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第5話 王都アカデミー

粟のレストラン特有の、穀物の香りと客の喧騒が入り混じる雰囲気の中、父さんの麦酒 で赤くなった顔に、今は珍しく媚びるような笑みが浮かんでいた。彼は手をこすり合わせ、囁くような声で、向かいに座る「親友」と呼ぶその屈強な男の様子を窺った。


「なあ……ゼリガ。奇遇じゃないか、あんたも近々、王都に行くんじゃなかったか?」


父さんの声はとても低く、気づかれにくい懇願の色が滲んでいた。


「クスマのことだが、見ての通り、あいつ、王都アカデミーの入学試験を受けるって聞かなくてな。道のりは遠いし、どうにも心配で……。どうだ、ついでに、あいつを乗せていってはくれんか?」


ゼリガと呼ばれたその大男こそ、先ほど父さんと一緒になってクスマをからかっていた、あの悪趣味なオッサンだった。彼はそれを聞くと、クスマの頭ほどもある大きなエールのジョッキをゆっくりと置き、その底が木のテーブルにぶつかって「ドン」と鈍い音を立てた。彼はすぐには答えず、代わりにその鋭い目で、まるで市場で痩せこけたひよこを品定めするかのように、クスマを頭のてっぺんから爪先までじろじろと眺めた。


クスマは全身の鳥肌が綺麗に整列するのを感じ、無意識に、あるはずもない腰をしゃんと伸ばした。


空気が固まりかけたその時、ゼリガは突然、屋根を吹き飛ばさんばかりの豪快な笑い声を上げた。


「ハハハハハ!大したことじゃないか!息子を俺に売りでもするのか、それとも国家の大事を頼むのかと思ったぞ!」


彼の笑い声は力強く、父さんの顔から心配の色を瞬時に吹き飛ばした。


「クスマの坊主も大したもんだ!王都に出て一旗揚げようってのは良いことだ!ちょうど俺も向こうで少し商談があってな、道連れがいれば賑やかでいいじゃないか!」


彼は再びクスマに視線を向けた。その目にはもはや以前のからかいの色はなく、心からの称賛の光が煌めいていた。


「坊主、準備ができたら俺と一緒に行くぞ」


その一言が、クスマの未来を決定づけた。彼はこの突然のチャンスに心臓が激しく脈打つのを感じた。これはただ王都へ向かう旅なんかじゃない、もやしという宿命から脱却し、全く新しい人生へと踏み出すための一歩なのだと。彼は力強く頷き、その目には少年らしい未来への憧れと、燃え盛る中二の炎が宿っていた。


─ (•ө•) ─


ゼリガは行動派だった。一度承諾すると、話題はすぐに王都アカデミーの詳細へと移った。彼と父さんは、唾を飛ばしながら熱心に語り合った。入学試験がどれほど異常かということから、歴代の卒業生で名を馳せた伝説的な先輩たちのゴシップに至るまで。彼らの対話は、クスマの目の前に、挑戦と栄光に満ちた壮大な舞台を描き出していた。


しかし、クスマが熱血沸騰し、自分も未来のゴシップの主役になることを夢想していたその時、奇妙な感覚が前触れもなく彼を襲った。


「ドクンドクン ……」


彼は自分の心臓が狂ったように加速し始めるのをはっきりと感じた。一打ち、また一打ちと、次の瞬間には喉から飛び出してきそうなほど力強い。周りのオッサンたちの自慢話や酒の席での掛け声は、どうでもいいBGMへと変わっていった。


(まさか……これが伝説の、万に一人の強者だけが到達できるという「ゾーン」状態か?)


一つの偉大な考えが、クスマの脳裏を支配した。その時、周囲のすべてが曖昧になり、全世界の光と影が後退していく。残されたのは彼自身と、胸腔内でますます速く、戦太鼓のように鳴り響く心臓の音だけ。奇妙な熱い流れが彼の体内を思うがままに駆け巡り、言葉にできない悸動と痺れを伴っていた。


「間違いない!来た来た!この感覚だ!絶対にこれだ!どうやら俺は、ブレイクスルーするらしい!」


クスマはその場で大笑いしたい衝動を必死に抑えつけた。これが自らの超凡能力がさらに一段階向上する偉大な前兆なのだと、彼は固く信じていた。彼は目を閉じ、その顔には苦痛と狂喜が入り混じった奇妙な表情が浮かんだ。それはまるで便秘のひよこのようであり、彼は貪欲に、懸命に、その力の奔流を感じ取り、より深層の、驚天動地の覚醒を期待していた。


─ (•ө•) ─


この「ゾーン」のような体験は力をもたらさず、逆に完全に制御を失っていった。クスマの体内の魔力は、まるで石を投げ込まれた熱湯のように激しく沸騰し、彼の体内を縦横無尽に駆け巡る。さらに驚くべきことに、彼の頭頂部のもやしが、今この時に、目に眩しいほど不安定な緑色の光を放ち始めた。光は明滅を繰り返し、葉は痙攣するように激しく震え、まるで無言の警報を発しているかのようだった。


この奇異な光景は、ついに唾を飛ばしながら議論していた父さんとゼリガの注意を引いた。


「見ろ!クスマの頭のもやしを見ろ!」


ゼリガは目を丸くし、興奮してクスマを指差した。


父さんも勢いよく立ち上がり、声が震えていた。


「これは……頓悟か?」


「頓悟だと?」ゼリガは驚きの声を上げ、信じられないといった目でクスマを見た。「お前の息子、飯を食ってるだけで頓悟するのか?一体どれほどの天才なんだ!これはまさに奇跡だ!」


彼らは二人とも、これがクスマの驚くべき天賦の才が再び爆発したのだと思い込み、次々と彼を誇りに思い、震撼していた。


だが、「天才」本人はあまり気分が良くなかった。彼の視界はぼやけ始め、目の前の世界がモザイクがかって見え始めた。喉の奥から吐き気を催すような激痛が走り、彼は思わず身をかがめ、激しく咳き込んだ。


「クスマ、どうしたんだ?」


父さんが心配そうに尋ねた。


しかし、クスマにはもう彼らの声は聞こえなかった。抑えきれない衝動が胃から突き上げてくる。彼は口を開き、大量の白い泡を噴き出した。体中の力が一瞬にして抜け、クスマは支えを失ったジャガイモの袋のように、ぐにゃりとテーブルの下に滑り落ちた。


意識が朦朧とする中、彼の脳裏に先ほど食べたキノコ粟粥が浮かんだ。あの、ひときわ鮮やかな色をしていたキノコが。


「ちくしょう……」


それがクスマが意識を失う前に、頭をよぎった最後の考えだった。


「……あのキノコ、毒だったのか……」

最後までお読みいただきありがとうございます \( ̄▽ ̄)/。

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