33:助手争奪戦と頭痛
結局裏社会探偵が提案した通り、各自で捜査をするということでひとまず解散となった。
前回とは違い、見るからに怪しい人物はいない。強いて言うなら第一発見者である僕と赤嶺さんだが、扉のギミックが分からない以上、動きを制限されるほどの疑いはかけられなかった。
一人、また一人と教室を出て、自室に帰っていく。
僕も部屋に戻ろうと席から立ち上がると、明智さんが声をかけてきた。
「今志方さん、明日からですがまた助手をお願いします。今度の事件は明確な殺意を持った犯行。私自身も動き、早急に事件を解決したいと思っています」
「それは勿論。いくらでもサポートは――」
「いや、彼女じゃなくまた僕と組んでくれないか」
「へ?」
いつの間にか僕の前の席に座っていた赤嶺さんが、優雅に足を組みながら話に割り込んできた。
予想外の申し出に思考がショートしていると、二人は静かに火花を散らし始めた。
「赤嶺さん。彼は私の助手です。横取りしないでもらえませんか」
「横取りじゃないさ。如月の事件では私と彼が組み、事件を解決に導いた。君よりも私との相性がいいと思うんだよ」
「先の事件は私が出るまでもないと考え、お貸ししただけの話です。元から私と彼で動いていれば、もっと早く事件を解決していました」
「言い訳は見苦しいんじゃないかい? それに館のギミックについて、君ら二人は組んでいても分からなかったのだろう。なら一度視点を変えて、僕と組む方が可能性は上がると思うんだよ」
「これまではスフィアの正体を探ることに専念していたために解けなかっただけですので。ギミック解明を優先するとなれば話は別です」
「そうかい。なら優秀なその頭脳を以てして一人で解明してくれたまえ。僕は彼とコツコツ探らせてもらうから」
「今志方さんがいるといないとでは作業効率が格段に変わります」
「別に彼である必要はないだろう? 目が欲しいだけなら別の人に頼んだらどうだい?」
「あの、二人ともそれ以上は――」
「お二人とも盛り上がっているところ申し訳ないのですが、今志方さんは私に譲ってもらえませんか」
二人の口論に熱が帯び始め、流石に止め方がいいかと口を開いた直後。どういうわけか黒野さんまでもがパートナー争いに名乗りを上げた――いや、なぜ!?
まさかのライバル出現に、赤嶺さんも明智さんも驚いた表情で彼女を見返す。
しかしすぐに動揺を押し隠し、「いったん理由を聞こうか」と赤嶺さんが尋ねた。
「姫路さんの死に対して、最も責任を感じているのが私と今志方さんだからです。この事件は、私たちが解決しないといけない」
「まあその気持ちも分からなくはないけど、気持ちだけじゃ事件は解決できないからね。姫路さんの敵討ちを考えるなら、推理力の高い僕らのサポートに回るべきじゃないかい」
「……そうかもしれませんね。でも、それができないからこそ、私は探偵を名乗っています。今志方さんも、そうじゃないんですか?」
「え!」
一体彼女は僕に何を見ているのか。
あまりに純粋な瞳に心臓がドクンと脈打つ。
僕がなぜ探偵をやっているか。これからどうすべきか。それはさっき先延ばしにしたばかりだったのに、早くも突きつけられてしまった。
だけどやっぱり、そんなすぐに答えは出てこない。
彼女の視線に耐え切れず、僕は何も答えずに顔を背けた。
視界の端に黒野さんの悔しげな顔が映る。しかし彼女は僕に対して何も言わず、二人に向き直った。
「とにかく、今回の事件は私と今志方さんで解決します。ですから彼は私に譲ってください」
赤嶺さんはちらりと僕に視線を送ってから、小さく首を振った。
「今の彼がそれを望んでいるのなら構わないけど、違うみたいだしね。二人で自暴自棄な行動をとられても困るし、悪いけど譲れないかな」
彼女の言葉が気に障ったのか、明智さんが杖で強く床を叩いた。
「赤嶺さん。先ほどからまるで自分の所有物のように言っていますが、彼は私の助手です。何度でも言いますが横取りは止めてください」
「おっと、明智嬢も随分と向きになるね。そうまでして彼をパートナーにしたい理由でもあるのかな?」
「そんなことはあなたに関係ないでしょう」
「関係ないことは無いね。特に理由がないのなら、僕が組んでも構わないはずだ」
「……はあ」
明智さんは無表情のまま静かにため息を吐く。それから僕へと顔を向け、「こうして話していてもきりがありませんし、ここは決めてもらうのが一番でしょう」と言ってきた。まずい。
彼女の言葉を受け、三人の視線が僕に集中する。
ただでさえ姫路さんの死で混乱しているのに加え、深夜で頭の働きも鈍い。
こんな状況で誰を選んでも角が立ちそうな問いを投げかけられるとか、ここは地獄だろうか?
無意識に体が後退する。かと思うと、背中にとんと何かぶつかる感触が。
振り向くとそこにはなぜか緑川さんがしゃがんでこちらを見上げていた。
いつからそこにいたのかとか、なぜいるのかとか疑問は湧いたが、ひとまず助けてもらおうと目でヘルプを送る。
すると緑川さんは手に持っていた紙を、僕にだけ見えるように広げてきた。
『誰と一緒に行動してもいいけど、私のことは見捨てないでね。
ご飯とお風呂もよろしくね。
あとずっと一人だと怖いから一時間に一回は声掛けに来てね』
「……」
読み終わり改めて彼女を見ると、緑川さんは期待のこもった目で力強く頷いた。
僕は突如頭痛を覚え、頭を伏せた。
『読者への問いかけ』(選択期間:2024/6/23~2024/6/30の24時まで)
方針も決まりいったん解散となりました。
自室に戻って寝ようとした今志方ですが、なぜか彼を助手にすべく口論が始まります。結果、誰と行動するかを迫られることになり――今回の事件、誰と捜査するか。皆様の声をお聞かせください。
①胡桃沢鶉『六感探偵』
②黒野美海兎『生徒会探偵』
③緑川サラ『鬼没探偵』
④黒金吉宏『裏社会探偵』
⑤群青征四郎『電脳探偵』
⑥赤嶺巴『王子様探偵』
⑦明智真白『盲目探偵』
⑧如月宗助『放浪少年』
⑨相馬銀嶺『助手探偵』
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