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dogs  作者: 多河透
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 「お前の負けだ、約束通り、靴下脱げ。」カードを置くと幸浩が言った。他の男子達もニヤニヤと笑っている。何気ない会話がきっかけだった。下駄箱の匂いの話から、足の匂いの話になり、夏奈の足は臭いのか、という話題になっていった。匂いを嗅がせろ、と幸浩に言われ、夏奈は無論、断った。今度は、靴下ならいいよな、と他の男子が言い始め、こんな掛けトランプをする羽目になったのだ。今日は誰も女子が部活に来ておらず、男子の要求が通ってしまった。最下位にならない限り、靴下は脱がされないし、夏奈より順位が下になった男子は、何でも一つ夏奈の言うことを聞く、という約束だった。

「早くしろよ。」幸浩に言われ、夏奈は少し涙目になった。彼とは幼馴染で、同じ部活に入る程度には仲がよかった。しかし、お互いに成長するにつれ夏奈は彼に、何となく生理的に受け付けない面を感じるようになっていった。幸浩は昔と変わらず、彼女に近寄ってくるが、夏奈は少し彼を避けるようになりつつあった。

 幸浩がいきなり夏奈の足首を掴む。素早く靴下を片方、奪い取られた。取り返そうとしたが、うまく身を逸らされ、彼女の手は空を切った。幸浩が靴下を鼻に当てる。

「うわ、くさっ!」大げさに幸浩が叫ぶ。一日履いた靴下だ。匂いがして当然だった。再び彼女が靴下に向かって手を伸ばすと、彼はさっと他の男子に、それを手渡す。

「これが夏奈の匂いか!」靴下を鼻に当てながら男子が笑う。恥辱で夏奈の顔が真っ赤になった。次々と靴下がリレーされていく。仲間だと思っていた部員達が別人のように見えた。トランプの時から、疎外感は感じていた。皆、お互いに目配せしながらカードを切った。夏奈を嵌めるようにゲームをしていることには気付いていた。しかし、どうすることも出来なかった。

「少し酸っぱいけど、ちゃんと夏奈さんの匂いですね。」後輩が言った。皆に彼女の秘密を暴き立てられている気がした。大事にそっと守ってきたものが、皆の前で晒されているような感じだ。悔しくて切ない。冗談めかした調子で男子達が、土足で夏奈の大切なところを踏みにじっていく。汗塗れになり、必死で靴下を奪い返そうとする夏奈を、幸浩が背後から抑えつける。

「お前も嗅いでみろよ。」鼻に自分の靴下を押し当てられた。自分の体臭に混じり、男子達の脂の青臭い匂いがした。

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