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誘拐学園 〜名探偵育成計画〜  作者: 天草一樹
第二章:抜かれる楔

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27:再集合と犯人指摘

 それから約二時間。美術室の扉は開くことなく、僕らは無為に時間を潰すこととなった。

 事件の真相に手がかかっての二時間というのはひどく長く感じ、僕と赤嶺さんはそれぞれの推理に齟齬がないかひたすら議論して気分を紛らわせた。

 結果として今の推理で間違っていないという結論に達したし、色々と補強されたところも、仲を深めることもできたので、僕としては悪くなかったのだけれど。赤嶺さんは他の探偵に先を越されているだろうことに、かなり悔しさをにじませていた。

 また、この扉が開かなくなる条件に付いても考えを聞いてみたが、赤嶺さんもまだ検討段階とのことだった。二神教授曰く『解ける仕掛け』とのことだったため、意図的に誰かが閉めているわけではないのだろうが、それにしても法則性が分からない。

 まあ今はあまり考えても仕方がないので、思考を事件へと修正。

 既に時刻は八時に迫っており、集合まで一時間ちょっと。

 すぐさま聞き込みを行いたいところではあったが、空腹では頭も回らないということで僕らはいったん食堂に移動した。ボタンを押して使用人を二人とも呼び出し、いくつか質問を。それから何か手軽に食べられるものをと頼んだところ、フランスパンを渡された。


「……」

「……」

「……硬い」


 僕らはフランスパンを片手に持ったまま、続けて保健室に。

 保健室では相変わらず如月君が寝ていたものの、その隣に闇医者の姿はなく、代わりに裏社会探偵が腰を下ろしていた。

 彼は僕らの姿を見ると、「安心しろ。まだ起きてねえし、しっかり見張っておくからよ」と意味深な笑みを浮かべて言った。

 どうやら彼も真相に達したらしいと察しつつも、予定通り美術室を最後に見たのがいつかを尋ねる。

 残念ながら美術室はしばらくの間見ていないとの解答を受け、僕らはすぐに部屋を後にした。

 その次に向かったのは、すぐ隣の会議室。

 中には相馬さん、明智さん、黒野さんの三人に加え、なぜか緑川さんも席についていた。

 部屋に入ってきた僕らに対し、「なぜフランスパン?」と相馬さんが困惑視線を投げかけてくるが、曖昧にほほ笑んで受け流す。

 四人に美術室を最後に見たのがいつか尋ねたところ、黒野さんが今日の朝八時ごろに見たとの証言をした。当然その時は部屋の中は荒らされておらず、整頓されたままだったとのこと。

 僕と赤嶺さんは顔を見合わせ、小さく頷いた。この情報があれば、十分に犯人を追い詰める根拠になる。

 もう一人くらい同様の目撃証言があればより完璧になるため、群青さんと胡桃沢さんを探すことに。

 部屋を出る直前緑川さんに、「相馬さんたちはともかく、緑川さんは推理に参加しないの?」と尋ねてみたが、全力で首を横に振られた。本当に残念な探偵である。

 その後、何とか集合時間前に群青さんと胡桃沢さんを見つけ出し、二人からも証言を入手。有難いことに胡桃沢さんからも、今朝の授業前に美術室を覗いたとの証言が得られ、無事僕らの捜査は終了した。

 そして時刻は九時となり、如月君を除く全員が、再び会議室に集合したのだった。



  *  *  *



「さて、情報共有の時間になったわけだが。相馬、悪いが如月の見張りをしといてくれねえか」


 全員が席に着くや否や、裏社会探偵が真っ先にそう切り出した。


「見張り? どうしてだ?」

「そりゃああいつが目を覚ました時、説明する役が必要だからだよ。それにあいつ自身自分を襲ったのが誰か気になるだろうからな。もし目を覚ました時余裕がありそうだったら、会議室まで連れてきてくれると助かるわ」

「そんな都合よく目を覚ますとも思えないが……」


 少し腑に落ちない様子ではあるが、相馬さんは大人しく腰をあげる。

 推理に参加しないことを表明しているため、他のメンバーと違いここにいる動機は希薄。それゆえ、裏社会探偵の言葉に逆らう理由も思い浮かばなかったようだ。

 彼が部屋から出るとすぐ、姫路さんが「うふふ」と声を漏らした。


「ねえ、彼をこの場から遠ざけてしまって本当に良かったのかしら? 事件を解決するヒントを与えてくれたかもしれないのに」


 姫路さんがそう嗤うと、裏社会探偵は悪魔のように口角を上げ嗤い返した。


「そりゃ無用な心配だ。事件は既に解決してる。元よりあいつの出番なんてねえよ」

「……うふ、うふふふふ。これだけ強がってるあなたがどんな恥を晒してくれるのか、今から楽しみで仕方ないわね。それじゃあ、早速聞かせてくれるのかしら?」

「まあ待てよ。何事にも前座は必要だろ。つう訳で、オタクとギャル。てめえらから話してくれよ。それとも何も推理は組み立てられてねえか?」


 裏社会探偵からの挑発的な呼びかけに、群青さんは悔しそうに顔を背け、胡桃沢さんは意に介した様子はないものの首を傾げて見せた。


「せ、拙者自身は基本的に情報収集がメインで、推理は相棒であるデビルちゃんが担当であるからして……。その、特には推理はないでござる……」

「うーん、なんかピンと来ないんだよねー。いつもだったら事件現場に行くか容疑者と対面すればポンポンイメージが湧いてくるのに。本当に事件なんてあったのかな?」


 納得いかなそうにキュルキュルと首を回す胡桃沢さん。

 彼女の発言を聞き、姫路さんが「あの現場と被害者を見て事件が起きたことすら認識できないなんて残念な人」とあざ笑う。

 しかしまたしても裏社会探偵が、「そうか、俺は少し見直したぜ」と彼女の発言を否定した。


「あら、早速恥をかいてくれるのね。あなたも事件なんて起きてないと、そんな戯言を言うつもりなわけ?」

「厳密には違うが、おおよそ間違ってねえ。多少話す順番が面倒ではあるが、早速俺から解決編を――」

「ちょっと待ってくれ」


 意気揚々と推理を語ろうとした裏社会探偵に、赤嶺さんが待ったをかける。

 彼は不快そうに彼女を睨むと、「何だよ、邪魔すんな」とぼやいた。


「電脳探偵と六感探偵には推理を求めておいて、どうして僕らには頼まないのかな?」

「……てめえらも、ある程度事件の真相が見えてそうだったからだよ」

「ほう。なら別に僕らが推理を披露しても構わないよね。特に君は既に一度、今志方君や明智さんを犯人だと推理した過去もあるしね」

「……だからここは手柄を譲れってか」

「まあそういうことだ。とはいえ推理するのは僕ではなく、冤罪を吹っ掛けられ危うく暴力まで振るわれそうになった彼の方だけどね」

「え!」


 急に矛先を向けられ、僕は驚きから腕をテーブルにぶつけた。

 推理に関しては赤嶺さんと共有しているため、どちらが話しても同じではある。しかしだからこそ、赤嶺さん自身が話したがるかと思っていたのだが。

 全員の視線が一斉に僕に向けられ、少しだけ気圧される。

 だけど僕とて人前で推理をすること自体はある程度慣れている。むしろ問題は、裏社会探偵が言っていたように、どこから話していくかだけれど。

 取り敢えず席を立ち、軽く深呼吸をして話す準備を整える。

 するとさっき部屋を出たばかりの相馬さん扉を開け入ってきた。


「あー、なんつうタイミングだよって気もするが、如月が目を覚ましたから連れてきた」


 相馬さんの後ろには、頭に包帯を巻き、まだ少し顔が青ざめてこそいるものの、どこか興奮した様子の如月君の姿が。

 彼は僕らをを見回すと、深々と頭を下げた。


「どうも、ご心配をおかけしてすみませんでした。で、これから解決編だよね。この感じ、今志方さんが推理を披露してくれるのかな?」


 謝罪など一瞬で忘れたかのように、ワクワク顔を隠すことなく僕の顔を覗き込んでくる。

 さすが自己紹介の時、スリルジャンキーを自称していただけはあり、頭のねじが飛んでいる。

 二人が適当な席に着くのを見届けてから、僕はおもむろに人差し指を立てた。そしてその指を、とある人物に向け、宣言した。


「今回の、如月君襲撃事件の犯人は――如月君。君自身だよね」

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