二話 陰を彷徨う
目が覚めて最初に飛び込んでくるのは、星のプリントが一面に貼られた天井だった。
こんな部屋は僕の部屋じゃない、誰か知らないヤツの部屋である。
「それで、リョウトの目の前で女がグチャグチャになって、その後リョウトが倒れたんです」
キョウヤの声が聞こえて来た。
「そうか」
そしてそれにこたえる女の声もする、墓場で出会った女の声とは全く違う。
もっと理知的で、落ち着いていて、綺麗な声。
「俺はとりあえず安全な場所に行かないとッて思ってここに来たんんです」
またキョウヤの声。
「良い方針だ、私は信頼できる人間だからな」
そして、また女の声。
頭を動かして、もっと状況を知ろうとしたが出来なかった。
体が動かない。
コレが金縛りか、始めての体験である。
キョウヤは、墓場であった事を誰かに説明していた。
あの女と戦った後で、僕は急に倒れたらしい。
その僕が倒れたという話だが、とてもすごく納得がいった。
なにせ、今の僕は頭が痛いわぼんやりするわでまともに働かない。
得意教科たる数学のテストをやっても、あんま良い点取れないだろう。
とりあえず、もう一回眠りにつこう。
僕はゆっくりと目を閉じた。
――――――――――
「……いやー助かりました」
「いいさ問題ない」
僕は目の前の女性に頭を下げる。
彼女には、色々と説明してもらった。
まず、目の前にいる賢そうな顔な女性は桜木 才媛さん。
そんな彼女は、キョウヤが"先輩"と呼ぶ存在だ。
キョウヤは倒れた僕を、とりあえずこの家に連れてきてくれた。
んで、桜木さんは、気絶した僕をベッドに寝かせて休憩させてくれた。
つまり桜木さんは僕にとって恩人というわけだ。
だから彼女のファッションについて、僕は気にしない事にした。
桜木さんは医者でも無いのに白衣を着ていて、そのポケットから金属探知機がはみだしている。
気にはなるけど、まぁ変な人なんてそこら辺にいるものだし気にしない。
気になるけどやっぱ、聞かないでいる。
「ベッドを貸してくれるなんて申し訳ないです」
「感謝するがいい、女たる私が、男である君にベッドを貸すのは大きな事だ」
「ホントありがたかったです」
「だが気にしすぎるな、君が死にかけたのは私も一因だ」
彼女がそんな事を言うのには当然理由がある、彼女は『お墓の不審者』について、キョウヤに教えた人物だからである。
そもそも桜木さんがなぜそんな事を知っているかというと、陰謀論を調べたり考察してブログを書いているそうだ。
そういう事を調べていると変なウワサにも詳しくなるとのことだ。
ちなみにキョウヤと桜木さんが仲良くなったのは、彼女のブログきっかけらしい。
キョウヤがブログに書き込み、盛り上がって、お互いに住所を知る仲になったのだという。
インターネットリテラシーのテストがあれば、間違いなく赤点を取る二人だと思う。
「言っておくが、私がキョウヤ君に面白半分で危ないニュースを聞かせた事には責任を感じている。そのせいで……君達を危険な目に遭わせた」
桜木さんは頭を僕達に下げる。
「いえ!結局墓場に行って見るのを決めたのは俺らですって!」
「僕もそう思います。一応危ない目に遭うのは納得して行きましたよ」
僕もキョウヤも、桜木さんを責める事はなかった。
だって、墓場に行ったのは僕らの意思だし責任なのだ。
それに僕の場合は……あまりあそこに行ったことを後悔もしていない。
死を与える感触が、ずっと頭の中で繰り返される。
人を殺した感触が、ずっと残ってる。
そしてそれに嫌悪感が無いのだ。
なぜ平気なのかは、わからない。
「そうそう、警察に通報は済ませてるから安心しなさい」
桜木さんが思い出したように言った。
うん、既に警察には連絡してあるのか。
まぁそりゃそうか、人が死んでたもんな。
「……なぁリョウト、俺達警察にどう説明しようか?意味わからないよなアレ」
そしてキョウヤが困ってる。
意味がわからないって、なんの意味がわからないんだろう。
「意味がわからないって、何がさ?パワフルな頭のおかしいヤツに襲われたってだけの話だろ」
「いやもっとヤバい事起きたんだよ」
「もっとヤバい事ってなんかあったっけ?」
「もしかしてお前、倒れたから覚えてないんじゃないか?あの女の最期ヤバかったぜ」
「……あ」
僕は気づいた、キョウヤが”わからない”と言った意味を。
キョウヤがわからないのは、"あの女が死んだ時起きた事”だった。
僕は自分がサイコキネシス使って、あの女を殺したという自覚がある。
でもキョウヤの視点から見れば、あの女は突然体がぐっちゃぐちゃになって死んでしまった。
その事を理解して、僕は一瞬息が詰まった。
キョウヤが今、僕を普通に見ているのは”何が起きたかわかってない”からだ。
あの凄惨な死体は、僕の手によって生まれたものと知られたらどんな顔をされるのだろう。
「……まぁしかし、警察にしっかり説明するのは無駄かもしれないけどな」
「「え?」」
僕の思考を断ち切るよう、桜木さんが話しかけて来た。
「君たちの直面した出来事、何らかの陰謀が関わっていてもおかしくない。口封じされるかもな」
「口封じ?」
「あぁ、事件を口外しないようにキツーく脅されるかもしれない」
桜木さんはとても真剣な表情であった。
「話を聞く限り君等の直面した出来事は何かの陰謀が関わっていてもおかしくない。世界は陰謀に満ちている。すべては監視されているんだ」
真っ直ぐとした目だ、桜木さんは本気で世界は陰謀まみれで全て監視されていると信じている。
もし、僕が昨日までの僕ならば、彼女の言葉を本気にしなかっただろう。
だけど今は本気にしたかった、今夜起きた全ての出来事についてを陰謀のせいに出来るなら、きっと楽だった。
「桜木さん!監視されてるって誰にですか?!」
キョウヤがワクワクしながら質問した。
「もちろん世界の管理者だ。次のブログの記事は世界の管理者について書くが……有料でも読むかな?」
「200円までなら読む事にしてます!これまでずっとそうしてきました!」
「……うん!私の出した有料記事は全部300円だ!お前無料記事しか読んだことないな?!」
二人の会話が、遠い。
とても遠く感じる、僕がここに居てはいけないかのように感じてならない。
二人は楽しそうに話し込んでる。
そして、時計の針が随分回った頃
「……さて、今日はもう遅いし帰るといい、家で寝ろ」
話疲れた桜木さんがそんな風に言って、とりあえず解散する事になった。
僕はとりあえず帰るとする。
家について、寝ればこの気持ちも多少整理がつくんじゃないかって期待して。
月を無くした町。 補足 No.1
-桜木さんのやってるブログについて-
ブログタイトル「陰謀と、深い闇 そして世界の真実」
陰謀論と呼ばれがちなウワサ話などが、桜木さんの考察付きでまとめられているブログ。
取り扱っている内容は多岐にわたっている。
色んな考えの読者が集まっているので、コメント欄は口論になりがち。
桜木さんはコメント欄を一時閉鎖していた、でも外部サイトを利用して口論する読者が出た。だから泣く泣くコメント欄をまた解放している。
最近では、読者同士の口論を見るためにブログにアクセスする人が増えている。




