3:館内図と監禁
ピピピピピ
ピピピピピ
ピピピピピ
「…………何の……音……?」
聞きなれない音が断続的になり続け、沈んでいた意識がゆっくりと浮上し始める。
ぼんやりとした思考の元、取り敢えず音を止めようと適当に音源に向かい手を伸ばす。すると丸い目覚ましのようなものが手にぶつかったので、押せそうなボタンを手当たり次第に触ってみた。
ほどなく正解に辿り着き、鳴り続けていた謎の音がぴたりとやんだ。
音が途切れたことで、思考する余裕が戻ってくる。それと同時に、閉じていた瞼が少しずつ開き――見慣れない薄いクリーム色の壁紙が視界に映り込んできた。
「どこだ……ここ?」
まだ少し頭がくらくらして、右手を額の上に置く。十秒近くその体勢でいた後、上半身を起こし改めて周りを見回した。
何の変哲もないホテルの一室。ベッドやデスク、小型のタブレット、冷蔵庫、クローゼット、一人用のミニソファが置かれている。今の今まで、ベッドの上で寝ていたらしい。
取り敢えず気になったのはタブレット。ベッドから下り、デスクの上に置いてあるタブレットの元に近寄る。その際、ふと自分の足を見下ろすと、靴を履いたままだった。床にカーペットが敷いてあるため洋風の建物なのだろうが、ベッドに寝かせるのなら靴は脱がせてほしかった。
それはそうとタブレット。
見た目はブラウンでスタイリッシュな感じの一品。表面と裏面を見比べてみるが特に何か書かれたりということもなかったので、端のボタンを押し電源を入れてみる。
充電は満タン。すぐさま画面がつく。しかしロックがかかっており、中は覗けないようになっていた。
「暗証番号とか知らないし……って、指紋でも解除できるようになってる」
もしかしてと思い適当な指で指紋認証を試みる。ある程度予想していた通り、親指を当てるとロックが解除され、中を見ることができるようになった。
「これはまた、用意周到だな」
ロックが解除された後に移った画面には、アプリが三つインストールされていた。
一つはワード。
一つはエクセル。
最後の一つはカメラ。
それ以外には何一つインストールされておらず、完全にまっさらな状態だった。
設定の画面からユーザー情報などを見てみるも、特にこれと言った情報は手に入らず。ワードを起動してみると、一つだけファイルが保存されていた。
タップして保存されたファイルを開くと、そこにはこの建物の見取り図と思われる画像と、
『貴殿の探偵としての真価を問う』
との一言が添えられていた。
正直意味不明。ただ、僕がこの場にいるのは偶然やランダムではなく、探偵として何かしら見込まれたからだと理解した。
「あ、思い出した」
ここにきてようやく、僕はこの建物に来る直前の記憶を思い出した。
マンションの前に停まっていた黒い車とお面をかぶった奇妙な男。あまりに奇妙だったからまさか本当に犯罪者ではないだろうと、仮に犯罪者だったとしても狙いは僕じゃないだろうと考え、堂々と目の前を通り過ぎたのが良くなかった。
実際には狙いは僕だったようで、こうして誘拐監禁(?)状態になってしまったわけだ。しかしあの姿で立っていたのは、僕の探偵としての反応を見るためのものだったのだろうか? だとすれば満点不合格の行動をしたような気もするが、よくそのまま誘拐したものだ。
「まあ、まだ僕の役割が探偵とは限らないか」
ただのわき役。おまけとして呼ばれたのかもしれない。何せ建物の見取り図を見る限り、ここには他に十部屋以上も客室が存在している。もちろんすべての部屋に人がいるとは限らないが、本命が僕でなく、別の部屋にいる可能性は十分考えられる。
まあ、だからと言ってどうすることもできないのだけれど。
いずれにしても、ここでグダグダと考えを巡らせても埒が明かない。
念のためタブレットを手に持ち、部屋の中を軽く調べる。お風呂場はなかったがトイレは備え付けられていた。使ってみたところ、しっかりと水も流れてくれた。電気も水道もしっかり引かれているらしい。
そこまで確認したところで、いよいよ僕は部屋の外へと足を踏み出した。