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読切短編集

だれもがみんな勘違い

作者: いのりん

昔書いたお話の一部を、異世界恋愛向けに再編集しました

 ロング王国学院の誇る学生寮。

 そのなかでも特に豪奢な作りの一室にて、一組の男女が話していた。


「全く、こうワンパターンだと歓待されるにしても飽きがきてしまうな。そう思わないか、ビアミス」

 

 ぼやいている金髪碧眼の美男子の名前はゲット・ロング。ロング王国継承権第一位の王子様である。


「せっかく合法的に様々な女性の部屋に行けると言うのに、贅沢な悩みですわねぇお兄様。まあ、いくらマナーだとは言え、いつも熱い紅茶にステレオタイプの挨拶、後は詩や歌劇の話ばかりされるとそうもなりますか。」


 ビアミスがこたえる。兄弟関係であり、幼少からのつき合いである彼女は王子の思うところを上手く代弁していた。


 将来的には国を次ぐことになる可能性が高い王子は、学生である今のうちから未来の臣下達と交友を深めることが半ば義務づけられており、また将来の妃や側室候補を探すことも求められていた。


 しかし、特定の相手に入れ込めば角がたつ。また、高い身分の相手とばかり付き合うと民衆の心が離れてしまう。そこで、誰かと交際するようなことはせず、半ば義務として様々な身分の女性の部屋を訪問し親睦を深めるようにしているのだが、毎回、型につけられたもてなしをされ、笑顔の裏でなんとかとり入ろうとしてくる女性達の権力への執着に対していささか辟易していた。


 しかも、これが王になってからも続くと考えるとうんざりもする。

 それも権謀術数渦巻く王宮で、腐敗しはじめている臣下をまとめながらだ。


 この国では序列だけで王位継承をきめるわけではない。

 学業、武術、政治力などの総合成績で大きな差があれば第二王子以下が継承することになるシステムとなっているので、あえて手を抜いて継承権を失ってしまおうかとさえ最近は考えていた。


「でも、明日訪問するミースさんには少々期待しても良いかも知れませんわ。とってもいい子ですのよ!」


「ああ、例のアンダスタン家の」



 アンダスタン元伯爵家。

 

 かつて国王の懐刀とまで言われた名家だ。


 かの家の当主は20年前に議会で、黒い噂の多いハラグロウ侯爵家の不正を糾弾した。するとカウンターとして冤罪のようにもみられる不正を指摘され、その疑惑を晴らすことが出来なかった。


 それで、「先にアンダスタン家が責任のとり方というのをみせてみろ、そうすれば我々も潔く責任をとる」と言われて、「わかったよ、じゃあ俺は貴族をやめるからお前も相応の責任を取れよ」と爵位を捨て英傑だ。当主は実に誠実な男だったと父が絶賛していた記憶がある。


 さて、そうして爵位を失ったアンダスタン元伯爵だが、市政の人となってから極めて優秀な子供が生まれており、それが今年、特待生として入学してきた。それがミースだ。


 成績優秀で、親に似て権力への執着は薄くさばさばしており、教師や上級生であっても不義理をしていればわが身を顧みず糾弾するのは父親譲りだと、話題の新入生であった。


「そうか、明日訪問するのは最近噂となっているミース嬢か。少しはましな相手だといいんだが。」



☆☆☆



 ミースは少々緊張していた。なんと、本日は王子様が自分の部屋に遊びにくるのだという。


 正直、権力への執着は薄いから多少王子の評価が低くなろうがどうでもいい。

 しかし、こちらは下町育ちで貴族のマナーには疎い。とんでもない不敬を働き罪を問われたり、変に目を付けられて今後の学生生活に支障がでるのは困る。


 親からは無償で高度な教育を受けるチャンスだし、卒業後の選択肢が広いに越したことはないので卒業だけはきちんとするように言い含められている。


(別に卒後は父さんの『冒険者食堂』で給仕の仕事をするつもりだから、学歴とかそんなにいらないんだけどね。てゆーか父さん、「食堂をやるのが夢で準備はしてたけど、きっかけが掴めず困っていたところで侯爵家と相打ちになって、うまく引退できてむしろラッキー」とかギャンブルな生き方をしているくせに、娘には学歴とか安定を求めるの矛盾してない!?)


 先日お達しが来て、あわてて最近できた友人であるビアミスに、もてなしの作法や王子の人柄やについて聞いてきたのだが、付け焼き刃で準備不足は否めない。


(えーと、挨拶をして、お茶をだして、適当に話をするんだったっけ?あと、現在王子は、半ば義務として様々な女性の部屋を訪れてはいるが、特定の相手はいない。一夜の関係も結んだりはしていないから、気のない素振りをされても気にしないでくださいませと言っていたわね……となると)


 きっと王子は異常性癖ね。

 そんなことをミースは思い、勝手に王子の好感度を下げた。冤罪である。


 しかしまあ無理もない。なにせ彼女が入学前住んでいたのは冒険者が多い地域。

 まともな性癖なら、半ば義務であっても年頃の女性の部屋を訪れて何もないなどあり得ないのだ。

 冒険者基準で判断する浅慮であった。




 幼女を愛でる一方でノータッチを貫く紳士とかなら、まだ救いがあるんだけどね。

 てゆーか、その確率が一番高いわよね。

 だって幼い女の子はこの世で一番尊いもの。


 そんなことをミースは思う。


 実は彼女、割とノーマルな恋愛観を持ってこそいたが、それとは別腹で年の離れた妹や、その友人達を溺愛する「癖」をもっていた。

 そんな自分を引き合いに、あれこれ身勝手なことを考えていると、ドアがノックされた。ロリコン(仮)王子のお出ましである。


「やあ、はじめましてミース嬢。第一王子のゲット・ロングだ。今日はよろしくね。」


 金髪碧眼の爽やかイケメンが挨拶してくる。こちらも返すべきだろう。確か、「お」から始まる挨拶をしてお茶をだすのが礼儀だだったと思うが、文言が緊張して思い出せない。まあ、適当でいいだろう。


「お疲れ様です、王子。お茶をお出ししますね。」


 お茶の作法については先日習ったのを覚えている。熱いお茶をだしたら、冷めるまでどうかゆっくりして行って下さいと言うメッセージ、冷たいお茶ならさっさと飲んで帰ってねと言うメッセージだ。


 まあ、ロリコンが半ば義務できているのであれば、さっさとお帰りいただいた方がお互いにとって良いだろう。あと、最近の季節は夜でも熱いし、自分も冷たいお茶を飲みたい。


「……驚いたな。こんな風にもてなされるとは思っていなかった。」

「え?失礼しました。こうされるのがお望みと思っていたのですが、お気分を害されたのであれば謝ります。」

「いや、気分を害した訳じゃないんだ。ただ、自分のことを理解してもらえたようで嬉しくてね。」


 良かった。何かマナー違いがあったのかとヒヤヒヤした。あなたが望んでいたんだと思ったんですぅーとあわてて言い訳してしまったが、どうやら怒ってはいないらしい。


 それと、自分のことを理解とはどういうことだろう。内心でロリコンと思っていたのが見透かされ、ビンゴだったと言うことか?なかなかやるじゃんと、感心して王子を見る。カンのいい男は割とタイプだった。よく見たら、顔も好みのタイプだった。


 しかしまあ、あちらは王子でロリコンだ。

 間違っても今後、自分と恋仲になることはないだろう。



☆☆☆



 なんと気の回る娘だろう。ゲットは関心していた。


 今までに訪問した令嬢たちは「お待ちしておりました。どうぞごゆっくり」と熱いお茶を出して歓待してくれていたのだが、半ば義務で毎日違う部屋を訪れるのは正直疲れるから、早く帰って休みたかったし、作法とはいっても蒸し暑いこの季節に熱い茶をだされるのは、正直きつかった。


 それが今夜は「お疲れ様です」と労われ、冷たいお茶で乾きを潤してもらえた。

 聡明と評判になっている元伯爵令嬢ならば作法を知った上で型通りよりはいくらかマシな応対をしてくれるかもとは思っていたが、良い意味で予想以上だった。


 挨拶がマナー違反というだけでなく、王族に冷たいお茶を出すなど不敬ととられても仕方ないところだ。

 そこまで行かずとも、王子と懇意になれるチャンスはほぼ確実に失われると考えるのが普通だ。


 それに対して驚きを伝えてみると、彼女は王子である自分の立場に立って望みを満たそうとしただけだと言う。

 思えば、彼女の両親も、冤罪に対して滅私の姿勢で対応し、この国の腐敗にメスを入れたのだったか。


 彼女なら、自分の気持ちを理解してくれるかもしれない。王子と言う身分ゆえ、なかなかさらけ出せないこの国に対する本音を出しても良いかもしれないと、ゲットは考えた。


「なあ、ミース嬢。今の王国では至るところで、『円熟期なのだ、これで良いではないか』と言われているのは知っているな。それについてどう思う?不敬などと言わぬと約束するから、君の思うところを、腹を割って正直に話して欲しい。」


 今、王国では不要な忖度やことなかれ主義がまかり通っている。それに対してたまに熱意ある文官や貴族から問題提起がされても、「今、国は円熟期の以心伝心で上手くいっているのだから余計なことは言うな」と潰されているのが現状だ。

 今のところ市民に大きな影響がでるまでは行っていないが、徐々に横領や事業の遅延が悪化しはじめているという。


「はい、正直、自分には理解に苦しみます。熟しているのでなく、すでに老いて腐りつつあるとしか見えない。それより先には未来がない、可能性がない。」

「強い言葉を使うね……だが、確かにそうだ。しかし、それを主張していくのは敵を増やすことになる。君は痛い目をみてもそれを曲げずにいられるかい?」

「痛い目ならすでにみています。しかし、後悔はありません。自分の信念は曲げられませんから。回りと意見が違おうと、新しさ、純粋さこそが必要だと私は主張し続けます。」


 ゲットは目を見開いた。辛辣な意見だが的を得ていると思った。そうだ、彼女は両親が正義を通した結果、伯爵令嬢の地位を失うことになったのだった。しかしそれを後悔していないという。そして彼女の、また辛い目をみようと、このままにしてはおけないと言う使命感を好ましくも思った。


ミースとしてはロリコンとして妙齢女性に対してどういう印象をもっているかと、幼女の素晴らしさを述べただけであったが、それに気づくものはこの場にいなかった。


「なぜ、君はそこまでできるのだ?」

「愛しているからです。王子も、そうなのでしょう?」

「ああ、そうだな……そうだとも!ありがとうミース、君がそう信じてくれるなら、僕はなんだってできそうだ。みていてくれ、僕はきっと王になる。そして、この国を変えてみせるよ」

「それはきっと、自由で過ごしやすい素敵な国になるでしょうね。楽しみにしています。」


 輝くような笑顔で少女が笑う。そこまでこの国を愛してくれているのか。そして彼女は自分のことを信じて、期待してくれているのかと、嬉しく思った。最近冷えきっていた心が、今は熱い。


 その後、「でも、無理やり手を出すのはいけませんよ?」と、武力に頼らずあくまで平和な解決策を望む心優しい少女を好ましくおもいながら、王子は将来の国政に考えをめぐらせるのであった。




 後日、ミースのもとに王子から、「楽しい時間をありがとう」というメッセージカードとドレスが送られてきた。

 それは学園中に広まり、王子の心を射止めた時期国母候補として噂になるのだが、それはまた別の話である。


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本日(5/25)書きたてほやほやです

読み切り短編集からリンクしてます


壁に耳あり正直メアリー

https://ncode.syosetu.com/n1106kn/




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