野口英世
電車から降り、和佐駅という場所に着く
そこは聖徳太子の家になっていた
古い調度品が並ぶ土蔵の中、木棚を聖徳太子が壁から一段一段と取り除いていった。
その壁穴を通ると、狭い部屋があった。
そこは作り物のように整頓され、塗り固められた部屋だった。
聖徳太子が壁によじ登るようにして、窓の外を眺めた。
聖徳太子はそれを僕らに見せたかったのだろう。
連れは三人いた。
一人は隣の部屋に残してきた。
もう一人のほうは聖徳太子と並び、窓の外をのぞいた。
そのまま、長い間固まっていた。
高い視点にあるので僕は見えなかった。
部屋の掃除整頓を任されているのであろう若い男性がいた。
彼は和装を着ていた。
こんばんは、と声をかけると、こんにちは、と返してきた。
こんにちはと返した。
聖徳太子がずれてくれたので、僕はその窓を覗くため壁によじ登った。
竹の塀をよじ登り、その向こうに見えたのは、過去の英雄の、最期の姿だった。
竹の塀の頂点は、ちくちくとしてとても触れない。
それは当時の心中を忘れないための配慮なのかもしれなかった。
けしてこの光景を、暖欒として眺めるなと。
額に赤の角を生やし、白の戦着を纏った戦神の将。
かの英雄は、胸を巨大な棘で串刺しにされ、息絶えていた。
奥には巨大すぎる妖の巨体の片鱗が見えていた。
かつて多くの村人が、その光景を竹塀から眺めたのであろう。
痛みも忘れて、その光景に見入っていた。
時代は今。
妖の跳梁は今もずっと続いている。
隣の部屋で、調度品の崩れる音がした。
今、自分にできることを考える。
隣の部屋に飛び出し、暴れる親友を地に伏せさせる。
頭に手を伸ばし、封印を開始する。
・・・
親友の頭から伸びていた赤い角が、消えていく。
まだ安心はできない。だが彼の肩を起こし、いつでも封印できるように頭を手で押さえながら、隣の部屋に連れて行った。
窓を開けて、彼にその光景を見せる。
彼は戸惑うような顔をする。
窓の外に、その少女はいた。
女子の制服にマフラーを巻いた黒髪の少女。
彼は無表情に、「彼がそうなんだ」と、窓の外から頭を入れる。
彼女から彼を引き離し、待て、こいつはまだくるっている。という。
彼は彼女を見て、まだ戸惑うようにしていたが、数瞬後に獣のように彼女に襲い掛かろうとした。
彼を封印し、その場は終わった。
聖徳太子は近世に蘇ったことがあった。
僕らを案内してくれたのは、野口英世その人であった。