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十八話 過去との決別

 聞きたくなかったその声に驚いて、閉じていた目を思わず見開いてしまう。それから、おそるおそる声の方向へ顔を向けた。


 ____そこに、いたのは。


「カルヴィン様……?」


 どうしてここに、と思ったけれど、ここはモールディング侯爵邸からそこまで距離がないのだった。カルヴィン様が息抜きにこの場所を訪れていても何ら不思議ではない。


「アイリス……綺麗になったな……」

「…………」


 カルヴィン様がうっとりしたような視線を向けながら近付いてきて、正直戸惑ってしまった。せっかくのクラウド様とのキスを邪魔されて……本当に、カルヴィン様には空気を読むという言葉をご存じないのかしら。

 そもそもあなたは私よりメアリーを選んだはずでしょう? なのに、なぜ今更そんなことを……!


 そう反論しようとしたとき、ずっと黙って見守ってくれていたクラウド様が、私を手で制しながら立ち上がった。


「モールディング侯爵子息だったか。君はもうリリーの婚約者ではない。そのように馴れ馴れしく呼ぶのは無礼だとは思わないのか?」

「なっ……! 失礼ですが、貴方はどなたですか? アイリスのことを愛称で呼ぶなど……!」

「俺はクラウド・グレンウィル。そして彼女は俺の妻であり、グレンウィル公爵夫人のアイリスだ。立場をわきまえろ」

「クラウド様……」

「……グ、グレンウィル公爵……!? あの『黒薔薇公爵』の、公爵夫人……!?」


 ……相変わらず、揃いも揃って無礼な人たちだ。自分よりも立場が上の高位貴族に対して「黒薔薇公爵」と呼ぶなんて、失礼な事このうえない。クラウド様が静かにお怒りになっているのがわからないのだろうか。

 苛立ちを抑えながら、私もクラウド様の隣に立つ。


「モールディング侯爵子息、お久しぶりでございます。改めまして、アイリス・グレンウィルと申します」

「そ、そんな他人行儀な呼び方止めてくれ、僕達一度は将来を誓い合った仲だろう?」


 本当に、なんて勝手な男なんだろうか。呆れて言葉も出ないけれど、婚約破棄をされて何も言えずに泣いていたあの日の私とは違う。


「お言葉ですが、その婚約を破棄されたのはモールディング侯爵子息の方では? あなたには、メアリーという婚約者がいるでしょう」

「それは……そうだが……」


 カルヴィン様が呆然と立ち尽くしている。その姿を見て、私は思わずため息を吐いた。私はどうして、こんな男のことが好きだったんだろうか。


 とにかく、カルヴィン様と遭遇してしまった以上ここにいても仕方がない。クラウド様に声をかけて、移動しようとした____その時だった。


「あら? お姉さま……と、クラウド様じゃありませんか~! こんなところでお会いできるなんて、運命的ですね♡」


 ……あぁ、本当に、今日は厄日だ。

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