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誘拐学園 〜名探偵育成計画〜  作者: 天草一樹
第三章:躍動する狂気

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被害者二人と閉じられた部屋

「機械室も音楽室も誰もいないよ」

「放送室もいねえな」


 小窓を覗いて中を確認していく。念のため、ドアノブを回して扉が開くかもチェック。

 交流室側の区画には誰もいなかったため、明智さんが寝ていた保健室側の部屋を調べていく。

 僕が美術室、黒金が図書室の小窓を覗くと同時に、お互い声を上げていた。


「群青さん!」

「勘女!」


 部屋の中で腹から血を流しぐったりしている群青さんの姿を見つけ、僕は急いで扉を開けようとする。しかしギミックの影響か扉は開かない。

 無理だと分かっていながら何度もドアノブを回す。

 苛立ちから扉に体当たりしようとしたところで、明智さんが僕の手を掴んだ。


「落ち着いてください。ギミックで開かなくなっているなら開けることはできません。先に図書室に行きましょう。あちらも、どうやら見つけたようですので」


 強く拳を握り締めながら、僕は小さく頷き、彼女の手を取る。

 駆け足で図書室へ向かえば、眉間に皺を寄せ腕を組んだ黒金がじっと図書室の中を見つめていた。

 悪い予感。

 僕は彼に声をかけることなく、小窓から図書室の中を覗き込む。


「っ……」


 想像していた通り、部屋の中には群青さんと同じ姿勢で腹から血を流している胡桃沢さんの姿があった。

 ドアノブを力強く回す。当然のように扉は開かない。

 僕は全力で扉を殴りつける。一度大きく深呼吸してから、黒金に目を向けた。


「これ、どういう状況だと思う」

「さあな。少なくとも俺はやってねえ」


 姫路さんの時とは異なり、黒金ははっきりと自分の犯行を否定する。

 僕は明智さんに視線を移し、今の状況を端的に説明した。


「美術室で群青さんが、図書室で胡桃沢さんが腹から血を流して倒れています。部屋に荒れた様子はないので、争う間もなくナイフか何かで刺された可能性が高そうです。そしてどちらの部屋も扉は開かず、ギミックにより鍵がかかっています」

「二つの部屋で同時にギミックが発動しているのは気になりますね……。ひとまずギミックが解除されたらすぐに治療ができるよう、闇医者さんを呼んでおきましょう。それから他の方を呼び集め、今に至るまでのアリバイ確認をするのが良いかと」


 負傷者を発見したことで探偵としてのスイッチが入ったのか、明智さんから的確な指示が飛ぶ。

 確認の意味を込めて黒金を見ると、彼はにやりと口角を上げて言った。


「いいんじゃねえか。俺がここでロックが解除されないか確認しとくから、お前ら二人で呼んできてくれよ」


 数瞬の思考の後、僕は首を横に振った。


「悪いけど、現状一番の容疑者である君を一人にはできないかな。明智さん、ここで他に誰か来ないか、変な音が聞こえないか待機してもらっていいですか? 僕と黒金で呼びに行ってくるので」

「構いませんよ」


 一人になれるのは、彼女からしても好都合。

 あっさりと承諾した明智さんに対し、黒金が意地の悪い視線を投げかけた。


「お前ひとりで大丈夫か? 犯人に襲われても抵抗できねえだろ」


 明智さんは冷ややかな声で言い返した。


「そう思って襲って下さるような幼稚な犯人であれば助かるのですけどね」

「幼稚か? 目の見えない相手なら声さえ発さなければ襲ってもばれる心配はない。むしろ襲わねえほうが臆病なアホに思えるぜ」

「経緯はどうあれこれだけ一緒にいた相手です。声など聞かなくとも、歩く音だけでも誰が近づいてきたかは分かります」

「そりゃすげえ自信だ。ならここは安心して任せられるな。お前が犯人でさえなければ」

「そうですね。ですからゆっくりゆっくり探してきてくださって構いませんよ」


 信頼とは程遠い掛け合い。

 火花を散らす二人を見て、僕は深く息を吐きだした。


「喧嘩は後にしてください。黒金も、納得したならさっさと行こう」

「仕方ねえなあ」


 黒金は不服そうに頭を掻きながらも、身を翻し階段へと向かっていく。

 僕も明智さんに軽く頭を下げてから、黒金の後を追った。

 階段に差し掛かり、流石に明智さんの耳でもこちらの会話が聞こえなくなったと思った頃、僕は黒金に尋ねた。


「どうして、明智さんに突っかかったの?」

「あん? 俺のキャラ的に変なことじゃねえだろ」


 軽い口調とは裏腹に、これまで見たこともないような真剣な顔つき。

 僕は小さく首を横に振った。


「僕の知ってる君はとても合理的な人間だ。誰か一人は残らないといけない今の状況で、彼女と言い争うような無駄なことをするのは十分違和感だったよ」

「今志方程度に見破られるなんざ俺もまだまだだな。ま、そんだけ俺も冷静じゃねえってことだ」

「……もしかして、怒ってる?」


 どこか感情を押し殺したような声に、僕の口からそんな疑問があふれ出る。

 黒金は肯定も否定もせず、まっすぐ前を向いていた。


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