表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染に土下座されたので朝チュンしました  作者: 蒼黒せい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/45

第39話

「…大変だったな、疲れただろう?」

「それは……まぁ、うん」


ディカータ伯爵夫妻…いいえ、お義父様とお義母様がタウンハウスに来てからセシルが帰ってくるまで、私は質問攻めにされていた。

やれ、いつからセシルの事が好きだったのかとか、あの子が迷惑かけてないかとか、実は勝手にあの子が暴走しただけで無理強いにされてないかとか。

質問の中には答えづらいのもあり、時折冷汗をかきながら応対するしかなかった。


(まさかお宅の息子さんに土下座されて抱かれたのがきっかけ…なんて、口が裂けても言えないわね)


そんなこと言ったら間違いなくセシルは両親に袋叩きにされる。

下手すると、彼の祖父母まで参戦しかねない。

特に彼の祖母は先代王妃の護衛を務めた元親衛隊で、セシルにとって師匠に当たる人だ。

死にはしないだろうが、どうなるか想像もつかない。


そんなわけで、義両親の応対はどこで口を滑らせてしまわないか、緊張を強いられるものとなった。

セシルが帰ってきたことで矛先は彼へと移ったのだが、大半を私から聞き出していたし、それに彼は既に婚約証書のサインで会っている。

旅の疲れも出たということで義両親は晩餐後は早々に部屋で休み、ようやく私も解放されたというところだ。


湯あみも終え、今はセシルの部屋で共にソファーに座り、彼へともたれかかっている。

彼の細くて硬い指が、洗っておろしたままの髪を優しく梳いてくれる。

わずかに指を立てるようにし、髪だけでなく頭皮も刺激するように梳いていく。

その刺激が心地よく、目を閉じて彼に身体を預ける。


「はぁ………」


気持ちよさと解放感に、思わず息が漏れる。


「すまないな。でも、全然反対するような感じはしなかっただろう?」

「ええ、それは十分わかったわ」


あんなに喜んでもらえていたのなら、心配するようなところはどこにも無い。

抱えていた不安が解消され、心置きなくセシルの婚約者でいられると思うと、自然に頬が緩んだ。


「うふふっ」

「どうした?」


突然笑った私に、セシルが訝し気に尋ねる。


「何でもないわ」


顔を上げると、そこにセシルの顔がある。

エメラルドの瞳と真っすぐに視線が絡み、私は少し伸びついて、その唇へとキスをした。

すぐに離れるとセシルはしばしきょとんとし、次の瞬間には嬉しそうに目元を下げる。


「ははっ」

「ふふっ」


顔を見合わせて笑う。

こんな何気ない一瞬が、とても楽しくて、愛おしい。


「ヨランダ」


セシルは足を開き、私にそこに座るよう目で促す。

それに従い彼の足の間に後ろ向きに座ると、彼のたくましい腕が私の前方に回され、私の身体を後ろから抱き締めた。

背中に彼の肉体を感じ、しっかり抱きこまれている感覚は、安心の海を揺蕩っているような感じだ。


「…前は、ぼくがこうしてヨランダに抱きしめられていたな」

「そういえば、そうね」


確かに、セシルがまだ私より背が低いころは、こうして彼を後ろから抱き締めていたことが多かったような気がする。


「ディカータ家のお庭のベンチで、こうしてあなたを抱っこしていたわね。ふふっ、子どもの頃のあなたはすぐに寝ちゃって、いつも寝顔を眺めていたわ」

「安心できたからな。ヨランダに抱きしめられるのは温かくて柔らかくて…気持ちよかった」


後頭部に何かが触れている。

きっと、セシルが髪に顔をうずめているんだろう。

ちょっとくすぐったくて、ほほえましい気持ちになる。


「……ヨランダの香りがする」

「…ちょっと、嗅がないでちょうだい」


いくら湯あみを終えて洗った後といっても、そうされるのは恥ずかしい。

見えない後ろを見るように目を細め、セシルを睨みつける。


「ぼくに呼吸するなと?」

「そういうことじゃないわよ。もう……変なにおいしない?」

「いいや。甘くて…いい匂いだ。ずっと嗅いでいたいくらいに」

「なによそれ、ふふっ」


ぎゅうっと、セシルの抱き締める力が強くなる。

抱き締めてくれる腕に自分の手を添え、ゆっくりと目を閉じる。


「…早く、結婚したいな」


ぽつりと、待ちきれないようにセシルが呟く。


「そうね……ごめんなさい」

「ヨランダが謝ることじゃない。すまない、そんなつもりじゃなかった」


謝る私に、セシルは慌てて否定した。


貴族女性の再婚には、一定の条件が存在する。

その一つが離縁から1年以上というもの。

これは女性が子どもを産んだ場合、前夫との子どもか、現夫のものか区別するために付けられた条件だ。

血統を重んじる貴族では、子どもが誰の子なのかはとても重要な点だ。

万が一、関係ないよその血が入るようでは、貴族の権威に関わる。


私は前夫であるエロールとは数年レスだから関係ないと言いたいけれど、法的にそれを証明する手立てはなく、大人しく従うしかない。

これも出戻りの弊害だと思うと、セシルに申し訳なかった。


セシルは努めて明るい声をだし、暗くなりそうな雰囲気を振り払った。


「それなら、1年近くを婚約者としてヨランダと過ごせる。結婚すれば、まぁ色々あるし……まだ、二人きりで過ごしたい」

「っ……そうね」


セシルの言葉の意味が分かり、ポッと頬が熱くなる。

それはつまり、二人の子どもが欲しいということだ。

私の年齢を考えても、結婚すれば早めに産んだ方がいい。

エロールとはできなかったけど、私に問題が無いならきっとセシルとの間には子供が設けられるはずだ。


(私と、セシルとの子ども…)


どんな子供になるんだろう。

セシルみたいなカッコいい子になるかしら。

それとも、私みたいに少し幼く見られるような子?

そんなことを考えていたら、ぐりぐりと後頭部を強く押された。


「セシル?」

「今、何を考えてた?」


私が突然黙ったから、気になったみたい。

私は少し笑って、考えていたことを口にした。


「私と、あなたとの間には、どんな子供が生まれるのかなって、考えてた」

「ヨランダみたいなかわいい子供だよ」


即答された。


「あら、あなたみたいなかっこいい子どもかもしれないわよ?」

「…それはダメだ。ぼくみたいになったら大変だからな」

「それは……まぁ、そうね」


女性恐怖症で10年以上悩まされてきたんだもの。

そう思うのも仕方ないわね。


(う~ん、セシルみたいにならないように……そうだわ)


一つの名案が浮かび、それをセシルへと伝えた。


「じゃあ、セシルみたいなかっこいい女の子と、私みたいな男の子はどうかしら?女の子はお姉ちゃんで、男の子は弟。それなら、私たちみたいに守れるわ」

「………それも、ダメだ」

「えっ」


セシルが、絞り出すような細い声で案を却下する。

まさか却下されるとは思わず、驚いた。

しかし、すぐにセシルが慌てたように補足する。


「違うんだ、その、ダメなのは……それじゃあぼくたちみたいになったら、大変だろう?」

「……………そうね」


ぼくたちみたい。

つまり、血のつながった姉弟なのに…ということを、セシルは心配しているんだ。

そんなことは無い…と言い切りたいけど、血のつながりこそ無いのにそうなった自分たちがいるだけに、なんとも言い難い。


部屋に微妙な空気が流れた。

その空気をかき消すように、セシルがぽつりと言う。


「…そろそろ寝ようか」

「そうね……早く寝ないと、疲れが残っちゃうわ」


特にセシルが。

今日だって厳しい騎士団の訓練を積んできたはずだもの。

早く休ませてあげなくちゃ。


抱擁が解かれ、私は立ち上がって振り向いた。

セシルも立ち上がると、そこに私は手を伸ばしてセシルの首へと腕を絡める。

そして、少しつま先立ちになりながらも、彼の唇へと自分の唇を寄せる。


「ん………」


セシルも腕を伸ばして私の身体を抱き寄せる。

軽いキスのつもりが、長く、深いキスになっていく。

10秒以上はそうしていただろうか。

つりそうになるつま先を下ろすと一緒に、唇も離れる。


セシルの表情がほんのり艶っぽいものに変わっている。

きっと、私も似たような感じになっているだろう。

このまま、という気分になってしまうけれど、さすがに義両親がいて、それも婚約者という身分で体を重ねているのがバレるわけにはいかない。

名残惜しい気持ちを抱えつつ、そっと身体を放した。


「おやすみ、セシル」

「おやすみ、ヨランダ」


挨拶をかわし、私は自分の部屋へと戻っていった。

うずき始めた身体を誤魔化すように寝台に潜りこむと、疲れが溜まっていた体はあっという間に眠りに落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ