表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染に土下座されたので朝チュンしました  作者: 蒼黒せい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/45

第22話

「ん………」


 私はふと目を覚ました。

 部屋の中は薄暗く、カーテンの隙間からのぞく太陽の光は少ない。

 明け方?それとも夕暮れ?

 時間の感覚に乏しい。

 あれからどうしたんだっけ?

 思いだそうとして起き上がり、頭を振る。


(…そうだ。確かお医者様の診断結果が分かって、私にも子供ができるってわかって、それにショックを受けて……それから…?)


 そのとき、左手が何かに掴まれているのを感じた。

 咄嗟に手を引こうとしてそちらの方向を見たとき、そこに白銀の髪が見えた。

 私はギョッとして、目を剥く。


「セシ…ル……?」


 つい名前を呼んでしまったけど、反応が無い。

 ゆっくり肩が上下しており、どうやら寝ているようだ。

 よく見れば、掴まれているのは私ではなく、セシルの方だった。

 彼の手を私が握っている。


 セシルの顔は向こうを向いていた。

 床に腰を下ろし、ベッドの側面に背中を預けている。

 それを見て、だんだんと眠る前のことを思いだしてきた。


(そうだ、ベッドで泣いていたらセシルが来て、涙をぬぐってくれた彼の手を私が取って…これ、私が手を握ったせいで、セシルがどこにも行けなくなっちゃった?)


 まずいことをしてしまったことに気付き、血の気が引いていく。

 季節は暖かいとはいえ、そのままでは風邪をひいてしまう。

 私はセシルの肩を取り、揺さぶった。


「セシル、セシル」

「………ん?」


 起きたセシルが、ゆっくりと頭を持ち上げた。

 そのままゆっくりとこちらに振りむき、寝起きで気だるげな顔をこちらに向けた。

 薄く開かれた碧眼が、ゆっくりと私を捉える。


「っ!!」


 あまりにも色気ある眼差しに、起き抜けの私の心臓は一気に跳ね上がった。


「…ヨランダ、起きたのか」


 その声も危険だ。

 普段の低く通りの良い声と違い、どこかぼんやりではっきりしない。

 それが普段とのギャップを生み、ますます私の心臓に良くない。


「ヨランダ、顔が赤いぞ。熱があるのか?」

「えっ、あ、ちょ…」


 顔の赤みを勘違いしたセシルはやおら起き上がり、私の後頭部に手を添え、そっと自分の額を私の額に押し付けた。

 間近に迫ったセシルの端正な顔。

 髪と同じ銀のまつげは長く、いつも私を捉えようとする碧眼は今日も美しい。

 部屋は薄暗いはずなのに、どうしてか彼の瞳が輝いているように見えて目が離せない。


 何度も彼の女性恐怖症を治すため、肌を重ねた。

 キスも交わした。

 その度に彼の美貌を目の前で眺めてきたはずなのに、どうしてかいまだになれない自分がいる。


「やはり熱いな。医者に診てもらおう」

「い、いいわ!熱なんて無いから!風邪でもないし」

「だが、こんなにも熱いぞ?」

「そ、それは……」


 ついこらえきれなくなり、目をそらす。

 そんな私の様子で察したのか、含み笑いが耳に届いた。


「ああ、そうだな。確かにその必要は無さそうだ。………かわいいな、ヨランダ」

「っ~~~!」


 とどめとばかりに耳に注ぎ込まれた誉め言葉に、私はもう限界寸前。

 そんな私に満足したかのように、セシルは離れていった。

 離れていく額の熱に、ほんのわずかに寂しさを覚えたような気がするけど、きっと気のせい。

 頬の赤みを誤魔化すように両手を当てると、熱くて仕方ない。


 セシルは窓際に寄り、そっと外の様子をうかがう。

「夕暮れ時か…」という声が聞こえ、これから夜になろうとしていることがわかった。


「ヨランダ、夕食は食べられるか?」

「えっ?そ、そうね…」


 どうしてそんなことを聞くんだろう…そう思った時、お腹の虫がこっそりと鳴いてしまった。


(そうだ、昼食は食べてないんだった…!)


 咄嗟にお腹を押さえるも、それはしっかりとセシルの耳に届いたようで、向こうを向いて肩を震わせていた。

 恥ずかしくてたまらなくなる。


「そろそろ準備もできるころだろう。二人分でいいか?」

「ひ、一人分で結構よ!」


 全くもう、からかわないでほしいわ。


「ぼくはいく。デディを呼んでおくからな」


 そう言って彼は扉へ向かって歩き始めた。

 その背中に、声を掛けた。


「……セシル」

「ん?」

「ありがとう……あなたのおかげで、今日は…助かったわ」

「どういたしまして」


 振り返ったセシルはキザったらしく片目をつむり、ウインクしてきた。

 それが彼なりの、恩に着せない仕草であると分かり、心が温かくなった。

 扉の先に消えたセシルの姿を目で追いながら、彼の優しさを嬉しいと感じると同時に、それを受け入れられない自分の取るに足らないプライドに嫌悪した。


(私は……結局どうしたいんだろう)


 彼に幸せになってほしい。

 そのために、女性恐怖症を治すために身体を許した。

 じゃあ今は?

 セシルの幸せって何?

 若くて、名家のご令嬢と結婚することが、彼の幸せなの?

 彼が一度でもそう言ったかしら?


 自分みたいな出戻りの年上女と結婚したって、幸せになれない。

 そう私が決めて、彼に押し付けようとしている。

 でも、セシルは受け取らない。


(彼が受け取らない物を押し付けて、それが本当に彼の幸せなの?)


 分からない。

 私が彼の隣にいることが、彼にとって幸せなの?

 それを信じていいの?


 デディが部屋に来るまで、私は答えの出ない問いをぐるぐると考え続けていた。



 ****



 翌朝。

 私は早すぎる起床を迎えてしまったので、気まぐれに中庭に散歩に出ていた。

 昨日は泣きつかれて中途半端に寝てしまい、その分早く目が覚めてしまったのだ。


 太陽は上りかけで、太陽と反対の空にはまだ星空が見える。

 使用人もごくわずかしか起き出していないこの時間。

 冷たく、済んだ空気を体いっぱいに吸い込んだ。


「…ふぅ、気持ちいいわね」


 朝露に濡れた葉っぱが、ほんのわずかに煌めいている。

 手入れされた生垣の中をサクサクと歩いていると、ふと耳に何か空気を切るような音が聞こえた。


(何かしら?……こっちね)


 音のする方へゆっくりと歩んでいく。

 中庭を抜け、屋敷の側面を進み、徐々に裏庭に近づいていく。

 音もだんだん近くなり、屋敷の角の先を覗き込んだ。

 その先の光景に、私が目が点になった。


(あれは…セシル?)


 白いシャツ1枚と紺のズボンといった簡素な出で立ちで、手にした木剣を一心不乱に振るうセシルの姿があった。

 一振りごとに木剣は空を切り、そのたびに空気が啼いた。

 繰り返される素振りは、何度見ても正確無比なまでに同じ動作を繰り返していた。

 足運び、重心、腕の振り、剣の軌道。

 どれをとってもブレが無く、その素振りがどれだけすごいものかは、剣を全く知らないずぶの素人の私でも分かった。


(すごい……それに、いつから振っているのかしら?あんなに汗をかいて)


 セシルの顔は汗だくだった。

 汗をしみ込んだシャツは濡れて透け、体に張り付いている。

 一振りごとに汗が飛び散り、朝日に煌めく。


 普段は泰然自若(女性恐怖症発症時をのぞく)としているのに、今はそれを感じさせない必死な表情で、ひたすらに素振りを繰り返している。

 そのギャップが心臓をざわめつかせ、目を離せない。


(うぅ、なんだか昨日からギャップを見せられてばかりで落ち着かない。せ、セシルのせいだわ!)


 見せられているというか、魅せられているというか。

 やり場のない見当違いな恨みが、ついセシルに向けられた。


(すごいわね、全然私に気付かない)


 一心不乱とはまさにこのことか。

 声を掛けようかとも思ったけど、彼の集中を妨げるのも良くないだろう。


(戻りましょう。いつまでも覗いているのも悪いわ)


 それに、気付かれたら気付かれたらで、面倒なことになる気もする。

 彼は私に求婚しており、私はそれを断っている。

 なのに、こんな時間に二人っきりになるのはよろしくないと思う。


 振り返り、自室に戻ることにした。


「ヨランダ様」

「ひぃむぐっ!?」


 振り返ると目の前に現れたデディに心底驚く。

 奇声のような悲鳴を上げる寸前、デディに口元を押さえられた。


「まだ早朝でございます。近所迷惑になりませんよう」

「っ!っ!」


 驚きでバクバクの心臓のまま、必死に頷く。

 おかしい。

 さっきまで絶対に気配なんて無かったのに、デディはいつから?


「……お前ら、何をやっている?」


 ついでにセシルにもバレました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ