刺されたら治せばいいんですよ
この学校に通う生徒達は大体がバスか自転車、徒歩に分けられる、ここ松代の町には近くに電車が通っていないからだ。何年か前はこの町にも電車が通っていたが今は廃線となっている。
こんな田舎の高校だが、女子校だけに防犯実習は毎月欠かさず行っているらしい、最近は何かと物騒な世の中ですからね。
そう言うわけで今日は朝の体育館に全校生徒が並んでいる。
「は〜い、では次は2-A前に出てぇ」
「犯人役、武田先生、大村先生。お願いしま〜す!」
「「ハイ」」
私と大村先生はダンボールで作ったナイフを持って、2人の女生徒の前に飛び出した。
「キャ♡武田先生!」
「ちっ、こっちは大村かよ」
バスケ部の副部長、芦屋さんが舌打ちする。機嫌が悪いのか?
「はーい、犯人さんはナイフで生徒さんを襲ってくださ〜い」
警察の方の指示で犯人役の大村先生と一緒に女生徒の腹部を刺そうと動き出す。
うん、こう言う時は結界魔法を使えばいいんじゃないかな。
「はい、そこでストップ。ナイフで襲って来た相手の正面に突っ立っていては簡単に刺されてしまいますね」
警察の方が生徒達に語りかける。
「では武田先生、ゆっくりナイフを生徒さんのお腹に向かって突き出して」
言われた通りダンボールナイフを前に出す、お腹に当たったダンボールがぐにゃりと曲がる。
「アン♪」
すると被害者役の女生徒がよろけて私に抱きついて来たので優しく抱き止めた。
「「「「キャーーーーーーッ♡」」」」
「ちっ。あ、はーい少しは避けようとしてくださいね、それでは刺されに抱き着きに行ってるようなものです」
警察の方。もう佐藤さんでいいか、今舌打ちしませんでした?
次は大村先生の番だ、頑張って。
パンッ!
今度の女生徒、芦屋さんは大村先生のダンボールナイフを思いっきり蹴り飛ばした。お見事、ダンボールナイフが宙を舞う。
「「「「おお!」」」」
「はい、ストップ!ナイフを蹴るのは危ないのでまずは避けましょう、こうして横に回り込むか、それが間に合わないようならその場でしゃがみ込んで転がってください」
佐藤さんは私のナイフを横に回り込みながら説明する。なるほどこの世界では暴力にこう対処するのか。私の場合、斬られても即死じゃなきゃ治せばいいやと思っているから、避けるという考えが薄いんだよね。
その後も訓練は続くのだが、なぜか私の担当する被害者役の生徒は犯人役の私に抱きつこうとして来る、佐藤さんが舌打ちしてるのでちゃんとやってほしい。大村先生はちょっと半泣きだ。
「では今日の講習の最後は、実際のスピードでやりますので参考までに見ててくださいね、武田先生お願い出来ますか」
佐藤さんに呼ばれステージに立つ、犯人役の佐藤さんがダンボールナイフを低く構えると、本番さながらの殺気を私に向けてくる、流石は警察官だ迫力が違う。
「行きます!」
ドンッ!
「「「「キャーーーッ!」」」」
実際の事件現場のような迫力に生徒達から悲鳴があがる。佐藤さんがするどい踏み込みで一気に間合いを詰める、結構早いな。私は佐藤さんの迫力ある演技に思わず突き出されたナイフを2本の指で上から摘んでしまった、やば、横に回らなきゃいけないんだった。
つまんだナイフを引きながら佐藤さんの横に回る、それによって前のめりになった佐藤さんの足を反射的に払ってしまった。
「あっ」
「「「「キャーーーーーーーーーーッ♡」」」」
ゴロゴロとステージの上を受け身をとりながら転がった佐藤さんが、何もなかったように立ち上がる。
「いや〜、武田先生は武術の経験がおありで、お見事でしたよ、皆さん拍手!」
パチパチパチパチィ
「…………」
あっぶなぁ。これ佐藤さん上手いから何もなかったように無傷だけど、他の人だったら怪我させちゃってたかも。流石に全校生徒の前で治癒魔法は使えなないし失敗した。
「ねえ、今の警察の人本気でやってなかった?動きが早くて見えなかったんだけど」
「どうなったかわかんないけど、仁先生、カッコええ、私も守ってもらいたい」
「う〜ん、バスケの時から凄いとは知ってたけど、なんかスポーツやってたってことか」
ステージの端に保険医として並んでいた李 蓮花が小さく呟く。
「マジか、あの内海の本気の突きをああも簡単に捌くなんて。やっぱり、仁様は私の婿にするしかないわね」
蓮花は内海が結構強い事を知っている、多分警察内部でもかなり上位の実力だ、まぁ自分よりは弱いけれど。
そんな内海が目の前であっさり捌かれて床を無様に転がっている、ゾクゾクと興奮したように電流が身体を流れる感覚に快感を覚える蓮花、戦闘民族は変態が多くて困る。
当の内海は…。
「完璧な体捌き、反射的に身体が動いていた、あれは武術も相当にやり込んでいるぞ」
銃も効かない、ナイフも効かない、爆弾も効かない、どんな魔法が使えるかもわからない異世界の化物。
そんな化物 (武田仁)の対処法がすぐには思いつかずに頭を悩ませるのだった。
ピョウ!
「おわぁ!」
「大袈裟に避けんじゃないよ、隙が出来るよ」
「いやいや、サクラ様に斬られたら、真っ二つにされるイメージしかないんですが!!」
この人がプラーナの騎士団指南役になったら最強じゃねと考えつつ、今日も必死に桜の刀を避ける仁であった。
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