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誘拐学園 〜名探偵育成計画〜  作者: 天草一樹
第二章:抜かれる楔

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25:相棒指名と捜査

投票数0より、サイコロで選出した結果赤嶺さんルートとなりました。可能でしたら次回は投票していただけますと幸いです。

「だったら、赤嶺さんと行動させてもらえないかな」


 先手を打って僕はそうお願いした。

 彼女は怪訝そうな表情を浮かべ、「理由を聞こうか」と応じた。


「こんな言葉に意味がないのは理解してるけど、僕は犯人じゃないから。誰が如月君を傷つけたのか、しっかり捜査して犯人を暴きたいんだ」

「ふうん。それで、なんで僕をわざわざ指名したのかな」

「この中で一番、赤嶺さんが公平に接してくれると思ったから」


 そもそもあまり話の通じなさそうな探偵が大半。それに加え、今の僕は容疑者だ。こっちを見て怖がっている緑川さんは頼れそうにないし、同じ容疑者である明智さんと黒野さんも厳しい。

 本当なら相馬さんを頼りたいところだけど、彼には僕でなく明智さん達を見ておいてもらいたい。

 現状裏社会探偵を止められるのは彼しかいないようだし、万が一にも明智さんに危害が及ぶ事態は避けたいから。

 というわけで赤嶺さん指名となったのだけれど、正直受け入れてもらえる自信はない。初対面での会話が最悪だったこともあり、今日までろくに話ができなかった。好感度が低いままなのは間違いなく、断られる気しかしないというのが本音だ。

 そんなわけで内心ドキドキしながら彼女の返事を待っていると、意外にも、「いいよ。一緒に行動しようか」とあっさりOKが出された。


「あ、有難うございます。でも、本当にいいんですか?」

「どういう意味かな。君の方から指名してきたんじゃないか」

「それはそうですけど……。嫌われてるみたいだし、てっきり断られるかなって」

「君のことが嫌いなのはその通りだが、殺人未遂事件が起こったんだ。そんな私情は挟まないよ」

「……有難うございます」


 嫌われているのを否定されなかったのは残念だが、同行は許可されたので良しとしよう。

 後は相馬さんに二人の護衛をお願いすればと考えたところで、


「では、私と黒野さんはここで待機しておきます。相馬さん、見張りをお願いできますか」


 僕の思考を読んだかのように、明智さんが声をあげた。

 名指しされた相馬さんは少し驚いた様子で彼女を見返した。


「俺か? どうして?」

「あなたがこの場で最も強いようですから。それに、事件解決にもそこまで乗り気ではないようですので、監視を任せるには適役かと思いました」

「まあ別に俺は構わないが……。皆はそれでいいのか?」

「好きにしろ」

「いいんじゃない」


 裏社会探偵と胡桃沢さんが雑に頷く。

 他の人も特に反対意見はないらしく、こうしてすんなりと監視役は決まった。

 それを見て赤嶺さんは大きく手を叩き、


「さて、それじゃあ今度こそ捜査開始と行こうか」


 と、捜査の始まりを宣言した。


  *  *  *


「それで、まずはどこから調べますか」

「女湯と機械室だね。それからもう一度美術室。残りは全て聞き込みに費やす予定だよ」

「了解です」


 証拠集めに必要かと考え、一度部屋にタブレットを取りに行ってから再集合。

 赤嶺さんに判断を仰ぐと、事件直後に一階にいた人たちの証言の真偽から確かめたいようだった。

 宣言通り女湯へと向かった赤嶺さんは(当たり前だが)堂々と暖簾を潜り中に入っていく。僕は一瞬躊躇し、無意味に頭を下げてから、彼女の後に続いた。

 脱衣所は特に男湯と変わらず、鍵のかかったロッカーにドライヤーなどが設置された洗面台、それに体重計が。また白い無地のバスタオルとタオルが重ねられた籠と、その隣に緑色のリネンカートがあり、カート内には濡れタオルが二枚入れられていた。

 当然いま利用者はいないため、どのロッカーも鍵はかからず空いた状態になっている。念のため全て中を確認するも何も入っておらず。

 続いて浴室に移動。浴室前のマットが微かに濡れており、このことからも胡桃沢さんが実際に使用していたことは間違いないように思えた。

 浴室も男湯と同じ内装であり、特に変わった様子は見られない。床をしっかり観察すると、何本か特徴的なピンク色の髪を発見。彼女の証言が嘘でないことがはっきりした。念のためタブレットのカメラ機能を使用し、写真を撮っておく。


「女湯の床を必死で調べている男子高校生というのは犯罪臭が凄いね」

「それをこの場で言うのはひどくないですか」


 僕を見下ろしながらそう嘲笑する赤嶺さんに、疲れた声で返す。

 彼女はそれ以上からかうことはせず、真顔に戻り「じゃあ次行こうか」と女湯から出て行った。

 慌ててその後を追いかけ隣に並んだ僕は、「もういいんですか?」と声をかけた。


「十分だよ。元より彼女が嘘をついているとは考えていなかったしね」

「まあ、そんな嘘をつく必要もないですしね」

「だから次。機械室を見てみよう。とはいえそっちも特に見るべきものはないだろうけどね」


 赤嶺さんの言葉通り、機械室も異変は見られなかった。ただ整然とパソコンが並べられているだけで、どこか荒らされたり、血が付いていたりもしない。

 因みにこれらパソコンは全て使用可能ではあるもののネットには繋がっておらず、エクセルやパワーポイント、暇つぶし用の無料ゲームがいくつかインストールされているのみ。

 群青さんがゲームをやっている以外で使用されているところは全く見たことがなかった。そのためか、床やデスクを調べてみたところ、彼の青い髪の毛のみが落ちていた。


「彼はこの部屋に入り浸っているからね。これだけじゃあ彼が今日いた証明にはならないが、まあいいだろう」


 全てのパソコンを起動し、使用履歴を見れば実際に彼がここにいたことは証明できるだろうが、そこまでするつもりはないらしい。これまたあっさり部屋を離れると、「本命と行こうか」と美術室に向かった。

 現場保存の観点から、如月君がいないことを除けば何も変わらない荒れたままの部屋。

 彼女はすぐに中に足を踏み入れず、「発見した時のことをありのまま話してくれ」と言ってきた。


「今更ですけど、同行を許可してくれたのってこのためですか? 僕が第一発見者だったから」

「無論それもあるよ。後は単に、君は犯人じゃないと考えたからだね」

「てっきり疑われてるかと思ってたんですけど。理由を聞いても?」

「簡単な話さ。明智君と君の共犯関係というのはまずあり得ないからね。共犯のメリットはアリバイを作れること。にもかかわらず、二人のこのこ事件現場に舞い戻って第一発見者になるなんて愚かなこと、明智君がするはずないからね」

「……できればそれ、さっき言ってくれれば助かったんですけど」

「嫌だよ。そんなことをしたら僕らが疑われるじゃないか」

「ああ、そう言えば赤嶺さんと相馬さんは事件前後ずっと一緒にいたんでしたね。何を話してたんですか?」


 僕と赤嶺さんは初絡みの件もあり交流してこなかったが、それ以前の問題として、全体的にこの監禁学園でのコミュニケーションは活発ではない。分け隔てなく話しているのは黒野さんくらいで、後は好き勝手に動いており雑談している姿などほぼ見ない。

 だから赤嶺さんと相馬さんが一緒の部屋にいたというのは、内心少し驚いていた。

 彼女は艶やかな赤い髪をかきあげ、気だるげに天井を見上げた。


「別に今日が最初というわけではなかったのだけどね。勧誘していたのさ。僕専属の助手にならないかと」

「勧誘……ちょっと意外です。赤嶺さんは、人の手助けなんてむしろ好まないタイプかと思ってました」

「その見立ては間違ってないけどね。彼は例外だ」


 少し話が長くなると考えたのか、赤嶺さんは美術室の壁に背を預けた。


「助手探偵。会うのは初めだったが、名前は嫌というほど聞かされてきた相手だ。自分では事件を解決せず、周りに事件を解決させる探偵。それゆえ手柄を誇ることもなければ、世間にアピールすることもない。僕とは違ってね」


 自嘲気な彼女の態度。その態度が示すところが分からず、僕は首を傾げた。


「相馬さんが凄いのは事実かもしれませんけど、特に比べる事じゃないのでは? 世間にアピールするのは、それだけ事件を解決して人を助けた結果じゃないですか」

「誰もが君みたいに好意的ならいいんだけどね。少なくとも警察は、そうは考えないんだよ」


 ありありとこれまでの苦労が伝わってくる、大きなため息を挟んでから、彼女は続ける。


「名探偵に最も必要な資質というテーマで、僕はコミュニケーション能力と答えた。何人かはあれが本心でないと考えているかもしれないが、紛れもない本音だ。それだけ警察からの嫌がらせはしつこく鬱陶しい。そしてここ最近、彼らが嫌みのように何度も口にするのが『助手探偵』様だ」

「ここで相馬さん……」

「ああ。手柄を一切主張しない、事件にも自ら関りに行かない。ただし事件解決の糸口となることをポロリと呟いてくれる。警察からしたらメリットしかないお助けアイテムだ。僕への当てつけとして何度も比較に出されたよ。まあ最近は、どこからか彼のうわさを聞き付けた記者のせいで、図らずも話題になってしまったけどね」

「ほうほう……。それで、結局何で勧誘を? 今のところ勧誘する理由がないですけど」


 話がかなり脱線している気がして、軌道修正を図る。

 赤嶺さんは少し意地の悪い、しかし蠱惑的な笑みを浮かべて僕を見た。


「分からないかな。彼を味方につけることができれば、警察に心ばかりの意趣返しができるのさ。加えて助手探偵に対して恩義を感じている警官もそこそこいるからね。彼らのことも味方につけることができる。まあ、自分から事件に首を突っ込む気はないと、断られ続けているけどね」


 彼女はやれやれと言った風に首を横に振ると、壁から背を離し、再び美術室の正面に立った。


「さて。いい加減無駄話は止め、事件について聞かせてもらおうか」


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