。


「あら、起きました? 素晴らしい夢は見られましたか?」

「……夢なんて、見てないわ。それより、私どのくらい眠っていたの……?」

「う~ん、三十分くらいですかね? 結構馬車が揺れている中で拘束させていただきましたけど……全然目覚めないんですもの、お薬の力ってすごいなぁって感心しちゃいました!」


 メアリーが心底楽しそうにケラケラと笑う。こんな風に笑うメアリーを、私は初めて見た。

 おそるおそる周りと見回す。意識を失う前とほとんど景色が変わっていないから、まだ私達はモールディング侯爵家の馬車の中にいるらしい。ただ……窓の外の景色は、さっきとはまるで変わっていた。


「ねぇ、ここはどこなの?」

「え~? 馬車の中ですよ、見たらわかるでしょう?」

「そうじゃなくて……外の話をしているの」


 私の焦りを感じ取ったのだろう。メアリーは私の顔をうっとりと眺めながら、窓の外を指差した。


「あはは、森ですよ。昨日お姉さまも見たでしょう? 花畑の側に森があるの……ほら、川のせせらぎが聴こえてきて、心が和みますね」

「ふざけないでちょうだい! ……あなた達、何する気? カルヴィン様も、黙ってないで何か言ったらどうですか?」


 私に話を振られたカルヴィン様は、先程までの無表情から一転して嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「あぁ、アイリス! やっと僕のことを名前で呼んでくれて、嬉しいよ! やっぱり昨日は、あの黒薔薇公爵に脅されていたんだろう?」

「……」


 だめだわ、まるで話が通じそうにない。穏やかな方だと思っていたのに、こんな二面性があったなんて。確かに思い込みが激しくて、妙にロマンチストなところはあったけれど……。

 つくづく私は、彼のことを何も知らなかったのだと思い知らされる。


 カルヴィン様との会話を諦めて、再びメアリーに視線を戻す。メアリーは何が楽しいのか、足をパタパタと動かしながら鼻歌を歌っていた。


「メアリー、ちゃんと説明して。あなたはこれから何をする気なの?」

「何って……こんなシチュエーションに陥ってもまだわからないんですか? それとも、理解したくないからわからないフリをしているんですか? だって、『賢くて素敵なお姉さま』なら、すぐにわかるはずですものね」

「……何が言いたいの?」


 メアリーの嫌味ったらしい言い草に私が眉を顰めると、メアリーは突然真顔になった。まるで感情を削ぎ落したような表情に、背筋がゾッとする。


 それから静かに、呟くような声でメアリーが語りはじめた。


「……私ね、お姉さまのことがずっとずっと憎らしくて妬ましかった。頭が良くて、優しいおばあ様からも気にかけてもらえてて……」

「…………」

「知ってましたか? お母さまもお父さまもね、私のことをいつも『可愛い』って言ってくださるけれど……でも、それだけなんですよ。それもね、『アイリスなんかより可愛いわね』とか『あなたはあの子みたいにお勉強しなくていいのよ、可愛いんだから』って言うんです。あの人たちは、私じゃなくて私越しにお姉さまを見ているの」


 私は思わず言葉を失った。

 そう話すメアリーの声は本当に落ち着いていたけれど、なんだかとても……苦しそうに聴こえたから。


「だから私は、お姉さまのものを奪うことにしたんです。そうすれば、きっと私自身をみてもらえるんじゃないかって。だから、お姉さまが好きだったカルヴィン様のことも奪いました。私がモールディング侯爵家に嫁げば、少しは私を見てくれるかもしれないって。……そうじゃなくても、初めて私を叱ってくれるんじゃないかって……」


 私は、何も言えなかった。それと同時に理解してしまった。

 これは、メアリーの心の叫びだ。メアリーのように両親から愛されたかった私と一緒で、この子も、両親に『メアリー自身』をみてもらいたかったのだわ。


 メアリーの表情がくしゃりと歪んだ。


「でも……だめだった。それどころか、お姉さまがグレンウィル公爵夫人になってからというものの、お母さまたちはお姉さまの話ばかりするようになって……」


 メアリーはまるで癇癪を起こしている子供のように、私が羨ましくて仕方がなかったブロンドの髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。それでも、彼女は話すことを止めない。


「…………だから私ね、決めたんです」

「決めたって、何を……」


 私の問いかけに対し、メアリーは……その日一番の美しい笑顔でこう告げたのだった。


「お姉さまには____これから消えていただきます」

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