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第七話 おばけ?

 あたしは片桐朝茶子。実はジェンガが好きな女の子だよ。

 あの積み木って、とっても楽しいよね。何しろ続ければ続けるほどどんどんもろく、スカスカになっていって、最後は崩れて台無しに。そんなのはとっても命に似ていて可愛いと思うんだ。

 あたしは、一人だって、ジェンガやっちゃうよ。ただ、バラバラ落ちる時に立てる音がうるさいって、お母さんに怒られてからは五段重ねくらいで遊ぶばかりだけど。

 でも、よくやってるから結構上手いんだ。夕月ちゃんとかには、毎回勝っちゃうよ。だから、あたしは自分がバランス感覚が良いものと勘違いしていたけれど。


「バランスを取るのが得意って……そういう話かい」

「はいー」


 でも、実際に全身でバランスを取ってみたら、ダメダメだったよ。

 片足つかんで立ったら、右に左にふらりふらり。巫女子ちゃんの大丈夫ですか、っていう悲鳴のような声を前にカツンと地面にお顔をぶつけちゃったよ。

 結構衝撃があったから、床にヒビとか入っていないと良いね。あ、大丈夫そう。でも自信満々に披露してこれってのは、あたしもちょっと恥ずかしいよ。


「片足立ちさせたら三秒で両足に戻っちまうから、どういうことかと思ったら……遊びの中の話だったとはね。まこ、あんたも知らなかったのかい?」

「あー……はは。知ってたわよ。でも、言っても中々理解してくれない子だから」

「やれ。アタシはセンセイ代わりかい? そんなのは、ガッコウでやっとくれよ」

「学校、ですかー」


 与田さんとまこさんの会話で、あたしは思っちゃう。学校、というのはあたしもほとんど毎日行ってるんだよ。

 いいよね、お昼ごはんが食べられて。気が向いたら、お外で遊べるのもいい感じ。

 それに、普段と違う勉強が出来るし、夕月ちゃんとも会える。人はちょっと遠いけど、でも良いところだよね。

 ただ、先生たちは、どうしてだかあたしのことを無視するんだ。あれかなあ。出ちゃいけないって言われてたのに、中学の頃陸上の大会に出ちゃったからかな。

 記録としては敵うはずだったけど、実際はぺけだったものね。やっぱり、結果を出さないと認められないのかな。


「頑張んないとダメだね」

「やれ。自覚が出たようだ。一部極端に恵まれているからって、全体良くなる努力を欠かすことはないもんだよ」

「全体、ですか」

「ああ。あんたはそのままで強いかもしれないが、他が良くなると、きっととんでもないことになるよ」

「……そうなったら、愛して貰えます?」


 あたしは運動音痴のお馬鹿さん。そんな良くない子が、愛されないって言うのはお母さんから聞いて、よく知ってるんだ。

 でも、それがマシになったらどうだろう。愛して、貰えるのかなあ。

 こわごわ聞くあたしに、与田さんは胸を張って言うよ。


「ああ、勿論さ! 誰も幾らだってあんたを愛すだろうよ」

「わあ」


 それは、なんてステキな断言だったのだろう。愛してもらうなんてめったにないことなのに、幾らでもなんて。

 これは未来が薔薇色に思えちゃうよ。あ、でもそのためにはやっぱり頑張らないとだね。


「よしっ!」


 あたしは、もう一度やってみるよ。今度は振り子じゃなくて、ヤジロベーをイメージして。

 あ、ヤジロベーっていうのは日本の伝統的なバランスおもちゃなんだ。右手左手おもりを持って、それで揺れに耐えて立っちゃうんだから、とんでもないよ。

 お家には、そんな感じの旧いおもちゃがいっぱいあったんだ。だから、それに手垢が付くくらいには触れていて、だからちょっとくらいは。


「こんな、感じ、かなー」


 うん。片足になってたのは時間にして10秒くらい。記録更新だね。ヤジロベー先生は偉大だよ。


「……才能も何もないが……いや? これは……」


 すると、どうしてだか与田さんがあたしの飛躍を気にしだしたんだ。

 なんだろうね。よく分かんないけど、値踏みするかのように与田さんはあたしを見ているよ。それにしても、スポーティな人ってスゴイんだね。

 表情もそうだけれど、全身をよく動かして、活動的。


「あんた……ひょっとして。いや、そんなことは……」

「どうしました?」

「はぁ。ものは試しだ。今度は……そうだね、木とかを真似しながらもう一度やってみな」

「はい!」


 そう言われて、あたしももう一度片足を浮かしてみるよ。そうして、今度は木を真似して。

 あれ、どうすれば良いのかな。木って動かないよね。鼓動もなく、理解もないそんな類だよ。まあ、でもそれをするくらいなら。


 よし。






「朝茶子様、朝茶子様!」

「んぅ?」


 そうして、気づけばあたしは巫女子ちゃんの膝の上だったよ。柔らかいね。顔が近いな。

 なんでかこの子あたしに優しくしてくれたみたいだけれど実は巫女子ちゃんは、とっても嫌そうな顔をしているよ。

 目も合わせたくない感じだったから、あたしは直ぐに立ったんだ。うーん。ちょっと寝ちゃったのかな。いやそういえば。


「あれ、あたしどれくらい立ててました?」

「……朝茶子さま?」


 そういえば、あたし、バランス取りをしていたんだよね。どうして寝ちゃったのかは分かんないけど、その前に良い記録が出ていたら良いんだけど。

 あたしの眼下でおどろく彼女は、まあ今はどうでもいいね。あたしの頑張りが、少しでも結果になっていたらと、計ってくれていただろう与田さんを探すよ。


「っ、はぁ……」


 そうしたら、近くで何か大げさな、心臓マッサージをする奴かな。そんな機械を持った与田さんが見つかった。

 あたしを見て大きなため息をついたのが、不思議だね。首を傾げて、あたしはどうしてだろうと思うよ。


 でも、あの時あたしはただ木を真似して身体の動きをちょっと停めただけ。それだけで、驚くようなことも呆れるようなこともしていないと思うんだけど。

 ただ、流石に大人だね。恐れを飲み込みながら、与田さんはあたしに声をかけたんだ。


「言いたいことは沢山ある。だが……まずは、平気かい?」

「はい!」

「それは良かった……」

「それで、結果は何秒でした? 記録更新、出来ました?」


 振り子、ヤジロベー、そして木。そんな風に動きをどんどん小さくしていったんだから、結果は良くなったと思うんだ。

 えっと。時計をみると十五分弱経ってるね。でも寝ちゃった時間を含めると、立てていたのはそんなじゃなさそう。

 でも、頑張った結果は良いものじゃないと困るから。あたしは聞いてみたのだけれど。


「そんなの、忘れちまったよ」


 与田さんには、そんなことを言われちゃったよ。

 あれ、なんだか拗ねてるのかな、この人。口先尖らせちゃって、可愛らしいね。

 ひょっとしたら、あたしの記録があまりにすっごくって、嫉妬でもしちゃったのかも。


「ふふふ」


 そう思うと、この人も人間らしいって思えるね。ああ、そういえば与田さん、あたしが起きる前と比べて全体乱れた感じがあるよ。

 身だしなみを忘れるような何かがあったのかな。ああ、あたしがこてんて寝ちゃったから、予定が狂っちゃった、って怒っちゃったのかもしれないね。


「はぁ……なあに笑ってるんだい、この子は……」

「朝茶子ちゃん!」

「わあ」


 あたしが笑っていると、じとりと与田さんは見返してきた。それに、何かを返そうと思ったところであたしたちの間を影が駆け抜けたよ。


 びっくりしたけど、更にそれは止まって私へ抱きついたんだ。あわ。おっきなのがきつく締め付けてくるよ。

 ひょっとして、これは。


「朝茶子ちゃん、良かった、生きていてー!」


 そう。その人はまこさんその人だったんだ。ふわふわ髪をこれでもかと乱しながら、あたしを強く強く抱きしめるその人は。


「なんでおばけ?」


 頭に、おばけの三角巾、天冠を身に着けていたんだ。茶髪にそれは、どうも似合わないね。


「良かった、良かったよお!」

「わ」


 そうして、どうしてだかなんでもないあたしの無事を、まこさんは泣いて喜んでくれた。

 よく分かんないし、窮屈で冷たいけれど。でも。


「嬉しいなあ」


 あったかくもあったから、あたしはそんな風に、思ったよ。



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