十三話 はじめての夜
____ガシャン!
「い、今なんて言った……?」
「え? ですから、クラウド様のベッドで共に寝ても良いかお聞きしたく……」
「ぐっ……っげほっ、ごほっ!!」
私の言葉で、クラウド様が大変なことになってしまった。手が滑ったのか、ナイフとフォークは床に無惨な姿で転がっているし、喉を詰まらせたのか苦しそうに咳をされている。
わ、私そんなに変なことを言ったかしら……?
「っはぁ……リリー、それがどういう意味かわかっているのか……?」
「? はい」
「そ、そうか……」
意味も何も、一緒のベッドで寝るだけなのに、どうしてそんなに動揺されているのだろう。確かに私だって、少し恥ずかしいけれど……。そもそも昨晩もクラウド様のベッドで寝たのだから、あまり変わらないと思うのだけど。
クラウド様は顔を耳まで赤く染め上げたかと思うと、グラスに入っていたワインを一気飲みした。それからふーっ……と深く息を吐いてから、「では、今日の夜……部屋で待っている」と妙に真剣な顔で話してきた。
「はい。ふふ、楽しみにしておりますね」
「楽しみか……そうか……い、いや、俺も楽しみだ」
良かった、様子が変だったから心配していたけれど……クラウド様も今夜を楽しみにしてくださっているのだわ。
せっかくの結婚初日の夜だもの。別々の部屋で寝るなんてなんだか寂しいし……それに、私はもっとクラウド様の話を聞きたい。
思わず鼻歌を歌ってしまいそうになりながら、相変わらず茹でダコのような顔をしたクラウド様と会話をして、人生で一番楽しいディナータイムは幕を閉じたのだった。
***
私に割り振られた部屋は、それはそれは豪華な部屋だった。これからこの部屋で生活するのだと思うと、なんだか気が引けてしまう。もっと質素な部屋に交換はできないのだろうか。
そのことを侍女たちに伝えると、「公爵閣下のご命令ですから」と断られてしまった。
今までお風呂は冷めたお湯のイメージしかなかったけれど、セーラや侍女たちが用意してくれたバスタブからは湯気が立っていて感動してしまった。
お義母さまのお屋敷ではレミが一人で私の世話をしてくれたけど、どうやらこれからは複数人の侍女が私の身の回りの世話をしてくれるらしい。なんだか申し訳ない。
(ちなみに、そのことを教えてくれたセーラは「もちろん、アイリス様にとっての一番の侍女は私ですけどね」と笑っていた。)
湯浴みの途中、セーラ含む侍女たちに「今日はクラウド様のお部屋で寝るから楽しみだわ」と世間話を振ってみる。すると、なぜか一気に侍女たちの顔つきが変わった。
「今日は結婚初夜ですものね!」
「安心してくださいませ、奥様のお肌は私共がピカピカに磨き上げます!」
「それにしても、公爵閣下も隅に置けませんねぇ」
そんなことを言いながら、ものすごい勢いで美容液やら化粧水やらを塗りたくられた。一体どうしたのだろう。
まぁ、でも確かに公爵閣下の部屋で寝るんだもの。最大限に綺麗な身じゃないと失礼かもしれない。
そんな風に納得をして、身支度は無事に終わった。
クラウド様のお部屋は、私の部屋からそこまで遠くはない。夜も更けた頃、一人でクラウド様の部屋に向かう。途中何人かの侍女とすれ違ったけれど、なぜかみんな微笑ましい顔で挨拶してくれた。
重厚な扉の目の間に立って、ノックをする。すると、クラウド様が自ら扉を開けてくれたので少し驚いた。
「……入って、ベッドに座ってくれ」
「はい、失礼いたします」
朝に見たばかりのクラウド様の部屋。そのベッドに腰掛けると、クラウド様も私の隣に腰掛けた。そして、思わずうっとりしてしまいそうな程切ない表情をしながら、「リリー……」と低い声で私の名を呼ぶ。
そしてクラウド様の美しいお顔が____唇が、近付いてきた。




