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14話 モンスター


「だいたい、うちの子が居なくなったのだって、学校の監視が緩いからでしょ! 責任転嫁するなんて、とんでもない学校だわ!」


「学校は監獄ではありませんので……」


「言い訳ばかりね。そんなだから死人が出るのよ」


 壁に耳を当てると、聞こえてきたのは剥き出しの嘲笑。それに耐えている教頭が気の毒になってくる。


「その件ですが、今日いなくなった児童たちが、あの日亡くなった三門くんを体育倉庫に呼び出していた記録が出てきてまして」


 息を潜めたクラスメイトが廊下に並んでいる。全員廊下側の窓に影がうつらないようしゃがんでいて、ちょっと滑稽な光景だ。


「は? それがどうかしたの?」


「何? 教頭先生はうちの子が例の子をイジメていたとでも言いたいんですか?」


 途中で声が変わる。どうやら一人ではないらしい。


「なんですって? これだから教師は……。名誉毀損だわ。そんな話を外でしたら、マスコミに訴えてやるからね。何て書かれるかしら。ふふふ」


 親同士が共鳴し合って、ボルテージが上がっていく。そこまであいつらを信じられるなんて、逆にあっぱれだ。


「子どもたちがいなくなったのは、疑われていることに気づいたからじゃないかしら。子どもってそういうのに敏感だから」


 あいつらが敏感だなんてありえない。もしも勘づいたとしたら、僕の迂闊な発言からだろう。もちろん、知っているのはクラスメイトだけだが。


「これが、体育倉庫の裏で見つかりました。三門くんの遺書です」


 教頭の声が震えている。


「「は?」」


 遺書の存在が意外だったのだろう。今来ているのは二人だけのようだが、見事に声がハモった。それから読んでいるであろう沈黙が続く。


「こ、こんなもの、偽物でしょう?」


 母親たちはことの重大性に気づいたらしい。ようやく動揺がはじまった。


「いえ。ここにあるパスワードで、三門くんが使っていたスマホのファイルが開かれたそうです。内容は、イジメの録音データ。つまり、その手紙は本物です」


 盗み聞きしていたクラスメイトたちが、無言で顔を見合わせた。


「今朝、私どもの方でも音声を確認しました。言葉を失うほどひどいものでしたね」


「ちょ……そんな、もちろん、内々に処理してくれるんですよね?」


 この期に及んで、よく言う。


「提供元は三門くんの保護者からです。私が判断できることではありません」


「な……子どもがしたことよ? こういうのは脅迫っていうんじゃない?」

「そうよ! そんなの許せない! 管理不行き届きで、学校を訴えてやるわ!」


 小学生でもわかる。この人たちはおかしい。


「私どもとしても、将来のあるお子さんを見捨てることはできないと思っています。しかし、誠意ある対応をしなければ、先方はデータを公表してしまうかもしれない」


 教頭先生は、声を震わせながらも言葉を積み重ねる。

 

「うちの子だけが悪いとは限らないでしょう。 いじめられている子にも原因があったかもしれない。録音だって別人の声かもしれないし、合成音声って可能性だってあるでしょう? そういうのは調べたんですか?」


「教育委員会からは児童への聞き取りをするよう指示がありました。そのほかの調査は学校の手を離れるでしょう。ご希望であれば伝えますが、もうそのような段階ではないかもしれません」


 教頭先生も大変そうだ。僕ならこんな会話は嫌だ。


「ということはまだ調べてないってことですよね? この学校は調べもせずに決めつける気なの?」


 いかなる時でも自分の子どもを信じるのは、親の美徳ではあるのだろう。きちんとした調査も、きっと必要なのだろう。個別で見ると正しいのに、結論がおかしい。


「調査は今後行います。ですが、その議論は後でも良いでしょう。とりあえず、武藤君と久滋君は家に帰っていませんか?」


 誰かの舌打ちが聞こえて、ドキッとする。


「来る時にあの子の部屋は見てきてないわ。そういうことは事前に言ってくださらないと」


「そうよ、気がきかないわね」


 おばさんたちが、家に帰るために職員室から出てきたらバレそう。そう思った瞬間、前にいた男子がハンドサインを出してくる。意味は、多分『教室へ帰れ』だろうか。

 ソッと、クラスメイトたちの撤退が始まった。


「とにかく学校じゃ話が噛み合わないわ。私が直接三門さんと話をつけます!」


 最後に聞こえた言葉に、クラスメイトたちがギョッとして一瞬足を止める。

 

 僕は天井を仰いで、涙をこらえた。これはややこしいことになりそうだ。死んでからも親不孝をしてごめん。


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