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誘拐学園 〜名探偵育成計画〜  作者: 天草一樹
第一章:監禁学園生活
19/48

18:初日の振り返りとあっさり一週間経過

「はあ、今日は疲れたな」


 夕食を食べ終え、入浴を済ませた僕は、自室に戻るなりベッドにダイブした。

 人生で最も濃い一日は、間違いなく殺人事件を解決したあの日だと思っていたけれど。正直今日の出来事は軽くそれを超えてきた。

 誘拐からの監禁。

 無名・有名問わず集められた探偵たち。

 その中に僕が選ばれたという信じがたい事実。

 『スフィア』とかいう名前の漫画みたいな殺人鬼の話に、それを捕まえられる名探偵になるまでここから出さないという意味不明な脅迫。

 その一方で、本気で名探偵にさせる気があるのかという緩すぎる校則。


「まあ何が恐ろしいかと言えば、これが終わりじゃなくて始まりだってところだよね」


 人生一番を更新した今日という厄日は、これから数日、数週間、数か月、考えたくはないが数年と続くかもしれない日々の始まりに過ぎない。

 今はまだ緩い校則も、何一つ結果を残せないままなら、どんどんきつく苦しいものに変わっていく恐れがある。

 中でも厄介なのが、期限やゴールが明確でないこと。どうすれば今の監禁生活が終わるのか、ゴールが曖昧なままでは、モチベーションの維持が尋常でなく困難だ。

 そしてモチベーションという意味で、僕を苦しめているのは、集められたメンバーによる点も大きい。


「仕方ないのかもしれないけど、探偵って個性的で警戒心強くてプライドの高い人が多い……。仲良くするっていう、小学生並みのルールが一番難しいとか何なんだろ。まあ、人間関係が大変なのは当然と言えば当然だけど……」


 でも僕の場合、他の人より苦労が多い気がする。

 初対面の挨拶に失敗して関係値最悪な赤嶺さんに。

 僕のことを盾にしたり身代わりにしたりと忙しい緑川さん。

 そして秘密を暴いてしまったがゆえに逆に脅されるという超展開に突入した明智さん。助手という名目の奴隷宣言をされ、これからどんな無理難題を押し付けられるのかと震えてたりする。幸い今日は何も命令されずに解放されたけど、あの話し合いのせいで夕飯は冷めたサバの味噌煮を食べることになってしまったし、散々だった。


「……はあ」


 考えれば考えるほど、一刻も早く救助に来てもらいたい。家に帰りたい。

 姫路さんが言っていたけれど、日本の警察だって無能じゃないはず。そう長い期間かからず、助けに来てくれると信じたい。

 ……信じたいけど、


「きっと助けはこない」


 探偵として、なんて大層なものではないけれど。十数年生きてきて培われた僕の直感が、そう告げている。

 ぶっちゃけ外れてくれた方が嬉しいが、こういう嫌な直感に限って外れた試しがない。

 これからの生活を考えると目が潤んできて――僕は布団を顔まで覆って不貞寝した。



 さて、それからあっという間に一週間が経った。

 当然のように警察の救助はこず、そして驚くほど気楽な監禁学園ライフが流れていた。

 日曜日以外は毎日授業が行われるものの、それも朝、昼に一コマのみ。授業時間も一時間と短いため、疲れる暇がない程だ。

 それに授業の内容も想像していたものとは違い、初日なんかは道徳の授業からのスタートだった。二神教授の目指す名探偵は、ただ犯人を捕まえられるだけでなく、人としての優秀さも求められているのか。それとも道徳心を理解することで、犯罪者を憎む気持ちを増したり、彼らの行動原理を理解させる意図があるのか。

 いずれにしても、ただ推理力を上げることのみに注力した教育方針でないことは伝わってきた。

 それから気になったことと言えば、こうした授業を担当するのは、二神教授でなく、教授と似た変なお面を被った別の人たちだったことだ。

 探偵館にいる使用人のように感情が欠落した様子はないが、どこかねじが外れたような、やや様子のおかしい大人たち。授業に関する質問には親身かつ熱心に答えてくれるが、それ以外の質問となると急に話が噛み合わなくなる。まるで、授業で教えること以外の知識を身に着けていないかのような、そんな不気味さを内包していた。

 彼らが何者なのかも気になるところだが、それはそうとこの一週間。僕ら探偵たちは脱出方法や外部へのSOSができないか色々と模索していた――皆協力することなく、独自のやり方で。

 かくいう僕は、明智さんの助手(奴隷)として建物中を歩き回り、見たもの全てを言語化するという重労働に励んでいた。さらにその最中、授業以外で引き籠りを貫く緑川さんから、ご飯の用意や暇つぶしの小説の用意をさせられたりと、とにかく人にこき使われる日々を送っていた。

 時折黒野さんから意味深な視線が飛んで来たりしていたが、忙しかったため、まともに相手をすることもできず。結局何か用があったのか、それともただの自意識過剰か。いい加減こっちから話しかけようと思っている今日この頃だ。

 また、助けが来ない日々の中でも、ほとんどの探偵が怯えた様子も見せず平常運転を貫いていたが、唯一姫路さんだけは日に日に憔悴の色を濃くしていた。

 当然と言えば当然の反応だが、周りが異次元メンタルの持ち主ばかりのため、凄く浮いて見えてしまう。本来なら僕も彼女の仲間入りするところだが、忙しさのおかげか、メンタルを崩す余裕がなかった。

 そんな感じで、多忙で意味深で少し不安定な監禁学園ライフ。

 ちょうど一週間目となる本日は、久しぶりの二神教授による、「探偵としての資質とは何か」というテーマの討論会だった。


『君たちは探偵として大小いくつもの事件を解決してきている。中には既に、周囲から名探偵と持て囃されている者もいる。そんな君たちに、今回、名探偵に求められる最も重要な資質が何か、議論してもらいたい』


 久しぶりの二神教授。久しぶりのまともに話の通じる大人。

 ここ一週間で溜まっていた疑問・不満を投げかけたいところではあったけれど、教授の態度からして、議論以外の話を拒絶するオーラが前面に出ていた。

 これはひとまず議論するかと暗黙の了解が生まれ――今後の僕らの行く末を決めることになる、最初にして最大の議論が始まった。


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