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誘拐学園 〜名探偵育成計画〜  作者: 天草一樹
第三章:躍動する狂気
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30:休日と見回り

 その日は休日だった。

 一連の事件を知った二神教授が、突如として休講を言い渡してきたからだ。

 授業時間はもともと短いので、休講になったからと言ってやることはあまり変わらない。だけど僕の一日はいつもと少し違っていた。

 というのも、明智さんが手伝いを求めてこず、緑川さんも部屋に籠って出てこなかったのだ。

 ここに来てからというもの毎日誰かにこき使われていたため、完全なフリーなど全くなかった。それゆえ久しぶりに休日というか、自由な時間を過ごせるようになったわけだが、正直困った。

 休みと言われても何をすればいいのか。

 いやまあ脱出の手掛かりを見つけるよう調査すればいいのだろうが、どこから手を付けるべきか分からない。ずっと指示を受けてきた弊害が出ている。

 取り敢えず部屋に籠っているのは勿体ないと思い、ふらふらと校内を見て回る。昨日の件でみんな疲れたのか、三階、二階と誰ともすれ違わず各部屋を見渡すだけの時間が続く。

 使用人の二人が掃除しているところに遭遇はしたが、相変わらず虚ろな表情で黙々と作業をしていたためスルー。

 会議室、図書室は昨日と特に変わりなく、ざっと流し見だけで終了。美術室は散らかっていたものが全て片付けられ、整然とした状態に戻っていた。

 保健室では如月に遭遇。自室のベッドよりも保健室のベッドの方が体に合っているとかで、朝から寝転びに来たらしい。本当は昨日の夜の時点で保健室を使いに来たそうだが、その時は運悪く扉がロックされていて入れなかったとか。どうでもいいが。

 あまり彼と話したい気分ではなかったため、早々に話を切り上げ実験室へ。

 実験室は大きな実験台が二つと、壁の四方に薬品棚が置かれた簡素な部屋。簡素とは言ったものの、薬品棚の中には危険な物も多く置かれている。如月の言葉を真に受けたわけではないが、念には念だ。

 一つ一つ瓶の中を見て量が減っている物がないか確認し、さらにタブレットで写真を撮っていく。

 現状どの薬品も使われた形跡はない……と思う。

 いったんそれで満足とし、隣の交流室に。交流室はコーヒーメーカーやボードゲームが置かれている他、ちょっとお洒落でカラフルなひょうたん型のテーブルが置かれている。実験室とは違い危険なものは特になく、見通しも良いため軽く流し見をするだけで次の部屋へ。

 機械室にはいつも通り群青さんがおり、真剣な表情でパソコンに向き合っていた。

 何をしているのかと覗いてみると、画面上にはよく分からない数式が羅列されていた。


「ゲームじゃないんですね」

「ん。これはこれは今志方殿。拙者に何か御用ですかな?」

「暇だったからちょっと見回りです。群青さんは何を?」

「うむ。何とかしてこの建物をぶっ壊して脱出できないか計算していたのでござる」

「壊してって、そんなことできるんですか?」

「結論から言えば無理でござるな。まるでアルカトラズ監獄のように脱出させることを拒む造りになっているでござる」

「成る程つまり?」

「なんかやってる雰囲気を出していただけでござる」

「……」


 あまり考えないようにしていたが、この人も結構大概だなと白い目で見つめる。

 群青さんは自慢の青髪を靡かせつつ、「そんな目で見ないでほしいのである」と首を振った。


「そもそも拙者は探偵でなく、探偵はあくまで拙者の相棒であるデビルちゃんでござる。言ってみれば今の拙者は翼をもがれた天使の如き有様であり、活躍したくともできないのでござる」

「それはそうなのかもしれないけど……」

「そう言う意味では拙者、ずっと気になっていることが一つあり申す。今志方殿も疑問に思ってはござらぬか? 拙者たちが集められた目的について」

「目的……。うん、僕も気になってる」


 思い起こされるのは初日の夜に緑川さんと交わした会話。

 緑川さん曰く、二神教授の目的は僕らにスフィアを捕まえてもらうことで、嘘をついてはいない。一方で、この件には彼以外にも主犯格がおり、そちらの目的は全く不透明で二神教授も関知していないのではないかということ。

 結局別の犯人の目的は予想すらできていなかったが、群青さんは何か考えがあるのか。僕は近くの椅子を引っ張り出し、腰を落ち着けた。


「僕としては二神教授の目的が100%嘘ではないと思ってますけど、群青さんはどうですか?」

「拙者も同意見でござる。特にスフィアに関する膨大な資料や彼自身の知識、話す際の熱意からして、スフィア討伐は間違いない本心でござろうな。一方で、電脳探偵たる拙者から相棒を取り上げたり、姫路嬢や如月殿のように探偵としての資質が明らかに不足したものの招集など、名探偵を育てるという方針は偽りの目的と感じられるでござる」

「同意見です。ただ、スフィアを捕まえたいという目的に対し、今の方法はあまりにも奇抜で効果的とは思えません」

「そのとぅり。故に拙者は考えた。集められた我々は、探偵であると同時に、容疑者なのではないかとな」

「容疑者?」


 緑川さんとはまた異なる考えであり、予想もしていなかった答え。

 彼の意図を知ろうと頭を絞り、ふと嫌な結論が導き出された。


「もしかしてですけど、群青さんまだ僕のこと疑ってたりします? 裏社会探偵の言ってた、『スフィア=殺人グループ説』を推してたりとか」


 群青さんは気障ったらしく前髪を指で弄りながら、「おっと、それは違うでござる」と否定した。


「拙者のこれから話す考えは、正直尤もありそうにないもの故、個人的には否定している説でござるが……掲示板では有名なものでしてな。

 スフィアの犯行に共通点がないのは、スフィア自体が変化、成長し続けているから。そして別人に思えるような変化や成長ができるということは、かの鬼人の正体は、大人ではなく子供なのではないか」

「それって、まさか……」

「うむ。二神教授は何らの証拠を得て、拙者たちの誰かがスフィアである可能性を見出した。しかし誰がスフィアか絞り切ることはできずにいた。そこでスフィア候補であり、同時に探偵でもある拙者たちを一所に集めることで、スフィアが尻尾を出すか探偵たちの誰かがスフィアの正体を見抜いてくれることを期待した。それが二神教授の目的ではないかと疑ってござる」



 群青さんとの話を終えた後、僕は見回りを再開。

 音楽室に人は特におらず、ピアノや太鼓がひっそりと佇み、どこか物寂しさを醸し出していた。ここも楽器が置いてあるだけで見通しは悪くなく、ざっと目を通すだけで終了。

 続いて放送室に。昨日、黒野さんは放送室を利用して全探偵に美術室に来るよう呼び掛けていたが、それ以外での使用実績はほぼない。便利と言えば便利だが、これを使ってまで呼び出すような状況は中々思い浮かばない。

 放送室には放送用の機器のほかに、用途不明の大きな段ボールがいくつか置かれていた。こんなものあっただろうかと思い、試しに一つ開けて中を覗いてみたところ、本やら楽器やら、他の部屋で収納しきれなかった余り物が箱一杯に収められていた。

 どうやら放送室は物置の役割も担っているらしい。

 念のため全ての段ボールを確認しようかと考えるも、結局止めて食堂に向かうことに。

 お腹が空いてきたというのと、段ボールの量を考え今すぐに確認する必要も感じなかったからだ。

 食堂で昼食をとり、見回りを再開。厨房では包丁やナイフ、ガスバーナーといった凶器になりそうなものの位置を確認し写真に収める。女湯に入る度胸は湧かなかったため男湯のみ観察。こちらも見通しはよく、これと言った道具はないためすぐに見終えてしまう。

 これで校内は一通り見回ったことになり――僕は再び手持無沙汰となった。

 捜査している雰囲気を出すだけという点で、群青さんと何ら変わらない。しかしそんな脱出方法などぱっと思い浮かぶわけもなく。さらに群青さんとの話し合いのせいで、他の探偵と会話するのも気まずい状態になってしまった。

 悩んだ末、図書室からスフィアに関する資料を数冊抜き出し自室に帰還。

 皆への疑いを忘れようと資料に没頭し、気付けば夜の九時を過ぎた頃。急に部屋をノックする音が聞こえてきた。


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