41:策の詳細と指摘
「まま、待つでござる! これで館のギミックは解決したという雰囲気になってござるが、まだそうと決まったわけではあるまいに! 他の可能性だって――」
「おいおい、だからそれを検証するための呼び出しでもあったんだよ。お前らをただ尋問するだけじゃなく、部屋を出てからいつギミックが発動するのか、ギミック発動後の閉鎖時間はどの程度か。それも同時に検証してたんだよ。で、概ね予想通りだったわけだわ」
「ぐぬぬ。しかし三つ目のルールは関係ないでござらんか! みんな仲良くは時間も場所も示してないであろう!」
「それがおそらくそうでもねえんだよなあ。まだ検証は出来てねえが」
またも黒金から目配せされる。
活躍の場を譲ってくれているのかと思ったが、単に話すのが面倒で押し付けられているのだと気づいた。
だから断るなんて大人げないことはしないけど。
「おそらくですが、三つ目のルールは仕掛けが発動する人数を指しているんだと思います」
「人数でござるか?」
「はい。皆と仲良くというのは、一人でなく誰かと行動をしていれば部屋の閉鎖スイッチは起動しないということを指し示しているのかと」
「ふむ。二神はともかくもう一人の黒幕は、こうした殺人事件が起きるのを想定していたようだからね。それが単独犯なのか複数犯なのか、ある程度絞るためのヒントとしてそうした仕掛けを施していても不思議ではないね」
あくまで仮設の段階だというのに、赤嶺さんはそれが事実であるかのように頷いている。
かくいう僕自身も、正直この考えは正しいと思っている。黒金が言っていたように時間と場所に関する予測は概ね正解だったからだ。
さて今更だが、黒金の提案した策の詳細は次の通り。
僕や相馬さん、黒金で適当な部屋をそれぞれ選び、二時間程度時間を潰す。部屋を出てからどの程度で扉が閉鎖されるか分からないが、出てすぐでないことは間違ない。皆を呼び出す前日に三時間目までは検証したが不発。そこで四時間を最短とし、そこから一時間間隔で、最長九時間後に各探偵が部屋に訪れるよう呼び出しを行うことにした。
僕と赤嶺さんが美術室に閉じ込められた経験から、扉が閉められた瞬間からロックがかかることも分かっていたため、どの部屋も完全に閉まらないよう細工を施す。
後は呼び出しに応じた探偵たちが部屋に入ったのを確認し、扉を閉める。扉がそのままロックされれば成功。部屋を出てから何時間後に仕掛けが発動するのか分かるという仕組みだ。
無事に閉鎖された部屋ではそのまま尋問を行い、あわよくば姫路さん殺害の犯人を特定してしまおうというまさしく一石二鳥の策だった――みんなの睡眠時間と信頼を失いかねないデメリット付ではあったけど。
結果として、リスクを冒す価値は十分にあった。仕掛けは思惑通り成功し、扉が閉鎖されるのは部屋を出てから約五時間後、閉鎖時間は直前の滞在時間だと判明したからだ。具体的に言うならば、僕らが部屋を出てから五時間後に部屋に来た赤嶺さん、六時間後に来た明智さんの二人の部屋だけが閉鎖されており、四時間後と七時間後の時点では閉鎖されなかった。
またこのことから部屋が閉鎖される時間も、直前まで部屋にいた人の滞在時間だとほぼ確定。こうして探偵館のギミックは明らかになったと言えた――
群青さんも他に反論の言葉が思い浮かばなかったのか、「ぐぬぬ」と言いながら歯噛みする。
しばらく誰もが明かされた館のギミックに矛盾がないか、これまでの自身の記憶と照らし合わせるため沈思する。ただ一人、推理する気のない如月だけが「それで?」と続きを急かしてきた。
「空の段ボールの件はどう関与するの? 結局姫路さんを殺した人はどこまで絞れたわけ?」
「ギミックが分かった今、そこまで説明する必要もないと思うんだがな。生徒会探偵様でも流石に理解できてるんじゃないか?」
「……そうですね」
この中で一段下に見られていることを感じ取ってか、黒野さんは不服そうに答える。
「放送室に存在した空の段ボールと、開かなくなった放送室。そして部屋を閉鎖する方法。この三点を繋げて考えれば答えは一つ。姫路さん殺害の犯人は、扉を閉鎖するために段ボール箱の中に数時間潜んでいた。その後、閉鎖が始まる前に姫路さんを放送室に連れ込み、練炭を仕掛ける。その際、空の段ボール箱が存在していたことがばれないよう、まるで姫路さんが暴れた際に倒したかのように見せかけ、全ての段ボールの中身を散らしておいた」
「空の段ボール箱が存在したことを隠したいんだったら、普通に持って帰ればよかったと思うんだけど、それじゃダメだったの?」
「この館にいる奴らはへぼいのも紛れてるとは言え探偵だ。段ボール箱の数を確認し、覚えてる野郎だっていたかもしれねえ。それを危惧したんだろ」
「ふうん。なるほどねえ」
探偵による推理シーンだというのに、如月のテンションは低い。もしかしたら、彼は気づいているのかもしれない。今回の話し合いがただの前進であり、根本的な解決をもたらすわけではないことを。
僕と黒金、相馬さんの三人により得られた気づきはここまで。姫路さんが殺されたあの日、数時間以上の間犯人が放送室の段ボール箱の中に潜んでいた可能性が高いということ。だけど、推理はそこで行き詰っている。
すると、今まで黙って成り行きを見守っていた相馬さんが、おもむろに口を開いた。
「二人からこの推理を聞かされた時、正直俺は信じていなかった。姫路をただ殺すだけならそもそも扉を閉鎖させる必要がない。むしろこんなギミックを使っては、犯人候補を狭めるだけだと。だが実際に、二人の考えた通りの方法で部屋が閉鎖されることを確認できた。なら理由はどうあれ、犯人が段ボール箱の中に隠れていたのは間違いないはずだ」
相馬さんは一度言葉を切ると、全員の顔をゆっくり見まわしていく。
この中に紛れている犯人に対する威嚇と警告。普段のクールな時とのギャップから迫力が数倍上がっており、何人かは気圧されたように顔をひきつらせた。
しかしこの程度で犯人が名乗り出るはずもなく、相馬さんは小さく息を吐いた。
「こうしてネタが割れた以上、黙っていても無駄だと思うんだが。ここにいるメンバーで当時誰が何をしていたか共有すれば一発で――」
「おそらくそれは難しいでしょう」
「なに?」
明智さんが話を遮り、小さく首を横に振った。
「あの日、少なくとも私はほとんど部屋から出ていませんし、誰とも会っていません。それはおそらく、他の方も同じでは」
「そんなことは……」
相馬さんが先とは違う意味で皆の顔を見回す。
やはりというべきか、彼の期待を砕くように誰もがそっと目を伏せた。
姫路さんが殺された日、僕自身は部屋を出て館内を探索していたけれど、その時に会えたのは群青さんと如月君、それから使用人の二人だけだった。
そもそも前日に如月と姫路さんによる狂言事件があり、全員かなり疲弊していた。それに今後も誰かが裏切るかもしれない、そんな思考が強まり、それぞれここでの方針を見つめ直していたはずだ。
言ってみれば、事件直後の最も疲れが溜まり休息を欲しているタイミングで犯人は動いたわけだ。犯人自身だって予想外の展開だったろうに、その行動力と機を見る判断力は敵ながら認めざるを得ない。
明智さんの言葉を肯定するように、しばらく待っても誰からも証言は出てこない。
相馬さんが悔しそうに拳を握り締めた直後、急に胡桃沢さんがジト目でとある人物を指さした。
「なんかアリバイ確認とかしようとしてるみたいだけど、そんなの不要っしょ。犯人なんてそいつに決まってるんだから」
「いや待て、それは……」
胡桃沢さんの指さす相手を見て、相馬さんは明らかに動揺する。いや、それは僕も同じだった。
対して、指さされた本人――黒金は、
「面白いじゃねえか」
と不敵な笑みを浮かべてみせた。
正直作者ながら展開がよく分からず完全に迷走している今日この頃。ここまでで文字数使いすぎたし何より探偵の性能に関してもっといい感じに差をつけておくべきだった……。まあここまで書いたわけですし、ラストは決まっていますので無理やり書き上げる予定です。たぶん選択肢は多くて二回、少なけりゃ一回になりそうですが、少しでも面白くなるよう最後まで努力したいと思います。