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二話 ヤケ酒からの婚約

 そうして婚約破棄を言い渡された日の夜。私は____


「マスター! おかわり頂戴!」

「お、お嬢ちゃん、流石にそろそろやめておいた方が……」

「飲まなきゃやってらんないのよぉ~~!」


 少し離れた街の酒屋に来ていた。


 もちろん、伯爵家の娘だということは他の客にバレないように変装をしている。この服は、メイドの中で唯一私に良くしてくれていたセーラに貸してもらった。

 今日起きたことはあっという間に屋敷中の皆に知れ渡っていたのだろう。セーラは何とも言えない悔しそうな表情をしながら、「気を付けてくださいね」とだけ言って私を見送ってくれた。


 この店まで送ってくれたのは、セーラの次に私と話してくれている御者のケインだ。父や母にバレないように、こっそりと店の近くまで馬車を出してくれた彼には感謝しかない。まぁ、少し呆れたように「飲みすぎないでくださいよ」と釘を刺されてしまったけれど。


「もう、本当に最悪だわ!」

「……い、一体何があったんだい……?」

 そう叫びながら空になったグラスをデーブルにダン!と乱暴に置く。令嬢としてあるまじき行為だが、今の私は庶民に扮しているのだから問題ないはずだ。カウンター席で一人、安酒を飲み続ける私を心配そうに見ながら、店主が酒を注いでくれた。


「婚約者に振られたの……妹に奪われたのよ……」

 涙目になりながらそう言って酒を仰いだ。こんな飲み方をするのは人生で初めてだ。私も随分、いやかなり酔っ払ってしまっているらしい。

 こうなったら、今日はもうとことん飲んでやる。そう心に決めて、再びグラスに口を付けたのだった。


 ***


 ____ここまでは、はっきり覚えているのだけれど。

「お目覚めか、アイリス」

「………………あなたは、誰ですか? というか、ここはどこなの……?」


 目を覚ましたら、私は知らないベッドの上で…………しかも、知らない男が隣で寝ていた。

 しかもこの男、やけに美形である。そもそも、どうして私の名前を知っているのだろうか。

「誰なんて冷たいな。俺達、昨日は散々愛し合った仲だろう?」

「え!? う、うそでしょう!?」

「あぁ、嘘だ」

 何なんだ、この男は。

 一瞬本気で焦ってしまったけれど、ちゃんと服は着ているし身体に違和感もない。ということは、昨晩彼と何かあったわけではなさそうだ。


「本当に覚えていないのか? まぁ、あれだけ酒を飲んでいれば仕方がないが……」

「……お願いだから教えていただけませんか? 私がなぜここにいるのか……」

「簡単な話だ。昨日、お忍びで酒でも飲もうかと思ったら、カウンター席で一人尋常じゃない量を飲んでいる令嬢がいたから声をかけた」

「……どうして私が令嬢だと?」

「いくら服装を変えたところで、身についている姿勢や仕草、手入れされた髪は誤魔化せないだろう」

「……そういうものなのですね」

 完璧に隠せていると思っていたものだから、少しショックを受けた。だが、目の前の男はそんな私の様子に気付いているのかいないのか、淡々と話を続ける。


「まぁ、それでだ。君が泣きながら『婚約者に振られた、私は誰にも愛されない』というものだから、『では俺と結婚するか』と言ったら君は『私を愛してくれるなら、結婚でもなんでもする』と言った直後に意識を失った。だから連れて帰ったというわけだ」

「……そうですか、それはご迷惑を……って、え!? け、結婚!?」

「あぁ。とはいっても、レインフォード家にはまだ婚約を申し込めてはいないがな」

「そ、そうではなくて! 私があなたと結婚すると、本当に申したのですか!?」

「俺は嘘は言わない主義だ」

「さっきは言ってたじゃないですか!」


 抗議すると、男は何が面白いのかくつくつと笑っている。こっちはそれどころではないというのに。

 というか、結局この男は何者なのだろう。この部屋の内装を見る限り、只者ではない……どころか、レインフォード家よりも有力な貴族なのではないだろうか……?


「……あの、私がここにいる経緯はわかりましたが……結局私はあなたのお名前を思い出せていないのです。どなたかわからない方と結婚なんて、できませんわ」

「わからないも何も、昨日名乗ったんだがな。まぁいい」


「俺の名はクラウド・グレンウィル。クラウドでいい」


 その名前を聞いて、私は愕然とした。

 ____クラウド・グレンウィルって……この人、()()「黒薔薇公爵」の悪名で有名な公爵閣下!? 綺麗な容姿とは裏腹に、冷徹で人を寄せ付けないことから呼ばれるようになったっていう……?


 ……だが、それならこの煌びやかな部屋も納得だ。まさかあの黒薔薇公爵が目の前にいるなんて……というか、人を寄せ付けないどころかめちゃくちゃ笑ってるのだけれど。

「これから公爵夫人として……俺の妻としてよろしくな、アイリス」


 完璧な笑みでそう告げてくるクラウドに対し、私はか細い声で「はい……」と答えることしかできなかった。




 どうやら私は、ヤケ酒している間に黒薔薇公爵と婚約してしまったらしい。

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― 新着の感想 ―
何という姉妹格差。 こりゃヤケになるのも無理はない。 そこからの急展開、いやあ面白くなってきた!
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