09
地球から飛び出した人工生命が銀河サイズの
軍団を率いる魔王となり
宇宙全体の生命を根絶やしにしようとします
その魔王を討伐するために人類の切り札
亜空間戦艦マグニファイセントが活躍します
その進化は突然に訪れた
超怪物ゾスターでさえ
思っても居なかった
福音となる一躍!
宇宙にとっては途轍もなく不幸な
出来事が起こったのだ
強力な新種のダークネスが
突然変異として産まれてくるのは
良くあることだ
ゾスター軍は博士を超高速で追いながら
エネルギーが枯渇しあまつさえ
カオスにゾスター経由でエネルギーを
大量に吸収されて干上がっていた
生存本能が悲鳴を上げる
これ以上前に進んではいけないと!
博士が自らの命を人質にしている
限り…ゾスターは止まる事が出来ない
この自滅えの鬼ごっこを止めるには
何としてでも博士に追いつき
捕まえるしか手立てはないのだ
他の手立ては全く通用しない
少しでも気を抜けば
博士の操る
カオスエントロピーアースは
手の届かない彼方えと跳び去り
博士はエネルギーを使い果たして
餓死してしまう
人質作戦や陽動作戦
多数の星雲を人質におびき寄せる
等々…散々な卑劣な事を
考え抜いたが…どれも
ゾスターは実行しうる暇が無かった
軍を最高速で維持してても
博士の速度には遠く及ばず
常に気を抜けない状況が続く
何をするにしても
あらゆる意味で余裕はない
そうやって疲弊させるのが
相手の手だと解っていても
この蟻地獄から抜け出せない
ゾスターが疲弊する事など
未来永劫ない、あり得ない事だと
ゾスター自信よりも他の誰も
思いこんでいたが…
この蟻地獄はゾスターでさえ
精神と肉体の両方を
極限に疲れさせた
であるから ゾスター自信が
何らかの突破口を発見する
可能性は万が一にも無かったのだ
ーーーだが
時として悪魔にでも微笑む時もあるのが
チャンスと言う代物だ
そのチャンスはゾスターの前に
突然訪れた
「新しい世代のダークネスだと?」
ゾスターはダークネスの超進化能力の
凄まじさは良く理解していた
自分自身ダークネスの進化の最終到達点
でありゴーラ無き今は
右に並ぶもの無しだと
誇っていたが
此処に来て
ダークネスの中に
その一分野だけならゾスターをも
凌駕する逸材が現れてきているのには
気にしていた
疲弊して弱くなった自分を倒し
王座を狙う馬鹿な野心家が
そうした逸材を利用して
自分の命を狙ってくるかも知れない
気にするところはそんな所だった
寂寥な魂しか持ち合わせていない
ゾスターならではのいらぬ心配
だったが…でる杭は打たれる
と言う事もある
ゾスターは強いダークネスの
誕生は種族にとっても
喜ばしいことと言いながら
その実
本当に危険なほど進化しそうな
者は危険分子として監視していた
その監視の目は全艦隊に人知れず
潜ませてある
その間者からの報告に
その異能進化体の情報がもたらされた
のである
「どのような能力に特化した
ダークネスが現れたのだ?」
ゾスターは王座に足を組み座り
ながら報告をするようにと
伝令を詰問する
ここで王を満足させる報告が出来なければ
自分は役立たずだと処断され王に
抹殺されてしまう 只の報告係としては
余りに重責の掛かる仕事であった
恐怖と使命感と極度の緊張
だがそれらを全て乗り越えなければ
彼は今この場で王に伝令として
座してはいない
多少緊張した声ではあったが
彼は伝令としての仕事を
全うする
「第345魔獣艦隊所属
旗艦ゴライオスにおいて
超進化体を1個体確認」
艦数が最早多すぎて全体的な数を
掌握するのはゾスター自信が
不可能なほど
ゾスター軍はその魔獣戦艦の
数を増やしていた
その規模は今や星雲と呼べる大きさを
有しており魔獣戦艦自体も
惑星よりも大きい船もあれば
恒星にも及ぶ大きさの船が
複数存在していた
それが…多くの犠牲を産んでの
結果だと解るのは、まずは
天文学者だろう
宇宙を観測し多くの星や星座に
ロマンを感じ名を付け親しんできた
光景は一変した
ダークネスの星雲艦隊とも称される
略奪者の群が通った後は
悲しい事にそうした美しかった
宇宙の有様を一変し
多くの星座が失われて行ったのだ
恐らく多くの文明の星の観測者達は
悲観に暮れる事だろう
だが…それでも所詮対岸の火事
本当に太陽や惑星を喰われる被害に
あった当事者は、そういった
悲観に暮れるだけでなく
命そのものも奪われてしまうのだから
星雲規模にまで巨大化した
ゾスター軍の犠牲となった被害の
規模を思えば
ダークネス大戦で
ネオスがゾスター軍を
殲滅出来なかった事が
今考えても大きい
ネヴィラキヤノンなら
あの時の魔獣戦艦艦隊を全て
凪払うことも可能だった
ゾスターと言う存在がそれを
阻み 今の窮状となったのである
「今ではネヴィラカノンでさえ
あの星雲規模へと巨大化した
魔獣戦艦艦隊を葬ることは
不可能だろう」
「これ以上エネルギーを与えず
ボイドに掛けるのが唯一残された
ゾスター討伐手段」
当初からそれしかなかった
…亘理洋子は全て読んだ上で
立案した作戦に何人も
代案など出せる道理はない
結局堂々巡りで
最初の一番単純で
確実な方法となる
「心が痛むな今現在も…我々がこうして
ゾスター問題で協議している間にも」
ゼクターはそこで苦い顔をした
「滅ぼされている種族や文明が
数多くあることを」
「模しも最初から渡瀬聖子と
意志疎通し
ダークネスの驚異を真剣に
取り組んでいれば…ゾスターの
驚異の力を知っていれば」
「聖子と協力し
ゾスターだけを艦隊から引き離し
その隙に宇宙の目…星雲砲で
焼き尽くすことが出来ていれば」
「ゾスターは…単騎で聖子を追い
エネルギーを供給する部下も
おらず 孤立無援にしたところを」
「ボイドに誘い込みさえすれば
後は消耗しきったゾスターを
全宇宙艦隊の戦力で
葬ると言う…確実な勝ち筋も
あったのだ!」
「そうすれば無用なこれほどまでの
大きな犠牲を払わずに済んだのだ」
ストームはゼクターの肩に手を置き
「模しもは無しだ…そんな都合の良い
展開は起こらないんだよ」
人間風情が自分の肩に手を置き
利いた風なことを…
以前の驕り高ぶった愚かな自分なら
そうなっていた事を思うと
ストームの言うとおりこの考えは
今の自分だからこそ出てくる発想であり
確かに欲を言い出せばきりがない
「過去の後悔はゾスターを倒した後に
幾らでもするが良い…だが今は」
ストームの言葉にゼクターは
力強く握手で応えた
「あの怪物を一刻も早く葬り去ることに
全力を尽くそう」
全宇宙の命運を掛けた大宇宙大戦
ダークネスと言うよりゾスターだけを
消滅させるのが目的の戦争である
ゾスターを処理できれば
内紛でも暗殺でも手段は問わない
それこそ
形振り構わない状況である
「こうなってくるとダークネス
そのものが…ゾスターを討伐する
鍵なのかも知れないぞ」
何しろゾスターは王として
余りに心が狭く器が小さすぎる
「力だけの王など真の尊敬は
受けられないだろうからな」
「それは人間でもネオスでも
そしてダークネスでも同じ
と言う訳か」
ストームの言うことは確かに
ゼクターも同意できる
「だがこれはゾスターの性格と
行動パターンをちゃんと理解している
から出てくる発想だ」
やはり産みだしたものの事を
一番理解できるのは
生みの親であるからか
ゼクターは地球を滅ぼそうと
短慮すぎていたことを
今更ながらに反省した
地球人が居なければゾスターを
討伐する事など到底出来なかった
ただ滅ぼすと言う考えは余りに
早計過ぎる判断をした
事によっては最後の最後まで
己の間違いに気づきもしないで
手に負えなくなったゾスターに
ネオスは無論のこと宇宙全てが
ゾスターに食い尽くされて
いたかも知れない
ゾスターの力に対抗する
その中心的役割を果たすべく
造られた亜空間戦艦マグニファイセント
その強化のために宇宙最高の
英知が結集されるのは当然の
事であろう
「ネオスの超科学は勿論
どんな力も選別しないで
マグニファイセントの力に」
だが…ゾスターの力を
理解できていない者達に
こんな話が通じるわけがない
それを思い知るのは
少し先の未来であり ストーム達
からすれば過去の光の中にある
ネオス銀河からボイドに向かう
中間にその文明は存在していた
力はネオスから観れば取るに足らない
脆弱であったがネオス星雲から
9000万光年も離れているために
お互い干渉もせず済んできた
だが…そのコリヤード星雲の
コリヤードという種族は
ネオスの超文明を盗み
その恩恵で周辺の銀河を
武力統一し一大銀河星団圏を
樹立したのだ
ネオスの超文明を如何にして
彼等コリアードが盗めたのか…それは
次元ゲートの偶然の発見による
コリアードは伝説にある
謎の超文明を探索していた
そしてある時一隻の探査船が
巨大なブラックホールに飲み込まれ
そのまま超重力に押しつぶされ
死んだと思われたその船員達は
奇跡的に9千万光年の距離を
一度に転移していた
実はそのブラックホールこそは
長年偽装されてきたネオス星雲に
繋がるゲートであったのである
そこでネオスとコリアードの
大きな関係性が明かされた
ゲートを司る人工知能のデーターに
コリアードが元々は精神が異常な
遺伝子を持つ劣等のもの達を
追放した文明圏のゴミ処理場
であったこと
ネオスは宇宙の発展のために
方々の宇宙にゲートを造り
援助や救いを与えていた
そこで惨めで哀れなコリアードの
現状をを不憫に思ったネオスが
コリアードに手助けをしたのだが
ある程度の力を得ると
元々の精神異常性が災いし
ある時からネオスを敵視しはじめ
ついには公然と攻撃しはじめたため
仕方なくネオスは
コリアードとのゲートを閉じ
封印した
だが…ゲートが宇宙規模の磁気嵐で
故障しその結果、コリアードに
悪用される結果となってしまい
コリアードはそのゲートを使い
まんまとネオスの科学力を
盗むことに成功し
その力を劣化コピーする事に
成功したのだ
ネオスに対する敵愾心や嫉妬が
産みだした復讐のエネルギーはそれだけ
強力だったのであろう
コリアードの事は
ネオスにとって最も
係わり合いに成りたくない過去
であり最悪の汚点である
ストームはコリアードの話を
ゼクターから聞き
恐怖心さえ感じた
「ネオスの科学を劣化コピーした
銀河星団が存在するのですか?」
ストームは更に詳しい話を聞きたいと
ゼーレブに問いかける
ゼーレブ
「嗚呼…あまり話したくない事だが
仕方あるまい」
ゼーレブはメタトロンとゼーレブの
二人にストームにネオスの汚点を
説明するよう命じた
ストームはそして吐き気を催す
陰惨な過去話を二人から聞かされる
事になる
「我々ネオスは…9000万光年と言う
超長距離ゲートを造って
始めてその惑星を発見した」
「目的は宇宙探査とネオスの
勢力外にもネオスに賛同する
ネットワークの構築を考えての
旅であったのだが…」
ネオスメタトロンは
何かで言葉を濁らせる
そこに助け船を出したのは
メタトロンの傍らで聞いていた
弟のネオスゼクターだった
「その旅先で出会ってしまったのだ…
あの種族に」
その銀河は名も知られていない
辺境の場所に位置し
我らネオスの構築する超銀河群にも
ギリギリとどかない場所にあった
ネオスでも銀河群を超えた場所で
ゲートを無しに中々到達できる
距離ではなかった所だ
その所属は凄く惨めな生活を
していて…教育や文化水準も
極めて低く 汚物や排泄物を
食すほど困窮していた
只ーーー
生活水準はそんな風なのに
身体機能は水準値を出していて
脳の発達も他の種族に比べ
劣っていた訳ではなかった
「我々は余りに惨めなその種族に
援助する事を決めた」
「それが…間違いだった」
ゼクターは当初のネオスが観察した
コリアード星人の生態をストームに
語って聞かせる
「3百年程 彼等を観察し徐々に
手を差し伸べて居たのだが」
「こう言っては何だが…俺は反対したのだ
コリアードをネオスが直接援助する
事には!」
「ネオスは宇宙でもずば抜けて強力な
種族だ そんなネオスが直接
面倒を見ればコリアードは
身の丈に余る力を手中に入れる
事になる」
「コリアードの存在する銀河には
まだまだ多くの未開の種族もいる
のだから」
「何もコリアードに其れほど
手を掛ける必要はないとね」
ゼクターは兄の顔を見た
メタトロンのその顔は浮かない顔だ
ストームはゼクターが誰に向かって
そう言っているのか容易に察しがついた
「ああ~っ」
メタトロンはコリアード擁護派なのか
「コリアードはその銀河中の種族から
欠陥している者達を追放する
場所だったのが…ネオスに
同情する者が多く産まれた原因だ」
「よせば良いものを…環境さえ
改善すれば心も改善するなどと
夢物語を描いた者達が
コリアードに知識と技術を
提供した」
「その結果 惑星コリアードは
急激に復興を果たし
その銀河でも有力な種族に
成り上がった」
ゼクターは忌々しげにそう吐き捨てた
本当に不本意そうだ
「他の宇宙との連絡用基地として
有効だったからネオスにとっても
コリアードの存在は必要だった
…のだが」
ネオスの超文明を理解せぬまま
只その技術だけを利用する
そのためにコリアードは
何度も大きな事故を引き起こした
「この事故に関して我が国は悪くない
非があるのはこんな危険な技術を
良く説明もせずに使わせたネオス国の
責任である」
「よって…我々はネオス国に対し
謝罪と賠償を要求する!」
正気か?
ゼクターの話を聞き
ストームが第一に抱いた感想は
其れしかなかった
ネオスはコリアードを増長させすぎた
それは自らが力をつけた自信から
出たものだと思っていたが
コリアードのネオスに対する
態度が変化しだしたのは
自分達がネオスの力を借りなくても
自分達だけでその銀河を
支配できると確信してからだ
コリアード人はネオスが
他の種族に自分達と同様の
技術を他の種族に提供する前に
ネオスを自分達の銀河から
追い出す算段に出てきたのだ
だがネオスであるゼクターや
ネオスリーダーのメタトロンには
所詮子供の駄々であり其れほど
大きな問題に捉えていなかった
それこそコリアードの育ての親だと
言う自負があり 精神的に未熟故の
発言程度に思ってしまっていた
のであるからネオスもまた度し難い
俯瞰から観ていたゼーレブから
してみれば 自分が口を出す事ではなく
ネオスに人間を学ばせる絶好の機会
とも思いわざと捨て置いた
ネオスの進化に役に立てれば
この失敗も無駄にはならない
だが…ネオスのコリアードに対しての
余りにも甘い政策はその後も続いた
まるで出来の悪い我が子を
溺愛する父親のように
その接し方にゼクターは
疑問しかなかった
「出来の悪い子ほど可愛い
とは言うが…程がある」
ストームは話を聞いていて
ネオスが決して完全無欠では
無いことを再確認した
「ネオスの保護本能は過剰すぎる…
生物とエネルギー生命体である
ネオスとでは余りに存在そのものが
違いすぎて理解し合うのは
不可能なのだが…」
「元々のコリアードの
歪んだ精神疾患が災いして
同じ銀河内でもコリアードとは
関わるなという古くからの
諺があるほどだ」
ストームはその後のコリアードが
どう態度を急変させたか一応
聞いてみた
「それで…コリアードはネオスを
自分達を植民地化したとか因縁を
つけてきたのではないのかな?」
ゼクターは驚きの表情をする
「まさか俺の考えを読めるのか?」
ストームは肩を上げまさかという
ジェスチャーをする
「察しただけだよ地球にも同じ様な
ケースがあったからね」
ストームは話す
「外の国から観ても二つの国の
その関係は歪だった…一方の国は
一方の国を建て直し多くの時間と手間を掛けて
育てたにも関わらず…その助けられた国は
恩を徒で返し…最期は無意味に消滅した」
「後には虚しさと焦燥感だけが残った」
ゼクターは其れを聞いて
少し頭を掻いた
「確かに…似ているが…」
そして少し間をおき
「まだ…コリアード問題は現在も
継続していてね…もしかしたら
ゾスター軍の異常進化に何かしら
荷担している節があるんだ」
「コリアードが?」
何かあるのか?そう思える
何かが?
渋々だったがメタトロンが明かすのは
「実は我々の技術で造ったあるシステムを
悪用されているらしいのだよ」
あるシステムに引っかかるなあと
ストームは思った
「あるシステムとは?」
メタトロンはそのシステムの
詳細を話し始める
「そのシステムの名は
エクセルーラ44」
「緊急時ブレーキシステムだ」
緊急時ブレーキシステム
それは超光速で運行する船が
何らかの事情で暴走したさいに
宇宙空間そのものに重力空間を
設置させそこに逃げ込めば
危険地帯であるボイドに
飛び込まずに済むと言う
そんな内容である
ストームはその話を聞いても
凄いシステムなのだろうなー
ぐらいにしか聞いていない
だが…ストームの腰にぶら下がる
洋子の分身であるセプターは
違った
(キャプテンストームそれは不味いですよ)
ストームはセプターのメッセージを
脳内で共有できる
(何が不味いと言うのだね?)
聞いたところ只の緊急ブレーキ装置で
危険はないきがするが…
セプターは
(ボイド前に設置したとゼクターさんは
確かに言いました)
ストームも流石に気が着いた
「あっ!」
その表情からストームも気が着いた
のだとゼクターは理解した
「そうなのだ…あの装置の能力でなら
彼女の船を拿捕することも可能なのだよ」
其れを聞いたストームは流石に
背筋が凍り付く
ゾスター討伐のプラン自体が
崩壊しかねない報告である
「ば…馬鹿な!そんな事をすれば
洋子の計画が水泡に帰す」
「止めさせて下さい」
ストームは落ち着きを失う
「待ちたまえ…だからもう
やってしまった後だと私は推測
している」
ゼクターには確信に似たものがあった
コリアードはネオスの警告通信を
無碍もなく無視した
いつもの事ながらゾスター軍を
軽視している
「我々コリアード軍が
ネオスが取り逃がした
ゾスター軍を迎え撃ち
必ずやゾスターと言う怪物を
討伐して見せるので
安心して任せられよ」
と言う絶望的に現状を把握していない
コリアードの考えが伝わる返信が届く
ストームはゼクターに
詰め寄るように聞く
「誰かネオスにコリアードに顔が利く
者はいないのか?」
相当失礼で無礼ではあるが
ストームもそれだけ必死だ!
「残念ながらネオスとコリアードは
300年もの間…国交を断絶し
ゲートも封鎖していた険悪な関係に
なっていた…だが…誠に遺憾ながら
ネオスにも信じられない程の
親ばかな者もおるかも知れない」
そう言いながらネオスリーダーを見る
ゼクター
ネオスリーダーメタトロンは
少し躊躇いながらも
その話をすることにした
「ストーム大統領…私の元部下で
コリアードにパイプを持つ者を
紹介しよう」
コリアードに交渉の意志が
ないのだからその親コリアードの
ネオスをあてにするしかない
何しろ渡瀬聖子博士が捕らえられているのか
どうかも解らない状況なのである
全ては状況から見ての推測の域を出ない
「そのネオスを紹介して下さい
事は急を要します!」
メタトロンは席を立つ
「確かにその通りだ迷っている
場合ではないな」
「だが…驚かないで欲しいのだが
その者は…今はネオスの監獄で
収監されている」
ストームは一瞬我が耳を疑った
「ええ!?」
メタトロンはストームを
惑星ネオスに招待すると言う
知っての通り超エネルギー生命体である
ネオスの領域に人体で踏み込むことは
不可能だ そこでストームは
キャプテンデーヴァボイストームに
変身し更に特殊な装置を装着して
超新星に匹敵する危険なエネルギーから
身を護る
これで3時間は何とかネオスの環境化でも
生命を維持できるのである
「ネオスの技術を駆使しても1時間が
限度か…交渉人を説得するのに少なすぎる
時間だがやるしかあるまい」
ストームも始めてとなる
もの凄くギリギリの交渉である
ネオス星の監獄に今から向かうのだ
ストームはマグニファイセントの
クルー達に現状を説明し
自分がその説得に向かうと言うのだ
当然クルー達は反対した
マグニファイセントの艦長であり
アースソードの大統領でもある
キャプテンストームを
そんな危険な場所に単独で
せめてシャレーダーが居れば
ストームの安全率も上がるのだが
現状ではシャレーダーは特別任務に
ついていて
此処には居ないのだ
だがストームの決意は固かった
「仕方ない他にこの任務を努められる
能力と権限を持つ者は私以外には
居ないからな」
「事が事だけに迷っている時間はない
一刻も早くコリアードと連絡を取らねば
取り返しの着かない事態になる可能性がある」
其れを聞いても副長であるイズミは
どうしてもその交渉人が一筋縄で
いかない人物だと言うのが不安だった
「ネオス監獄に収監されているなんて
一体どんな人物なのでしょう?」
「ネオスほど完成された社会で犯罪を
犯すなんて 逆に相当危険なのでは?」
一体ネオスの何の法を破ったのか?
まあそれもネオス最重要機密事項
なのだろうから
おいそれと教えては貰えないのだろう
キャプテンボイストームは
完全光線防御の状態となりいよいよ
光の惑星ネオスにテレポートする
準備が整った
「結局一度はネオス星に行く事には
なっていたんだ…それが私一人で済んで
幸運だったよ」
ストームはブリッジに残す
信頼できる仲間と言うクルー達を
見回すと人間の姿であるゼクターと
メタトロンと共に亜空間跳躍した
後に残されたクルー達は
自分達が信じる無敵の艦長の
無事の帰還を願った
其れは眩しいただただ眩しい
白い世界だった
光り輝く白い世界 それが
銀河の中心部に位置する
その星のイメージである
そしてストームの目が
やっと順応しだし
周りの風景が見えてきた
其れは驚異の世界であった
付近の星は全て超巨大白色恒星であり
ネオス星自体 普通の岩石惑星ではなく
巨大な恒星に人工的に造られた構造物が
取り囲むという前代未聞の様相をしていて
まさに驚異の世界がそこにはあった
「太陽を閉じこめるとは
いや…太陽の表面に都市を造ったのか
…全てが人工物だとすると
途轍もない科学力だ」
もはや驚嘆しかないネオスの科学力だが
これを真似しようと言うコリアードは
無謀を通り越して愚かだろう
まあネオスの真髄を見ることも
出来ないのだから
知らぬが仏とは正にこれのことである
ゼクターが説明する
「我々は星雲の中心部にある
ブラックホールをこのネオス星から
コントロールして星雲砲を発射する」
「それをやるには恒星のエネルギーを
完全に操る必要がある」
「その方法をあなた方の
マグニファイセントに応用できれば
必ずやゾスターを倒す切り札となろう」
メタトロンがそう言うのを
ストームは聞きながら
夢物語だと思った
「星雲中の恒星から熱エネルギーを
集め一点に集約し発射する
ネヴィラキヤノンはこの水準の
科学力が必要なのか」
ストームもコレをマグニファイセントに
搭載できればゾスターにも対抗出来る
と言う可能性は認めるが
規模が大きすぎる
「此ほど巨大なメカニックを
運ぶなど不可能だ」
「それに恒星を改造する
規模の工事など
どれほどの年月を必要とするのか
想像も出来ない」
ストームはメタトロンに
そう告げるが
何を言っているのかと言う
表情で自分を見られた
「君たちにはもう既に我々よりも
進んだ超圧縮人工太陽を実現させている
じゃないか…其れも完全に能力を
引き出し船の推進力に利用している」
そう聞いてもストームには
何のことかピンとこない
だがそこで再び洋子の疑似人格
であるセプターがストームに
助言をあたえる
(キャプテン…メタトロンが
言っているのは恐らくシャレーダーの
事を言っているのでは無いのでしょうか?)
其れを聞きアアッとストームは
やっと解った
ネオスの超絶なる科学力に
圧倒されて思考がストップしていた
のだ…「成る程シャレーダー君か」
メタトロンがストームの反応に
やっとかと言った表情を見せる
ストームも流石に自分の態度が
相手に不信感を与えた事に
反省した
まあ済んでしまった事は仕方ない
建て直していこう
「渡瀬聖子博士は意図せずして
ネオスの技術を超えていたのですね」
ストームは渡瀬博士の功績を称える
発言で切り返した
其れを聞きネオスリーダーである
メタトロンも切り替える
「確かに彼女は偉大な発明者だ
巨大な白色矮性を超圧縮して
人工生命体の亜空間エネルギー炉に
してしまうなど想像を超えた技術だよ」
今度はストームも準備を怠らなかった
ちゃんとテレパシーで洋子の
疑似人格のアドバイスを聞いてから
返事を返した
「その技術…博士は人工太陽を平和利用
するために開発したのだが
実に驚くべきはレイディアンスが
それを技として発展させたと言う事実です」
「技…その概念は実に興味深い」
メタトロンは光波防衛スーツに身を包む
ボイストームの声もハッキリと
聞き取っている
飛行能力を持つボイストームは
100メートルの高さを飛ぶように
移動しながらの会話である
無線通信無しで
舞台が恒星の環境になりメタトロンと
ゼクターは元のネオスの姿に成っている
身長も100メートルもあるのに
凄まじい聴力だ
「つまり…博士の直接の発明ではなく
彼女が産み落としたレイディアンスと言う
存在が最終的には研磨し洗練された
一種の芸術品なんです」
我ながら実に知った歌舞って居るとは
思うが仕方ない、科学知識の乏しい
ストームには洋子の人工人格である
セプターの説明を掻い摘んで
話すことで精一杯なのだから
汗が吹き出るし動機も激しくなる
神相手の交渉は人間のみには
恐ろしいほどの重圧だ
「芸術…実に良い表現をする」
どうやらメタトロンの覚えも
目出度く成ったらしい
先ほどの失敗は人間なら
誰でもするうっかりくらいだと
捉えて貰えたようだ
ホッと胸をなで下ろす
ボイストーム
そして光の世界に広がる超科学の
結晶とも言える建造物を目の前にした
「キャプテンボイストーム
ここがネオスにある唯一の監獄施設
デスパレードだ」
滞在時間が限られる
ボイストームのために
超空間転移と言う方法で
余計な手間を省き直接来たのだ
だがそれでも3時間しか
この人類には過酷すぎる
環境では持たないが
「惑星ネオスの環境に
本当に耐えられるか
心配だったがどうやら
杞憂に終わりそうだ」
ストームはネオスが当初
マグニファイセントを
ネオスに来させて
交渉すると言っていた事は
忘れない
(やはり交渉を有利に進めるための
ブラフだったのでしょう)
そう助言してくれる洋子の疑似人格
(まあネオスも一方的に地球を
下に見て援助すると言う訳でも
無かったと言う事だね)
「まさか超圧縮人工太陽技術が
交渉の切り札になるとは」
星雲砲の小型化にネオスが
シャレーダーを欲していたとは
意外すぎる事実だったが
本当に渡瀬博士には驚かされる
超科学を極めたネオスでさえ
驚愕する大発明を達成していたと
証明されたも同然だ
だがどうやら…それもこれも
今から紹介されるネオス人との
交渉次第といった所か…
その監獄は…監獄とは思えないほどに
洗練され美しい建物であった
白色矮性の輻射で益々綺麗に
青白く光のだが その中にはいると
意外なほど簡素であり
面白い程全てが巨大であった
成る程平均身長100メートルの
巨人の住む世界とはこうなるのだろう
まるで自分がミニチュアサイズに
成ってしまったみたいだ
「素晴らしい眺めだ…まさに
驚異といって差し支えない」
巨人の世界に一人迷い込んでしまった
小人の気持ちとはこんな風だろうか…
だが天の使いであるネオスに
導かれる死者にでも成った気がして
超人ボイストームである自信さえ
この聖域では緊張し自由な行動は
全て制限された状況だ
(セプター私は…こんな気持ちに
成ったのは初めてだよ)
セプターは自分の所持者である
ストームの不安をカウンセラーとして
対応する
(交渉をする相手が誰かは関係ない
何があろうとその結果は甘んじて
責任を取るつもりだが…)
(彼女に危機が迫っていると聞いてから
私は冷静さを失っている)
ストームは自分でも
気が着いていなかった
その疑問に気が着いた
私の中にいるMr.ガイミツルギの
心がざわついている…
私は彼の渡瀬博士に対する
想いに引きずられて
彼女を恋愛対象として
見るように成っていた
自分の立場を考えればそんな
浮ついた事が出来る状況ではない
大体…Mr.ガイは私とは
シンクロしているとはいえ
別人なのだ
なのにこの焦りは何だ?
宇宙全体の危機だから
焦っているならいい
だが沸き上がるこの感情は
愛する者が危機にあると知った
時の感情そのものだ
(シンクロしているとはいえ…
Mr.ガイの恋愛感情が私にこうも
影響するとは)
だが逆にこの想いが交渉には
邪魔以外何者でもなく
(厄介だね…今だけでも何時もの自分に
戻りたいんだが)
(自己催眠でガイさんの記憶にある
渡瀬博士との思い出を観ることで
客観的に自分を見つめ直せる
方法があります)
ストームは今から会う
ネオスとの交渉が
如何に重要かは知っている
まさに全宇宙生命体の存亡が
掛かっているのだ
(時間は…もう其れほど無いのだが)
ストームの目前に明らかに
壁とは違う扉らしき物が
見えてくる
(大丈夫ですよ思考速度を超加速して
時間を稼ぎますから)
そうセプターが言ったと同時に
ボイストームの周りの動きが
止まってしまう
だが超人の目で良く見ると
止まっているように見える
ゼクターとメタトロンは
ほんの僅かずつ動いていることが
解るのだ
(時間の流れが遅くなった…
これが思考の超加速なのか)
確かにこの状態でならある程度の時間は
稼げるだろう
そしてセプターがストームの
網膜に映像を投影しつつ
音声を鼓膜に直接響かせる
こうすることでまるで映画のように
ガイの記憶を垣間見ることが出来る
のである
自身が船になってでも助けたい
愛する女性
ガイミツルギの信念の源であり
どうしてそこまで想うことが出来るのか
其れが解れば私も博士にたいしての
この気持ちを整理をつけて考えられる
だろう
御剣凱は警察官だった
24歳で大阪府警察本部
組織犯罪対策本部所属
覇道部隊の特殊任務警察官として
入隊する
本部長 亘理豪龍の
ヘッドハントと言う異例の
大抜擢であった
所在地
大阪市中央区大手前三丁目
1番11号
北緯34度41分2、3秒
東経135度31分13、4秒
定員23242人
警官21474人
その中で
恐らく非合法な方法で
組織犯罪を鎮圧できるのは
御剣流の剣の使い手
であるこの御剣凱と…後一人
相棒である鬼の異名を持つ
広野大時である
二人とも超人と呼んで遜色のない
戦闘力を保持し
御剣凱は刀を持たせれば
鋼鉄の板でさえレーザーエッジと
呼ばれる切り口で切断し
そして凱の相棒である広野大時は
寺生まれの僧侶の家系でありながら
その総本山は高野山の僧兵の
血筋
金棒を武器とし かの
弁慶の再来と呼ばれるほどの
才の持ち主
常人では絶対に振り回せない
鉄の金棒を気孔の力で
自在に操り巨大な岩でも
コンクリートの壁でも
粉々に粉砕する破壊力を
発揮する
この二人の怪物のまえでは
如何なる犯罪者も
到底歯が立たなかった
そんな二人だから
重要人物の警護を任される
事も多々あった
VIPを護るためなら
どんな障害でも力ずくで
ぶち壊す事を許された
破壊のライセンス
そんな彼等が何と警護を任された
のが誰あろう渡瀬博士なのだった
「渡瀬聖子と言えばノーベル賞を
連続で12回も受賞した
大天才じゃねーか」
最初其れを聞いたときは
耳を疑った
「何の冗談だよボス
俺達みたいな警察でも
はみ出しモン達に
そんな重要人物の
護衛なんて任せるなんて?」
俺達のボス
亘理豪龍本部長は
至って真剣な眼差しで
俺に鋭い眼光を向ける
俺は無頼漢を気取って
何時でも辞めさせられる覚悟で
悪党共を退治してきた
裁判を受けさせることが出来ない
腐れ外道を何人も再起不能に
してきた男だ
まあその中にお偉いさんの
関係者が居たことで
流石に不味いことになったんだが
別に俺はかまわなかった
只…
俺に付き合い隣の
生臭坊主も巻き込み首になりそう
だったことが、ただ
それだけが気がかりだった
「別にお前だけが責任を取る必要なんざ
ねえよ それに俺はどうせ首にされても
坊主に戻るだけだから気にすんな」
それが相棒の答えだった
そう言われてハイそうですかとは
いかねえだろう 何とか俺一人で
責任を取る事で済ませて欲しい
そう本部長に呼び出されて
言おうと思ったら
いきなり次の任務の話をされ
その内容が此だった
要人警護…それもよりにもよって
世界最高水準の超重要人物の
警護と来たもんだから
思わず本気かよ?と
恐い顔が標準装備の亘理本部長に
聞いちまったんだ!
この人は俺みたいな無頼の
ヤクザ警官をわざわざ拾ってくれた
大恩人でもあるから
そうそう失礼な態度は取らないんだが
この時ばかりは冗談が過ぎると
本気で本音が出ちまった
「冗談などではない…貴様が
世界屈指の一人軍隊である
その能力を博士ご本人から
所望されたのだ」
そう言ってから 髪の長い
やたらとスタイルの良い一人の
本部長室にいた婦人警官を
紹介された
俺も一緒にいた相棒の広野大時も
その婦人警官を一目見て度肝を抜かれた
どう見ても婦人警官などではない
まあ言うなればハリウッド女優が
婦人警官のコスプレをしている
としか思えないほどその女性は
美しかった 気品が溢れ
眩しいオーラが俺には見えた
それにその顔は
テレビや映画 ファッション雑誌
なんかで散々拝んだ顔だ
見間違えよう筈もない
この人が 今話題に上がっていた
ノーベル賞連続12年受賞
世界一位の超重要人物
世界一位の科学者であり
科学の女神と称えられ
あのヴァチカンから
生きながらにして聖女の認定された
生きる伝説 渡瀬聖子だ
「凄い美人だな…渡瀬聖子 博士」
其れを聞き驚きの表情を見せる
渡瀬聖子
「い…いきなり美人だなんて
貴方の方こそとても素敵な方よ
御剣凱さん」
初めての挨拶がお互いを
褒め会う事になるとは
流石にばつが悪い
それより
肝心なのは此処からだ
「そ…その俺を…護衛にって話は
冗談ではないのですか?」
思わず馴れてない丁寧口調で
話してしまった
こんな美人に少しでも良く見られたい
そんな助平根性が透けて見えるのか
隣でぽかんと口を開けていた
相棒の大時が意味深げに声を殺して
笑っていやがる 別に良いだろ
この女性の前で格好つけても
まあ確かこの人は俺より年上だし
可笑しくは無いはずだ
そして渡瀬博士さんはにかみながら
口元に手を当てて
「冗談ではありません真剣に
御剣凱さんに警護を
お願いしたいんです」
どうやら思い違いでも
聞き間違いでもないようだ
だが俺は今
「そりゃ引き受けたいのは山々ですが
今の俺はある事件で偉い立場の
人達を怒らせて謹慎中の身なんです」
其れを聞いた本部長が
苦笑いしながら
「その件に関してはもう心配ない
全て不問となった」
その言葉に耳を疑う
俺と相棒
そんなわきゃねえだろう
警視庁官の息子を
半殺しにしてお咎め無し?
本部長は悪あるい顔で
「此処にいる渡瀬博士に感謝するんだな
諸々の事は不問にしお前を現場復帰
して下されたんだ」
「世界最高の権力が力ずくで
警視庁官の首を飛ばしあのどら息子は
裁判で終身刑になる位の事をしてまで
お前の腕を欲したのだ」
「これでこの人を守り切れなければ
お前は漢じゃない
この豪龍がお前を処刑してやる」
そう言った本部長の目は真剣だ
この男と本気で殺りあえば
俺でも勝てる気がしない
それより今の話…彼女の権力で
警察のトップの首を飛ばして
ドラ息子に裁きを受けさせてくれた
と言うのが本当なら彼女は
俺にとってとんでもない
大恩人ということになる
「今の話…俄には信じられないが」
豪龍本部長は説明を続ける
「本当のことだ…表向きは
依願退職になってはいるが
今後…あの男に未来はない」
「一体どうやって?」
彼女は事もなさげに
「あの警視総監だった人は
裏で悪戯な事をなさっていたので
私の超次元コンピューターに
彼の全てを暴露させました
彼に関係した人達も一斉に
粛正したのでもう安心ですよ」
科学の女神の言葉を理解するには
少々骨が折れることだが
どうやら日本警察が丸ごと
彼女の力で洗浄されたと
言うことらしい
人工知能の力をフル活用すれば
この世の秘密は何も無いらしい
「凄いな…神様かよ
…そんな凄い人が
俺なんかに護衛を?」
だが俺の言葉に彼女は
「私は法律や常識の範囲内の
襲撃なら予測も出来るのですが
敵は法の外に居る狂信者達
…この無法な者達に私は無力なんです」
法や金…人間社会に縛られた人間と
違い 宗教に洗脳された信者や
独裁者の類は 彼女には逆に
計算できない驚異らしい
成る程その手の輩を相手にするのは
無頼警官の俺と大時の専売特許だ
「ですから無法者を何とか出来る
エキスパートに貴方を選びました
敵を排除する方法は問いません
全てをお任せします!」
彼女の目は真剣だった
「どうか私を助けてください!」
俺の名は御剣凱
結えあってこの婦人警官に
コスプレした女神様の
護衛をしている
彼女をある場所に連れて行くのが
俺と相棒の任務だ
「大阪の泉の広場に行きたい?
何だってそんな場所に?」
俺と大時は声を揃えて
すっとんきょな声を上げる
「庶民の憩いの広場に
世界の大富豪に何の用が!?」
ハッキリ言って
彼女のイメージとはかけ離れた
場所である だが彼女は必死だ
「お願いです凱さん!私を泉の広場に
連れて行って下さい」
俺はそこで彼女がどうしても
そこに行かなければならない理由を
聞いてみたくなる
「どうして危険をおかしてまで
そうまでして
あの場所に行きたいんです
何か理由があるなら」
そこで彼女は言った
「人類の…存亡が掛かっているんです
私が原因で人類が滅びる…そんな未来を
回避するために…どうしても
その場所に行かねばならないのです!」
俺は其れを彼女から聞き
絵空事ではないものと確信した
世界一頭の良いこの人が
ここまで真剣に言っているんだ
恐らく本当に人類が滅びる
可能性があると思った
其れは俺だけではなく
相棒の大時は勿論
超が付くくらいのリアリスト
現実主義者である
亘理本部長も同じ考えだった
「渡瀬博士がそう言うからには
本当の事なんだろう…恐らくは
あの研究が原因で」
亘理本部長は何か心当たりが
あるようだ
博士も亘理本部長なら全てを察し
この件を任せられると判断している
みたいな感じだ
「仰るとおりです…私の力が足りず
申し訳ありません」
この頭の良い人が力が足りない?
と言うことは相当ヤバい状況だな
俺は覚悟を決めた
この人は自分の危険を省みず
凶悪な襲撃者と対決してでも
泉の広場に行くという
自由のみにして貰った恩義は抜きにして
そんな物が無くても俺は
この勇敢な女性を助けたいと思った
「安心して下さい…この俺の
命を掛けて貴女を護って見せます」
俺と大時の二人だけで渡瀬博士を
護衛するのは良いのだが
肝心の泉の広場まで
帯刀しての移動になるので
作戦の決行は夜間でと言う
事になった
深夜
ミニパトで夜の巡回を装い
俺達 無頼警官二人と
婦人警官の変装をした
お姫様は目的の場所へと
向かった
「パトカーに初めて乗りました
とても乗り心地が良いですね」
「姫様に気に入って貰えて良かった
ですよ」
姫様というのは渡瀬博士を
警護する間だけの合い言葉だ
彼女が渡瀬聖子だとばれないように
敵の目も味方の目も
欺く手立てである
俺が彼女をそう呼ぶと姫様と呼ばれた
渡瀬博士は頬を赤くしながら
「でもガイさんとダイジさんは
凄く仲良しなんですね
お二人は昔からのお知り合いなんですか?」
其れを聞いた大時は
「まあ昔からの腐れ縁ってやつでさぁ
こいつの無茶に付き合えるのは
正直俺くらいのもんでね」
大時の奴がドヤ顔をして
自慢そうにそういと
聖子さんは楽しそうに
「とても中が良いのですねお二人とも
素敵です」
其れを聞いて俺も大時も照れて
頭を掻く
何とも感じのいい人だ
世界一の金持ちで頭が良く
とんでもない大美人なのに
気立てが良くとても感じが良い
理想の美人先生が居るとしたら
こんな人なんだろうな
危険な任務なの緊張感が抜ける
「まさかお侍さんに
警護をしてもらって
行動する日が来るなんて
不思議だわ」
「俺もこの時代にお姫様を護る
名目で刀を振るう事になるなんて
思いもしなかったですよ」
大時は二人に当てられて
居心地が悪そうにしている
「姫様に侍の旦那…坊主が混ざって
何とも場違いなのは謝るが…まさか
この殺気に気が付かないとか
寝言は言うまいな御剣凱」
其れを聞いて凱も顔を引き締める
「ああ…さっきからもの凄い
殺気を感じるぜ」
深夜のHデパート駐車場に
ミニパトカーを入れてからだろうか
このミニパトカーに向けて
警察官に向けられるにしては
物騒すぎる殺気が襲ってくる
「こりゃ…数人程度の殺気じゃねえな
とんでもない数の殺意が
俺達に向かって集中してやがる」
先ほどまで和んでいたガイとは
完全に別人のスイッチの入った
戦闘モードの凱がそこにいた
思わず渡瀬聖子は息を呑む
これが亜空間量子コンピューターが
選び出した超人…御剣凱さんの
本当の姿なのね
緊張する聖子に気が付き大時が
声を掛ける
「心配は入らないぜ この侍が
この顔になったらどんな悪党が
襲ってきても必ずやっつけて
くれるからよ」
「待ってられねえな」
そしてガイはパトのドアを開け
抜かりなく刀を抜刀し
片方の背中に乗せた
「じゃあ殺ってくる!」
ガイの背中に向かい
相棒の大時は馴れた様に
「俺は姫様の近くで守りながら
ガイが取りこぼした敵をかたずけるぜ」
幾多の戦場で二人の役割は
もう既に決まっている案配だ
聖子にはそれがまるで自分の
研究室でのメインスタッフとの
段取りを思い出す
極端に優秀な人間同士は
無駄な行動は極限まで削減されて
最も有効で効率の良い
分担作業が可能なのだ
適材適所 ガイさんが攻撃して
ダイジさんが背中を護る
この二人は多くの戦場で戦って
生き残る術を培ったのだ
この平和な日本で
類希な存在だと言える
そして駐車場の柱にガイの
姿が隠れたとき
マシンガンの銃声が響きわたった
刀しか武器を持たない御剣凱は
拳銃さえ携帯していない
必要ないからだと本人は言う
実際 銃と刀で勝負になるのか
相手は飛道具を持っている
勝てるわけがないと
思うだろう
そして今 凱が相手にしているのは
近代兵器で武装し 暗視ゴーグルで
真っ暗でも敵の動きが解る
暗殺集団なのである
フルメタルジャケット
の暗殺者が二桁で
襲ってきたら刀や金棒で
何とか成る訳がない
常識的に考えて不可能
だが御剣ガイと広野ダイジは
常識の外にいる
マシンガンを撃ってきた
暗殺部隊の男達を
まるで豆腐を斬るように
両断してしまう
これには襲撃部隊の兵士も
度肝を抜かれる
「馬鹿な!なんだあの男は!?
何で銃弾をかわせるんだ?」
銃弾を回避しつつ一気に敵の
懐に飛び込み肩に背負った
刀で斬り伏せる
その動きがあまりに速すぎて
とても目で追えないのだ
見えていてもどうしようもない
だが敵も殺しのプロである
刀でも防げる超合金製の盾を使い
ガイの刀を防ごうとした
「奴の動きを止めたらかまわないから
俺ごと撃て」
そう隊長格の兵士が言うと
部下達も躊躇せず行動に移る
軽量で丈夫な盾は素早い動きの
ガイの刀でも十分に止める事が出来る
その筈だった
「甘いぜ!」ジャッっと
音がして 盾で止まるはずの
ガイの刀は振り切られている
「ぐげえっ!」
そして超合金の盾が信じられないくらい
鋭利な切断面で切れて横にズレる
それは盾持ちの兵士の体も
一緒に切れて横にズレていった
「レーザーエッジ!」
思わずその名を呟いた兵士がいた
それは彼等のような暗殺者にとって
伝説の名前である
「聞いたことがあるアジアには
レーザーで切ったように
鮮やかな切り口を残す
正体不明の凄い戦士が一人居ると」
「そいつは刀だけで
完全武装のゲリラ部隊を
たった一人で壊滅させたと…只の
噂話だと思っていたが
まさかこの男がその?」
御剣凱はそれを聞き
「あの島の話か…そうか島民の生き残りが
居たんだな良かったぜ」
そう言いながらもガイは油断なく
周りを取り囲む重武装兵達を
超人的な戦闘力で肉のバラに解体する
その切り口が余りに鋭く
斬られた者は断末魔も上げず
その場に崩れ去ってしまった
襲撃者達はそれでも怯むことなく
ガイに襲いかかる
その様子を遠巻きに見ながら
ダイジは知らず呟いた
「こいつ等…異常だぜ…普通
あんな風にガイに仲間を殺されたら
命惜しさに怯むもんだがな」
聖子は少し緊張しながら
ダイジに告げた
「狂信者…彼等はゾスター教の
狂信者達だからです」
「ゾスター教?聞いたことのない
宗教だな…だけど確かに
あの人間とは思えない機械みてえな
行動は狂信者特有のもんだな」
死を恐れない者達の行動ほど
恐ろしいものもない
狂信者は命を武器にして戦う
特効を女子供にまでさせる
凶悪な洗脳兵士と化すのだ
ダイジは狂信者の存在を
坊主として許せない
人を救うのが仏の教えなのに
神を語る者がよりによって
救いを求める信者を武器に
するのが本当に信じられなかった
ゾスター教か…そのゾスターと言う
神もろくな代物じゃねえな
ダイジはゾスターの存在が
数年後に人類を滅ぼす悪魔の
名だとは全く知らない
それでも不吉なものを
びしびしと強く感じていた
「一人行ったぞ!任せた」
そしてガイが取り逃した
洗脳兵士の一人が
博士を狙って突撃してくる
「おう!任せろ」
ダイジは金棒を振り回し
その兵士をホームランした
骨と筋肉がひっしゃげ
車にはね飛ばされた
轢死体が一体敵陣の中に
放り込まれると
もの凄い爆発が起きた
「危ねーっ爆弾を抱えて
特効してきやがった」
ダイジはこの危険な攻撃を
知らずに防いだのである
「だめだ!殉教者相手に寝言を
言ってる場合じゃねえぞ」
爆弾を腹に抱えて特攻してくる
完全武装の兵士達が銃を
乱射しながら四方から
博士を狙って襲いかかってきた
その瞬間
ガイとダイジはリミッターを
自ら外して人外の威力を
解き放つ
洗脳兵がガイに向かって
盾を前にし銃を撃つが
ガイはその盾ごと敵の体を
切っ先を横に倒し刀の突きで
串刺しにした
そうして串刺しにした敵の体を
今度は盾にして後ろで銃を撃つ
兵の弾を防ぎながら突進し
そのまま剣を人外の力で
その兵を盾諸共横一文字に
切断しながら
一瞬にしてその横の一人を
斬り次に右後ろの敵兵
そして銃で防ごうとした
敵をまた一人
ガイの刀は目にも止まらぬ
超高速で敵を横凪に
切り払い 一瞬で4名の残骸が
赤い鮮血と共に宙に舞った
そしてダイジの金棒も
あり得ない威力と速度で
もの凄い衝撃音を響かせて
敵兵5人を殴り飛ばし
殆ど即死させた状態で
また残存する敵のまっただ中に
狙って打ち込んだ
ガイが凪払った敵はそのまま
駐車場の天井近くの空中で
爆発し
ダイジが打ち込んだ敵兵の
爆弾もその場で爆発し
24人居た敵も残り僅かになる
一人は右腕を仲間の爆発で
失いその場で転げ回り
一人は眼球が垂れ下がり
頭が割れて脳が見えていた
それでも立ち上がりガイ達に向けて
銃口を向けようとする洗脳兵士の首を
ガイは音もなく跳ねていく
それをダイジはお経を唱えながら
死んだ洗脳兵士全部に供養を与える
「南無阿弥陀物…成仏しろよ」
ガイもダイジも宗教団体を
潰した数は一桁ではない
危険思想を持つ宗教団体は
国家の危機であることから
切り捨て御免のお墨付きの元
国から依頼されれば
場所に関係なく国を跨いで
殲滅してた
危険思想を持つ宗教団体は
当然のように武装していた
それでも此処まで激烈な
洗脳兵士を繰り出してくる
宗教団体は無かった
「ヤバいぜこいつ等~ゾスター教団か
いってえどんな教えで
ここまで人間を洗脳するんだ?」
ダイジのその問いに聖子は
「遙かな次元を越えて数億光年の
彼方から送られてくる怪物の意志を
掲示で受けてそれに従い人類を
滅ぼそうとする恐ろしい教えです」
「滅びこそが人類の救済だと
それがゾスター教の教えです」
ダイジはさも面白みも無い様子で
「何時もソレだぜ…奴らと来たら
どいつもこいつも代わり映えしねえ
飽きもせずその戯れ言ばかりを
ホザきやがる」
「お望み通り滅してやるぜ
その腐った教え諸共にな!!」
そしてダイジの言葉を待っていたかの
様に第二陣がやってきてきた
今度は多くはない6人編成で
さっきに比べれば軽装だ
だが…明らかに気配が違う
どうやら敵の精鋭部隊の様だ
ダイジは勿論のこと
ガイなどはその警戒力が
先ほどまでと比べものにならない
程の闘気を燃やし始める
そしてその精鋭部隊の
恐らくは隊長格の男が
ガイに向かって話しかけてきた
「日本の侍か…もの凄い殺人鬼ぶりだな
この緩い国に貴様みたいな本物が
居たなんて…驚きだ」
ガイはこの話しかけてきた男が
ただ者ではないことを肌で感じ
鳥肌が立ちピリピリする
「どうやらテメエがこいつ等の
指揮官らしいな」
邪悪な獣の空気を吸い
ガイは第一級の戦闘状態になった
そして相対するその指揮官らしい
男はガイに最大限の驚異を感じさせる
(もの凄いプレッシャーだ…
この男は危険だな)
ガイの野生の感が猛烈に働き
このコマンダーの挙動を注視した
それは他の敵と戦いながらの
状態である
コマンダーザキエルは
ゾスター教の戦闘部隊
指揮官としてこの任務に
参加していた
ワールドから派生したゾスターと言う
異次元の神を崇拝するゾスター教団
今はワールドでも最も勢いのある
そして過激な勢力となっている
ゾスターと言う異次元の神は
10億光年以上先にある
宇宙をむさぼり食いながら
この地球に交信を送ってくる
そして教えられた場所を
世界最高の宇宙望遠鏡で
秘密裏に探ったところ
その神の軍団の姿が
ハッキリと観測できたのだ
これでゾスター神の存在を
確信した旧ワールドの過激派
派閥がゾスター教団を新たに
創設して洗脳兵士を主戦力として
活動する凶悪なゾスター神戦士団が
誕生したのだ
姿形のない
存在自体が不明瞭・不鮮明な
神ではなく実在する神として
確認出来
崇めるその信仰力は恐ろしい程
人を魅了した
「実在する神の力は
全ての理を凌駕する
御前も我が神の生け贄に成れ!」
ザキエルの叫びに禍々しい
人の狂気を感じる
其れで解るのはこのザキエルもまた
洗脳された狂戦士だと言うことだ
ザキエルは部下達5人に
ダイジの相手をするように
命じた
「将を射とすればまず馬を…
と言う訳か」
ダイジは博士のことを守りながら
この5人を相手にするとなると
隙を突かれて彼女が危ないと
考えた
がーーー
「心配には及びませんダイジさん
此処を動かないで良いならば私は
亜空間障壁で身を護れますので」
「但し…動けなくなるので
逃げも隠れも出来なくなります」
渡瀬博士はそう言うと
何もない中空に手を翳し
指を走らせると
心事難いことに青白い
ディスクパネルが現れ
そのキーを彼女が打ち込むと
彼女の周りに青白い光の壁が
現れた
「この携帯障壁はまだ未完成品で
200分しか持ちません
その間はミサイルの直撃にも
ビクともしない強度を持ちます」
流石世界一の科学者
ダイジやガイには到底
理解できない発明品を
容易している
それにしても空想科学レベルだな
こりゃ~
「そりゃ科学の女神様だもんな~」
彼女の科学を間近にした者は
手品だとか最初は言っていたが
全てが本物であると知ったとき
彼女を見る目が変わる
ある者は賞賛しある者は驚嘆し
ある者は恐れを抱いた
100年先の未来から突然来訪した
未来人…そう噂する者も居た
この青白いエネルギー障壁で
身を護る彼女の姿を見て
確かに彼女を未来人だとおもう
者は正しい判断力の持ち主だ
この人なら全ての人類を救済する
事も可能なのかも知れない
彼女の望みである
泉の広場に是が非でも
連れて行かなければ
そう心の底から感じた広野大時は
全身に闘気を漲らせ
5人の死客を睨みつける
「博士の身が安全ならこの俺も
全力でテメエ等を挽き肉に
してやれるぜ!」
そう言って鬼の金棒をまるで
重さを感じないように振り回す
5人の洗脳兵もこの大時の
怪力無双ぶりには目を丸くする
「あの棘が突いた鉄棒…そんなに
重くないのか?」
と一人が言うと
「馬鹿を言うなあれで殴られた
奴等が車に跳ねられたみたいに
ひっしゃげていたのを忘れたのか?」
その洗脳兵士は気味の悪い笑みを
浮かべながら
「ああアレを見たら何だか無性に
昔食った人肉ハンバーグを思い出したよ
あの時襲った村の子供は旨かったよな~」
その横にいる兵も
「ああアレは最高のハンバーーーグ
だったよ…また食いてーな」
そして大時を旨そうな肉を見る目で見て
「だったらこいつを挽き肉にして
食おうぜ…こんなに強い奴を食えば
さぞかし精力がつくだろうからな」
「ああ人肉には人間の生命力が
籠もってるからもの凄い精力がつくぜ」
大時にはこの兵士達の言う事が
只の脅しではないと解っていた
実際に行っていることは
見れば解る
人肉を食った者はその体臭に
死臭を纏い禍々しい目つきに
変わるのだ それは死人と同じ
狂眼と呼ばれる症状だった
「貴様等は屍食いの部隊か…?」
5人のグールはギラつくような
禍々しき眼孔を光らせながら
「俺達は人の血肉を主食にする
野獣部隊だ!」
そう吼えると野獣部隊は
マスクを自ら外す
その口は耳まで裂け
狼のような犬歯を生やしていた
大時は息を呑む
「テメエのその歯は生まれつきか?」
其れを聞きニヤリと笑う野獣部隊
「生肉と骨を噛み砕きやすく
するために整形手術をしたんだ
野獣部隊に入るための通過儀礼さ」
其れを聞き大時は野獣部隊の
他の4人も見る
「どいつもこいつも狂ってやがる!」
そうなのだ他の4人もやはり
歯を犬歯に整形していた
唸り声と吼える声
大時は相対する者達を
人間ではなく野生の肉食獣と
感じた
彼等の武器は銃ではない
その爪と牙と俊敏さだ
一斉に飛びかかられ
大時が3人を止めたが
後の二人は後方にいる渡瀬博士に
向かった
「しまっ…」
大時は反射的にそんな反応を
したが 其れは無用な心配である
案の定障壁だか結界だかに
身を護られた博士に
その二人の攻撃は全く通用しない
「このクソあま!そこから出てきやがれ」
「無駄な抵抗しやがって!」
だが無駄な攻撃をしているのは
そいつ等の方だった
どんなに爪と牙で彼女を
傷つけようと足掻いても
物理攻撃は全く効かないのである
携帯型要人警護障壁
この発明品は今後世界の
要人警護の
要になるだろう
其れほどの発明だ
こんな未来装置を当たり前に
発明するとは本物の天才だぜ
大時は博士の身の安全を確信して
冷静に敵の動きを予測した
博士に手が出せないとなりゃ~
博士に向かった二人は俺の背中を
狙うだろう
いや…もしかしたら最初から
この俺を挟撃するのが目的で
博士に向かったとも考えられる
慎重165センチしかない
筋肉達磨の大時にたいし
襲ってきた野獣部隊の平均身長は
180センチを超える体格差がある
普通ならこの体格差だけでも
体力で押さえつけごり押しで
潰せそうだが…大時の強力と
スタミナは化け物だった
大時に限って力負けはない
そう確信できる程の戦いぶりである
それを横目で確かめるもう一人の
化け物である御剣凱も又
思いも寄らない強敵とぶつかっていた
野獣部隊の指揮官ザキエルは
もの凄い修羅場を何度も切り抜けた
恐るべき戦士である
その武器は全身から繰り出す
毒武器
鉄棒から延びる
鎖状の先に小さな銛をつけた
特殊な武器を使うだけでなく
毒を仕込んだ武器が
油断すると飛道具として
飛んでくるのだ
ガイは其れをその都度
刀で弾き返していた
その場から全く動かずに
見事に対処する凱
だがその足下には
巻き菱が無数に転がっている
先端に毒を
塗っておりザキエルに
それをそこらじゅうにばら巻かれ
ガイは身動きが取れない
状態なのである
「足下にそんなものがばらまかれていては
流石の貴様も身動きが取れまい」
ザキエルは勝ち誇ったように
笑みを浮かべる
そのザキエルに対しガイは
「もう勝ったつもりかよ気が早いな」
そう言うガイを見てザキエルは
(この男の目はまだ戦いを諦めてはいない
この状況を覆す何かをまだ持っているのか?)
ザキエルもガイのような規格外と
呼ばれた戦士を何人も見てきている
だが最期はザキエルの毒攻撃の前に
膝を折り死んでいった
「いかに剣の達人と言っても
所詮…只の人間、我が毒の前では
如何に抗おうと無駄な事だ」
だがこのガイという男は
まったく隙がない
どんなに毒の飛道具を放っても
悉く弾き返してしまう
最速の仕込み矢も弾き落とした
このままでは埒があかない
その場から動けなくしたところで
まったく安心は出来ない
この侍は出来る限り速く殺すのが
一番だ
そう考えたザキエルは
とっておきの毒ガス攻撃を
決行する事にした
これは吸い込めば1分と持たずに
大の大人を死に至らしめる猛毒である
野獣部隊がマスクを
外しているのをしり
使用を控えていたが
渡瀬博士を殺害する任務を
達成するためなら仕方のない
犠牲であろう
ザキエルは目的の為なら
部下でさえも犠牲にする冷徹な
男だった
「毒ガスを使うぞ!」
そう警告を発するザキエルに
5人の部下達は無言でただ頷いた
「ゾスター様の為に」
「魔王の為に!」
全く動揺を見せないばかりか
恍惚とした表情にさえ見える
この態度に大時は吐き気がした
「本当にいかれてやがるぜこの連中」
大時は爪と牙で止めどなく襲ってくる
野獣部隊を鬼の金棒で捌きながら
ガイに声を掛けた
「おい!何だったら手を貸そうか?」
其れを聞きガイはニヤリと笑い
「面白い冗談だ」
そう言って肩に背負った刀を背中に
回した
「待たせたな毒ガス野郎…
テメエに御剣流の真髄を
見せてやる」
その気迫にザキエルは
危険な物を感じた
「くっ!」
自分と御剣凱の間合いはゆうに
5メートルは離れている常識から
考えれば
この距離に一瞬で届く攻撃など
あろう筈がない
だがこの世界にはその常識を
軽くぶち破ってくる異能者がいる
ザキエルは凱という侍にその
異能を感じた
一瞬の判断だった
ザキエルは毒ガスのボンベを
弁を開く間がないと直感で感じ
背中のガスボンベをガイの
方向に向かってとにかく
投げた
それは果たして正しい行動だった
ガイは駐車場の低い天井を急に
後ろを振り向きながら刀で斬り
その力を利用して
空中回転しながらザキエルめがけて
斬りかかったのだ
だがそのままザキエルを
真っ二つにするはずが
ザキエルが放り投げたガスボンベが
阻みそれが出来なかった
「ちいいい~~っ!」
ガイの口から思わず
悔しがる声が漏れる
ガスボンベはそのまま
ガイが居た場所まで転がっていき
毒巻き菱を何個か弾き飛ばす
床に転がる無数の凶器
これだとこのガスボンベを取りに行き
再び使うのは不可能である
「おのれ…御剣~」
ザキエルは口惜しそうに
ガスボンベを見てからガイを
睨みつけた
だがそうしながらも
御剣ガイの次の行動に
細心への注意を怠らない
気を抜けば又あの訳の分からない
剣術殺法が飛んでくる
(駄目だ…この侍に当たり前の
常識は通用しない)
ザキエルも流石に御剣ガイが
人の常識を遙かに逸脱した
異能者だと認めざるを得なかった
通常人間の腕力で
あの様な動きは不可能である
もし出来たとしても肉体が
その負荷に耐えられないだろう
あれは奴の体重が60キロ
位だと仮定して300キロの力で
刀を天井に突き刺しでもしないと
出来ない運動エネルギーだ
だとすると奴は
瞬時に刀に加わる力を変えられる
事になる 恐ろしい男だ
この様子を携帯障壁の中から
見ていた渡瀬博士は望遠レンズを
展開していた
「力のモジュールを考えて
凱さんは375キロの力を使って
跳躍しているあの刀が砕けないのは
凱さんの高い技術としなやかな筋肉
それに骨までが柔軟にシナっているから」
それは鍛錬と言う努力を惜しまず
積み重ねてきたからこそ出来る
本当の力
渡瀬聖子は努力をしないで
生まれつきの天才として
この世に生を受けた
だからこそ努力により
ここまで出来る人間を見ると
感動する
最初から出来るのと努力をして
出来るのとでは重みが違うと
そう思うのだ
渡瀬聖子は天才だが
自分は少しだけ人より
先に進んでいるだけで
時間があれば自分に追いつく
者がきっと居ると信じる
そんな人だった
天才の定義をも逸脱した者
逸脱者
火星で採取された隕石に
封じ込められていた謎の
DNAと地球人少女の混成体
その出生を理解して尚
彼女の感性は一切変わらない
だが確かに御剣凱に関してだけ
言えば彼女の言うとおり
努力の積み重ねと恵まれた才能と
そして異常な程の精神力
そうこの御剣凱を超人と
せしめているのはこの
精神力の強さだと
渡瀬聖子は確信した
「凱さんは毒ガスを警戒しつつ
冷静に考えどうすれば危機を脱し
敵に攻撃を与えることが可能かを
あの一瞬で理解し行動している」
「恐ろしいほどの精神力だわ」
常人ならパニックを起こす
状況を平然と受け入れ
常に突破口を開く道を探す
それは
発明を生み出す事にも
通じると博士目線で彼女は
御剣凱に大いに親近感を感じた
実は人外に至る人間は
こうして希とは言え実在するのだと
自分の中の人間の部分が納得し喜びを
得ていると言うわけだ
博士は自分が決して孤独ではない
同じ様な人間はちゃんと居るのだと
自分自身の人間の証明を探し求め
目の前にいる御剣凱がその人だと
確信し彼を求めている
初めてあったその瞬間から
何となく自分と通じる何かを感じ
そして
恋慕と言う当たり前の
感情が芽吹いた
凱がその超人的な力を発揮するのは
常に生死を掛けた戦いの中である
渡瀬聖子は御剣凱の戦う姿に
魅了された
凱はそんな事は全く気づかず
目の前の危険な獣に神経を
集中していた
「今ので斬れなかったのは痛いな
…こういう奴は殺す機会を逃すと
厄介だ!」
本来なら背面飛の姿勢から
脱出した際に天井を蹴って
奴の真下に潜り込み
ザキエルの股下から斬り上げる
算段だったが
ガスボンベを盾にされたので
斬ることが出来なかったのだ
ボンベと一緒に奴を斬ることは
容易かったが中の毒ガスが
厄介だった
だが幸いもう奴の毒ガスはない
ガイはとどめを刺そうと
ザキエル指揮官に再び
刀を構える
純粋な近接戦で御剣凱に勝つのは
至難の業だ
ザキエルもそこら変は解っている
そこで
ザキエルは一計を案じる
ここは戦略的撤退しかない
この怪物を倒すには
ミサイルランチャーの一つも
容易しなければ
ガイは敏感にザキエルが
逃げに徹し始めたことを感じた
逃がすか!
此処で逃がせば必ず後で
厄介な事に成るのは
目に見えている
だがザキエルがどうやって
この場を逃れる気か
其れが解らない
渡瀬博士と俺達を逃がさない為に
わざわざこの狭い駐車場を
狩り場に選んだのだ
それを
逃げるのは難しい筈だ
隙を見せれば凱に体を真っ二つに
される、その可能性を考えれば
下手に背を見せ逃げられない
それでも逃げるだろう
ガイは…ザキエルが妙な挙動をとれば
すぐさま連続斬りで追いつめる
と決めた
ザキエルは銃火火気を捨てて
軽装装備でガイと戦っていた
銃の重さだけでも動きが鈍れば
ガイの攻撃を避けきれない
そう考えての軽装だった
忍者装備で武器は暗器
毒を仕込んだ武器で
ザキエルは多くの強敵を下し
戦場を生き抜いた
「逃げるには場所が悪い」
そう呟くとザキエルは
強力な閃光弾フラッシュボムを
使用した
だが その閃光弾も
目を一瞬速く目を閉じた
ガイには通用せず
目を閉じていても相手を
察知する超感覚で確実に捉え
動く標的に斬りつけた
ズヴィンと言う肉が斬れた音と共に
一本の腕が宙を舞った
「グオオオオーーッ」
ザキエルは斬られた痛みを
怒りと激痛を誤魔化すためか
大声を上げて傷口を押さえて
駐車場の奥にめがけて全力で
走る
だがそのまま逃亡を許すガイでは無い
次の一太刀を浴びせようと
ザキエルを追いつめるが
ザキエルが走り抜けると同時に
一台の車が凱めがけ猛スピードで
突っ込んでくる
「このクソ!」
ザキエルはもしもの時を考え
伏兵を用意していたのである
ガイは自分にめがけ突っ込んでくる車を
回転しながら避けつつ
運転席に座る敵運転手を
車のドアごと横凪に斬り裂いた
車は駐車場の柱に衝突し
それからバウンドして
横転した
運転席からは大量の血が
流れ出る
ガイが逃げたザキエルを目で追うが
流石に見つけられない
やはりザキエルは忍者の技術を
修めている
一度逃がせば捕まえられない
「逃したか…」
ガイも流石にこの場を離れて
ザキエルを追うことはしない
だが手負いの獣を野放しにする
事にはもの凄い危機感を感じた
やむを得ない事なのだが
そしてまだ5人の
野獣部隊と闘う大時の加勢に
ガイは向かった
「凱さん」
大時の加勢に戻ると
敵の数は既に3人に減っていた
野獣部隊の5人のうち2人は
大時が倒していた
「流石だな大時…手を貸すぞ」
大時はガイを見るとニヤリと笑う
「何だよ…湿気た顔して敵の首魁を
逃がしたのかよ」
ガイは苦笑いで
「悪かったな御前こそまだ
かたずいてねえじゃねーか」
ガイがそう言うが速いか
大時が敵を金棒で吹き飛ばした
空中に舞ったその3人の敵を
ガイが
目にも止まらない早業で
一人の首を切り落とし
もう一人は胴体を切断し
残りの一人は心臓を刀で
突き刺した
「どうやらかたずいたな」
大時も一度に野獣部隊を5人も
相手にしての戦いは流石に
疲労感を覚える
それにしてもガイが獲物を逃すとは
珍しいと言える
必殺こそが御剣凱のモットーなのに
毒使い程度を取り逃がすとは
らしくない
まあ調子を狂わせた原因は明白
彼女だ
ガイは脅威を遠ざけたと
渡瀬博士に報告している
ガイと大時の二人は
携帯要人用障壁装置を切り
移動出来るようになった
博士を泉の広場まで
エスコートする
「それにしてもあんなに凄い
絡繰りがこの世にはあるんだな
驚きましたよ博士」
大時がそう言うと
「有り難う御座いますこの発明で
少しでも人類の役にたてれば
嬉しいですわ」
ガイはそう言い微笑む聖子に
恐る恐る近寄り
声を掛けようとする
だがその時のガイの心境は
自分が狂人のように彼女に
思われていないかが心配で
たまらなかった
それまで仲良く成った人も
ガイが鬼の強さで闘う姿を見た後から
突然態度を変え離れていく事が
常々あったせいだ
ガイは臆病に成っていた
「凱さんの剣術は強力な回転力を
主体にしたものでその力を流す肉体
しなりのある骨が支えているのですね」
凱はキョトンとした顔になる
自分を避ける所かこの人は
御剣流の奥義をそれとなく
言い当ててしまったぞ
「何故其れを?」
偶然で言い当てられる物でもない
御剣流はあらゆる剣術の中で
回転する事で敵を斬るのを
その奥義としている特別な殺人剣
その秘密は門外不出
当然誰かに口外する類の事は
絶対にありえない
つまり彼女は見ただけで
御剣流を見極めたと言える
「天才…」
ガイの背中に冷たい汗が流れた
ガイは渡瀬博士に空恐ろしい
物を感じる
その視線に渡瀬博士は
「何か?」
博士の問いにガイは慌てて
「いや…その驚いたな
まさか博士に御剣の真髄を
良い当てられるなんて」
渡瀬博士は頬を膨らませて
「私が凱さんを下の名で呼んでいるのに
貴方は私を下の名で呼んでくれないんですか?」
そう膨れっ面をされて凱は
仕方なく「それじゃあ失礼して」
コホンと咳を一つ挟み
ガイは優しく
「聖子さん」と呼んだ
その一言だけで
渡瀬聖子は乙女のように
嬉しそうに微笑んだ
魔の駐車場を抜けるには
エレベーターを使うか
階段を降りるか
どちらも危険には違いない
「どうする凱?」
凱は闘うのは玄人だが作戦を
考えるのが苦手だった
「エレベーターよりは階段だ
箱の中じゃ落とされたら
一溜まりも無いからな」
だが渡瀬聖子は何やら中空に
手を当てると矢継ぎ早に
何かの操作をして見せた
当然ガイと大時の二人は
博士が何をしているのか
解らない
大時が恐る恐る博士に訪ねる
「一体何をやってるんで?」
聖子はニコリと笑い
「お二人のサポートを
しようとしています」
大時とガイは互いに目と目を
見合わせ 博士に
任せてみようと言う
意志を確認し合った
長年の経験が目線だけで
多くの意志疎通が瞬時に出来るのも
二人の強みだ
「階段に大量の爆発物が
仕掛けられています」
聖子は階段をスキャンして
そう二人に伝えた
「じゃあやっぱりエレベーターが
正解だな」
そう凱が言うと聖子はエレベーターを
スキャンする
「エレベーターの床下と天井に
爆発物を発見しました
エレベーターが動くと同時に
起爆するみたいです
ガイと大時は頭を掻いた
「参ったな地下街に降りるには
一度このデパートの外に出て
爆弾の無い場所から降りるしか
無いって事か」
そこで聖子博士はこう発言する
「地上に降りるだけなら出来るんですけど」
凱と大時は又々顔を見合わせ
「ハア?」
と言う表情になる
「パラシュートでもあるって
事なのかい聖子さん?」
一見何も所持して居るようには
見えない聖子がこんな事を
言い出しても
もう二人はさして驚かなかった
闘う以外は万能なのだこの
希代の大天才は
「じゃあ良いですね?」
何がじゃあ良いですねなのかは
解らない
地面まで少なく見ても20メートル
以上はある
此処から飛び降りるのは
普通に考えれば
飛び降り自殺だろう
だが二人は此までに異常な
科学力を見せられてきた
その信頼が、この一歩を
踏み出す
「3・2・1」
「GO!」
ウワアアアアアアア
声にならない叫びが大時の
口から漏れる
ガイでさえ口を真一文字に
結んでいる
だがその落下速度は
まるで浮遊しているみたいに
緩やかであった
博士が何もない空間で何かを
制御する仕草をする
恐らく彼女の瞳にしか見えない
操作パネルを触っているのだ
「重力制御良好、地上まで毎秒500で
下降するよう設定」
「し…信じられねえ!
俺達浮いているのか?」
大時は目をパチクリさせ
自分達が重力に逆らって
浮いている事に驚いた
高所恐怖症の
ガイも恐怖からか
固まっている
「ヤバいぜ…夢に見そうだ」
ジェットコースターでさえ
苦手なガイだった
だが隣で平然としている
聖子を見て強がって見せた
「ふん!どうって事ない高さだな
これくらいどうってことない」
動揺しているし只の強がりなのは
一見して解るのだが
聖子は額面通りに受け取ってしまう
「そうですよね此くらいの
高さをガイさんが怖がるはず
ないですよね…ああ良かった
私ったら勘違いするところでした」
大時はニヤニヤ笑いながら
「勘違いねー~っ」
ガイは、うるせえと
声を出したが掠れて旨く
発声出来なかった
そのころ有名デパートの駐車場から
凱達が止めていたミニパトが消えて
いると報告が入る
其れを聞いたのは
駐車場のスロープで
凱達を待ちかまえる
ザキエル指揮官だった
「やはりEVと階段ルートの罠に
気が付き車での逃走を選んだか」
ザキエルとしては
デパート駐車場と地上とを繋ぐ
この登り坂となるループ状の
スロープの出口で待ち伏せる
これこそが最善策であると
考えていた
「ガイと言うあの手化け物の始末を
つけるなら刀を抜く前に
自動車爆弾を積んだ車両での
特効こそが最良の有効手段…
我ながら名案だ!」
そう言ってザキエルが数台の車に
乗る洗脳兵士達に目配せする
その兵士達の目は皆
狂人のように見開かれ
死など恐れていない
その無敵の戦士達の姿に
満足しザキエルは
今度こそゾスター神のお告げを
果たそうと決意を新たにする
だがーーー
「ザキエル様…違うのです…車が
奴等の乗ってきたパトカーそのものが
この駐車場の何処にも見つからない
のです」
ザキエルは口をポカンと開け
「何だと?」
驚きすぎて
それだけしか言葉が出なかった
あらゆる出口を塞ぎ
密閉空間となっていた
有名デパート駐車場からの
消失マジック
車所か…あの三人の姿形もない
ザキエルは訳が分からなくなる
「兎に角奴らを捜せ!そう遠くには
行ってないはずだ」
泉の広場が目的地だと知らない
ザキエルはゾスターのテレパシー
により神の掲示として受け入れさせられ
行動している
だが超長距離精神通信であるため
不鮮明な部分が多い命令なのだ
時と場所、そして渡瀬聖子博士を
大阪で自由にさせるな
そんな程度の情報しか入らない
為に、ザキエルは聖子殺害と言う
極端な行動を起こしている
当然ゾスターはそんな情報伝達の
結果に成っていることは
知る由もない
ただシャレーダーを召還するシステムを
予め潰しておくのが目的だったのに
博士の生命が脅かされるなど
ゾスターからしてみれば
寝耳に水な事態だった
此だから自分に自身が有りすぎる奴は
始末に負えないのだ
渡瀬聖子博士の生死は
ゾスター誕生さえ危うくする
過去えの干渉に置ける
最大タブーたる由縁なのである
そんな神の望まぬ未来を
引き起こす事態を
自らが犯していることに
ザキエル指揮官は知る由もなく
博士抹殺と言う誤った目的を
ゾスター教団は此から先も
冒していくのである
地上に降りた
凱と大時そして渡瀬博士の
3人は、地下街に降りる階段を
探していた
「サーチしたんですがここの
階段には教団のトラップは仕掛けられて
いないみたいです」
渡瀬博士がそう言うのだから
トラップの危険はないだろう
個人の持つ能力を遙かに
逸脱している超科学者
渡瀬博士は戦う以外は本当に
一国の情報局にも勝る
分析力と情報を保有している
今此処にいる3人だけでも
軍事基地の一つや二つ
壊滅出来る戦力にも思える
程の能力だ
ガイと大時は博士を真ん中にして
地下街に向かう階段を降りていく
恐らく地下街には教団の
洗脳兵が待ちかまえて居るはずだ
「教団の動きがやけに
緩慢な気がするが聖子さん
どう思います?」
凱は聖子に敵の動きを
聞いてみる
聖子は凱の質問に対し少し
時間を掛けて答える
「恐らくですが…教団は私の
目的と目的の場所を知らないのでは
ないのでしょうか?」
「そんな事が?」
凱からすれば敵の行動の
ちぐはぐさが此で合点が行く
「大阪に用事のある私を
邪魔するのが目的…と言う
程度の命令内容だとしたら
あの指揮官なら極端な
行動を取るのかも
知れません」
ザキエルは抹殺対象として
渡瀬博士の命を狙っている
だが目的地が特定できないから
トラップも手の込んだ物は
使えずその場凌ぎな簡単な
形しか用意出来ない
「成る程ね…博士の目的を
邪魔するだけならその場所を
爆弾で吹き飛ばせばすむ話だ
もんな」
今更だが攻める事は
テロリストにとっては
圧倒的に有利なのだ
「今のところ奴等は聖子さんの命を
狙うことに固執しているが…地下街
全体を爆弾で崩落させると言う
手を使われたらお終いだしな」
大時は自分達が地下街に行けば
最悪そうなる事も予想の
範疇に入れていた
ガイもその可能性には同意見だ
「ああ…確かにそうだ…奴等が
地下街全域を爆薬で崩落させる
暇を与えないのが一番だな」
聖子はそう不安がる彼等に
「じゃあ出来るだけ速く着くように
乗り物が有れば便利ですよね?」
と言い出した
「乗り物?こんな地下街に
そんな便利なモノ」
大時がそう言いきる前に
渡瀬博士は空間に干渉して
何もない空間から
凱達がさっきまで乗ってきた
ミニパトを出現させて見せた
其れを見て流石に顔色を変えた
大時と凱
「な…っ」
「おぁ!」
「妖術使いかアンタは!?」
思わず大時がそんな失礼な事を
博士にホザくと
「失礼な只の科学者ですよ
私は」
イヤイヤイヤ
只の科学者はこんな何もない所に
自動車を出して見せたりしないって!
流石のガイも笑うしか無かった
これは宇宙の大魔王にも
命を狙われるだけの根拠が
あるな~と
地下街はショップがシャッターを
降ろして人通りがなければ
軽自動車が走るのに充分な
空きスペースがある
「まさか地下街を車で走る日が
来るとは思わなかったな大時」
「おお俺達の縄張りとはいえ
こんな無茶が出来るとは
痛快なもんよ」
二人とも普段は歩く事しか出来ない
梅田の地下街を車で移動する事に
かなり興奮していた
「お二人とも凄く楽しそう
良かったわ」
聖子はガイと大時の二人が
こんな些細な事でも楽しんでいる
事に微笑ましくなる
超科学の世界で生きていると
通常の感覚が鈍るのか
聖子にしてみれば
宇宙に行くことさえも
日常の出来事に過ぎないの
だから
「ちっ!」だがガイの表情が
その楽しい時間の突然の
終わりを告げた
見れば敵の一団らしき人影が
わらわらと沸き出してくる
「どうやらお楽しみの時間も
此処までの様だな」
ガイは敵の出現に併せて
戦闘モードに切り替える
聖子は先ほどまでの楽しい気分が
台無しになったと感じて
悲しい気持ちになった
「折角楽しかったのにもう
終わりなのですね」
そう言って沈む聖子にガイは
「終わりなんかじゃありませんよ
聖子さんさえ良ければ又今度
二人で此処に来ましょう
そん時は歩きでね」
聖子は思わぬガイの言葉に
頬を真っ赤にさせて只でさえ
大きな目をまん丸にして
口に手を当てた
「まあ…まあ!」
聖子の様子の変化に自分の
言った意味を思いだし
逆に慌てる凱
「いや…その」
何言ってんだ俺は世界一の美女に
これじゃまるでデートを
申し込んだみたいじゃねえか!
だが聖子の表情は
どう見ても悪い反応じゃない
期待に胸を膨らませ瞳を
キラキラさせている
「今のはデートのお誘いですか?」
そう聞かれてガイは覚悟を決めて
「デートして下さいこの俺と
貴女の事は俺が必ず守るから」
この言葉に聖子は明らかに
喜びの表情になる
その様子を見ていた大時は
ガイの背中をポンと叩き
「やるじゃねえか~テメエに
そんな甲斐性があるとはな!
良くやったぜ相棒」
ガイが自分から女性に
積極的に行動する事は
今までに無かった事である
常に闘いに身を置く御剣凱は
生半可な気持ちでか弱い女性を
危険な自分の隣に寄せられない
からだ
だが…この渡瀬聖子は違う
逆にガイが危機の時は助けになれる
常人を超えた超越者だ
そして彼女も万能ではない
戦闘面に置いてはガイに頼る
事になる、そして彼女の
立場はガイに頼る事で
安全に活動できる
「二人が付き合って悪い事は無い…
良いことずくめとは行かなくても
此ほどの女性は世界中探しても
見つからねえよ」
ガイには勿体ない程
美人だがな
と言葉を続ける前に
ミニパトえの攻撃が激しさを増す
ゾスター教団の洗脳兵は
ミニパトを狙って機関銃や
ショットガンを撃ちまくる
だがその攻撃は通用しない
要人携帯用障壁は出力を上げれば
直径6メートルまで効果範囲を
伸ばせる
渡瀬聖子の発明したバリヤーの
前では最新鋭の銃火器も無意味となる
「驚いたなこりゃ」
二人の戦士は只驚きの声を漏らすが
聖子は注意する
「この障壁は時間制限があります
後30分しか稼働できません」
其れを聞いても30分あれば
泉の広場まで目と鼻の先だ
余裕は充分ある
「大丈夫だ聖子さんもう着くぜ!」
大時がそう言ったときだ
突然敵の弾丸がミニパトの
タイヤを撃ち抜いた
「!!」
それは現場の状況を映像で分析し
即座にザキエルが命じたからだった
「馬鹿者!良く見て見ろ
目標のタイヤは駆動している
移動するのに必要だから
障壁で守れないのだ
すぐに撃て!」
そう命じられ控えていた
スナイパー兵が
ミニパトのタイヤを
狙撃銃で撃ち抜いたのだ
車はスピン回転を起こし
激しく地下街にあるショップの
シャッターにぶつかって止まった
三人の安否が気になるが杞憂である
亜空間バリヤーに身を守られた
彼等のみに何の損害も
物理的に与えることは無かった
「参ったなパトカーが
お釈迦だ~」
壊れたドアを苦もなく蹴り飛ばし
ガイは助手席にいた聖子を
手を引き助け出す
携帯障壁を稼働させたままなので
自分の力での移動に支障を
来すのが、この装置最大の
欠点だ
そして障壁圏内に居れば
敵の銃は全く効力を発揮出来ない
これは利点である
幾ら撃っても無駄弾に成るだけの
状況にゾスター教団の戦士達も
根を上げる
「駄目だ…弾の無駄だクソ!」
そこえやっと
ザキエル指揮官が息を切らせて
やってきた
見れば部下が銃を撃ちまくり
あの三人を足止めしている
有効な打撃は与えていない様だが
「でかしたぞ!よくぞあの化け者共を
足止めしてくれた」
思わず部下への賛辞の言葉が
口を割って出た
それくらいザキエルは
凱達に脅威を感じていたのだ
そしてザキエルの姿を見て
ガイと大時は同時に
「厄介な奴が来やがった」
そう同時に同じ事を思った
さっきまで烏合の衆と言った
感じだった兵士達が
ザキエルが現れた瞬間に
統率の取れた動きにかわる
これが指揮系統がしっかりした
組織の力だ
とくに奴のようなカリスマが
指揮官なのは厄介だった
「さっき殺れなかったのは
本当に痛いぜ!」
ガイもザキエルが戦士としても
一流であり指揮官としても
申し分の無い能力を持つと
評価していた
「戦闘力と指揮能力の
二つを合わせれば奴も
凱と同じく逸脱者の一人だな」
大時も逸脱者ではあるが
ガイや聖子のような超がつく
程ではない
ガイと聖子の二人は間違いなく
逸脱者の中でも飛び抜けた
超逸脱者である
「障壁の中にいては攻撃が出来ない
何とかして敵の懐に飛び込み
混乱にじょうじて敵を殲滅しないと」
ガイはそう聖子に知恵を貸して
欲しいと言った
聖子はすぐさま
「では一時的に凱さんの姿を
透明にしますからその隙に
攻撃して下さい」
透明ーー??
何をどうしたらそんな不思議な
現象を起こせるか知らないが
次から次にこの女性は
当たり前のように
信じられない事をするんだな
凱は緊張でごくりと唾を飲み
その作戦に掛ける決意をした
「じゃあ次の銃撃の止んだ時に
俺の姿を消して下さい」
「了解です凱さん!」
そして十数秒の間
激しい銃声が地下街に
響きわたった
全て障壁で弾き返されると
解っていながら銃撃は
止まずに続く
ザキエルは凱達を足止めできれば
其れで良かった
「奴等の目的地は地下街の
何処かにある…ならば全て
爆破し埋めてしまえば
すむ話だ」
流石はザキエル
ゾスターからの命令を曲解し
博士を殺そうとしている
間違いさえ除けば
その推理力はたいしたものである
「お前達は兎に角奴等を此処に
釘付けにしろ!爆弾でこの
地下を崩し奴等ごと生き埋めにする
ための捨て駒となるのだ」
狂信者ならではの人権無視の
とことん酷い命令である
だがこの命令を幸福に
感じるのが狂信者の狂信者たる
由縁だ
「解りましたザキエル様
喜んで聖なる任務を
果たします」
「そして我々は少しお先に
ゾスター神がおられる世界で
ダークネスに生まれ変わり
お使いしております」
彼等は死ねばダークネスへと転生し
ゾスター神の戦士として
生き返れると信じ切っていた
ダークネスとは人間を喰らう
化け物である
喰われる事はあっても
転生など出来るはずがない
何故そんな世迷い言を信じて
しまうのか
不老不死に成りたい夢を見た
故の狂気に飲み込まれて
しまった哀れな犠牲者達だ
ゾスターは
「その者達の夢を叶える」
と言うだけで狂気の集団を
意のままに操っている
博士を殺そうとしている時点で
意のままにと言う訳ではないのだが
ゾスター自身はその事実を知らない
数億光年と言う距離と時間の
相互関係が意志疎通を阻害している
ザキエルはゾスターの通信を
部分的にしか受け取っておらず
渡瀬博士の大阪での行動を
阻止せよと言う命令を
自分なりに曲解し
博士を抹殺するという
一番やってはいけない事を
実行しようとしていた
ゾスターの通信には
博士を絶対に傷つけては
成らないと言う一番肝心な
言葉が届いていなかった
だがーーここで渡瀬聖子が死亡すれば
歴史は大きく代わり
人類とダークネスの戦争事態
消滅する
だが宇宙はこれほどまで大規模の
歴史改変を決して許しはしない
ゾスターの行為は言わば
過去に対する歴史の改変であり
決して冒しては成らない
宇宙に置ける時間連続体に対する
違反行為なのである
亘理洋子とシャレーダーの
邂逅が無ければ亘理洋子は
アーモンの手により
ダークネスの大参謀と
成っていた
そうすれば現在の渡瀬聖子との
死の鬼ごっこも無かったことに
出来るという
幼稚な発想の為に
今ーー渡瀬聖子の命は
脅かせれているのだ
動けなくさせておいて
地下街を爆弾で崩壊させ
生き埋めにする作戦は
ガイの規格外の戦闘力など
関係なく、成功すれば
確実に歴史は改変されてしまう
だがそうは成らないのだ
何故ならこの男が居るから
全ての運命を斬る男
鬼に会っては鬼を斬り
神に会っては神を斬る
人類種最強の魔剣使い
御剣凱が…
弾は無限に撃つことは出来ない
銃には弾込めリロードと言う最大の
弱点がある
その隙は1秒あるかないか
…だがその僅かな隙があるだけでいい
御剣凱は渡瀬博士の手を借りて
一時的に姿を透明化して
その間隙に躍り出た
「超加速剣ー」
一瞬で姿が消えた凱に気が付いたのは
やはりザキエル指揮官だった
部下を生け贄にして
敵を生き埋めにするという
非道な作戦を今直ぐに実行に移そう
としたその時…だった
三人の姿が遠目にも見えていた
まだそれほどの距離は離れていない
だから見間違える筈は無いのである
「一人消えた?」
ザキエルは戦士としての直感として
凄まじい恐怖を感じた
一瞬にして自分を取り巻く時間が
止まった様に制止する
部下達の銃撃は絶え間なく
続けられている
リロードのタイミングを
見計らい交代で撃つのだから
銃撃が止まるのは
一秒足らずの筈だ
違う…一秒もあるのだ…
馬鹿か…私ともあろう者が
何を油断していたのか
一秒も有れば奴なら余裕で
兵士達の場所まで切り込める
体制になれる
だが銃弾が邪魔して
その場から移動できない事に
変わりない筈が
奴は何かの方法で姿を消した
そして透明化した御剣凱を
見失った銃口は
未だバリアー内に止まる
渡瀬博士と広野大時に
集中砲火を継続した
だが数秒と立たずゾスター教団の
教徒達が血飛沫を上げながら
無惨に四散する
見えない刃による暫撃は
洗脳兵達の四肢を切断し
刀の錆に変える
ガイは洗脳兵を切り刻んだ
勢いそのままに
ザキエルの行る場所まで
一瞬にして到達した
そしてザキエルが反応し
振り返り銃を構える
合間に第一の暫撃をくわえる
ズバァアア
「ぐぎゃあああー」
ガイの殺人剣はザキエルが構えた
AKアサルトライフルごと
その腕を第二間接の所まで
切断した
そして次の瞬間には
ザキエルの足を容赦なく
切り払い太股がザックリ
割れて筋肉の繊維と骨とが
剥き出しとなる
だがまだガイの追撃は止まらない
ザキエルが苦悶の表情を浮かべる
刹那 ガイの回転はさらに
速度を増し
ザキエルの両の足を太股の辺りから
完全に切断した後更に回転して
次にザキエルのわき腹に暫撃を加える
ザキエルはわき腹から綺麗に
切断され人体標本の見事な輪切り
にされたまま床に内蔵をぶちまけながら
転がった
「ぐがあっ!」
そして最後にガイは
ザキエルの首を回転を止める
瞬間に跳ねて止まった
「御剣流奥義
鬼車」
ザキエルは自分の周りの景色が
グルグル回るのを見ながら
己の最期を迎えた
ー此が死かー
この一瞬の出来事を
後ろで見ていた大時と
渡瀬博士は驚愕していた
「本当に恐ろしい奴だぜ…こいつが
味方で良かったと心底思うぜ」
そして聖子は
ガイが今し方見せた
戦闘を無意識に分析していた
科学者としての性だった
「アレほど綺麗な回転力を
全て生身で出来るなんて
人間業とは思えない
回転モジュールを考えるだけで
どれほどの切断力を出せるのかしら」
「間違いなく回転こそが
凱さんの力の根元なんだわ」
御剣流の技は全て回転を基本とする
体の軸を中心にあらゆる方向に回転で
刀を振るうことで
戦場で無敵の力を発揮できるのだ
だが御剣の技は味方に被弾する
危険性が余りに大きいので
集団戦には全く向かない
単騎で何十人も相手にするとき
初めてその威力を発揮する
戦国時代、日本の剣術の流派で
大量殺人剣法と恐れられ
忌避される由縁は伊達ではない
のだった
だが…「まぐれ当たりって奴か…」
ガイの様子の異変に気が付いたのは
大時だった
「おい…どうしたんだ!?」
凱が直ぐに立ち上がらないのは
おかしい、いつもなら
少なくても二人が来る前には
凱なら立ち上がり何事も
無かったように笑みを返す
筈だ
「どうしたんだ?凱」
振り返らない凱はその時
口から血を垂らしていた
バリアーから飛び出し
透明になった凱に向けて
洗脳兵達はむやみやたらと
出鱈目に銃を乱射した
その内の一発がたまたま
凱の心臓に当たったのは
恐ろしく低い確率だった
だが…その悲劇は
一瞬の出来事だった
「グハッ!」
凱は血を吐きその場に膝を突いた
致命傷を負ったのだ
「凱さん!」
その信じられない様な
不幸な偶然に
渡瀬聖子も悲鳴を上げる
きゃあああああーー
大時は自分の目が信じられなかった
どんな危機でも乗り越えてきた
御剣凱が死ぬ?
「フザケるなよ凱!馬鹿野郎!!」
もし戦場で死ぬなら絶対に
自分の方が先だと思っていた
不死身の怪物と敵味方から
恐れられる最強の男が
敵が苦し紛れに乱射した
まぐれ当たりの弾丸で
死のうとしている
そのあまりに理不尽な運命の神に
心底腹が立ったのだ
だが聖子は大時に言った
「大時さん…凱さんを泉の広場に
運んで下さい」
大時は信じられないと言った
顔をした
「何を言ってるんだアンタは…
病院じゃなく…自分の目的地に
行けというのか?」
大時は怒りを覚える
「凱の事よりも目的の方を
優先するとは…
まさかそんな女だとは
思わなかったぜ!」
思わずそんな悪態が口を
ついて出てしまう
「聖子さんはそんな…女じゃない
…」凱は苦しい息の下
大時の腕を握る
聖子はこれ以上ないと言うくらい
真剣な顔をしていた
「信じて下さい大時さん…私を
信じて凱さんを泉の広場に
運んで下さい」
大時は凱の目を見て
渡瀬聖子の言うとおりに
してくれと頼んでいると解った
もう言葉を発するのも
無理という状態の
瀕死の凱を背負い運ぶ
敵の追撃が何時来るかも
解らない
緊迫した状況だ
「解らないが…兎に角
アンタを信じるぜ博士」
聖子は胸に手を置き
気持ちを落ち着けようとしている
「有り難う御座います…絶対に
期待を裏切りません」
泉の広場にやってきた2人は
急いで瀕死の凱を泉の広場の
水の近くに運んだ
そして博士は
その場で服を脱ぎ始め
下着姿になって
其れを呆気にとられ見ていた大時は
慌てて目を瞑る!
「何をするんだ聖子さん!
血迷ったのかよ!?」
聖子は靴を脱ぎ裸足になると
泉の中の水に足を入れ
そのまま膝を突き
腕を広げる
「さあ凱さんを早く!」
そう言って凱を自分に渡せと
懇願する聖子に
大時は…一瞬躊躇うが
此まで奇跡みたいな事を
見せてきた渡瀬博士が
ここまでするからには
何かがあるに違いない
そう思い
大時は背中から
凱を降ろすと
泉の中で手を広げ
凱を受け止めようとする
女神に親友の身を預ける
事にした
「俺の親友を宜しく頼むよ
…女神様」
大時が凱を聖子に渡すと
聖子は凱の体を抱き抱えた
その数秒後
泉の中が徐々に
眩しい光で輝き出す
それはやがて金色の
黄金水となる
「うおおお」
大時もその水の変化に
驚愕する
丸い泉の形状に沿うように
幾つもの光が数式を作りだし
やがて立体的な光の
光学図式で凱を抱き抱える
これが何もない所で
いきなりおきたのだから
魔法としか思えない
だがこれも全て渡瀬博士の
科学が起こした事象なのである
「まるで…夢でも見ている気分だ」
この世の奇跡を何度も
目の当たりにしてきた
大時でも
此だけの脅威を見せられては
奇跡を信じずにいられなかった
もしかしたらこの女神なら
本当に瀕死の凱を
助けられるかも知れない
そう信じずにはいられない
「大丈夫ですよ凱さん…
あなたはこんな所で
終わらせません」
ガイは夢心地の中で
女神に介抱される
幸せな気分を味わっていた
自分の心臓に女神が触れると
一瞬にして細胞が活性化し
ガイの心臓を抉っていた
弾丸が一瞬で原子分解して
消滅し
心臓繊維が自己修復していき
失われた血液が女神の血で
補われる
「私の血液型はO型だから
A型の凱さんにも輸血出来ます」
ガイが流した血は
金色の光学数式に刻み込まれて
赤い模様が金の縁を付けた
美しい文様に見える
「私の命を使って下さい…そして
どうか蘇ってお願いです」
聖子の祈りが天に通じたか
ガイの心臓は再び強く鼓動を
再会し始める
そして麻酔無しの再生治療は
心臓を撃たれ絶命したかに
思えた一人の男を完全に
復活させた
「ウオオオオオォ」
一声獣と化して吼えるガイは
聖子の体を激しく掴むと
胸を鷲掴みにし揉みし抱く
性獣と成ったガイは無意識に
聖子の肉体を貪った
其れを見た大時は怒りを爆発させる
「やめろ!ガイ!なにやってるんだ!!」
そして止めようと二人に近寄るが
聖子がそれを止めた
「駄目です大時さん!止めないで
下さい!!」
大時は聖子の叫びに身を固める
そして聖子はガイの分厚い胸板の
下にある心臓を確認した
★付箋文★
敵は兎に角怖くて強いほうが面白い
それを目指して頑張ります