13:人物紹介と二つ名
『まず、既に名前が何度も出ている相馬銀嶺。『助手探偵』と言われ、自ら事件を解決した実績はないが、彼の助言がもとで犯人逮捕につながった事件は確認されるだけで裕に三十以上。色々な意味で、特に期待している探偵だ』
「そもそも探偵のつもりはないのだが……」
銀髪の青年――もとい相馬銀嶺は、諦観した顔つきで溜息をついた。
『次に、この場を仕切っていると言っても過言ではない男。主に暴力団や政治家など、世間に公表され難い奴らが関わった事件を専門にしている『裏社会探偵』こと黒金吉宏。知らない者がほとんどだろうが、皆彼の優秀さは既に実感してくれているだろう』
「犯罪者に褒められても何も嬉しくねえな」
金髪裏社会探偵――もとい黒金吉宏は、不愉快そうに太い首を回した。
『知名度としては、この中で一、二を争うだろうから説明は不要かもしれないな。両目の視力を犠牲に超人的な聴力を手に入れた、『盲目探偵』こと明智真白』
「皆さま、よろしくお願いいたします」
両の目を伏せたまま、されど僕らを正面から見据え、彼女は深々とお辞儀をした。
『次も説明不要か。知名度で言えば、そのルックスとスター性から明智よりも高い。事件解決率もさることながら、メディアへの露出、自己PRも惜しまない。『王子様探偵』こと赤嶺巴。ああ、王子様探偵とは言ったが、性別は女性だ。皆間違えないように』
「赤嶺巴だ。この場に集められた優秀な探偵の中に、性別を間違えるような愚者はいないことを願っているよ」
明らかに僕に対する当てつけ。だいぶ根に持たれているようだ。悲しい。
『次に、探偵業界でもかなり独特の存在感を放つ異才。独自の犯人特定プログラムを作成し、事件の情報を打ち込むだけで犯人像を特定、事件解決に貢献してきた『電脳探偵』こと群青征四郎。俺はそうした機械系は苦手なんで、どこまで凄いのかあまり理解していないが、昨今の事件解決数を見込んで招待した』
「ふふふふ、拙者を選んだのは正解でござるよ」
妙にさらさらな青髪を手でなびかせ、群青さんは格好つけた。どうでもいいが、僕が読んだ記事によれば彼はナルシストだとのこと。あれはデマではなさそうだった。
『さて次。こちらは知名度としては皆無だが、事件解決数では断トツ。推定だが千件以上は解決している最も期待をかけている探偵の一人。突如として警察や被害者に、事件の真相を推理した手紙を寄こす正体不明の探偵であり、ぶっちゃけ俺も正体を知ったのはついこの前だ。普段は平凡な女子高生を演じている、『鬼没探偵』こと緑川サラ』
「あの、人違いじゃないですけど、人違いなんで、帰してください……」
僕を含めた全員が、驚いた顔で彼女を見つめる。
そんな皆の視線から逃げようと必死に僕を盾にしているのだが、これに関しては僕としてもしっかり話を聞きたいところ。探偵とは言えせいぜい僕と同程度のしょぼい探偵だと思っていたのに、とんでもない大物だったらしい。
今の話が本当か確認しようとしたところ、誘拐犯が僕の紹介を始めてしまった。
『そして鬼没探偵と同じ学校に在籍しながら、彼女に先んじて校内で起きた不可能殺人を解決した俊才。その後は学校内の事件を中心に活動を行っている『高校生探偵』こと今志方時宗』
「こ、高校生探偵って呼ばれ方はパスしたいんですけど……」
僕に探偵としての二つ名なんてないだろと思っていたら、ズバリ『高校生探偵』と呼ばれてしまった。それは他の探偵にも当てはまることだし、是非止めてもらいたいところだ。
『同じく自身の学校限定で活動を行っている探偵にして、高校一年ながら生徒会長として学校を牛耳っている『生徒会探偵』こと黒野美海兎』
「……牛耳ってはいませんが。黒野美海兎です」
生真面目な顔で僕たち一人一人に頭を下げる。
委員長っぽいと感じていたが、まさか生徒会長だったとは。しかし彼女も、今の紹介を聞く限りでは僕と同じく有名な探偵ではないらしい。誘拐犯の選考基準が気になるところだ。
『それから既に本人からの自己紹介済みではあるが、自称『富豪探偵』こと姫路舞だ。親の金を使ってSPやら何やらを雇っては、事件現場に現れ捜査を攪乱している。まあ正直、数合わせで呼ばせてもらった』
「こ、このワタクシが数合わせですって!??」
またしても、「ガガーン」と言う効果音が鳴り響き(幻聴)呆然自失状態となる姫路さん。
心中お察しするが、それよりも数合わせという概念が存在することに驚くと同時に納得した。
要するに、僕や黒野さんが呼ばれたのも同様の理由であるところが大きいのだろう。
『次、探偵としては最後の紹介になるが、独特の感性と物事の本質を見抜く鋭い直感の持ち主。つい半年前から活動を始めたばかりでありながら、警察が手を焼いていた事件を十件以上も解決してきた間違いない実力者。『六感探偵』こと胡桃沢鶉』
「……」
紹介をされたにも関わらず、一切反応がない。
というか誘拐犯の話が始まって以降、一度も声を聞いた記憶がない。メロンを持ってあれだけ元気よく動き回っていた彼女がどうしたのか――とよくよくその姿を注視してみると、がっつり寝ていた。
校長先生の朝礼の挨拶とかで眠くなる現象だろうか。……いや、今の状況をそれと比較するのは流石に違う気がする。
図太いのは感じていたがここまでとはと、呆れと尊敬の念が湧き上がる。
一方誘拐犯はそんな彼女のことをよく理解しているのか、特に反応することなく、最後の人物の紹介に移った。
『最後。彼は探偵ではないが、能力と実績、そして一番は誘拐の機会に恵まれたことから、急遽入れさせてもらった。日本を牛耳る四大財閥の一角である如月家のご令息。つい数日前に実家から勘当され一切の後ろ盾を失った『放浪少年』こと如月宗助』
「趣味は修羅場くぐり。好きな物は殺人犯と探偵。スリルジャンキーの如月宗助だよ。みんな宜しく」
おかっぱ少年――もとい如月宗助は、うっとりとした笑みを浮かべ僕らの顔を見回した。
色々と情報量が多すぎて脳が処理しきれていないが、ひとまずこの場にいる全員の紹介が終了した。




