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その言葉の意味を知って

翌朝。王都から領地へと、ノクスレインたちは移動を開始した。半日ほどかかる長い帰路なので、冬本番を迎えたこの時期では、着いた頃には日が沈んでいることだろう。


馬車に揺られながら、ノクスレインは友人との会話を思い返す。

回復系・祝福は本当にまごころというものが必要なのだろうか。まごころとは言わずとも、シンプルに想いを込めれば込めるほど魔力量が上昇していくことなど、果たしてありえるのか。


領地が近くなってきて、ノクスレインはその真相がより気になり、すぐにでも確かめたくなっていた。


「フェーブルの牧場に寄ってくれ」


「承知しました。到着する頃にはすでに仕事を終えられていると思いますよ。それでもよろしいですか?」


「問題ない」


同乗しているローレイは営業が終了している可能性を示唆したが、今日のところはそれでかまわなかった。

エルフィスとの接触は、明日以降でいい。

ノクスレインの目的は、厩舎にいる動物の様子を見ることだった。

もしもエルフィスの魔法が動物に影響をもたらしているのであれば、その残滓が己の目で確認できることだろう。祝福には未知の部分が多いので、あらゆる可能性を観測しておく必要がある。


周りが真っ暗になってまもなく、ようやくフェーブル家の牧場についた。


ノクスレインは黒メガネを外して、ローレイを従えて小道を進む。

当然この時間に放牧されている牛などはいないので、とても静かで風の吹き抜ける音だけがこだましている。

道の突き当たりには火の魔石の揺らめきが漏れる家があり、おそらくフェーブル家の団欒の時間を迎えているのだろう。

その横には大きな厩舎があって、かすかに動物の鳴き声が聞こえてくる。

その方向へノクスレインが歩み始めると、ローレイが後ろから静止を促した。


「ノクス様、そちらは厩舎です。無断で入るわけにはいきませんよ」


「なぜだ?ここはスコルティシュ家の領地なのだ。領主が入っていけないわけなかろう」


「……はぁ。なんて横暴な……」


「少し確認するだけだ。すぐ終わる」


ノクスレインたちは、無断で厩舎に立ち入った。

中にはニワトリや牛がいて、奥には馬がいるようだ。


ノクスレインは虹色に煌めく瞳で、しかと動物たちに目を向ける。

きっと、昼間などの陽の光が眩しい時間帯では気づかなかっただろう。

やはり見にきて正解だった。


ノクスレインの目に映ったのは、黄と緑のオーラを薄らと纏った牛とニワトリたち。

さらに奥にいる馬たちを順に見ていくと、1頭だけ特別エルフィスの色が濃い、茶色の馬がいた。


「ノクス様。何をにやけてらっしゃるのですか?」


想像以上の収穫にノクスレインが不敵に口角を上げていると、ローレイもうすら笑いを浮かべて尋ねた。


「おそらくエルフィスが世話をしている動物に、祝福の魔力が注がれている」


「持続性のある魔法なのですね、素晴らしい」


「これだから魔法は面白い」


世にまだ出回っていない情報を知り、ノクスレインはさらに口角をつりあげた。


厩舎の1番奥まで見て回り、引き返そうとした時、外から眩い光が射し込んだ。


黄ーー緑の強い光。


それに気がついたのは、ノクスレインだけ。

ローレイは一切反応を示さない。

つまり、この光は魔力によるもの。


ノクスレインは厩舎の奥から外に出て、光の発生源を辿っていく。


「ノクス様、どちらへ?」


一心不乱にノクスレインは進む。

ローレイの問いには答えず、魔力の根源を追う。

先にあったのは、倉庫のような小さな建物で、少し開けた扉。

中から膨大な量の、黄と緑の魔力が漏れ出ていた。


そっと近づいて、声が聞こえた。


「……ごめんね……わたしがもっとしっかりしてればよかったね」


女の涙声。

ノクスレインは、ゆっくり中を覗き込む。


「……もっと勉強しておけばよかった」


ニワトリを抱き締めて、ぼろぼろと涙を流すエルフィスがいた。


「……ほんと、ごめん、ね……ひくっ……治してあげられなくて……ごめんね……」


また魔力による光が強くなり、


「……どうか、ニワトリさんたちに、元気を……」


大きな渦のように荒くれて、光って瞬いて、倉庫の扉から魔力の洪水が溢れ出て、ノクスレインたちは完全に呑み込まれた。


「……美しい」


そう、ノクスレインから言葉が漏れた。


魔力に包まれて、ノクスレインはほんのりとした温かさを感じた。

これまで散々魔力を見てきた。強くて眩し過ぎれば、魔力は気持ち悪くなるものだと思っていた。


エルフィスの魔力はいつまでも見ていられる。

むしろ心地良い。


そして何よりノクスレインの心を打ったのは、エルフィスが流す涙の色。


彼の目に映る世界は、色が多すぎる。

ありとあらゆる魔力が煌めき、そのすべてが反射して脳を刺激する。


綺麗ーー美しいーー。


そう思える色なんて、とっくの昔に失ったと思っていた。


だが、エルフィスの頬を滑り、顎を伝って落ちる無色の涙は、この世で1番美しいと色だと感じた。


「レオよ。まごころの意味がわかったぞ」


友人の言っていた言葉の意味を知った。


ノクスレインは静かに立ち上がり、厩舎の方へ歩き出す。


「ノクス様、どちらへ?」


「エルフィスの両親のもとだ」


「本日は見学だけではなかったのですか?」


「気が変わった」


「今、どんな気分でして?」


「……どうにかしてやりたい……いや、守るべき……だと思った……」


「ふふっ。そうですか。お供します」


ローレイも先ほどの光景を見て、ノクスレインの想いをなんとなくではあるが察した。

金のにおいは、恋のにおいに変わったのだろうと。

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