04
地球から飛び出した人工生命が銀河サイズの
軍団を率いる魔王となり
宇宙全体の生命を根絶やしにしようとします
その魔王を討伐するために人類の切り札
亜空間戦艦マグニファイセントが活躍します
魔獣戦艦ゲルサンドとは
進化前は名も無きダークネスであり
これほどまで巨大になるとは
自身でも創造だにしていなかった
黒に紫の暗い色が入り
その様相は巨大な
ウミウシにも思える形態である
海洋生物のキメラという形が
宇宙の環境が海に酷似していると
言われる由縁か
無重力かである限り無限に
巨大化するのもダークネスの
進化する能力にあっている
海に巨大な生物が多いのもそれだけ
巨大化しやすい環境なのである
ゲルサンドは魔獣戦艦の中でも
中型の大きさながら
その戦闘力は日輪恒星系を破壊し尽くす
のに十分な火力がある
特にその質量に回転力を加えた
回転地獄車は星を貫通する
威力を出す
これを星系から押し出すマグニファイセントの
パワーが如何に凄まじいのかを言うまでもない
だろう
しかもそれをたかだか千メートルクラスの
船がやって見せたのだ奇跡としか
言いようがない
質量の差など天文学的数字だ
「何だあの船は化け物か!!」
弦間はダークネスに変化して
自分が無敵の存在になったと知り
歓喜した
またゾスターの神懸かり的な強さと
魅力に酔って自分がその存在の
一員であることに誇りを感じた
矮小な存在の人間には一切の思いも残さずに
身ばかりか心まで化け物に変わった
最早この世に恐ろしい物などない
ダークネスには優しさも悲しみもない
弱肉強食があるだけだ
只一つ恐ろしい物があるとすれば
それはゾスターに見捨てられること
只一つの拠り所であるダークネスの
将軍としての地位を得るために
自分が産まれた国を裏切った代償に
見合う物は他にない
「我もセブン・デッドリー・サインズの
一角に…」
伝説の7人…その生き残りは今
僅かに二人…ならば自分にも
十分チャンスはある
王は逃げた后を追って
今は遙か先の宇宙に行っておられる
なればこそこの日輪を中継基地とし
人類の後続を遮断する防波堤として
確立し…然る後、ゾスター帝王の
手助けをいたしに馳せ参じるのが
臣下の本懐、そのためにもこんな所で
躓いている訳にはいかぬのだ!
そう思うと目の前で無駄な抵抗で
自らの栄光の邪魔をしてくる
虫けら共に異様な怒りを感じ
憤りを隠せない
「己…虫けら共が…邪魔をするな
この弦間の目の前から消え失せろ!」
弦間はゲルサンドに破壊砲の準備をさせる
「最早この星系などいらん!代わりなど
幾らでもある!この邪魔な虫螻共を
根絶やしにしろ!!」
己の欲のみで行動する弦間に
為す術もなく操られる美作進次郎
その脳髄は意識が支配されながらも
必死の抵抗を見せる
「どうした!?」
命じてから数刻…エネルギーの充填は
既に完了し後は主砲を発射するのみである
状態でゲルサンドは撃つ体制のまま凍り固まった
「撃て!撃つのだゲルサンド!」
魔獣戦艦が主砲の発射態勢に
入ったと見て取った
マグニファイセントの
キャプテンボイストームは
ソード・オブ・システムを起動し
迎撃技の体制に入った
「来るか!」
マグニファイセントのコクピットでは
ボイストーム以下シャレーダーと
副キャプテンの韋駄天ディーヴァスカンダ
そして武器管制席に臨時で着座した
だが魔獣戦艦は固まったまままったく
動こうとしない
此を好機と考えたストームは
戦乱の現況である弦間を
討伐するために
シャレーダーをともない
進次郎の妹である日陰姫のお守り役である
御美津と最上隊の雪野をともない
動きを止めたゲルサンドの艦橋に突入した
「君とと御美津君は進次郎君の救出を頼む!」
ストームは進次郎を救出すれば
いま戦っているセキサイと仁王左をはじめ
多くの者をこちら側に寝返らせられると
考えたのだ
だが
ゲルサンドが動かない
その原因が進次郎だと気が付いた
弦間は思わぬ行動に出る
ストーム達が突入したその時
「この役立たずめ!」
ゲルサンドの頭脳とも言える
美作進次郎の脳に弦間は
エネルギー銃で風穴を空けていた
きゃあああー
進次郎様!!
チッ!しまった!
弦間は狂った様に笑いながら
「貴様など只利用できるから利用していた
だけだ…身の程も弁えず無駄な抵抗を
しおって!」
只の道具と考えていた者に
反抗されるとこうも戸惑うものとは
人は当たり前だと考えてきたことが
覆ったときに慌てて冷静さを失いがちだ
この感情は恐怖である
信じたいものを信じられなくなる
一瞬にして自分の優位が崩れる瞬間
に支配者は幻想だと思い知るのだ
人は決して道具に出来ない
奴隷扱いしていてもいつ反抗されるか
それは奴隷次第だ
砂の城の居心地はどうだった
裸の王様!?
精神の支配を阻害する神格の存在
人工的に造られた天使とはいえ
天才渡瀬聖子が心血を注いだ
神の子に出来ないわけがない
進次郎の精神支配を打ち消したのは
日輪星系の守護天使にして日輪帝
祭文だった
「日輪帝様…こんな愚かな私を
悪魔の支配から救って下さるのか」
進次郎の意志は
このとき甦っていた
悪より解放された進次郎は
たとえ死んでも魂は救われた
だが卑怯者ほど引き際を弁えない
「己~まだだ!!」
進次郎の破棄された脳髄を機械から掻きだし
弦間は自の脳を自ら脊髄ごと引きずり出し
その装置に繋いだ
「今からこの弦間が…魔獣戦艦
ゲルサンドだ…」
完全に狂った怪物は自傷行為をも
越えた
狂ってる!!
「素晴らしいぞ!この力…何だ何だ
此なら最初からこの弦間がゲルサンドに
成っておれば良かったのだ」
弦間は新たに得た力に酔いしれ
大事なことを見誤っていた
魔獣戦艦は試しに波動を口から吐いて
そこらに浮いている隕石を粉微塵に粉砕した
「ナンダナンダこの力は…さては奴め
力の加減をしていたな」
「此ほどの力を隠し持っていたとは
この弦間、まんまと欺かれていたと
言うことか、ええい実に腹立たしい」
「だが…」弦間の顔が進次郎に変わり
魔獣戦艦の人面相に浮かび上がる
「この怒りを纏めて奴にお見舞いしてやるぞ」
進次郎と違って我は力の加減などせんぞ
全力も出せなかった進次郎に苦戦していた
お前達に抗う事など出来まい」
力任せに魔獣の力を振るう弦間
その破壊力は此までとは比較にならない
筈だ、怪物の口元の空間が歪み
凄まじい咆咬と共に青白い閃光が
喉元から迫り出してくる
「大罪砲が一門 嫉妬の喚き声」
魔獣戦艦の頭脳となった
弦間はこの大砲の意味を喋り出した
「ゾスター様に着いていくことの叶った
幸運な使途の傲慢と執着…何と羨ましくも
腹立たしい事よ
我もその大罪に加わるべく力を
磨いた…この大罪砲こそは
我が大罪である嫉妬の苛烈極まる
顕現也~~~っ」
ストームもこの弦間の嫉妬深さには
辟易した
「ゾスターもこんな粘着質な男に
好かれるとは…何とも気の毒だね」
シャレーダーは首を振り
「お母さんを宇宙の果てまで追いかけ回す
ゾスターの方がしつこくて最悪だよ」
「まあ人間でもストーカはいるが
流石に宇宙の果てまで追い回したり
出来ないだろうからね」
渡瀬聖子が特別な存在だったから
宇宙の果てまで逃げられた
惑星を分解する波動の力を
推進力に変え飛行すれば
光の速度を遙かに超える
波動推進航法
那由多の蝶とも言える
彼女の能力それは人知を越えた異能だった
「ストーカーはする方も
される方も身を滅ぼす愚かな行為
だからね…だからこそ
ゾスターなんぞに心酔すれば
彼のように
気が触れた人間になるのだ」
弦間は自分を狂人扱いする
ボイストームに所詮下等生物には
理解できない
事だと軽蔑の言葉を吐いた
「あの方の偉大さが少しも理解できぬ
低脳な下等生物めが…そのまま何も解らぬまま
口を閉ざすがいい永遠にな!」
「それと我の事を人間だと言った
無礼も併せてこの力を喰らうがいい」
魔獣戦艦の艦主にあたる人面の口が大きく開き
その中からおぞましい舌の様な器官がせり出し
その舌がパックリと4つの節に割れて
金切り音が鳴り響き
嫉妬の喚き声なる破壊の塊が生成され始める
亜空間にある無限のエネルギー貯蔵庫である
美作城より必要なエネルギーを吸い上げて
嫉妬の喚き声の発射の準備は整った
「この破壊力ならば星系丸ごと消し去る事も可能だ
吹き飛べ神に逆らう愚か者共めが!!!」
大罪砲は魔獣戦艦にとっての決戦兵器である
何千と存在する魔獣戦艦達の中で
大罪砲を撃てるのはそうはいない
艦のクラスも最大のカリギュラス
を除いてはゲルサンドの大きさは
中型クラス
この手の情報は先行している
カオスからもたらされ
常に情報は更新されている
その情報を得るのもシャレーダーの
仕事の一つだ
だが今は戦闘に集中せねばならない
戦闘タイプではない万能型天使である
シャレーダーは何か一つの能力に
特化した者が苦手だ
ガチで戦闘タイプだった
レイディアンスなどは正に天敵だった
シャレーダーの天敵が弟なのは
笑える
逆にサイモンは情報分析の特化型天使で
情報処理能力においてシャレーダーを
軽く凌駕していた
速度特化型天使のカオスは
博士自身がゾスターの手から逃れるために
自身の進化系統のアビリティを選ぶ際
速度特化型に全ての経験値を割り振った
成果であり
シャレーダーのように
進化アビリティを満遍なく
全て選び経験値を振った結果として
器用貧乏とも言える存在に成る訳である
同じようにダークネスも
何かの能力に特化したタイプは
強力な存在になる
弦間も精神攻撃に特化した
ダークネスである
だが…
「守れるものなら守ってみるが良い
手も足も出せず絶望する貴様らの顔を
タップリと拝んでから嬲殺しにしてやるぞ!」
嫉妬の喚き声砲が空間に
何百問と展開された
「惑わされるな!敵は
一つだけだ」
ボイストームは
ソード・オブ・システムを起動させ
何百モノ閃光の中から足った一つを
選ぶ苦難に晒された
「おのれ…」
さすがのボイストームも
これには参った
「シャレーダー君どれが本物か解るかね?」
シャレーダーも全能ではない
「解りません…奴の精神攻撃の方が
僕の力を上回っていて…」
ストームもシャレーダー一人に
頼り切りなのもそろそろ限界だと感じていた
「サイモン教授はどうですか?」
ストームもサイモンの能力が
魔獣戦艦となった弦間にまともに
対抗できるとは流石に思っていない
「ちょっと一人じゃ無理かな…
一人じゃね」
そうサイモンは含みを持たせる
「つまり一人じゃなければ
やれるわけですね?」
サイモンは不適に笑い
シャレーダーと手を取り
「連結」
その瞬間シャレーダーの
分析能力が格段にアップして
敵の閃光の幻を全て打ち消した
「!!」
弦間自慢の幻惑攻撃が
こうも見事に無効にされたのは
産まれて初めての出来事だった
「ちょ…ちょっとまてそんな馬鹿な」
マグニファイセントは一直線に
魔獣戦艦に向かって突進した
「その禍々しい閃光ごと
この剣で切り裂く」
「喰らえ!」
ボイストームはガイを召還し
ガイストームにチェンジした
「御剣流奥義」
御剣流は戦場の剣
敵が強大であればあるほど威力を発揮する
大物喰らいの剛剣である
「不動明王斬!」
マグニファイセントの艦主刀から
強力なエネルギー剣が延びて
魔獣戦艦の艦主にある弦間の口から
放たれる大罪砲と正面激突と言う形で
鍔迫り合いを始めた
どちらも引かぬ勢いである
船の質量的には圧倒しているのは
間違いなく魔獣戦艦ゲルサンドの方である
だが威力が大きいのはマグニファイセントに
軍配が上がった
「馬鹿などうして!?」
進次郎とは違いゲルサンドの能力を
惜しみなく100パーセント引き出している
自分が負ける筈がないと高を括っていた
弦間は狼狽し狼狽えた
その答えをストームが与える
「当たり前だろう…進次郎君の
研ぎ澄まされた剣技によって
力をここぞという場面で緩急を
つけて放たれる攻撃に比べ」
「君のは最初から全力で単調なのだ
一度受けきってしまえば
後は力が落ちていく、そして落ちきった所を」
弦間はその答えを聞いたときには遅かった
マグニファイセントの不動明王斬は
ゲルサンドの放つ嫉妬の喚き声砲ごと
巨大な魔獣戦艦の船体を
真っ二つにした
ぐああああああーーーーっ
「所詮、幻術使いの貴様に真っ向勝負の
決闘などお門違いだったようだな」
おのれぇええ~
だが不味い…此は不味い事態だ…
こんな筈では無かったのだが
マグニファイセントが此ほどの
力を持っていると解った今…
ゾスター様の御身を守るためにも
この情報をお伝えし
この弦間の身を挺し御方の御身を
お守りせねばならん
何とかしてこの場を逃れ
落ち延びなければならん
いざというときのために
取って置いた
取って置きの
美作の人質3千人を盾に
女子供赤ん坊と
「進次郎が逃がしたつもりの
人質達がこんな形で役立つとは」
弦間は亜空間の扉を開き
3千の人質の確認をし
その中から4人の子供を無理矢理
引きずり出す
恐怖に泣き叫ぶ子供達
「そんな人質がいたのね」
「何だ我のやり方に文句でもあるのか?」
弦間は自分にそう尋ねてくる
新参の愛理に
精神支配をしているのに安心していた
「油断したわね…」
すると支配している筈の小娘が心の中で
静かに微笑んだ
「私はダークネス…
上位支配者である
弦間に逆らうことは出来ない」
「けど…自分から躰を引き裂き
体内に盗聴器を埋め込むくらいの
事は出来るのよ」
それはシャレーダーとガイストームが
戦艦最上が宇宙嵐で難破したさいに
敵の亜空間基地を襲撃し
そこから逃れるときに
愛理が取った行動だった
無言で自分の体内を晒す愛理に
当初はその意図が汲めず
混乱したストームだったが
愛理の目が
自分の体内に何か仕掛けてください
そう言っている事をストームが察し
シャレーダーに盗聴装置を付けさせたのだ
「あの時…彼女が何も言わなかったのは
弦間に聞かれていると予測していてのこと
だったのか」
ストームはこの貴重な情報に感謝した
人質の事に関しては愛理が居なければ
気づきもしなかった
進次郎は完全にダークネスに
寝返り人間は全て霊蟲に変えられている
ものと思っていたからだ
恐らくは弦間の目を盗み進次郎は
逃がせるだけの女子供を逃がそうと
したのだろう
それを悟られ逆に人質に取られていた
進次郎の無念はいかほどであったろうか
「兄上…」
その事実を知り
闘いの途中ではあるが
進次郎の妹の日陰姫は泣いていた
そしてもう一人涙を流す武士がいる
他ならぬセキサイである
「し…進次郎様…」
元々戦闘意欲の乏しかったセキサイが
この事実を知らされては止めだった
死に場所を求めての志願…もう
弦間に手を貸す気持ちはない
出来ることならこの手で
弦間をしとめたい位だ…
「もはやお前達と戦う気はない…」
セキサイは刀を鞘に収めた
「貴様…」セキサイが突然戦闘の意志を
無くし、どうしたらいいのか困った
稲葉艦長=サムライディーヴァムラサメが
思わず口から出た言葉だった
ムラサメを横目で見
セキサイは
「貴公の好きにするが良い…もはや
戦う気は失せた」
ふざけるな!とムラサメは叫ぶ
「自分の主をあそこまでコケにされて
黙っているつもりか貴様それでも武士か!!」
そう言われセキサイはかっとなる
「それがしは進次郎様に仕えたことを
誇りに思っているそれを…ああまで
コケにされて黙っていられるか!」
それを聞いたムラサメは手を差しだし
「だったら奴に一泡吹かせてやろうぜ」
セキサイはその手をはねのけながらも
「今更馴れ合いはせん!しかし
弦間を葬るのに異存はない」
セキサイが吐き捨てるように弦間の
忌まわしい名を呟く
もはや同じ主を持つ同士でも無ければ
同胞でもない卑しく醜い裏切り者で
人の心を捨てた化け物である
むしろ怪物退治は侍の本懐だ
「拙者は進次郎様に惚れて自ら
闇の魔物と契約し魔神となった…
だから闘神となりお主等と
共に戦うことも自由だ」
「どうやら弦間は進次郎様を
殺すことで多くの配下を敵に
廻す事になったようだな」
進次郎様を軽く見ていた弦間の大ミスだ
ゾスターの威を借りれば自分に逆らう者は
いないなどと勘違いしている愚かな男
ゾスター教徒以外は
教団の人間だけ依怙贔屓する
弦間に少なからず反感を
持っている
進次郎様に迷惑が掛かるのを嫌がり
気持ちを抑えていた者達は
進次郎様をおのが保身の為に殺害した
弦間を許しはしないゾスターへの
恐怖も、この怒りの前では霞んで消えた
ゾスター教で完全に洗脳されている
教徒と進次郎派とで争いが起こるのも
仕方のない事だった
些細ないざこざから内戦の火が上がり
それが彼方此方で延焼して
やがて炎は消火も出来ないほどの
大火災えと成長する
それは弦間が気が付かない程
最初は小さな小さな火種だった
弦間が進次郎を殺したいきさつを
教団の一人がさも愉快だと仲間の
教団員と話していたのを
進次郎派が聞いていたのだ
聞いていたのが数人いたので
話していた教団員は取り囲まれ
強行に尋問されて
進次郎が弦間に殺されたと
話してしまう、それから潮目が変わった
「この人質を見ろ!」
弦間は勝ち誇るように
マグニファイセントの艦長である
ボイストームに呼びかける
人質達はどこだか解らない別の場所で
監禁されておりその人質達の後ろには
弦間の配下の者達が刀を振り上げ
命令一つで人質全てを斬り伏せる
状況だった
「卑怯者め人質達を解放しろ!」
マグニファイセントに乗る
全てのデーヴァ達は
凄まじい殺気で弦間を殺そうと
殺気立つが
ボイストームがそれを辛うじて征する
弦間も逃げる手段として以外に
この手は通用しないと解っている
「解放するさ…我が無事に逃げられたらな」
此で良い
あまり過度な要求をすれば
ストームの命令を無視して
あの中の何人かは
人質を無視して飛びかかって来そうだ
ここは逃げの一手だ…当然
空間転移の瞬間にあの人質共を
奴等の目の前で宇宙の藻屑に変えてやるがな
行きがけの駄賃だ!
「くっくっくっ」
弦間の態度に何かを感じ
顔をしかめるストーム
やはりこの男の言うことは
何一つ信用ならぬ
名誉など何とも思わない奴だ
どんな非情なことも平気でやるだろう
こいつにはゾスターと同じ外道の臭いがする
やはり人質を返す気などないのだな…
ストームは怒りを感じ握り拳を強く握りしめる
やはり外道と交渉してはいけない
多少の犠牲を出しても
奴を仕留めなければならない
アメリカ大統領らしい判断だが
個人の利益よりより大きな集団の
方を優先する合理的な考え方だ
だが…その考えは間違っている!
ストームの中のボイストンが
ストームに話しかけた
「犠牲を一人も出すなとは言わない
だがギリギリまで粘るのもアメリカ大統領の
義務だろう」
そう…一人でも多くの人命を守る
これも間違いなく大統領の仕事だろう
ストームはボイストンの言葉で冷静さを
取り戻す
確かにその通りだ
簡単に見捨てて良い命などない
今は目の前の弦間よりも人質の方が優先だ
人道に立ち返り政治家の顔から
人の顔に戻ったストーム
確かにここまで来て弦間を逃すのは
愚の骨頂だ、奴に逃げられ
ゾスターに日輪星系の情報が渡れば
日輪星系は一巻の終わりだ
ゾスターは直ぐに
強力な艦隊を送って寄越すだろう
そうなればマグニファイセントが
如何に強力でも守ることは出来ない
幾千幾万と押し寄せる無限の物量に
押しつぶされるだけだ
「ここで奴を逃がすわけにいかない
だが人質を見捨てるのは更にあり得ない!」
ストームはマグニファイセントの
攻撃体制を解き弦間相手に交渉を始めた
兎に角時間を稼ぐしかない
「待ってくれたまえ弦間将軍」
ストームはわざと弦間を将軍と呼んだ
相手の耳障りの良い言葉…それは
交渉材料の一つになりうる
現にこの効果は絶大だった
将軍?この私が…将軍だって!?
弦間にとって自分の事を将軍と呼ぶ相手が
ストームなのが心地良い
何故ならストームGマークは
惑星国家アースソードの大統領
つまり
国家元首である
その最高権力者の言葉は重みが違う
「弦間将軍…将軍とは
貴様等の言うところの
大統領と同じ位を示すのだったな」
弦間は自分が星系国家日輪の君主だと
呼ばれた気がして喜んでいる
その様子を見ながら最上艦長の稲葉は
ストームの交渉術に感心した
うまい!奴の琴線に響かせるとは
流石は一国の将
逃げに転じていた弦間をその場に
留めるには奴を言葉で縛り付け
話続けるしかない
心にもないことを言い続けるのだから
稲葉のような真っ正直な男では無理だ
ストームの適当は大いに才能である
相手を煽てたり煙に巻いて
時間を稼ぐのは得意中の得意だ、
それを横で聞いている面々が気分が悪く
成る程時間は多いに稼いだ
「凄いなストームの旦那…
良い詐欺師になれるぜ」
この中で誰よりもアウトローな世界に居た
原度でも此ほど口の回る男はそうはいない
美男子で口が上手いのだから生来の詐欺師
なのは否定できないだろう
正に詐欺師!政治家の才能だ
「そうですかそうですかそんなに我は
優秀ですかな?ストーム大統領」
ストームは時間稼ぎをさせられていた
自覚はあるが馬鹿をからかうのは嫌いじゃない
寧ろ誇大妄想の相手を術中にはめ
抜け出せ無くさせるのは小気味よい位だ
だが話が弾んでいたところで
限界は来る、他の誰も此ほどの
時間稼ぎをすることは出来なかった
としても人質の場所を特定するには
十分とは言えない時間だった
「さてそれでは名残惜しい事ではあるが
ストーム大統領…君とは良き友人として
また再会する事を望むよ」
まるで長年の友人との
別れ際の挨拶のように
言葉を選んだ
だが当のストームの方は
態度が少し変わる
「それで弦間将軍はいつ保護した
女子供達を解放なさるのだろうか?
人質などと言う下銭な輩が取るような
方法を偉大な貴方がやると
考えたくはないのだが」
それを聞いた弦間は清々しい良い笑顔を
ストームに返す
「ああそれなら心配には及ばない
首だけ置いて行くから後は御好きに
してくれたまえ」
その瞬間弦間はこの上なく
下衆な表情を見せた
「殺れ!」
ストームは目を見開き
「弦間ーーー!!」
そう叫んだ
ゾスター教徒が女子供の
後ろから刀で首をハネようとしたとき
その教徒の首の方が先に飛んだ
それは殆ど同時に奇跡のように
胴体と首が切断された教徒は
首の切断面から血を吹き上げ
躰を痙攣させながら琴切れた
「なにぃいいい!?」
その思いもしなかった光景に
驚愕した弦間は空間跳躍ゲートの
前で身が固まる
人質達の首が飛んだ光景を土産話に
ゾスター王の待つ領域にまで
一気にリープしようとしていたが
この状況を把握せずに逃げるなど
出来るわけがない
見ると教団の教徒の後ろに
同じく教団の服を着た者達が
執行人役の教徒と同じ数だけ
立っていた
教団服のフードを降ろし素顔が見える
その男達は皆、進次郎配下の侍達である
「な…なんのつもりだ貴様等!
ゾスター王に逆らうつもりか!?」
それに怒りを持って答える
進次郎の家臣達
「黙れ下郎!」
「我らが御使えするのは進次郎様だけだ
ゾスターでもばければお前などではない!」
そう言いながら教団の教徒に
侍達は切りかかる
教徒達も応戦してどこもかくしも
大混乱である
弦間は後ずさる
「い…いったい何が起きたのだ」
ストームがにやりと笑いつつ答える
「内乱が起きたのだ…貴様の行った
愚考が部下達に行き渡るまでに
さほど時間は掛からなかったようだな」
ストームにしてやられた
それに弦間が気づいた時は
既に遅かった
そして動揺する弦間に
切りかかる教団の服を着た侍達
弦間は敵の脳に直接圧力をかけ
破裂させて難を逃れた
「くっ!下郎共が…我を舐めるな!」
だが目の前に居る敵を排除出来ても
人質の居る隠れ家の反逆者に死を
与える事は出来ない
弦間は歯軋りするも
この恨み忘れはせんぞ!と
心の中で呪詛を吐き
転移の門を潜ろうとするが
寸前でその門を破壊された
「!!」
その破壊行為を行ったのは
愛理とセキサイの二人だ
ダークネスの亜空間ゲートは
共通する、当然
ゲートにも繋がっている
「馬鹿な!門を壊せば
貴様達も逃げられなくなるのに」
弦間にしてみれば
こんな行為は狂気の沙汰だった
だが…セキサイは弦間に言い切る
「ダークネスだからと言って
全てがゾスターの味方ではない…
奴に敵対するダークネスも
居ると知れ!」
それは耳を疑う言葉であった
ゾスターは全てのダークネスの父であり
神である、神に逆らう不敬な者が
ダークネスの中にいることが
弦間には信じられない
「神に仇なす不貞の輩め
お前は狂っている!偉大なゾスター様に
逆らおうなどとは…この謀反者めが!!」
だがセキサイは逆に弦間を指さした
「謀反者は貴様の方だ弦間!」
セキサイは殺意の塊となって
弦間に近づいて来る
「くっ!来るな!この狂人め!!」
セキサイは苦笑いしながら弦間との
距離を測った
「見解の相違だな
俺にはお前こそ狂人に見えるぞ」
弦間はそう言われてああと思い
一瞬だけ硬直する
自分がゾスター王の狂気に魅せられたのは
自分自身が狂気に侵されていたからだと
天より啓示が下ったからだ
それが境地と言うものだ
だが
その一瞬の隙を見逃すセキサイではない
一閃!
瞬く間の時間に
セキサイは壁ゲリを発動し
二閃!三閃と壁を何度も蹴り
弦間を中心に閃光を綾取りの
糸のように結んでいく
ダークネスとしての能力を
覚醒させたセキサイの
壁蹴りは亜空間を利用し
空中に幾つもの壁の足場を作り
飛び跳ねる芸当を見いだしていた
それを遠めに見ていたサムライディーヴァ
ムラサメは顔色を蒼白にしながら
「もう少しであれと殺り合う
所だったのかよ俺は…ヤレヤレ
命拾いしたな」
あらゆる角度から無限に襲い来る
斬撃の集中砲火、しかも
その速度は光の速さかと見舞わんばかりの
超高速…受けるのは無論だが避けるのも
不可能だった
現に弦間ものだったと思われる
肉片は10センチにもみたない
大きさのブロック肉状に加工されている
「間違いなく日輪の侍の中で
最強はあの男…セキサイだ」
光紙状の光が消えた後
細切れになった弦間の肉片を
踏みつぶし立つセキサイの姿に
日輪の侍達は歓声をあげた
その逆に
弦間の虫螻以下の殺され方を見た
ゾスター教団の者達は絶望し戦う気力も
生きる目的も失い地に伏した
「既に勝敗は決した、直ちに武装解除し
投降する者は命の保証をしよう
ゾスター教団の者は直ちに投降するのだ!」
稲葉の言葉は教団の者達の
動きは止めたが心には届かず
中にはまだ抵抗をしようとする
教徒もいた、だが…次の人物の
言葉でそれも抑えられた
「やあ…ゾスター教徒の皆さん
ボクは前日輪の皇です」
「君達も全て日輪の民なのを思い出して
皆ボクの可愛い子供達なんだ、だからもう
争いごとは止めて平和を取り戻そうよ
信じる神がどうしても欲しいならボクが
君達の神になってあげる」
それは日輪の民が最も愛した
今人神 サイモンの再臨であった
正真正銘本物の神の再臨に
信じる神を無くし迷っていた
魂達が再び神を得たのだ
ゾスターは神ではあった
だが今はこの星系にいない
遙か宇宙の彼方に去ったからだ
サイモンが隠れた間に
入り込んだ偽りの神
そんな所に過ぎない
今彼等の目の前に立ち
教え導く姿は神々しく
信仰するに何の迷いもない
日輪のゾスター教徒は一瞬にして
サイモン教徒に信仰心を移した
改宗と言うのは差ほど難しいものではないらしい
まして元々の神が帰ってきたのならば
外界の神に用はないのだ
「やはりサイモン様こそが我等の神だ」
全ての事情を知って尚
サイモンに崇拝と礼を尽くす
侍達も膝を座し頭を垂れる
教徒達は帰ってきた神に合唱して
感涙に涙を流した
戦いは終わった
ゾスター軍にたいし
ここまで圧勝できた事は今まで無かった
キャプテンストームとマグニファイセントの
クルー全員この奇跡を起こしたのは
日輪に力を与えた科学の女神のおかげだと
理解していた
「数万のサムライディーヴァ…
それも最高級の武士ばかりだとは」
日輪星系の惑星にはそれぞれ併せて
約80億の人口があります
その中には
レイディアンスにも届く程の
才の持ち主もおりましょう
それを聞きレイディアンスを良く知る
マグニファイセントのクルーは
心の中で一斉に、ああ知らないと言うことは
幸せなものだなとつくずく感じた
「では日輪を拠点に祭文様に仕切って
戴きゾスター軍をマグニファイセントで
追撃するのが一番の策ですか?」
あの戦いから数日を経て
復活した日輪幕府の仮拠点
惑星江戸に祭文が
再臨した祝いの祭りが行われた
ここが此からの祭文の居る
御所となる予定である
さて…外の祭りの賑わいとは別に
祭文を中心に
ゾスター軍討伐の軍議が
日輪皇宮にて行われている
祭文にストームが此からの
作戦内容をそう聞くと祭文は
「シャレーダー兄さん
お願い」
シャレーダーは祭文の願いに
直ぐに応えて空中に
巨大な立体映像を映し出す
「これが此処を中心にして
地球を入れて約1000億光年の
コズミックアトラスです」
「こんな宇宙図見たことがない
どうやってこんな正確な地図を手に入れたんだ」
その地図にはどの地点に次元断層があるか
どの場所にブラックホールがあるか
致死性のある強力な宇宙線をどの
星がどれだけ放出しているかなど
宇宙のありとあらゆる危険地帯を
網羅していた
宇宙船乗りの稲葉甑艦長は
この宇宙地図の価値を十分認識
出来た
「此があれば貴重な資源を手に入れたい放題で
新しい植民惑星も発見出来るぞ」
だがストームは政治家である
この地図を只のデーターとしか
見ていない
「平和利用はゾスター軍の驚異を
取り除いた後にして貰いたい
今は如何にしてゾスター軍を
無力化するかに集中するべきだ」
ストームの言うとおりだと
稲葉も思い軽く頭を下げ
「失礼いたした…あまりに魅力的な
モノを見て少々取り乱した面目ない
確かにそれ所ではありません」
祭文は稲葉の顔を見て
目で気にするなと言うサインを送った
それを受け取り稲葉は
ああ祭文様は怒っておられると萎縮する
祭文は宇宙図を指さし
「この青い丸が此処 日輪星域で
この細長く何万光年の規模で延びている
集団がゾスター軍だよ」
それを見て稲葉艦長が不思議そうに
「何だってこんな風に全線が延びてるんだ?
なにか理由でもあるのか?」
それを聞き祭文も
「やっぱり軍事の専門家の目で見ても
このゾスター軍の陣形は歪かな?」
稲葉艦長は目を細め
軍事家としての考えを祭文に返す
「まずこの陣形にする意味が解りません
それにこんなに延びきってしまっては
大軍の長所を殺します」
祭文は頷き
「まあボクもその意見には賛成だよ
でも戦術家としての定評もある
ゾスターがわざわざこんな陣形を
自軍にさせるなんて何か訳が
あるとは思わないかい?」
ゾスターはあらゆる意味で天才である
軍事も政治も弱点のない敵ながら
優れた王の筈だ
それなのにこの素人でもしない
失敗を継続して行うのは
余りにも不自然である
「恐らくはゾスター軍の追いかける
この光点こそが鍵でしょう」
明らかに一つの光点が際だつ位置に
存在感を示している
それは…女神の軌跡であった
「この軌跡に沿うように
ゾスター軍は跡を追っていると
思われます」
稲葉の言葉通り
時系列的に図を展開してみると
女神の光点の軌道に沿って
ゾスター軍の塊はその跡を追いながら
徐々に長く延び
ついには跡を追いきれなくなった
者達が離脱していく様である
「女神の光点を追いながらも
急激に勢力を拡大させていた
ゾスター軍が
女神の光点の速さが増すにしたがい
徐々に隊列が延びて
増殖する余力を失っています」
それについて祭文が説明する
「ゾスター軍は折角侵略した星雲を
放棄し数を増やせないまま
女神を追って休む間なく
全速力で後を追っているんだ」
稲葉はハッとなり
「日輪星系と状況が被っている」
「ゾスターは馬鹿じゃない…そんなことを
すれば幾らダークネスの能力が凄かろうが
何れはバテて動けなくなるのは解っている
では何故そんな無謀な事をしてるのか」
「博士がやらせている…そうですね?」
祭文の言いたいことをストームが
先に言い当てた
祭文は渡瀬聖子博士の息子として
親の功績を言うことを少しばかり
躊躇っていた
「日輪星系に留まっている時間が
約二日…それが一所に落ち着いていた
お母さんの最高記録だ」
「二日…たったそれだけ」
「地球を立って既に20年と3ヶ月
…その間彼女はずっとゾスターの手から
逃げ続けているのか」
ストームも渡瀬聖子博士の置かれた状況を
解っていたつもりだったが、その認識は
あまりにお粗末だったと言うことだ
「日輪星系についてカオスの能力でお母さんは
精神だけを数千万年過去の日輪に送り
その進化に影響を与えた」
「そして僅か二日でこの星系全てを
ゾスターに対抗できる種族に育て上げたんだ」
祭文は溜息をついて
「でもゾスター教団の存在はそれをも
無に帰す恐ろしい力を持っていた
宗教の力は種族全体を洗脳する
誘惑装置だからね其れほど
恐ろしいものなのだよ」
改宗と言う信仰する神の乗り換え
それで悪魔崇拝から逃れられた多くの
魂に混じり、最初から悪魔力を望み
其れを手にした人間を除いて
どの世界にも少数ながら
弦間のような人間は存在する
彼等は普通の子供として育ち
普通の人間の様に一見見える
だがその中身は化け物だ
そんな異常者が産まれる一方で
偉人と呼ばれる者も一定数産まれてくる
彼等は
必要悪と言う人類に含まれる
どうしても外せない可能性なのだ
プラスとマイナスでイコールゼロが
最も望ましい世界の秩序なのである
渡瀬聖子博士のように人知を超越した
軌跡のような偉人の誕生の裏では
数限りない悪の存在が
その反作用のように
産まれてきた
渡瀬聖子の反作用になると
ゾスタークラスの悪が出現するのも
宇宙におけるエントロピーの法則
祭文は心の中でそう言って
折り合いを付ける
宇宙に渡瀬聖子博士だけが誕生
していれば人類の繁栄は想像を
絶するものになっていただろうけど
そんな人類の一人勝ちを許す宇宙の
神は居ないと言うことだね
「この延びきった陣形では
ゾスター軍の補給は後続の
ダークネスのみ」
「つまり軍本体と補給隊とを分断すれば
奴等の物資を断つ事が出来る…と?」
「いや…簡単すぎる」
「そんな作戦上手くいくはずがない」
「馬鹿馬鹿しい本体が引き返してきたら
それで終わりじゃないですか」
自分がそう言った相手が神なのを
思いだし思わず息を呑む者達
「不敬な!」
祭文に言ったつもりのない軍上層部の
幹部達全員表情が恐怖に歪む
だがそれに救いを与えるのも
神だった
「いや今のは説明を聞いてからでないと
そう思うのが当たり前だったよ」
其れを聞き稲葉が
「説明と申されますとやはり
ゾスター軍が引き返してきても
大丈夫な策が?」
祭文は首を振った
「誤解しないで聞いて欲しいんだけど
引き返してこないのは断言できる」
ゾスターはゾスターだけがダークネスの中で唯一
絶対に引き返さない」
シャレーダーは祭文に指示され
ゾスター軍が追う光点を拡大する
「ゾスターは独裁者だ…
だから決してカオスを追うのを諦めない
その結果滅びると知っていても尚
追うのを止めない」
「ゾスターにとっての
渡瀬聖子博士は己の全てを
代償にしても手に入れなければならない
宝物だからだ」
「そして此処からがさらに重要なんだが
博士の向かう進行方向にはボイド空間が
存在する」
祭文に挙手で質問をする
学務大臣の織部
「祭文様そのボイドなるものは
何なのですか?聞き覚えが無いのですが」
祭文はボイドを虚無と表現した
「正しく何もない死の宇宙だ…
解りやすく言えば雨の降らず草木も
生えない砂漠みたいな…ね」
それは…博士の身が危ないと言うことだった
「馬鹿な!天照棲様は前にそんな
恐ろしい空間があることを知らず
ゾスターに追われて追い込まれて
しまった訳ですか!?」
神の母の危機にその場の全員が
色めき立った
「直ぐに御救いせねば!」
祭文は冷静に言葉を発す
「勘違いしないでくれ…救われているのは
寧ろ僕達のほうなんだ」
其れを聞き察した者は
涙ぐんでいる
「やはり…」
「天照棲様は…ゾスターを引き付けて
おられるのか」
「つまり…ゾスターを虚無に誘い込むために
敢えて死の世界に向かっていると」
だがボイドとかカオスがゾスターを
その虚無空間に引き込もうとして
いると言われても初めて聞く
事ばかりなのか反応が鈍い
仕方ないねと思いつつ祭文はこう続けるーー
「解りやすい例えで表現するよ」
まずゾスター軍を人間のサイズで表すと
総数約数千万の騎兵軍であり
その騎兵軍を護衛にしたゾスター城が
城ごと移動して進撃している、それが
ゾスター軍の全容だ
祭文のイメージするゾスター軍が
死を運ぶ黒い塊となって
次々に諸国を飲み込み黒に染めていく
この諸国の一つ一つが惑星国家だと
考えるとその進撃は恐るべき光景だ
だが黒に染まったのも一瞬で
その進撃は速度を落とさない
そのため折角黒に染めた国も
一瞬だけ黒くなっただけで
すぐに元の色に戻る国や
色が戻った国が近くの国の色を
元に戻す事もある
大部分の国は黒く染まったまま
そのまま滅び消えてしまうなか
日輪星系にも同じ悲劇が起きた
瞬間、ギリギリで飛び立った
白い光を追ってゾスター軍は
日輪が黒に染まる事もなく
傍らを通り過ぎていった
この800年前の映像を見て
日輪の人間で冷や汗を流さない
者はいない
「800年前の古代文献で日輪星系に
衝突すると騒がれた超巨大天体…その
魔王彗星の正体が」
「ゾスターだったのか?」
その際奴等
ゾスター軍は侵略のために
一隻の船を日輪に送り込んだ
それが魔獣戦艦ゲルサンドだ
ゲルサンドが黒い騎士に姿を変え
日輪星系と言うなの国に
潜入し、そこから侵略の歴史が
始まる
「ゾスター軍本体が責めてこなくても
この被害…責め込まれた星は一溜まりも
なかったろう」
ストームが
「いや…他にも幾星か助かった国はあるよ
…ただ…惑星がこんなに無傷で済んだのは
日輪星系国家が初めてだけどね」
フレンドリーな喋り口調で
ストームと言う大統領の
答弁は聞いてて気持ちが良いものだが
言ってる内容は悲惨なことを
さらりと言ってしまえる
政治家の言葉だ
稲葉艦長以外の幕府の閣僚は
ストーム大統領が政治家としても
相当なやり手だと認識している
戦士であり政治家というのは
もの凄い事であり
アースソードの代表として
申し分ないだろう事は疑いようがない
これでダークネスとの合体で
数千年の長きに渡り
政治活動が出来るのだから
ゾスター亡き後
宇宙連合を仕切るのは
アースソードだと言うことを
意識せずには居られない
「ゾスター軍は広範囲に侵略の
手を伸ばさずほぼ直線で進軍している
これは防衛の立場としては大変に有利だ
「博士が全力で逃げているのを奴が
追っている為に広がることが出来ない
ゾスター軍にとっては歯痒い事でしょうな」
「然も博士は何もない砂漠に向かっている
これがどう言うことか解るかい?」
「何もない砂漠に全力疾走で馬を飛ばす
のは自殺行為だ」
ハッという表情になる一同
「そう…ゾスターには全てを犠牲にしても
全力で博士を追う理由があるんだよ」
無限に広がる宇宙
今のゾスターは博士に追いつくことだけに
固執し全てを掛けている
それも当たり前か、もう10年は
地球から旅立って過ぎている
宇宙を猛スピードで進んでいるから
時の概念が崩れている筈だ
宇宙では時間の概念が違う
遠く離れれば離れるほど
時間が戻り続け時代が逆行するのだ
つまり
地球圏から何万光年も離れた
場所に来たゾスター軍は
時間を逆行し
数万年前の過去の時間に存在している
奴の体感でマイナス10万年にも
感じているかも知れないのだ
遙か先の宇宙
そこに
博士を追っての今や10万年を迎える
ゾスター軍が居る
…それは
巨大な軍団を率いるゾスターにも
過酷極まる世界だった
今のゾスター軍の
その巨大さは旗艦カリギュラスが
物語っている
多くの星を飲み込み成長を続け
やがて巨大惑星並の大きさに成長した
その巨躯はゾスター軍に置いて象徴であり
羨望の的となった
その巨大重力に耐えうる
強き魔獣戦艦のみが艦隊として
存在を許されるのだ
今や魔獣戦艦の優劣がゾスター軍に
おいての地位と名誉を証明する証だ
だがこの巨大すぎる戦力も
ゾスターが博士を追う限り
無用の長物である
戦に勝っても直ぐに
女の尻を追うために
満足な支配も儘成らず
大した旨味も味わえずに
怪物達は後ろ髪を引かれる思いで
占領地を手放し後にしてしまう
然もーー
博士が手を貸し強力になった
星人達と次から次に立ちふさがれ
幾ら立っても博士との距離は縮まらず
それどころか軍が大きすぎるが故に
疲弊していくのだ
巨大な黒い鋼の城の天守に怪物の王
そしてその傍らには黒い獣の娘が一人
王の名はゾスター
そして娘はフラウロス
彼女は王が唯一心を許す
腹心である
彼女にとってゾスターは
父親だ、ゾスターがそう
彼女に暗示を掛けた
「フラウロス将軍」
フラウロスにまず報告を挙げる
キングであるゾスターに
直接語り掛けることは
彼女が許さないからだ
大将軍でありセブン・デッドリー・サインズの
一角である彼女に文句を言える
ダークネスは少ない
「フラウロス様…」
同じ将軍の身分を持つものでも
彼女を呼ぶ際は様付けする
「前方にかなり大きな銀河があります
王へのニエとして丁度頃合いかと」
この将軍は暗に、そろそろ
他国を責めないと軍の維持が
困難になると言いたい
ようは
兵糧が足りないのである
圧倒的に
全ては速すぎる進軍が原因だ
最速の艦を先頭に足の速い者から順に
その数番目にゾスターの船である
最大最強の魔獣戦艦カリギュラスが
飛んでいる
その後方には数万もの魔獣戦艦が
猛スピードで着いていくが
カリギュラスに横並びで進める船は少ない
一瞬なら先頭を行く船より速い船は沢山いる
だが圧倒的に持久力が足りないのだ
その宇宙速は銀河を脱出し更に先に進む速度
銀河脱出速度
必然的に船団は縦に長く長く
途轍もなく細長く細り弱体してしまう
数日で良い…速さを今の半分に出来れば
新しい船の増産と共に足場を確立し
そこから先の宇宙域を侵略できる
先に進むのに反対するダークネスはいない
ただ速度を少し落として余裕を確保したい
それだけがゾスター軍の唯一共通した
王への願いだった
だがーー
「速度を落とす必要などない
ダークネスは柔ではない
いずれこの速度にも慣れ
驚異の進化を果たす」
「そう王は宣われた」とフラウロスは言う
ゾスターに心酔する狂信者は良い
この言葉に余計に酔えるかも知れない
だが王の戯れ言に耳を貸すダークネスばかり
ではない、王に挑戦し挑むのもまた
ダークネスの本質なのだ
「ほんの少し進行方向を右に
きるだけで目的の銀河が通過地点に
なりまする
我が軍が通り過ぎるだけで
補給もすみますゆえ何卒ご再考を」
フラウロスは冷たく
「ならん!進路を変えれば速度が落ちる
そんな事を王が許される訳がない」
フラウロスの態度は頑なだ
だがフラウロスに食い下がる
ゼフラム将軍
この将軍はこの魔獣戦艦艦隊の
実状に日頃から心を痛めていた
常に限界を強いられ走らせ続けさせられる
魔獣戦艦は馬の姿にすると
その状態は一目瞭然
足のヒズメなどすり減りきって
つま先から血飛沫をあげながら
走っていると言う光景だ
そんな状態になっても
速度を落とさない
やがて限界が来て
死んで脱落する戦艦獣も
出てくるだろう
「この死の疾走を止めなければ
如何に屈強なダークネスであっても
もう保たない」
此は王に
反旗を翻すわけではない
種の繁栄を願い王に挑戦する
これもまたダークネスの本能に
根ざしたパフォーマンスなのだ
王への挑戦者が現れると
コロシアムで戦うのが常だ
だが王自身が剣を握る必要はない
王の代理は常に決まって
フラウロス将軍が勤める
決闘には別の場所に
移動する必要はない
城の中には闘技場の設備も
してあるからだ
「私が勝ったら王に直接目通し願いたい」
数刻を経てー
闘技場に灯が灯る
戦いの合図である
ただ走るだけで
闘争本能と全ての欲望を
抑制されているダークネス達に
この戦いは唯一の娯楽である
下級兵士の窮地を救うべく
立ち上がったゼフラム将軍とは違い
他の将軍達は考えを別にする
「この進軍を王を追い込むための
機会だと考える者達…
まさに獅子身中の虫
そいつ等は表面上は忠誠を誓い
事あれば王を倒し成り代わろうと
画策するのゴミ蟲共の集団だ」
本当の忠義や正義を重んじる
生粋のダークネスは
ゾスターの支配権より
そう言った勢力により
どんどん閑職に追いやられていく
全てはゾスターが王として
義務を成していないのが
原因である
純粋に実力主義を唱えるなら
それを徹底しない限り、必ず
こうなることは目に見えている
王の側近で忠義心を保つ者が
排除され居なくなるのも
当然と言える
だがガス抜きとはいえ
こうした余興で
どちらが強者かを決める
決闘の場を用意してあるのは
せめてもの慰めだ
決闘に代理の騎士を用意出来る
このやり方にいかほどの意味があるか
解らないが、弱者でも意を唱える
方法がこれである
黒騎士は自分より遙かに華奢に見える
フラウロスに戦いを挑んだ
巨大な斧と槍が融合したかのような
ランスを構える巨躯の黒騎士
一見すると大人げないほどの
戦力差なのだが実際には
ザンシュ!
勝負にもならなかった
黒い渦がフラウロスの手に生まれたと
思った次の瞬間には
黒騎士は腕を振り上げたまま
首を無くして絶命していた
「悪いけどお前みたいな雑兵を
一々相手していられるほど
このフラウロスは暇じゃないの」
フラウロスの冷たい視線が
息絶えた騎士に注がれる
泣きながら亡骸に駆け寄る
部下達には鬼か悪魔にも見える
その中にはこのことに特別に
恨みを抱く者もいた
「おのれ…フラウロス
よくもゼフラム殿を
この恨み決して忘れはせぬぞ」
それはゼフラム将軍の
右腕と言われる魔竜騎士カイと言う
名の戦士だった
カムイは魔竜と言称号を貰えるほど
戦闘力が高く恵まれた素質を
生まれながらに有していた
純粋な戦闘ならば比類無い
力を振るうことが出来る
だがそんなカムイでもフラウロスの
圧倒的な強さを見た後では
自分の非力が解る
どう考えても勝てる様な相手ではない
フラウロスに勝つには
同等のセブン・デッドリー・サインズ級の
能力が必要だ
少なくとも剣でどうにか出来る
相手ではない事は思い知った
本来なら将軍に代わり自分が
フラウロスと戦うのが
将軍の恩義に報いる一番の
方法なのだが
それを将軍は許さなかった
「確かにお前の方がワシより数段
戦闘能力は上だ…だがこの戦いは
ワシがせねば意味がないのだ
第一、ワシより数段強いだけでは
フラウロス将軍に勝つことなど
到底叶わぬよ」
ゼフラム将軍の仰るとおりだった
これほどまでに強さの差が開いていたら
自分でも秒殺されていただろう
意味のない身代わりが一人死に
何も残らなかったに違いない
だが手ゼフラム将軍の命となれば
其れは別だ
将軍は多くの兵士に信頼され
そして尊敬されていた
カムイはゼフラムの死を悲しむ
ダークネスに何人も出会った
将軍の無念を晴らそうと考える
ダークネスは数限りなく居るだろう
そしてこのカムイもその一人だ
ゼフラムは
カムイを息子と呼んで可愛がった
「将軍はもう居ない、無念の死だが
偉大な彼の死は偉大な死でなければならない
この俺が彼の死を伝説にしてみせる」
「彼の死があったからこそ
これだけのダークネスが動いたのだと
歴史家にそう言わせてみせる」
その反乱の芽はこの死の疾走が
始まってから少しずつ芽吹き
大きな動きに発達しようとしていた
王の首を取る
其れが反乱者達の目的である
ゾスター以外なら誰でも良い
と言うのは軽率で愚かな考えなのだが
復讐心に囚われたカイにそれ以外の
感情はなかった
ゾスター軍と言うのは
どの個体も惑星を破壊するような
凄まじき怪物の集団である
魔獣戦艦その数およそ数十万
此を纏めるのは並大抵ではない
あのゴーラでさえ自分には無理だと
断言した、それは謙遜でも奥ゆかしさ
でもなく本心の言葉だった
これでも
ダークネスの増殖能力を考えれば
この数は異常に少ない
速度超過によりダークネスの
増殖度も抑えられている
暴食の欲求が抑えられない
この怪物共が宇宙を喰らい尽くし
食い物が無くなったとき
どうなるのか考えるのも恐ろしい
最強生物であるダークネスの
神であり続けるゾスターの苦労は
誰にも知りようもなく
カムイははっきり言って
そのようなことはどうでも良かった
只単純にフラウロスが憎かった
だけなのだ
「これであの魔女に復讐できる」
復讐に捕らわれたカイは
フラウロス艦隊に潜入すると
フラウロスの部下達を
次々に襲い殺し始めた
其れは敢えて決闘を申し出て
敵に断る隙を一切与えず
暗殺していくと言う
実に乱暴な手段である
超高速で移動する艦隊の
艦内で行われる事に
決闘を受けた者は
其れを受けるよう義務付けられている
のを良いことに下克上を名目に
次々とフラウロス派の重鎮を葬っていく
暗黒魔剣士カムイ
魔物の軍馬に引かれる巨大な
館の中で魔剣を振るい
次々にフラウロス派の貴族や
剣士を惨殺していくカイの姿には
もはや既に誇り高き騎士の姿は
無くなっていた
だがフラウロスもその様な暴挙を
ただ見過ごしては居なかった
逆に反逆の象徴の様に反フラウロスの
連中に指示され人気を得たカイの首に
多額の賞金を賭けたのだ
そのため腕自慢の猛者や
賞金目当ての野党等が
カムイの首を狙って襲ってきた
カムイはフラウロス派だけでなく
宇増毛増の賞金稼ぎの連中まで
敵に廻したのだ
「別に良いさ、こいつらも
糧にしてフラウロスを討つ為
俺を鍛える贄にしてやる」
そう割り切ったカイは
次から次に現れる
主に賞金稼ぎの連中を
道中見つけては次々に
血祭りに上げていった
此だけの事が出来るのは
彼がダークネス戦士の中でも
稀にみる超ダークネス
だったからである
一隻の魔獣戦艦の大きさは
小さくても数百キロ
その内部空間は島よりも大きい
魔獣戦艦の内部には
国といえるほど巨大な
亜空間が広がっていた
兎に角広大なのだ
こうした亜空間で船同士が繋がり
巨大な城や館が各々の魔獣戦艦の
抽象的な姿となっている
そして亜空間の地獄の広野の
遙か先に見える
大山脈のような城こそ
ゾスター城と呼ばれる
カリギュラスの化身なのだ
この広大な亜空間はダークネス達からは
インフェルノ平原と呼ばれていた
当然この空間内で起こっている
事は全てダークネス内だけのいざこざである
人類にとってはもっとやれと
言う所だ…が
この場合…フラウロスに生き残って
貰わないといけない
ダークネスの疾走を止めさては
絶対にいけないからだ
ここまで宇宙がダークネスに
宇宙を完全に浸食されず
済んでいるのは
偏にこの疾走があってのこと
もし仮に通常速度で移動していたら
ダークネス粒子により全宇宙域が
粒子汚染されていたのだから
粒子レベルからの侵略こそ
ダークネスの真骨頂
気付いた時には目に見えない
素粒子の侵略は完遂して
果たされており
次の段階に進む段になり
初めてダークネスの進行に
人類は気付くのである
そうなれば最早手遅れ
どう足掻いても粒子レベルで汚染し
同化した敵を排除する事など不可能
だからだ
つまりこのゾスターの暴走を
是が非にも
続けさせなければ成らないのである
止めるなど言語道断
この歩みを止める者は
万死に値する事だろう
だが…ゾスターさえ殺せば
其れで済むと考える
愚か者は数多と存在する
今はゾスターそのものが
ダークネスにとって
種の存続を脅かす
存在となっている
またその事実を一番良く理解して
いるのもゾスター本人なのだった
「あの時…直ぐに追っていれば
或いはカオスを
捕まえられていたかも知れない」
その後悔は地球を旅立ち
600時間を過ぎた辺りで抱いていた
以来必ず悪魔の王の脳裏に
浮かぶ後悔の念となって執着し
こびり付く汚れだった
貴方はもう二度と
彼女に会うことはできないでしょう
その言葉も何度もゾスターの
頭に浮かんでくる
あの女…亘理洋子の呪詛のような
辛らつな言葉
他の人間の言葉など
無視出来る…だがあの女の言葉となると
話は別だ
今のこの状況をあの女は的確に
言い当てている
もし戦い雌雄を決すれば
このゾスターに勝てる猛者など存在しない
だが…その自分を生み出した超天才の
博士がその才能を全て我が手から
逃げるためのみに使ったら
万能の余とて…
追いつくことなど不可能なのでは
ないのか?
それに気付いたのは600時間
経過した後だった
宇宙一の速さを誇る
カリギュラスがカオスに
いっこうに追いつけない
余の天才の頭脳で幾度
シュミレーションしてみても
カオスに追いつく未来が見えなかった
やがて余は余裕を無くし
気分が落ち込む日々が続いた
何も知らぬ者共は
余に博士を諦めろと言う
種族繁栄のため
宇宙そのものをダークネスの
モノにする為に
余に王としての職責を果たせと言う
無論余もそのつもりだ
だがそれもカオスをこの手に
取り戻してからである
カオスを取り戻せるのであれば
余は何でもそのものの願いを叶えよう
そう如何なる報償も望むままに
与えよう
だがそれは無意味だ
カオスにたどり着くなど
およそ不可能なのだ
このゾスターに出来ないことが
どうして能力の劣る役立たず共に
出来るというのだ?
このゾスターが
藁にも縋るなどらしくもない
ゾスターにしてみれば
覚個たる根拠無しに行動する
意味がどうしても理解できない
一か八かとか失敗して元々とか
あり得ない選択なのだ
亘理洋子のような未来予測の
出来る人間なら或いは
何らかの手を見いだせるかも
知れないが、今はその
亘理洋子もいない
思えば渡瀬聖子以外の人間で
その能力を認めたのは
亘理洋子くらいだ
この宇宙でゾスターを出し抜き
完全敗北させた稀人
ゾスターも心の中では
彼女の発する一言一言に
注目せざるを得なかった
「貴方はもう二度と博士と会うことは
出来ないでしょう」
亘理洋子の予言は
絶対に外れない予言
戯れ言と一笑に付すには
余りにも恐ろしい精度で当たる
だがそれも彼女が予言の実行を
するために必死の努力をした
結果なのだが
ゾスターは過程を見ないで
結果だけ見るので
その事は知らないのだ
結果を出した人間しか評価しない
ゾスターには可能性を見いだす能力は
皆無だった
自分より能力の劣る者など
気にもかけない
ゾスターである
渡瀬聖子と亘理洋子
そしてアーモンこと
亘理豪龍のみが
人間でも自分より
優れた能力を持つと
ゾスター認めた者達だ
ダークネスの中では
ゴーラとレイディアンス
アーモン
それだけが実力を認めた
存在である
だが今残るのは
渡瀬聖子一人だけだ
後は全てゾスターの前から
姿を消した
「最初から一人だけだったのだ
…渡瀬聖子だけがこのゾスターの
隣に座するのに相応しい存在なのだ」
渇望するその想いはゾスターを
大いに焦らせた
そして更にカオスに追いつくために
国を走らせるのだ
疾走するゾスター王国
王一人のために存在する
完全なる独裁国家
ゾスター王に逆らえば命はない
王の代理として君臨する
フラウロスに刃向かう
カムイは間違いなく王国の
反逆者である
賞金稼ぎ程度で黒剣士カムイの
相手になど成るわけがない
だが…数を相手にしたときは
さしもの天才も危なくなった
そんな時はヒットアンドウエイ戦法
戦場を縦横無尽に駆けめぐり
一人づつ始末していくのである
実際、単騎で多数を相手にする場合
こうした戦法をとる以外
勝機はないだろう
だが雷光とまで言われる
カムイの剣の腕前に
賞金稼ぎ程度の腕で
勝てる者は少なかった
だが中にはカムイよりも
その時点では強い猛者も
多数居たのも事実
だが一度倒されてもカイは
何度でも立ち上がり
諦めず強敵に対しては
新技を編み出して
対応していた
そしてフラウロスの力である
重力を操る戦士から技と力を学び拾得し
自分の技に融合させ
無類の強さを手に入れていった
炎の剣で相手を焼き殺すのが
元々のカムイの得意技だったが
重力を操れるようになり
更に回避能力も格段に向上した
この力ならばフラウロスの
側近にも通用する筈だ
フラウロスの側近とは
両翼の翼
黒い羽姉妹と呼ばれる
ネイキッドの二人である
この二羽には地球人の血が流れていた
オートマとエグゾセの二体の黒翼
とくにこの二体はフラウロスの
空間を操る力まで備えているため
並のダークネスでは相手にも成らない
強者なのだ
噂には聞いている
何とかしてこのニ体のうち
一体だけでも倒せれば
フラウロスにとって
大きな痛手に成るはずだ
そうすればフラウロスが
直接この俺を殺しに来るかも知れない
カムイはフラウロスと格が違いすぎ
相手にされない事は解っていた
ダークネス同士の戦いでは
ともに何かを掛けて戦うのが
一般的だ
利益無しの
私怨のみで戦う決闘はゾスターに
よって禁止されている
もしフラウロスがカイと戦う気に
なったとしても何の利益にもならない
カイとの戦いは
私怨のみで戦うのは許されないのだ
特にフラウロスは
ゾスターに対し盲目的な信仰を
持っている
エグゾセを殺せば
それに怒ったフラウロスが
もしかしたら単騎で攻めてきて
決闘に持ち込めるかも知れない
と言うのが稚拙なカイの浅知恵であった
脳筋的と言う何だか
残念な子なのだった
だが強さは本物
カイはフラウロス派の武人や
貴族を狙いその勢力を
根絶やしにする勢いで
倒していった
只一騎で暴れ回る黒剣士カイは
大変厄介で駐屯基地クラスなら
単騎で全滅させていく
そうすると
フラウロスの派閥間でも
漁夫の利を狙う者も現れて
ライバルの持つハブを
何とか手に入れようとする
者も現れてくる様になった
ゾスター軍は銀河を襲って
むさぼり食う事でその星雲の
生命体を取り込み
生産工場であるハブを
増やし勢力を拡大させる
エネルギーや資源を食い荒らされた
星雲は見るも無惨な有様に成り果てる
そして最後に星雲の中心部にある
巨大ブラックホールをゾスターが
吸収し、一つの星雲が跡形も残さず
たった数年で食い尽くされるのだ
だがそうなった星雲は今のところ
一つとてない
全ては星雲を避けて
進路を取る
カオスエントロピーアクターの
お陰なのだ
だがダークネスが育つために
餓えを満たすために
進路上に偶々存在する
惑星は悲惨である
巨大な蝗の群が緑溢れる
星を見つけると
その進行をそのままに
通り過ぎていくと
その後には
見るも無惨に食い荒らされた
星の残骸が…一瞬かいまみえた
と思った次の瞬間には
残りのリンゴの芯まで
食い残さず
蝗達の群は跳び去ってしまった
ダークネスの進撃を止められる者はない
効果的な駆除方法が見あたらないのだ
勘違いをしてこの悪魔の
進撃に水を差す愚か者が
この先現れないことを切に願うが
そうそう事情を察知し
触らぬ神に祟り無しを貫ける
者達ばかりとは限らず
誤って手を出したばかりに
とんでもない目に遭う輩も
いないとは限らないからだ
特にそうした行為をやりそうなのが
自分達の軍事力に多大に自信を持っている
惑星国家だ、独裁的な軍事政権などが
ゾスター軍のような存在の
追加を指をクワエて見ている筈もない
いらぬ抵抗をした結果
滅んだ国は万を越えた
ゾスター軍の陣形が
縦に長いおかげで
星系クラスの破壊だけで済み
星雲全体が受ける被害自体は
致命傷ではない
だが進路から逸れているのに
わざわざ手を出しゾスター軍の
一体でも進入すれば
その星雲事態にも途轍もない
驚異が襲いかかる事になるのだ
祭文教授が
日輪星系の位置を星雲図で示した
「この部分が日輪星系と隣接する
この巨大な星系群が中猾共和国
そして最強最大武力を誇る米帝合衆国
更に遊裸子亜諸国と最大の星系圏を持つ
甦美干支社会主義国連邦」
「こ…これは…」
ストームを含めマグニファイセントの
クルーや、かっての地球の国際情景を
知るものは皆息を呑む
そして祭文教授は
「その通り…渡瀬博士は古代に戻って
日輪を足場に星雲自体を地球そっくりに
複製したんだ」
この事実を受け止めきれない
一同であったが
祭文教授は続ける
「博士はギリギリまでゾスターを
引き付け星雲を離れた」
「それにまんまと釣られた
ゾスターだったが
それでも博士が居た
日輪星系を危険と判断し
魔獣戦艦ゲルサンドを
放ったのさ」
マグニファイセント副長のイズミが
挙手をして祭文に質問する
「博士は何故、こんな当時の
地球の世界を再現したのでしょう?」
祭文教授は鼻に指で掻きながら
「当然の疑問だね…恐らく博士は
日本の再現をするために
敢えて周りの世界をそっくりに
再現したんだと思う」
つまり日本の再現には
世界の構成も同じ様にしないと
再現不可能だと言うことらしかった
「文化系統が複雑に絡み影響しあう
世界に日本という類稀な国が生まれた
この星雲に日本だけを再現しても
結局は小さい国に分割し
別物に変異すると結論付けたんだろう」
「戦国時代が永遠に続く星系では
ゾスターに太刀打ちできない
統一して国の規模が大きくならないと
サムライディーヴァが幾ら増えた所で
とてもゾスターに対抗出来る戦力に
成り得ないからね」
どうやらこの星雲自体が
ゾスター殺しのために
用意されたモノらしい
「でしたら他の国にも協力を
要請すればいいのではないですか?」
再び挙手をしてイズミ副長が進言する
祭文は首を振り
「残念ながら我が国は鎖国している
真っ最中だ…」
「交易もしてないと言うことですか?」
イズミは驚く
「鎖国の儘で此処まで科学文明を
発展させたと言うことですか?」
イズミは日輪が曲がりなりにも
宇宙時代を始めている事に
驚いている
「黒船来航…だっけ?日本が文明開化
する切っ掛けになったのは」
祭文がイズミの疑問に応える
「残念ながらこの国には渡瀬博士が
居たからね、寧ろ逆に博士が他の国を
文明開化させたんだ」
イズミ疑問顔
「800年前にゾスターが
来襲する寸前、渡瀬博士は星雲
全体に科学知識を与えた…
その結果として各星系毎に
日輪星系並の技術を手に入れたんだ」
「教授…アメリカの文化を持つと言う
巨大星系が気になるんですが…」
ストームも挙手し
祭文に訪ねた
「元アメリカ大統領の
ストーム君ならそこは
気になるところだよね
解るよ」
喜々として応える
祭文教授は教鞭をとる
この会議のスタイルに居心地の良さを
感じるのだ
「米帝は色々な人種が集まり
資本主義を生業とする巨大国家だ」
「そのあらましは、いきなり
原住民に主義主張を唱える
数人の偉人を博士が用意し
出現させることで形成された」
「よって…インディアンも最初から
存在しアメリカの黒歴史は存在しない」
白人が原住民から土地を
強奪していないシナリオの
それでフロンテアスピリッが
産まれるかは別にして平和的で
良い話だ
「じゃあ南北戦争も?」
首を振る祭文
「残念ながら国家として成立
してからの歴史は忠実だよ
それがないと色々と不都合だしね」
「そうですか」
ストームもアメリカの創世記が
血にまみれた歴史の積み上げな事は
重々承知だ
「出来るだけオリジナルに近づける為に
各国とも第一次大戦までの歴史は
地球の歴史に忠実に再現していたよ」
「第一次大戦までですか?」
ストームは星雲戦争になっていたら
星系の一つや二つ消滅しても
しょうがないと思っていたが
「世界戦争は起きなかったよ…
大きすぎたんだよ星雲はね」
「距離が何万光年間の戦争に
まずワープ出来る船がない、
ワープもない星間同士の戦いなど
起きるわけもないよ」
「つまり星系同士は距離が離れすぎていて
自分達の星系だけで手一杯であったことと」
「星系内だけで内需が循環し
経済活動が済んでいる
ワープ技術を確率出来ない限り
他国に干渉する必要も少なかったのさ」
「わざわざ他国に干渉し領海圏を
漁る必要もないからね…
そういう意味では互いに干渉しない
イコール手も貸さない平和な
方針なんだよ」
「其れでは此処に至るまで
大きな戦争は起きていないのか」
ストーム達は其れは素晴らしい
と言う表情をする
「まさに楽園だな…各々の
考え方とやり方で争わずに済むなんて」
そこで祭文が
「皮肉なことにゾスターが
ダークネス粒子を宇宙空間に
散布したお陰で
映像による領海管理が
可能だったからね」
800年前から星雲の廻航には
星域の領海を示す謎の光線が存在する
この光線のおかげで
お互いの領域を侵さない限り
争いはないのだ
「とは言え隣接している国同士で
辺境で多少の小競り合い程度は
あるのだがね」
「互いに距離をあけることが
諍いを避ける一番の早道と言うのが
何だか悲しいね~」
ウンウンと頷き互いの顔を見て
激しく同意する地球人達
「互いに正しい距離間を保てば
世界は平和なんだ」
まあその見せかけの平和も
ワープ技術が確立するまでの
仮初めのものだろうけどね
祭文は敢えてそれを言わなかった
折角喜んでいる地球人達に
水を差す必要はない
「それだったら尚更この星雲に住む
人類に応援を頼んでみられては如何です
我々なら其れが可能でしょう」
地球人代表であるストーム大統領が
そう発言すると
祭文は
「貴国から兵力だけを出してくれと
そう頼むのかいストーム大統領?」
ストーム大統領は
逞しい顎に指を添え
「何らかの見返りを要求されるでしょうね
考えられるのは超高速航法の技術でしょうか?」
「まあ遅かれ速かれワープ技術は開発される
それも10年か20年程のことだろう」
祭文教授はそう推測した
「日輪は君達地球人とコンタクトした
事によりその新技術を手に入れた
このままだと技術差が大きすぎて
他の国が納得しないだろう」
祭文の言う所の技術力の差は
戦力差に直結する
今の日輪なら
ワープにより他国領海に攻め込み
そのまま帰ってくることが可能だ
相手側は一方的に蹂躙されて
反撃する事も出来ない
まさに日米逆転
不平等戦争になるわけだ
事実上一人だけ先に文明開化した
抜け駆け国家と誹りを受ける
立場にある
まあ米国なら素知らぬ顔で
しれっと他国を一気に
侵略するだろうが
侵略戦争を国の第一の仕事にされても
平気なのはダークネス種族位のものだ
だが逆にその侵略できないと
ダークネスはやせ細り朽ちていく
それが生産性の乏しい種族の
悲しいところである
だがゾスターは
ダークネスならば其れすら
進化の糧にするだろうと
ほざくのである
此は幾ら何でも無理だ
如何に最強生物のダークネスと言えど
喰う物も喰わずに限界速度で
走り続ければどうなるか
解りきっている
無理なを減量しながらマラソンをする
人間が居るだろうか?せめて
走るためのカロリー摂取と
水分の補給がなければ
生き物は生きられない
その結果なにが起きるのかと言うと
同じ種族同士の共食いが始まる
今その共食いが始まる予兆が
黒剣士カムイの出現なのだ
カイはゾスターに虐げられる
ダークネス達の産み出した
同族喰いの先兵と言えた
とうの本人に其れほどの自覚はない
兎に角、死の飛行を続ける蝗の集団の中で
共食いをする種が産まれたのだ
その場合ダークネスの天敵と言える
存在である
当然だが彼等が人類の味方と
言う事ではない我々人類から見れば
ただダークネスまで喰う悪食が
新たに発生した自殺細胞にすぎない
渡瀬聖子は医学者としても天才で
ノーベル賞を受賞していた
研究内容としては
増殖するガン細胞を駆逐する方法として
ガン細胞を極限まで飢えさせ
互いに共食いさせることで
死滅させると言う方法だ
彼女はこの方法で難なく
人類共通の恐怖であった
ガンという病を永遠に
駆逐したのだ
その声は
突然頭の中に響いた
絶滅スイッチと言う物を君は
聞いたことがあるかい?
黒剣士カムイは6体の戦士と戦い
勝利はしたが死にかけていた
そこに何者かのテレパシーが聞こえてきた
「何だ…聞いたこともない
絶滅するのは人類の方だろ?」
だがその声は否定した
「いいや…絶滅の危機にあるのは
ダークネスの方さ…」
その声は静かに語りかけてくる
「今や…ダークネスは一人の王の
暴走によって滅びの道を突き進んでいる」
「その王の名は…」
「ゾスター」
そして声はカムイに天啓を与えた
「ゾスター王をお前が止めるんだ
カムイ、お前こそがダークネスの救世主
となるのだ」
そして瀕死の可夢偉に倒した
ダークネス戦士達の生命エネルギーが
流れ込んでくる、青い光が
傷ついた可夢偉の肉体に染み渡り
可夢偉は蘇った
「お…俺は…どうしたんだ?」
声は可夢偉に教えた
「お前は倒した敵の
生命力を得て復活したのだ
敵を倒し続ける限り今のお前は
不死身だ」
そしてその恩恵は不死身だけではなく
戦闘力も幾分上昇していた
「力が…漲ってくる…これはいったい?」
そしてその声が消えそうなくらい
遠くに感じた
「待ってくれ!一体誰なんだ
あんたは!?」
それはもう聞こえないほど微かな声になる
「待ってくれ!もしかしてあんたは…
否!あなたは…ゼフラム将軍ではないのか!?」
だがもうその声は聞こえない
所まで離れてしまった
それとも薄れてしまったのだろうか
何れにせよ可夢偉にとって
その声は天啓としか
言いようがなかった
「戦い続ける限り俺は不死身だ」
不死身となった可夢偉は強かった
以前よりも増して
もはやどんな敵でも
何度も挑み戦い続ける限り
最後の最後には
倒すことが出来るのだ
これならフラウロスの側近でも
倒せるかも知れないぞ
可夢偉にとって遙かに格上である
オートマに挑むには
暗殺以外に方法はない
正式に決闘を挑めないからだ
オートマはフラウロスの
側近にしてフラウロスにとっての
たった二人の親友の一人である
人間の少女だった頃のフラウロスは
世界教の幹部だった父親の意向で
友達を一切作れなかった
只一人…心を許せた存在、それは
一匹の黒猫だけ
その猫も父親の命令で
自らの手にかけて殺した
今のフラウロスの姿は
その黒猫がベースになっている
宇宙に出て超高速航法によって
空間と時間を超越したが
時間逆行現象はその膨大な距離を
完全には越えられず時は
数千年も過ぎ去り
その間の進化により
フラウロス自身も凄まじい変貌を
遂げていた
ダークネス最大の軍団を率いる
傲慢の神として今のフラウロスは
ゾスターに次ぐ戦闘力と
権力を握る実質
ゾスター軍のナンバーツーだ
本来ならこの地位は
地球を支配する予定であった
強欲のアーモンが座る席であったが
空席にしておくわけにもいかず
結局は生き残り順に地位を与える
と言った所だろうが
ゾスターもフラウロスではなく
出来ればアンドロマリウスに
バトンを渡したかったはず
自分に従順で思い通りになる
だけの小娘に大事な国の運営を
託すのはさぞ不安だっただろう
祭文は自分の選んだ監視者の
目を通してゾスター軍の今に現状を
把握しようとしていた
「思っていたより
渡瀬博士の作戦は効を制しているようだ」
強力無比なるテレパシー
その能力はダークネス粒子を
介在し彼の脳に直接働きかける
数千光年離れていても
ダークネス粒子を辿れば
一人のダークネスだけなら
時間と空間を越えて
テレパシーでの会話も可能だ
ゾスター軍は進軍の際に
ダークネス粒子をまるで
ナメクジが通った後のように
痕跡として残していく
粒子間脳波通信
本来はゾスターが
地球のアーモンと連絡を取り合う
目的で繋げた通信網だったが
利用できる物は何でも利用させて貰う
祭文にとってゾスターを知る
貴重な情報源となっていた
宇宙の王者との圧倒的な戦力差を
考えれば此くらいしか対抗手段がない
マグニファイセント一隻で
ゾスター軍と渡り合うのは
無謀すぎる
ゾスターの攻撃を生き残った
星雲の力を結集させても
ゾスター一人にも勝てないのでは
話にならない
レイディアンスとゴーラの
力を取り込んだゾスターを
倒せる方法があるとすれば
何もない虚無の空間に
誘い込み飢え死にさせる
恐らく此が
最も宇宙へのダメージが
少なくすむ手術方法なのである
ガン細胞を飢えさせ
互いに共食いさせ
自然消滅させる
これ以上の方法はない
渡瀬聖子博士の一人の犠牲で
この作戦は成功する
まずゾスターは全てを知って
尚 執拗に…博士を追う
此は間違いない事実だ
まあ祭文なら
「速さだけ進化させ特化型ダークネスを
先行させ博士を捕らえる方法も
考えられるが…」
まあ無駄だろうね…ゾスターなら
まず最初に其れを考えた筈
エネルギーをダークネスから奪う能力を
持つカオスエントロピーに接近すれば
捕まえる以前に枯渇させられて
終わるだけだ
エネルギーを吸われながら
それでも余力で捕らえる以外に
博士を捕らえる方法はない
恐らく何度か試して
何体かの犠牲があるはず
積んでいるねこれは
無理だ
祭文でさえ今から博士を捕らえる
方法など想像もつかない
唯一の方法は虚無宇宙で
力尽きた博士を回収する方法だけだが
その場合、エネルギーを持って行かれ
二次遭難と言う未来しかない
つまり
博士に近寄れば
何者であってもエネルギーを吸われ
虚無の世界で道連れになる可能性が
高いのだ
向かえに行けば
死ぬだけだ…
でもシャレーダー兄さんは
それでも行こうとするだろう
ボクが何とかして止めないと
博士の思いが無駄になる
サイモンにはある程度の予測が出来ていた
渡瀬聖子の死とゾスターの死は
最早決定された物だと
武力でゾスターを討伐するのは
絶対に不可能だ
例えマグニファイセントでも
ゾスターにはかなわない
ブラックホールを破壊する
手段などがあったら教えて欲しい
其れも星雲の核になるほどの
超巨大ブラックホールをだ
奴の最強の武器は
ブラックホールから照射する
宇宙最強の破壊力を誇る
ブラックホールクエーサー砲
ゾスターロンギヌスである
巨大な星雲でもその中心の核を貫けば
星雲諸共敵を一掃する
超破壊兵器だ
此を使用したのは
ゾスターが博士を追って宇宙に出て
276年の歳月を逆行した時である
光速を超える速度で地球から
遠く離れるほど
時間は逆に過去に戻る
科学的に浦島現象と命名されている
この現象は
これがタイムマシン無しに理論的に
過去に戻る方法である
時間跳躍を利用すれば
宇宙で過去に戻り
何億年も前から宇宙を浸食する
事も可能だ
それでもカオスは波動航法によって
地球との時差を出来るだけ抑えて
移動している
その御陰で我々との
時差は我々と数千年の誤差に
抑えられていた
もしゾスターが超高速でなく
亜光速で進軍していたら
ダークネスの規模は
今の数兆倍にも増殖し
大銀河団 所か更に大規模な
被害が出ていた
そうならなかったのは
博士の犠牲的行動の賜である
だがそれでも不測の事態は起こる
カオス・エントロピアースが
地球から離れること実に一億光年
の場所で驚異的なテクノロジーを
誇る進化したヒューマロイド
そのなもネオロスがカオスに接触した
博士はネオスにゾスター襲来の
危機をネオスに忠告した
しかし
ネオスは博士の忠告を相手にせず
ゾスター軍を自分達の陣地に
おびき寄せる餌として利用した
自分達の力を絶対の物だと確信する
ネオスに博士の声は届かず
あろう事か、折角の博士の好意を
無碍にしたのだ
「我々の力を恐れ逃げられては
他の宇宙の友人達に迷惑を掛けるからな
悪いが君にはゾスターをおびき寄せる
餌に成って貰う」
渡瀬聖子はこの言葉に
ネオスリーダーの無知傲慢を嘆いた
「なんて愚かな…見誤ってしまってます
ゾスターを」
「なに心配しなくて良い貴女の身の安全は
私がが保証しますよ」
博士は自分を解放してくれるように
ネオスリーダーに懇願した
だが強力な念動障壁により
その身を拘束したネオスリーダーに
その言葉は届かなかった
一億光年も遙か昔の記憶?
否…カオスエントロピアスの
時間補正でせいぜい50年
位の誤差しか無いはずだ
シャレーダーは弟のサイモンと
協力して弟はゾスター軍に
そしてシャレーダーは
母の居るネオス領域に
意識をダークネス粒子に
乗せて観察していた
サイモンの報告が入る
「博士の移動速度が0のまま動かない事に
ゾスターは狂喜乱舞しているよ」
ゾスター軍はもの凄い勢いで
ネオス銀河に向かって進撃しだした
ゾスターは手始めに
最速の一隻をネオス領域に放つ
ゾスター軍の先兵とも言える
最も足の速い魔獣戦艦がネオスの
神々と激突する
ネオス人のパワーは凄まじい物だった
強力な光線技と格闘技術も凄い物だった
平均身長180~200メートル
平均体重70000~120000トン
大きさでも超巨大ダークネスと
引けを取らないネオスの戦士達
その数も桁違いの600万
ゾスターの現在の総数が
一万から2万だと考えると
数の上だけでも圧勝している
そんな彼等も戦艦と言う形態をした
異質な怪物を目の当たりにし
戸惑う者も居た
気味の悪い昆虫の特徴を
全面に押し出した濃い緑色の巨大な蝗
それがこの戦艦獣の印象だ
「怯むな一気に責め立てるのだ」
四方八方から光線系の技を
無数に喰らい戦艦獣は堅い装甲を
剥がされ肉を焼かれ奇声をあげる
だが超高速で破損した体を再生
させていく様は鬼気迫るものである
なおかつそのまま重武装の攻撃を
ネオス達に返している
その自動追撃型弾頭攻撃は
宇宙を縦横無尽に飛び回り
ネオス戦士に
フォーミングして襲い来る
だがそれ等をネオス達は超高速でかわし
光線技で迎撃した
「以外に手強いぞ光線を一転に
集中させろ!!」
ネオス達が7本の光線を一つに
束ねて攻撃した
一本に纏められた光線の威力は
戦艦獣の装甲をいとも簡単に貫き
エンジンコアを直撃して
それでも余りあるパワーで
丸い灼熱の跡を残して
怪物は石化して
息絶えた
ネオス達は
数人係でも中々倒せなかったにも
かかわらずこの強敵を葬れた事に
勝利の喜びを感じていた
「なかなかの怪物ではありましたが
我等ネオスの敵に非ず」
「かような敵が何度現れようと
我等ネオスは無敵」
「我等が居る限り
最早貴女に仇なす者は皆無です」
ネオスの戦士達はそう
カオスである渡瀬聖子に
念波で語りかけた
聖子博士は彼等のダークネスに対する
危機感のなさに絶望を感じる
「今現れたダークネスはゾスターが
放った先兵に過ぎません
この後現れる者が本当の驚異なんです」
渡瀬聖子はゾスター軍の驚異を
真剣にしないネオスの説得を諦め
ゾスター軍の進行方向を
変えるために行動を起こそうと
した
その気になればカオスエントロピーは
この拘束を自力で解き脱出できる
但し無理にこじ開ければ大きな
被害が出る危険性があって
出来なかった
だがこのままだとネオスは
ゾスターに滅ぼされてしまうだろう
そう危惧した渡瀬博士は
多少の被害には目を瞑ることにした
だがネオスリーダーがそんな彼女の
心の動きを察知したかのように
「我々ネオスの母星がある位置は
ゾスター軍とネオス銀河の反対の場所にある
貴女に汚い物を見せないように
あちら側の銀河の外で迎え撃ちましょう」
つまり時間的な余裕が出来て
渡瀬博士もネオスとの話し合いに
希望が持てると言う事になる
まるで私の心の動きを
読まれたような
宇宙を飛びながら最速で
ボイドに向かう航路に
私の目に飛び込んできた
このネオス銀河
ゾスターの進路に余りに近い…
これは忠告する必要がある
そう判断した博士は
カオスエントロピアの進路を
一時的にネオス銀河に取ったのだった
だが此は間違いだった
カオスが全力で逃げ続ける限り
ゾスターはネオス銀河を素通り
した公算が高い
数隻の魔獣戦艦を放つ事は
あってもネオスなら
乗り切れた筈だ
何もない空間に只死に向かう
博士の心が少し弱気になっていて
ネオス銀河の光に誘われたのだろうか?
いずれにせよ渡瀬博士らしくもない
盆ミスであった
そんな後悔を滲ませる彼女を見ながら
ネオスリーダーはアルカイックスマイルの
顔で表情は読めない、だが
悪意は感じられなかった
シャレーダーは事の事情を知り
博士とネオスの置かれた状況が
危機的であると認識した
「此は一億光年過去の出来事なんだ
ボクには見ている以外何も出来やしない」
時間補正が掛かっているとはいえ
シャレーダーからしてみれば
遙か過去の出来事と言うことになる
ゾスター軍の驚異を知らせようにも
始めから打つ手がないのだ
何も出来ないことがこんなに歯痒いなんて
だから過去に戻るのは嫌なんだ
見ている限りネオスがゾスター軍を
侮って居ることが解る
当然だ…地球の科学の数万年先を
このネオス達は行っている
或いはこのネオスなら
ゾスター軍を打ち破れるかも知れない
シャレーダーはそう期待せずには
いられなかった
超エネルギー生命体に人工進化した
人類なら或いはと…
サイモンは意識を共有する兄の
思考を理解しシャレーダーが
そう願う気持ちが理解できた
「…そうだね期待して見てみよう
結末がどうなるか…見なければ
知りようがない」
ネオス銀河に進路をきった
ゾスター軍は恐ろしい速度で
進軍していた
その旗艦である最大最強の
星雲級魔獣戦艦
カリギュラスは
恐るべき進化を遂げていた
全長は恐ろしいことに
測定不可能になり
惑星の大きささえ小さく見えた
光の速度で計ったとしても恐らく
1000秒はかかるだろう
昆虫型の龍が何匹も重なり
一体の大きな塊と化している
その艦橋部分にサクラダファミリア風の
デザインが取り入れられた城の本丸が
そびえ立っていた
その城の本丸から円を広げるように
放射線状に巨大な砲門が数千数万と
備えられている
だがこの怪物が元は一匹の
ダークネスな事が驚異だ
この大きさで一匹の生き物なのだ
カリギュラスこそが
正しくゾスター軍の力の象徴と
言っても過言でない
そのカリギュラスを取り囲む様に
巨大な昆虫型の魔獣戦艦が無数に
存在していた
星雲級のカリギュラスより
遙かに小さいと言っても
その一隻が巨大ガス惑星の大きさである
惑星級魔獣戦艦
その強さは壮絶である
一隻でも太陽系に進入すれば
その破壊力で一週間もあれば
全ての惑星…太陽も含めて
瓦礫と化してしまうであろう
そしてその周りには
蝗の群の如く大小様々な
醜悪な昆虫形態の戦艦獣が
存在している
とてもではないが
並の人間では見ているだけでも
絶えられない発狂物の光景だ
此と戦うなどと冗談ではないと
叫び出すところだろう
マグニファイセントがいくら強力無比な
魔獣戦艦の天敵だとしても
この規模の厄災に対抗できる訳がない
聖剣は只の一振りしかないのだ
数は1万5~6千船隻であっても
質が違う
一隻が最低ゲルサンドクラスなのである
だがネオスは60万の超人部隊
数の上ではゾスター軍を上回り
数人でもダークネスの究極進化系の
魔獣戦艦を一隻葬った実績もあるのだし
ゾスター本人とでも戦わない限り
対抗できるだけの力はあると思える
「最強のゾスターとさえ事を構えなければ
勝算は少なからずあると思う」
考えにくい事だが
ゾスターが博士を追うよりも
ネオスを倒すに集中したら
一溜まりもないであろう
純粋にして禍々しい怪物王の
怒りの砲孔…レイディアンスと
ゴーラの力を併せ持つ奴の力は
表現方法に困る程絶大なのだ
だがその艦隊の中にいて
只一人、異質の存在が誕生していた
同族殺しのダークネス
黒の剣士可夢偉
彼はこの状況を全く知らずに
フラウロスの船内で暴れていた
船の中とは言えゾスター軍最高権力の
魔獣戦艦である
その大きさだけで大型ガス惑星にも
匹敵するのである
逃げ隠れしながらフラウロスの腹心達を
葬って回る可夢偉は厄介な事この上なかった
「奴は見つけ次第殺せと命令されている
方法は問わない、奴を殺せばフラウロス様から
最大級の褒美が与えられる」
そう言われれば
ダークネス戦士ならば
可夢偉を殺すことに躍起になることは
寧ろ必然である
可夢偉を殺せば報償として
ハブを与えられ
自分の種族を持ち
ハブ持ちのダークネスとして
軍を起こす事も夢ではない
ダークネスはハブを持つことで
自分に従う兵隊を増産し
権力と地位を得ることが出来るのだ
ハブを数多く持つことが
ダークネスが立身種背する
一番早い貴族の道なのだ
つまりこのフラウロスの魔獣戦艦の内部にも
数多くのハブが混在していた
そのハブを攻撃されることは
位の高いダークネスにとって死活問題なのである
一個でも多くのハブを持つことが
ライバルとの差を付ける方法だからだ
逆にハブが減ることで
ダークネスとしての地位が
脅かされるのだ
可夢偉はそこをつき
位の高い名高いダークネス達を
砦より引きずりだした
当然それは同時に
強力なダークネス戦士達と
何人も同時に戦闘をする
危険もはらんでいる
最強のダークネスの中でも
腕に覚えのある凄腕の戦士だけが
そうした有力ダークネスの側近として
召し抱えられるのだ
可夢偉は多くの修羅場を
死の戦場を乗り切り
そうした死線をくぐり抜けて
来たのである
有力なダークネスの中には
そうした可夢偉の腕を惜しみ
最大級の厚遇を提示して
陣営に引き込もうとする者も居た
だが可夢偉はフラウロスを
何としても葬る事だけを
最大の目的にしていたため
どうしても取り込むことは
出来なかった
可夢偉の成長速度は異常そのもの
第6世代ダークネスで
ここまでの成長を見せる
戦士は他にない
殺すには惜しい存在だ
ダークネスの最高峰の
一角も夢ではない
ボイストームやセブン・デッドリー・サインズ
にもなれる可能性を秘めていた
「ネオスとの戦争が退っ引きならない
状況となり直ぐそこまで迫っている
…このような時期に可夢偉問題は捨て置けない」
そう考えたフラウロス軍最高司令官の
一人である右将軍エグゾセは
数人のダークネス戦士達の腕試しをしていた
すでに数百もの腕に覚えのある
強力なダークネス戦士がエグゾセ一人に
倒されていた
当然手加減などしない
エグゾセは全力だ
つまり今生き残って
立っているダークネス戦士達は
全力のエグゾセの攻撃に耐えたのである
「よくぞ私の全力に耐えた
褒めてやる」
エグゾセにそう言われ
戦士達は涙を流しながら歓喜した
「有り難う御座いますエグゾセ様
…貴女様のような勇の方に褒めて頂けるとは
この蛇面娑、無情の喜びに御座います」
それに習い他の戦士達も名乗りを上げた
その名は6体だったが
どれも名のある手練れ達である
何よりもエグゾセ本人が自らの手で
確かめた猛者ばかり
名ばかりの弱者など居るわけがなかった
「お前達は名声はあっても地位は無い
流浪のダークネス達だが…腕は確かだ
そんなお前達に地位とハブを
手にする機会を与えようと思う」
「誠で御座いますか?」
エグゾセは力を込めて断言する
「誠だ!」
其れを聞きその7体のダークネス達は
色めき立った
「オオー」
「願ってもない」
「上官殺しの私にも
そんな機会を下さるとは」
「敵前逃亡した卑怯者と
散々罵られた私にもですか?」
エグゾセは過去を不問として
最強の戦士を召集したのだ
過去は関係ない
今、強い戦士が必要なのだ
「過去の経歴は一切問わない
報償の件はフラウロス様の御名の元に
このエグゾセが約束する」
7人の騎士達の目の色が変わる
一軍の将になれる機会などここ数千年
無かったこと、戦争なしに
只走り続けるゾスター軍に
そんな機会は訪れなかった
正にこれこそ騎士としての本懐である
どのような強者でも相手をしよう
そう思うのが自然だろう
「して…そのような破格の報償と
見合う仕事とは如何なる
ものでしょうか?」
大体の察しはつく、ここに集められたのは
誰もが腕の立つ猛者達ばかり
当然、強敵の討伐目的というのが
予想できる
「お前達も聞き覚えがあるであろう…
黒剣士カムイの噂を」
その名を聞いてどよめく騎士達
今この剣士の名を知らぬ者はいない
「黒剣士カムイか」
「斬った相手の力を根こそぎ
奪うと言うが」
「命ばかりでなく能力や技までも
奪うと聞く」
「本当にそんな化け物がいるのか
俺は眉唾だと思うんだがな」
そこら辺でエグゾセは手を挙げて
私語を止めた
「知っているなカムイの名を…
お前達に黒剣士の討伐を
依頼したい」
全員やはりという表情だ
ある程度予測はできた
今フラウロスが抱える大きな問題が
あるとすれば黒剣士の事だろうと
7人の騎士達はエグゾセ右将軍に
膝を地に着け誓いを立てた
「我ら7騎士の誇りに掛けて
必ずや黒剣士の首を取って参ります」
7人共闘でカムイの首を取れと
言われたわけではない
あくまで結果さえ良ければ
誰がカムイを殺しても良いわけだ
「7人で奴を仕留めその後に
我等の中で生き残った者が決闘で
報償を得ると言うのが一番
旨く行く方法だと思うが」
壱の騎士である蛇面裟が他の騎士に
そう言って交渉を持ちかけた
任務遂行中は騎士達は
名誉を守るのとライバル貴族の
妨害を避ける為に数字で呼ばれる
運びと成った
弐の騎士は
「確かにそうするのが一番黒剣士を殺す
可能性があるな」
参の騎士も同感だと言った
「噂通りの強さかどうかは
確かではないがフラウロス派の
放った賞金稼ぎや軍警の手にも
捕まらずに重鎮を何人も」
「暗殺するような神出鬼没な奴を
逃がさないようにするためにも
共闘もやむ無しだと私もそう思うよ」
四と伍は互いに牽制しあう
「俺は御免だぜこんな奴と
手なんか組めるかよ」
四がそう言うと伍も言い返す
「私だって御免だねこんな
粗暴な奴と組むのは」
それを面白そうに見ている六は
共闘に賛成派である
七の騎士はどちらでも
構わないと言った風な態度だ
「どうせ自分がカムイの首を
取るんだ何でも良い
自分はフラウロス様に逆らう奴は
絶対に許さないそれだけだ」
報償に無欲で只々フラウロスに
心酔しているのが七の騎士の
特徴である
こうして様々な戦う理由を
持ちながら七騎士同盟は
誕生したのだ
フラウロスの七騎士は
ダークネス世界の中でも
特別な存在となった
こうしてカムイ包囲網は
徐々にその囲いを盤石の物とする
カムイは単独で一騎当千の戦闘力を
持つのを生かし神出鬼没という
戦法であっちこっちにある
フラウロス派の貴族のダークネスハブを
襲っては破壊していった
フラウロス派と敵対する
政敵のダークネス貴族のなかには
カムイに内密で依頼して
自分が有利になる貴族のハブを
破壊するようにした
その報酬はダークネスパワーストーン
其れを食うだけでパワーが補充される
このパワーストーンがダークネスの
世界では貨幣の代わりとなる
ダークストーンである
因みにダークネスハブの対価は
壱拾億黒石となる
此もゾスターが只走り続けて
自給自足をするしか方法がない
資源が有限のために産み出された
知恵だと言えた
知的生命の文化で必ずと言って良いほど
誕生するのは通貨と言うのは自然な流れ
無限に宇宙から資源を得ることが出来る
ダークネスにとっても例外はない
サイモンもダークネスに通貨の
概念があること自体
人類との差異が無いことを感じている
やはりダークネスとヒューマンは
共存共栄出来る…元々
渡瀬聖子博士はその様に人工生命体を
この宇宙に誕生させたのだから
ゾスターさえ滅ぼせれば
ダークネスを人類の友として
迎え入れる事も不可能では
ないだろう
現に地球に残ったダークネスは
様々な問題を抱えながらも
新しい種として受け入れられている
犯罪者も政治家も軍人も
ダークネスが組織に
組み込まれ人類と生活する未来
初めから
博士が造ろうとしたのは
人類の手足となる奴隷ではなく
人類の友となれる存在だった
その夢を実現するために
渡瀬聖子博士はゾスターを
滅ぼす帰り道のない
旅にでたのだ
だけど彼女の犠牲なんか
誰も望んでいない
このマグニファイセントは
ゾスターを倒し博士を
向かえに行く為に産まれた
多くの人々の希望を
乗せて飛ぶ船なのだから
だがそれでも尚
ゾスターは恐ろしい怪物だった
博士が航路を少しでも間違えれば
その距離と速さにより数光年の
誤差が生じて
速度特化型カオス・エントロピアスの
能力の中で速さ以外の能力は
当初は博士も重要視していなかった
だが誤って小さい規模の星雲に
近づき過ぎてしまった結果
ゾスター軍は容赦なく
その星雲を通り過ぎながら
食らいつくした
ゾスターはその星雲で
星雲を構成する超巨大ブラックホールを
吸収しその力を増大させてしまった
博士の驚愕の顔が想像できる
以来彼女はより慎重になり
航路計算にも寄り集中し
出来るだけ何もない航路を
進んでいたのだが
それでも宇宙を真っ直ぐに進むのは
容易ではない
宇宙には致死性の放射能やガンマ線
超新星の爆発によるブラックホールが存在し
それらが航路侵害を起こして
カオスの力を持ってしても
障害を避ける以外に手段がない
場合もあったのだ
超新星の爆発を避けるために
数光年所の誤差ではなく
数十光年もの誤差を出し
カオスはネオス銀河に接近してしまった
ネオスに知的文明の存在を
感知した博士は
ゾスター軍には一切関わらないように
忠告するつもりでネオス銀河に
足を踏み入れたのだが
その親切心が今回は仇になった
ネオスは2億年も続く高度な文明を
誇る種族である
元は我々人類と酷似した種族だったが
精神的な文明を極めた結果
肉体を光りで構成する光子生命体へと
進化したのだ
現在の地球科学の理解力を
遙かに超えた存在
宇宙の守護者を自負する彼等は
実際ダークネスにも負けない
科学の常識を越えた空想世界の
住人達なのである
ネオス銀河の精鋭600万
その戦力は只一人で
20世紀の地球全ての戦力と
同等と思える
★付箋文★
敵は兎に角怖くて強いほうが面白い
それを目指して頑張ります