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地球から飛び出した人工生命が銀河サイズの

軍団を率いる魔王となり

宇宙全体の生命を根絶やしにしようとします

その魔王を討伐するために人類の切り札

亜空間戦艦マグニファイセントが活躍します

挿絵(By みてみん)

亜空間戦艦と呼ばれる船がある

只一つの目的のために生まれた

その鑑がそれだ


最強の鑑を必要とする只一つの目的とは…


100世紀前、遙か宇宙の果てにある

地球と言う星は決して作っては成らない

怪物を産み出してしまった


それは高度な科学文明の果てに世界で唯一人の

天才科学者の頭脳により産み出された



人工生命体 

ダークネスと言う種族で

本来なら地球人を助けるはずが

奴等は狂っていた


その最強生物は自らを産み出した

地球人を滅ぼし惑星を喰尽くすと

渡り鳥の様に他の宇宙に旅立っていった


そして辛うじて生き延びた地球人は

自らが産み出した怪物を退治するために

一隻の艦を宇宙に送りだしたそうだ


その艦と言うのが

亜空間戦艦マグニファイセント

怪物退治専用の聖剣と呼ばれる鑑だそうだ


ーーーーとまあ~此が

この迷惑な神話の触りさね


「つまりその地球人て連中は

自分達で産み出した

ダークネスって怪物に滅ぼされかけて

だからそいつを退治しようと

地球の鑑で後を追ってるって話よ」


着物を着たその星人は唇を歪めて

その話の感想を言った


「まったくとんでもねえ間抜けな話だろ

ストームの旦那?」


それを聞く長身の男は


筋骨隆々で途轍もない男性ホルモンの塊

のような雄の色気を漂わせる超ハンサムで


年の頃は40歳越えの男盛り

金髪碧眼の伊達男と言う、アメリカ人

そのものの姿をし何故か着物を着ていた

髪を紐で束ね一見して侍風でもある


その大男が町人風のその星人に

酒を薦める


「それで話に出てきたそのダークネスとか

呼ばれる化け物を君が見たって聞いたのだが

一体何処で見たか教えてくれないかね?」


随分と丁寧語で話す人だなと感心する原戸


「あれはオイラが商売で出島衛生オランダに

荷を運んだ時だ…エド星系でも重力渦の難所

ナルト渦空間を航行していると

そいつの影を一瞬見たんだ」


その星人はストームに薦められる酒を

杯に注がれると手の平を立てて


「おっとと済まねえなストームの旦那

すっかりゴチに成らせて貰ってよ」


大男はこの星人に本題を切り出した


「その影が伝説の怪物ダークネスだって

何で解るんだ?」


原戸は自信ありげに


「俺の妹がカレッジでダークネス研究てのを

専行しててよ、その妹が言うんだから間違いないよ」


聞けば妹はその星人の持つ小型宇宙船の

航海師らしい


「妹は俺に似ず頭が良くてしかも器量よし

小さい船の航海師には勿体ない人材なんだ」


「だけどカレッジで教授連と何か意見が対立して

首にされてそれで仕方なく…」


バルドは自分のこと以上に悔しそうだ


「そのナルト渦のどこら辺か妹さんなら

見当が付くのかね?」


「当然~アイリは俺と違って優秀だから

そこん所はバッチりですぜ」


「しかしそんなこと聞いてどうするつもりなんで?

もし興味本位に見に行くつもりなら止めておいた方が良いですぜ旦那~命あっての物種ですよ」


ストームはいやいやと否定した


「君の心配する様な事はしないよ

私はこう見えて臆病でね…ただ

その怪物に出会って無事に生きて帰れたのは

君だけだと聞いて、その秘訣を知りたいのだ」


それを聞いた星人は成るほどと納得した


「まあ知らずに足を踏み入れるよりは

その方が幾らかましでしょうね

ストームの旦那には

美味い酒を奢って貰ってる恩もあるし

あっしの知っていることで良ければ教えますよ」


そして飲み潰れた星人を後にし

払いをテーブルの上に置いて

ストームは店を後にした


だが…その様子を伺っていたらしい

数人のヤクザ風の星人達がその後を追う


ストームはそれを知るか知らずか

だがわざと人通りの少ない路地裏に

入っていった


だがその様子を伺っていた町人風の星人達は

男を襲おうと走って後を追う


路地を回るとストームの影も形もなく

慌てる星人達


「おい奴は何処に行った!?」


「あんなデカい男見失う訳がないぞ!」


そう言い争う星人達に向かって

その声は聞こえた


「君達が負っているのはもしかして

この私か?追い剥ぎでもしようと言うなら

相手を見て判断するんだね」


そう言いながらストームは路地の壁の上から

星人達に声掛けた


「こ…こいついつの間に降りてこい!」


「そんな所に登りがりやがって

デカい図体しやがって身軽な奴だ!」


ストームは事もなさげに星人達の目前に

降り立った


そして地球産のタバコを一本口にくわえて

ジッポライターで火を付ける


「な…何だそれは」


「う…美味そうだな」


星人達はストームの吸うタバコの香りに

魅了される


「ナインスターも知らないとは無学だね

悪いことは言わないから消えたまえ

怪我をしないうちに」


星人達は顔を真っ赤にしてこの

男性ホルモンたっぷりの大男に飛びかかった


「舐めるな誰が田舎者だこのーっ」


「この人数相手に粋がってんじゃねえぞ」


星人達が飛びかかりタックルで

ストームを倒そうとしても

その怪力の前に体にとりついた

星人達を一人づつ引き剥がして

投げ飛ばしてしまう


「こいつ何て怪力だ」


「見かけ通り凄い力してやがる」


大男は太腿の辺りをパンパンと叩き

埃を払う仕草をする


その態度に更に苛立つ星人の一人が

懐中から一本の短刀を取り出した


その刃は青い光を放つレーザードスと

呼ばれている


「大人しくしてりゃあ痛い目に遭わずに

済んだのにバカな奴だ」


その星人に続いて他の星人達も

手に手にレーザードスを握った


「どうやら大ピンチって奴かな?」


それでもストームは余裕の表情を見せている


「もう遅いぜ~ダークネス様達の事を

聞き回る不審な奴が居るから捕らえてこいとの

命令だったがこうなったら手段は選ばねえ

ぶっ殺して死体を持ち帰ってやる!」


だがストームは余裕の態度を緩めない

それどころか指をクイクイ曲げて

その星人達を更に挑発した


堪忍袋の尾が切れた星人達は

今度は殺す気でレーザードスをかまえ

突進してきた


だが青い光が一閃すると同時に

男達は敢えなく地面に倒れふした


「ダークネスの事を様付けまでするとは

…君達ただの追い剥ぎじゃないね」


ストームの手には持ち手が王錫の形をした

武器が握られている


「どうやら相手が悪かったようだね

チンピラ君達」


そこでストームは思い立つ


「そうかこれは私にダークネスの

話をしてくれたあの商人も危ないって事だな」


そうなのである

あの商人星人は酒場に向かえに来た

妹のアイリに肩を貸りフラフラと

歩いていた


「ほらバルド兄さんしっかり歩いて

こんなに酔っぱらっちゃって

そんなお金何処にあったのよ」


「船は怪物に壊されて修理費で

金欠の筈なのに」


それを聞いて千鳥足のバルドは

自慢の妹に


「大丈夫大丈夫…今日の酒は奢りだ奢り…

気前の良いストームって旦那に奢って

貰ったんだ~」


それを聞いたアイリはへ~と言う顔をし


「バルド兄さんにお酒を奢ってくれる

気前の良い友達がこのエドに

居るなんて聞いたことないけど」


バルドは憤慨し


「おっととバカにするなよ

この俺にだって江戸星にも頼れる

知り合いの一人や二人…」


その時、二人を取り囲むようにして

怪しい身なりをした星人達が取り囲んだ


「な…何でいテメエら」


「に…兄さん怖い」


バルドは怖がるアイリを庇うように

壁を背にして身構える


「余計なことをこれ以上喋られると

迷惑なんでな口を塞がせて貰いに来たよ」


それを聞きバルドは追い剥ぎと勘違いし


「か…金ならやるだから助けてくれ

俺の全財産だ」


そう言って金を道に捨てるが


「いらねえよそんなはした金」


そう言って金を足で踏みつける


「欲しいのはテメエの命だ」


バルドが切られる瞬間妹が兄を突き飛ばし

レーザードスが空を切る


「いてて~いきなり突き飛ばす奴があるか」


そう言いながらアイリを見る

バルドの顔色が変わった

兄を庇った妹の腕に切り傷が付き

青い血を流していたからだ


「アイリ!」


バルドは怒りを覚え素手で悪漢共に

果敢にも挑もうとした

だがレーザードスが目前に迫ると

一瞬怯み頭を抱えて身を縮める


「ひい!」


だがそれが逆に良かった

身を縮たおかげでレーザードスを

偶然かわしその御陰で助けが

間に合ったのである


レーザードスを持っていたヤクザ星人は

謎の攻撃を受けてそのまま意識を失い

白目を剥いて昏倒した


「何とか…

間に合ったか」


バルドが声のする方を見るとそこには

先程自分に親切に酒を奢ってくれた

あの大男が立っていた


「ストームの旦那!」


そんなバルドにストームが爽やかに笑いかける


「有り難え地獄に仏だ!」


突然現れたストームに面食らう

ヤクザ星人達だったが直ぐに気持ちを立て直した


「相手はたった一人だぶっ殺せ!」


ヤクザ星人達はストームにめがけ突進し

四方からレーザードスを構えて突っ込む

俗にヤクザ流のヤクザアタックがこれである


だがその突進を信じられないような

ジャンプ力でかわしヤクザ星人の

頭の上を飛び越えると

空中で回転し距離を稼ぎ

そのまま前進して纏まったヤクザ星人達を

スタンセプターで昏倒させた


「安心したまえ悪漢君達

星剣連邦の誓いで異星での星人殺戮は

禁止されている」


そう言うとストームはセプターを

腰ベルトの亜空間に納めた


杖丈の長さがあるセプターが

邪魔にならない程度の長さで収まる

常に取り出しやすい形で収納できる

仕掛けとなっているのだ


アイリは突然助けに現れたヒーローに

目を奪われた


「まあ素敵、全身から

男性ホルモンが溢れ出すようなあの

鍛え抜かれた筋肉…逞しい腕」


「バ…バルド兄さんあの人は誰なの

知ってる人?」


バルドは妹のハシャぐ様子を見て何かを悟り

悪戯っぽい笑みを見せながら

いやいやアイリも年頃の娘さん何だね~と笑う


「何だよ愛理一目惚れか?

まあ確かにストームの旦那は男の俺から見ても

なかなかの男っぷりだからな~」


そうアイリにヒソヒソと耳打ちする


「ち…違うわよバカね!」


それを聞いたアイリは顔を真っ赤にする

シッカリしているようでまだまだ

アイリも可愛いものだ


アイリの目が輝いた


この日輪星系で商業宇宙船の乗組員をしている

と言うのはそれだけで花形の仕事である、

それも船長となれば別格だ、だがそれだけではない


ストームが江戸星人から見ても破格の

体格であり均整の整ったハンサムなのも

大きな要因なのだ、そう…この男はもてるのだ

兎に角第一印象だけで相当特をする人物である

青い瞳に輝く金髪、アメリカのヘラクレスと

呼び声も頷ける伊達男なのである


「酷い目に合ったなバルド君大丈夫かね?」


そう言って手を差し伸べるストームは

確かに格好いいと男のバルドでさえ思った

アイリが気に入るのも無理ない


ストームの手を借りて立たせて貰うバルド

妹の刺すよな視線に後頭部の辺りがチクチクする


「ああ…紹介するよ愛理

この旦那が

今日俺に酒を奢ってくれたストームさんだ!

商業宇宙船の船長さんなんだぜ」


「どうも危ないところを助けて下さり

有り難う御座いましたキャプテン」


そう言って手を差し出す愛理に

ストームは

握手の文化はあるんだな

と思いながら握手した

その時アイリが腕に切り傷を付けているのに気づく


「いけない腕に怪我をしてるじゃないか!」


ストームは慌てた様子で胸につけた

ソードのバッジに手を添える


「こちらストーム至急

3名亜空間転移を頼む

一人けが人がいるんで

ドクターも呼んでくれ」


そう呟くと直ぐに

3人を不思議な光が囲んだ

それは亜空間ゲートと呼ばれる

入り口である


気がつくと3人は宇宙船と思われる

船内に居た


「うわっ!」


「魔術か何かか?これは」


バルドは驚きのあまり腰を抜かす

だが学者のアイリはそれが直ぐに

自分達の知らない科学技術だと気が付いた


「驚いた…人為的に瞬間移動でもしたの?」


そんなアイリに一人の美しい女性が

歩み寄る


「失礼お嬢さん私はドクターです

少し傷を診せて下さい」


そう言うとドクターを名乗るその女医は

アイリの傷を特殊な機械で検査しながら

不思議な光を照射する

すると細胞が活性化して後も残さず

傷が塞がった


「凄いテクノロジーだわ!」


アイリは自分達の連れてこられた

この宇宙船のテクノロジーが自分達より

遙かに進んでいる事を確信した


「キャプテン達は…もしかして」


そこでストームは自分達の正体を

この学者であるアイリに打ち明ける事に決めた


「君の想像通り…我々は惑星アースから来た

地球人類だ」


それを聞いたアイリは興奮を隠せない


「やっぱりそうなのね

…ダークネスを産み出した超文明

アース星人は実在したんだ」


「ダークネスに滅ぼされたという

学説は間違いだったんだ…私の説に

間違いはなかった」


どうやらカレッジで教授連と対立した

一件がこの件のようである


「それでキャプテン達がこの

日輪星系にまでやって来た理由はやはり

ダークネスの討伐の為なんでしょうか?」


ストームは頷き


「その通りだ我々は悪の権化…ダークネス討伐に

やってきたのだ」


そしてバルドとアイリは

伝説上の宇宙艦であるマグニファイセントの

メインブリッジに案内されてきた


「凄いわ…何もかも伝説の通り…やはり

科学の女神様の話は嘘偽りなく真実だったのね」


ストーム艦長はアイリの言った科学の女神に

注目した


「君の言う科学の女神とは…何という名前だね?」


アイリは科学の女神の名を聞かれて

少し考えて


「正しい名前は伝承されてません…ただ

その呼び名は数百に及びマムとかクイーンとか

様々です」


ストームは渋い顔をした


「どうやら君達の伝承はかなり

歪められて居るようだ…

そうなってきたのは

数十年まえからじゃないかね?」


アイリは頷く


「その通りです!十数年前突然幕府の

教育方針が変わり

女神信仰は廃止となりました」


バルドが横から口を挟む


「そうだよな…女神様の存在を肯定しただけで

下手をするとしょっぴかれる事もあるよ」


やはりなとストームは首を縦に振る


「それがダークネスのやり方だ…まずは

自分達を信仰する人間を徐々に増やしていき

その星を影から浸食し内部から食い尽くす」


「それじゃあ幕府の中にダークネス信者が」


そう言うアイリにストームは応える


「恐らく相当数の信者が入り込んでいる事だろう」


「そ…そんな」


「だったら教授連も…」


ストームは確信して応えた


「ダークネスの教徒である可能性が高い」


まさかカレッジの教授達が邪教集団だった

とは思わず絶句するアイリだったが


「じゃあ…幕府の中にもダークネス教徒が…」


「恐らくは入り込んでいるだろうが…然し

そう多くは無いはずだ」


アイリはストームの言葉にホットするも


「どうしてそう言えるんですか?」


その問いに対してストームの答えはシンプルだ


「ダークネスの怪物達が動き出していない

怪物達が身を潜め教徒だけが

暗躍しているということは

まだ準備が整っていない証拠だ」


そう聞いたアイリは逆に深刻な顔になる


「でもそう時間はないと言う事ですね」


ストームは頷く


「幕府に影響力のある人物に心当たりはないかね

その人物と接触しダークネスの存在を

世に出せばまだ間に合う筈だ」


「そうすれば日輪星系をまだ救えるんですね

解りました協力させて下さい」


アイリはストームに向かってそう言い

兄のバルドの手を握る


「アイリ…」


「やりましょうバルド兄さん

私達の手で日輪を守りましょう」


その決意を聞いてバルドも心を決めた


「ああ…やろうアイリ

怪物なんぞに好き勝手はさせないぜ」


そしてマグニファイセントのブリッジで

ストームにかわり指揮を執る副長の眼鏡を掛けた

スマートな美女が艦長に声を掛けられる


「イズミ君、私はまた外に出るが

艦の方は任せるよ」


イズミは不満そうに


「艦長ばかり毎回ズルいですよ私だって

たまには外の任務を任せて下さい」


だがストームはワハハと笑いながら


「今回も私のアースソード大統領の肩書きが

必要なのでねこの役だけは譲れないよ」


「ズルいですよーモオ!」


ワハハと笑いながらストームとアイリ

それとバルトは

亜空間ゲートから出て行った


「あの女性凄い美人でしたね…キャプテンの

彼女ですか?」


亜空間から出てアイリが最初に

ストームに聞いてきたのはそれだった


「えっ!いや彼女は」


ストームが何か言い訳をしようとすると

ストームの腰程の高さから

可愛らしい子供の声がする


「一応違うよ今のところ二人は艦長と

副長の清い関係ですよ」


突然現れた少年にアイリとバルトは面食らう


「うわー何処から現れやがったんだこのチビ!」


口の悪いバルトとは違いアイリは


「まあ可愛い坊やお名前は?」


その少年は恭しく挨拶のポーズを決めると

その名を口にした


「初めましてお姉さん

僕の名前はシャレーダー

艦長の相棒件用心棒です」


3人ともシャレーダーと名乗るこの

少年の言葉に一瞬固まる

だがバルトは皮肉っぽく


「お前みたいなガキがストームさんの

用心棒だって?立場が逆だろ冗談も

大概にしろよ」


そう言って手でバルドは

シャレーダーの頭髪をクシャクシャにした


「やめてよもう!髪が乱れるでしょ」


そう言ってバルドを手で払うシャレーダーは

どう見てもただの子供だ


「ジャレるのはそれくらいにしたまえ

幕府に影響力を持つという教授に

一刻も早く会わなければならないのだ」


それを聞いてバルドが


「そんな大事な用事にこんな

子供を連れていって良いんですかストーム艦長」


バルドの問いにストームは


「そう見えてその少年は素晴らしく

役に立つ人材だ心配には及ばんよ」


そう言うストームに気を良くし

シャレーダーは艦長に駆け寄ると

いつもの定位置である大きな背中に

ひょいと張り付いた


「さすが艦長さん!話が分かるー」


「ずーっと艦のお守りばかりで退屈だったからね

上陸任務には参加したかったんだ」


ストームも大方そんな所だろうなー

とは思っていた


「付いて来たからには働いて貰うよ

シャレーダー君」


シャレーダーは敬礼の真似をして


「了解です艦長さん」


とストームに応えた


そして4人は目的の屋敷の前まで

来ると、此処の主とどうやって

渡りを付けるか思案した


「どうしよう~私はサエモン教授の

生徒だったけど、今は元が付く立場だし

散々可愛がって貰ったのに結局退学して

教授の顔に泥を塗った形に」


そう不安がる妹にバルドは


「大丈夫だって!お前は教授の

お気に入りだったんだから水に流してくれるさ」


ーーと何とも適当な事を言う


だが屋敷に入りかけるとストーム艦長と

シャレーダーの二人の様子が緊張感に包まれた


「艦長さん…この感じ」


ストームも緊張した声になる


「ああ…このプレッシャーは

奴等のものだね」


二人の様子から只ならぬものを感じた

アイリは佐江門教授の身が心配になる


「そんな…教授は?」



屋敷に向かってアイリは飛び込んだ

この突然の行動は予測できなかった


何者かの影がアイリに気が付くと

すかさず攻撃が飛んできた


「危ない!」


その攻撃を一瞬早く察知したシャレーダーが

髪の毛を剣にして弾き返した


「大丈夫?お姉ちゃん」


その対応の素早さは流石シャレーダーである


「遅かったか…」


だがストーム艦長はそう台詞を言った

むろんアイリの事ではなかった

怪物の傍らには人間が一人倒れていた


「教授!!」


悲鳴にも似たアイリの叫びに呼応して

シャレーダーは髪の毛の刃で

怪物に向かって突進する

然し、一瞬早く

怪物は亜空間ゲートを通って消えた


「ちえっ!」


シャレーダーは舌打ちするが

逃げられてしまったのは仕方ない

問題はこの倒れている人物の

状態である

シャレーダーは直ぐに

サエモン教授の状態を診察する


だが…誰の目にも明らかに

教授は絶命していた

胸を抉られ傷は背中まで到達している

この状態で生きているはずがない


「教授!サエモン教授!!」


アイリの必死の叫びも虚しく

教授はぴくりともしない

やはり駄目か…誰もがそう思った


「私達がもう少し早く駆けつけていればな」


ストームも残念そうにアイリを慰めるが

アイリの肩ではなくお尻を触り

それでアイリは怒りのアッパーを

繰り出す!


グヘ! ストームがあり得ない声を上げて

門鳥打ってぶっ倒れると

アイリは賺さずストームに止めを刺そうと

正拳を顔面に叩き込みそうになるが

再び自分のお尻に手が触れて撫で回される


「ひいいい~っ」


良く見ると自分のお尻を触っていた犯人は

ストームではなくなんと、てっきり死んだと

思われていたサエモン教授だった


「教授!」


アイリは喜びのあまり

ストームがそこに延びてるにも

関わらず頭を足蹴にして

教授の手を取る


それを見て顔がひきつる

シャレーダーとバルド


「おお…アイリ君、相変わらず良い尻を

しておるの~」


アイリに左手を握られながらも

空いている右手でアイリのお尻を

触ろうとする教授の顔面に

拳をめり込ませるアイリの制裁


「相変わらずの気の強さじゃな~」


少し落ち着いて

その場は何とか収集が着いた


アイリは無実の罪で殴り飛ばしてしまった

ストームに何度も頭を下げ謝罪する


「スイマセン!スイマセン!

私ったらスッカリ勘違いしちゃって」


ストームも顎をさすりながら


「良いのだよ…アイリ君

女性のパンチには馴れている」


「エ?」


ストームのこの一言にアイリは一瞬戸惑う


「それより心臓を抉られて生き返るなんて

凄い医術力ですね」


シャレーダーは自慢げに


「この僕に不可能は無いから

安心してくれても良いよ」


そんな風にドヤ顔をするシャレーダーに

ストームが


「一度襲撃されたんだ、もうここは

離れた方が賢明だろう」


そう言われてシャレーダーも


「そうだね…じゃあ教授を連れて

一度、亜空間戦艦に帰還する?」


教授は亜空間戦艦の単語に反応した


「亜空間戦艦だって?まさか…君達は」


その先を言い掛けて教授は沈黙した


ストームはサエモン教授に

自分達の船に招待するので

来て欲しいと要望した


それを聞いた教授は

アイリの方を見て頷きあい

確認を取ったようだ


「是非そうして貰うとしよう」


ストームとシャレーダーに

案内されて亜空間ゲートから

教授達はマグニファイセントに

乗船した


教授の表情はまさに驚愕と言った所だが

何処か納得のいった顔になった


「そうか…どうやらアイリ君の

説の方が正解だったようだな」


一通り説明を聞き終えたサエモン教授は

得心が言ったとコーヒを飲んだ


「教団の発生は何十年も前からだ…

少しずつ日輪星系に広まり徐々に

浸透してしまった」


「それが…ダークネスの

侵略によるものだったとは」


サエモン教授は頭を抱える


「前々から危険な思想を持つ教団だと幕府で

問題にはなっていたんだ…だがまさかダークネスが

実在していたとは…そうなると話は別だ」


教授の顔は別人のように引き締まった


「ストーム艦長…儂からも是非

アースソード連邦の

御助力をお願いしたい」


ストームはその様子に自分に通じるものを

感じた


「その物言い…まるで国家の元首の

言葉のようです…教授…あなたは一体?」


アイリが何かを言いたげな様子を見せる


「あの…」


そんなアイリを制止、教授は

自ら名乗る


「儂の名はサエモンテルヒコ

…元は日輪皇と呼ばれた者だ」


「日輪皇テルヒコ様!」


それを聞いた中で本当に驚きを

見せたのはアイリの兄

バルドだった


バルドは慌てて膝を降り

土下座した


その様子に、この人物が如何に

この星系で尊ばれているか

一目瞭然であった


「止めてくれ…バルド

お前とアイリはもう儂にとって

友人なのだ…堅苦しい作法は

なしにな」


バルドは

「ははーっ!」と

敬服したまま返事をする


やれやれと言った表情で

立つように促すサエモン教授


「アイリだけには打ち明けておった

…まあ不測の事態を考えての行動だったんじゃ

妹を責めるなよバルド」


バルドはアイリの方を見て


「そうなのか」と聞く


「ご免なさい…お兄ちゃん」


成る程、此ならアイリが

教授のみに起こったことで

彼処まで狼狽し悲しむ気持ちも

理解できた


父のような存在所ではない

先王だったのだ


尊い存在に

目の前で死なれ

パニックを起こさない

民はいない


シャレーダーはストームに耳元で囁く


「本当に凄い影響だね…この星系は

地球の日本を星系全体に拡大した

みたいだ」


ストームも


「まあ星系に影響を与えた渡瀬博士自身が

日本人だからと言うのもあるだろう」


「だが…」


「思想侵略に強い国なのは幸いした

まだこの国にはダークネスに対して

反撃する力がある」


日輪星系の惑星は48あり


全て居住可能な惑星に改造されている

こんな事が出来るのは

宇宙広しと言えど渡瀬博士だけだろう


惑星ミマサカには科学の女神の残した

モノリスがあり、それをミマサカ藩の

惑星城主が管理して守っている

「時が来たら地球から来る友人達に

このモノリスを託せと女神様からの

お告げがあった」


此を聞いたストーム艦長は

早速惑星ミマサカに行こうとしたが


「移動には宇宙船が必要だな」


そこでバルドの壊れた船の

修繕をマグニファイセントの

亜空間ドッグで始めた


「ウヘ~スンゲ~俺の船が

何か別物に生まれ変わっていくぜ」


「シュテンドウジ号か…良い船だ」


「日輪星系で旅をするには

関所を通れる商人の船が一番だからな」


「多少改造して戦える様にはしておいた

まあ…ダークネス相手じゃ焼け石に水だろうが」


そう説明するのは

マグニファイセント科学士官の

グラデス技術長である

見た目はチビマッチョで

ドワーフそのものだが

学者にも負けない物作りの

スペシャリストである


「どうやらこれで移動手段も

手に入ったな」


だが此処からが地獄だった


ミマサカに入ると

そこはもうダークネスの

支配下に墜ちていたのだ


惑星への進入の際

惑星を浮遊する怪物に襲われ


船は大破し

不時着したがクルー達は全員無事だった


だが酒天童子号の修理のため

モノリス回収班以外のメンバーは

安全のために亜空間ドッグで待機状態となる


「いた仕方ない…私とシャレーダー君とで

ミマサカ城におもむき何としてでも

女神のモノリスを回収しなければならない」


「うんお母さんからの大事な

メッセージだから絶対に

手に入れなきゃだね」


シャレーダーの亜空間のドッグ中にいれば

船の修理と同時に仲間の安全は取り敢えず

確保できる


その大きさは楽々と1000メートルを

超える亜空間戦艦マグニファイセントを

収納しておける程に巨大な船の修理工場

を兼ており改造も出来るし

新たなマグニファイセントのパーツを

制作する事も可能なのだ


此を持ち運べるシャレーダーの

能力は驚異的と言って差し支えないだろう


旅のお供としてシャレーダーこそが

至高の万能ツールなのである。


「この惑星の有り様は…末期の

ダークネス侵略状態だな」


その言葉に同意するシャレーダー


「ダークネスはまず

自らの粒子を大気中に

ばらまいてから徐々に

生態系を乗っ取っていくんだ」


「小さな生き物から順に

大きな生き物を食物連鎖順に

寄生していしていくから

誰にも解らない」


シャレーダーは亜空間の中にいる

アイリ達にも伝わるように

外の景色をテレビジョンにして

中継する


そのドッグでは船の修理と同時に

アイリ達の怪我も治療される


「これがダークネスに

浸食された世界なの?…

何てオゾマシい」


見るからにこの世の物とは思えない

植物はあり得ないほど醜く不気味な色の

触手の森を形成し、美しかった

ミマサカの景観は見る影もない


「美しい星であったのにこんなになって…」


そう寂しげに呟くサエモンの手を握り

アイリは元気を出して下さいと励ます


「有り難う…優しい娘だ」


心痛察し余る皇の様子に気兼ねし

バルドは表にいるシャレーダーに

そう問いかけた


「生き物はどうなったんだ?」


だがシャレーダーの応えは芳しくはない


「星の原生動物は見る影もなく変質してる

…恐らくこれじゃ人間も…」


それ以上多くは語れない様子だ


「まさかミマサカがこんなに

成っていたとは…幕府が気付かない筈は」


サエモン前皇の言葉にストームも

苦々しく答えるしかない


「それだけ幕府の中に多くの敵勢力が

潜入しているという事です」


「なんたること…」


「だがオラクルさえ手に入れれば

まだ逆転の機会はある!私はそう

信じている」


ストームは此までのダークネスとの

戦いでオラクルこそが戦いの鍵になってきた

と力説した


「我々はダークネスを追って

こうやって何度も侵略を受ける

星を助けてきた…だからこそ

希望を失っては成らない」


「艦長さん!」


その時シャレーダーの顔色が変わる

前方に現れたのは一人の

武者姿の…人間だった者だった


「に…逃げろ…逃げろ…」


武者はそう苦しげに呻くように喋った


「ムウ!」


ストームも幽鬼の如く朽ち果てた

家屋から湧き出てきたこの怪物の姿に

固唾を飲んだ


「艦長…その人は?」


通信機から聞こえるアイリの声は

期待と不安が見える


だがストームは溜息を付き


「ダークネスに体を乗っ取られた

怪物だ…斬るしかあるまい」


「そんな…」


ストームは長いコートをめくると

その腰元から王錫であるセプターを

亜空間から剣の様に抜き出した


「殺傷剣モード」


そのレーザーが剣の形に形成される


「キルセプター」


だがその武者は言った


「無駄だ…こいつ等は…斬っても

突いても死なない…バラバラにしても

直ぐに生き返る不死身の怪物なんだ」


苦しい息の元…その武者がまだ

完全に怪物に意識を乗っ取られていない

事が解る


「この人はまだ…怪物になってないわ!」


そう希望の光を掴み取ろうとする愛理に

非常な事実を伝えねば成らない

ストームはダークネスと言う

悪魔の、人間に対する手段を教えた


「あれは態と武者の頭だけを生かし

話させているだけだ…それで

人間は攻撃を躊躇うとの算段でな」


「そんな…酷い」


その通りだ…と武者は言った


「拙者はそのために生恥かかされて…いや

もう死んでいるのと変わらぬ…殺してくれ

この怪物を早く!お頼み申す!」


この遣り取りがかえって剣を鈍らせる

それもダークネスの計算のうち


「全く…同じ手を何度も繰り返し…

貴様等のやり口は毎度反吐が出る!」


大統領の身分でありながら口汚い言葉が

自然に出てしまう辺り

まだまだストームも精神の鍛錬が

足りていない


そして壮絶な斬り合いが始まった


武者の鋭い切っ先がストームの頬を掠る

ストームの剣は空振りを繰り返し

なかなか敵に対して有効な一撃が決まらない


「やはり本格的に剣を拾得した者に

私の俄仕込みの剣術は通用しないか」


「仕方あるまい」


ストームは右目を手で覆い

自分の中に眠る力を呼び覚ました


「我に眠れしディーヴァの力よ顕現せよ!」


そう叫ぶと同時にストームの体に亜空間から

ディーヴァの体が現れ融合する


「キャプテンディーヴァ・ガイストーム」


その変身に度肝を抜かれる

亜空間ドッグの人達


赤い鬼の戦士のこの姿


「ストーム艦長が変化した!?」


「どうなってるんだ!?」


その説明をシャレーダーがする


「ストーム艦長さんは追いつめられると

もの凄く強い戦士に変化出来るんだ

ダークネスに対抗するために

地球が産み出した超人…

それがディーヴァなんだよ」


「シャレーダー危ない!」


そう説明するシャレーダーに向かって

いきなり武者とは別の化け物達が

襲いかかってきた


それらをシャレーダーは髪の毛を刃にして

バラバラに粉砕する


「凄いじゃないか小僧!」


バルドが感心する

こいつはただの子供ではなかった

見かけに寄らずバカみたいに強い


「お前も戦えよストームの旦那一人で

あの数は相手しきれないぜ」


「そうしたいのは山々だけど

ダークネスはセプター以外の攻撃で

倒せないんだ」


それを物語るようにバラバラに

切り裂いた敵のからだが

見えないくらい細い糸が延びて繋がり

元の形にパズルのように戻ってしまう


まるで駒送りの映像を逆向きに

再生しているみたいに見えた


「何だあの糸は…あれじゃいくら斬っても

殺せないじゃないかよー」


「だから艦長さんのセプターじゃなきゃ駄目なんだよ

セプターだけがダークネスのあの糸を断ち切ることが

可能なんだ」


「不死の糸…それを斬れるのがあの剣と言う訳か…」


「宇宙に出たダークネスは進化して僕でも簡単に

殺せなくなった…本当に厄介な奴等だ」


シャレーダーの言葉通り

ガイストームの斬った化け物の体や四肢は

糸で繋がらなかった…これが

セプターの浄化能力、不死断ちである


だが…魔獣戦艦はガイストームの

セプターでも倒せない


大きさ的に無理なのは一目瞭然であろう

魔獣戦艦に対抗出来るのは

亜空間戦艦マグニファイセントだけだ


だが然し一つ大きな問題があった。


ガイストームはダークネス武者の

軌道を読み今度は胴を切り裂いた

それでも武者は倒れず切りかかってきたが

もう一度袈裟懸けにセプターで斬り伏せた


「お見事」


と叫びながらダークネス武者は倒れ

死骸が霧散した


「君は強敵だった…成仏されよ」


そう言って波阿弥陀物の手をする

ガイストーム


「胸の顔がサムライディーヴァに成ってる

やっぱりガイ兄ちゃんの部分が無意識に

出るんだ」


ガイストームには強力な戦士達の力が

秘められている

一人は最強のサムライディーヴァガイ

刀剣の化身であるガイの力を使うときは

赤の戦士ガイストームである


もう一人は吠える白猿王ボイストン

格闘をする

その時は白の戦士ボイストームとなる


紅白二つの戦士になれるのが

今のストームの変身形態なのだ


「やはりダークネスのペースに持ち込まれてしまったか…このダークネスはかなりの手練れだった…

だがこの先は更なる手強い敵が待ちかまえている

のは必死だ!」


ストームとシャレーダーは

ミマサカ城へと向かった


その途中でも数多くのダークネス化した獣と

遭遇する


狼と蜘蛛が融合したダークネスが

早くて攻撃力がある


頭の上から降ってきて

不意打ちを食らうと結構痛い


「ドッセーイ!」


ガイストームが唸りを上げて

キルセプターで叩き斬ろうとするが

体を回転させその攻撃を回避し右から左から

交互に蜘蛛の糸を使い逆さ吊りで

牙と爪でダメージを喰らい続ける


「艦長さん敵との相性が悪いよ

チェンジして!」


シャレーダーの助言に頷き

今度はボイストームに一瞬で

姿を変えたストーム


防御力の高いボイストームの

装甲は狼の牙を通さず

ダメージが軽減し

かえって腕に噛みついてきた

蜘蛛狼の頭を鷲掴みにして

次に襲ってきた蜘蛛狼に向かって投げつけた


空中で糸が絡まり地面に落ちて

仲間同士で噛み合う二頭を

ボイストームは打撃武器モードにした

棍棒セプターで

殴りまくり肉塊になるまで潰してしまう


これが第2形態時の

ボイストームの戦闘スタイルである


夕刻頃になりストーム達は寂れた村に

立ち寄った、だが


「立ち去れ~」


掠れた声で確かにそう聞こえた


家の暗がり中から子供と女の顔が覗く

良かった生きている人間が居たか

ホット胸をなで下ろす一同


「すいませんが少し話を」


ストームがそう言って近寄ろうとするのを

シャレーダーが制す


「待って下さい艦長さん様子が可笑しい」


それを聞いてストームもやっと異常に

気が付いた


良く目を凝らしてみると

ダークネスに襲われ村は壊滅している


「これは…」


そして母と娘に見えた物が

物陰から飛び出してきて

ストームに襲いかかってきた


ストームは寸前で怪物の攻撃を

セプターで受け止め

後ろに飛びず去ると斬り伏せようとするが


「やめて…斬らないで」


「怖い…おじちゃん斬らないで」


この声にストームは剣を振るうのを

一瞬躊躇してしまう


く!相変わらず姑息な手を使ってくる

流石…悪魔外道の極みだ!


ストームは覚悟を決めて


「南無三!」


と声を発し、その怪物を斬り伏せた


「怪物どもめ…何という非道を」


そして壊れた家屋から次々に

村人達を取り込んだダークネス

なりかけの肉塊幽鬼が襲ってくる


数人の人間が上半身だけ剥き出しで

幽鬼ダークネスがストームに襲いかかる


「助けてぇええ」


「死に…たくない…」


夕暮れの大魔が時に襲ってくる

その異様は精神に来る物が或る


シャレーダーの亜空間通信を通して

愛理達もその場にいる様に外の情報が

入ってくる


愛理達もこの光景に思わず悲鳴を出している


「まるでホラーだね…趣味の悪い」


シャレーダーでさえこの光景に

恐怖を感じる


だが戦闘力は以外と低く

ストームは変身をせずにセプターだけで

幽鬼ダークネスを切り倒していった


「許せないわ」


破壊された村々の建物が

如何に凄惨な出来事が起こったかを

容易に想像させた


「戦う力のない者達をよくもここまで

女子供まで…容赦なくか」


ガイストームは手を合わせる


「敵は私が取るから成仏してくれ」


そう言ってガイストームは立ち上がる


「外道どもめ許さん!」


村から出ると街道にも

幽鬼ダークネスや魔獣ダークネスが

襲いかかってくる

それらをストームはガイストームになり

次々に切り倒していくが

ダークネスの犠牲となった

人達の断末魔を聞きながら

戦うのは精神的に辛い


「大丈夫ですか艦長さん」


「大丈夫だよ心配はいらない」


やり場のない怒りと続けざまの

敵の攻撃に流石のストームも

精神的疲労を隠せていない


城下に入ると破壊された町の中から

ダークネスに体を乗っ取られた

町人達の成れの果てがまるで

ゾンビのようにして襲ってくる


「この数は…」


数十人の人影が前方から迫る中

シャレーダーが


「アレを全部相手にしてると

キリがないよ…屋根伝いに

城に向かおうよ艦長さん」


確かにシャレーダーの言うとおりである

ガイストームは屋根の上に飛び乗り

そのまま瓦を踏み壊しながら

猛スピードで城に向かって屋根伝いに

飛び跳ねながら走った


その時一瞬の閃光が走り

着地した屋根が吹き飛び

大穴が空いた


「ごおおっ」


シャレーダーは空に逃げて無事だったが

ガイストームは足に触手のような物が

巻き付きそのまま家屋の中に引き吊り込まれる


「ぬおおおお」


「艦長さん!」


家屋の中には強力な殺気を放つ

化け物が待ちかまえていた


「殺さないでくれ」


「お願いだ~」


「俺達はこんな事を望んじゃいない」


「化け物に操られて居るだけなんだ」


相変わらず怪物に融合された

犠牲者達の声がストームの心を

折りに来る


「済まないが…君たちを救うには

斬る以外にもう方法がないのだ」


そう言うとガイストームはキルセプターを

上段に構え怪物達に振り下ろす


幽鬼ダークネスは

真っ二つにされながら断末魔の声を上げる


「南無三!」


覚悟を決めたガイストームだったが

一瞬攻撃が止まった


幽鬼のダークネスが卑怯にも

乳飲み子ばかりを全面に出して

自分を守ったからだ


怪物の口はグヒヒと嫌らしく笑った


だがそれはガイストームの怒りに

更に日を付けるだけだった


セプターの出力を最大限にして

ガイストームは家屋ごと消滅させた


「屑が…思い知ったか!」


そこにシャレーダーが降りてきて

ストームの体を空中に持ち上げる


「艦長さんあまり熱くならないで

敵の思う壺だよ」


艦長は息を整えるとシャレーダーに

余裕だという笑みを返す


「大丈夫だよシャレーダー君…この程度

毎度のことだ」


ダークネスが人間の心理を読み

もっとも精神的な苦痛を与える戦法を

好んでやるのは、それが効果的だからだ

ストーム程の超人的な精神力を持つ男でも

女子供…果ては赤ん坊まで利用する怪物に

業を煮やすのは仕方ない

弱く守りたい者を斬るのは途轍もない

恐怖となる


「この恐怖…必ずこれをやった犯人に

直接ぶつけてやる!」


ガイストームの力を持ってしても

これをやった犯人のダークネスには

簡単には勝てない

この星系で進化したダークネスを

倒すにはどうしても必要な物があった

それが女神の石碑、モノリスである


シャレーダーは城下町を抜けると

直ぐ地面に着地した

空を飛んで城までたどり着くのは

不可能だった

なにやら黒い煙城の物が

城を取り囲むようにして

漂っている


「ディストラクションで吹き飛ばせれば

直ぐに済むのに」


艦長は苦笑いして


「そんなオーバーキルをして

モノリスまで吹き飛ばしてしまっては

元も子もない…」


「恐らく渡瀬博士の信託を受けた

この星の人の誰かが石碑にデーターを

記してあるだけだろうからね」


「解ってまーす…ちょっと言ってみただけなのに」


シャレーダーは唇を尖らす

まあ冗談抜きで、あれはとても

惑星上で使って良い武器じゃない


「でもディストラクションがなければ

僕の力は其れほどでも無いんだよね…」


地球上では何度も使ったディストラクションも

他の星で使えば後々問題になることを恐れて

シャレーダーに使用を制限していて

ダークネス相手に全く悠長な話である


「あの城に潜入するなら…確か隠し地下水路が

あるはずだ」


その言葉を聞いてガイストームは

シャレーダーの亜空間ドッグ内にいる

サエモン教授に確認した


「この城の秘匿情報を何故…皇が?」


教授はニヤリと笑い


「この城には女神のモノリスがあるからね

こうした事態に備えて限られた皇族には

石碑の安置場所と情報とが知らされている」


石碑の隠し場所…それは得難い情報だった

教授の命を救って居なければ途方に暮れていた

所だろう


「城の堀から水中に入り

城内に進入できる穴があるから

それを見つけてくれたまえ」


教授の話によると大きな堀が掘ってあり

池があるので潜って潜入出来る穴を捜せと言う

事である


「泳ぐのか~やだなー」


シャレーダーは嫌な顔をするが

ガイストームは顔色一つ変えずに

黙々と城に向かって走る


その途中で武家屋敷が控えている


「凄まじい殺気を感じる…危険だ!」


ガイストームは殺気をサーモグラフみたいに

建物越しにでも目視出来る達人技の持ち主である

その目が数体の刀を持つ武者ダークネスを

発見した


「ソードソルジャー6体を確認…

2体までなら何とか成るが

6体は流石に厳しいな…」


此処で先程の武者ダークネスとの

一戦が役に立った


「確かに今のレベルで戦えるのは

2体までだね…じゃあ僕が

4体を足止めするから2体ずつ

かたずけていこうよ」


「ダークネスとの戦いを積み重ねることで

この星系の敵の特性を学び鍛え上げ

セプターはより強くなっていく」


「その武器にそんな秘密が」


シャレーダーの亜空間ドックの

中にいる


「でも艦長の剣の技量が余りないから

毎回敵と実践で戦って強く成るしかないんだ」


ストームも苦笑いし


「自慢じゃないが私は筋トレ以外で

身になった物が無くてね」


ワハハと笑うストームに


「確かに自慢できる事じゃありませんね」


と愛理にも呆れられる


「まあサムライディーヴァのコア遺伝子も

持っているから何とか初期状態は保って

居られるんだけどね」


シャレーダーの説明にバルドが


「じゃあ旦那は今…」


シャレーダーが力なく笑いながら


「剣道初段の腕前だよ」


うわ~っ


「いやいや 一応今の実力は

2段位には成ったはずだろう?」


シャレーダーは真顔で


「艦長さん此処で提案だけど、そろそろ

転生ポイントを作って置いた方が

良いと思うんだけど」


ストームも少し考えてから


「回数制限があるからね…もう少し

進んでからの方が良い気がするが」


シャレーダーは首を振り


「欲張るとろくな事がないでしょ?」


「そうだな…頼む」


シャレーダーはストームの

命に従い転生ポイント成る物を

その場に設置した


「リスボーンポイント設置完了しました」


シャレーダーがその場に亜空間を利用して

目印の石碑を立てる


「これで一安心と…」


ストームとシャレーダー以外の

仲間達は?ハテナだが

解る者には解るで行こう


この武家屋敷エリアには

普通に強力な武者ダークネスが

何体も待ちかまえていた


「ドッセーイ!」


敵の斬撃は速く強烈で

ガイストームの2段の

腕前では歯が立たず

一撃で落命である


「うぐぐ~無念」


ストームの死にシャレーダーの

中の人達は当然慌てるが


ストームの遺骸をシャレーダーが

回収すると先程の石碑に転移されて

生き返った


「これは…」


「斬られた傷が消えている」


「信じられない旦那は生き返ったのか?」


シャレーダーに質問する面々に

シャレーダーは映像で説明する


「この石碑には時間を巻き戻す

効果があって艦長が死んだら

自動的にここに蘇生されるんだ」


「凄いな…地球の科学力は」


シャレーダーはこうも言った


「でも回数制限が3回だから

同じ敵に3回殺されたら終わりなんだよ」


「ああーだからこんなに余裕があるようで

余裕がないんだ」


艦長は必死でさっき戦った相手との

イメージトレーニングをしていた


「よしコツはつかめた

今度は負けないよ」


そして宣言通り

ガイストームはその武者ダークネスに

何とか勝つことが出来た


「強敵だった…」


ガイストームの変身が解けその場に伏し

動けないボロボロのストームを

シャレーダーが慌てて回復する


「モー危なっかしいな~直ぐに回復するからね」


そしてシャレーダーの光に包まれて

ストームは全回復した


「凄いボロボロだったのに

一瞬で元に戻った」


愛理達はシャレーダーの回復能力に

改めて舌を巻く


「スゲエな坊主」


バルドの素直な賛辞に気をよくし


「戦うのは得意じゃないけど

こう言うの僕得意なんだ」


そうシャレーダーは嬉しそうに笑う


「いよいよ城に突入だからね

堀の中に飛び込むぞシャレーダー君」


「はい艦長さん」


堀に飛び込むと


その堀の大きさが

通常ではあり得ないほど

深く大きいことが直ぐに解った


「この大きさは…あり得ぬ!」


ストームの言葉にシャレーダーが

分析する


「堀がゲートで亜空間と繋がってる…

進入者を排除するためだね」


「つまりは罠か」


ストームがそう言った瞬間

巨大な鯉のダークネスが襲いかかってきた


「錦鯉だよ艦長さん!」


艦長はガイストームにチェンジして

キルセプターを構えた


「コイ! 叩きにしてやる!」


猛烈な突進と水流による斬撃

そして巨体に似合わない素早い動き

水中での鯉ダークネスは手強い

キルセプターで斬れば再生出来ないので

鯉ダークネスのダメージは蓄積するが


ガイストームの方は再生できても

ダメージの回復が間に合わない


「こいつ…斬ろうとしても

絶妙にタイミングが合わないぞ!」


ガイストームは自らの水中での動きの鈍さに

辟易しつつ必殺の一撃を入れるタイミングを

狙っていた


「艦長さんはボイストームの方が

水中では有利なんじゃないの?」


アイリがシャレーダーにそう聞くと


「確かにそうだけど…水中だと

打撃武器しか使えないボイストームは

不利なんだよね」


「でも水中戦専用の武器なら…」


シャレーダーは何かを思い出して

ガイストームに伝えた


「艦長さん!データーを渡すから

セプターを槍の形にチェンジして

見て下さい、魚を突くならそれがベストです!」


シャレーダーのアドバイス通りに

ガイストームは従い

セプターを三つ叉の槍に形を変えた


そしてその槍で今度は難なく

鯉ダークネスの体に攻撃を当てることが出来た


「成る程、魚は突くに限る!」


「スピアセプター水中戦用の武器だよ」


そして背中のバックパックにスクリューを

内蔵するパーツが追加され水中でも

自在に行動できる様になった


だが何たることか


「あれは…」


目前に広がる池の生態系最強の影が見える


「アレは…噛みつき亀…」


「ワニ亀も…」


シャレーダーでさえそのプレッシャーを

感じて息を呑んだ


「外来種ばっかりだねこの池~」


「外来種は駆除だ!」


「ダークネス共めこの星系から

駆除してやるぞ」


ガイストームの覇気も燃え上がっている


魚タイプのダークネスは

自在に延び縮み可能な

スピアセプターで

何匹も一突きに串刺しに出来た


そして厄介なのが亀だった


その分厚く堅い甲良は

スピアセプターの槍が通じず

弾き返されてしまう


「駄目だよお腹を狙わなきゃ」


シャレーダーが小物のダークネスを

スピアテンペストで威嚇しながらも

ガイストームにアドバイスを送る


「腹か…」


だが回転しながら弾丸みたいに

突進して体当たり攻撃を仕掛けてくる

亀ダークネス達に

ガイストームもお手上げである


「厄介だなこの亀ダークネス!」


ガイストームも亀の料理には

手を焼いている様子だ


そう言えばガキの頃のバイトで亀を

捕まえたんだっけ…バルドは

ガイストームが亀と格闘するのを

見るうちに自然と思い出した


「その~亀を捕まえるなら

網が有効だよ旦那!」


ガイは此を聞き逃さなかった


「バルド君、それは良い考えだ!」


バルドは元漁師のバイト経験で

咄嗟にそんなことを思いついたのだ

庶民の知恵恐るべし

バイトとか縁のないストームのは

永遠に思いつかない戦法である


ガイストームはシャレーダーに

網を用意するよう依頼した


「網ネットですねお安い御用です!」


元気良く返事をしたその瞬間

ガイストームの背中にオンブされた

シャレーダーは自分の髪を

網丈に形態変化させ頑丈なネットを完成させた


ブワッと巨大な網が回転する亀ダークネスを

一網打尽に捕獲し身動きできなくする


そこにスピアセプターで腹から突き立て

トドメを刺す連携作戦は項を征し

敵亀ダークネスを一掃した


「良し突破だ!」



その様子を鏡を通して見ていた

怪しい影が居た


「何と、この罠までも突破するとは何者だ!?」


その影の名を呼ぶ声が聞こえる


「どうしたゲンマ…敵襲か?」


ゲンマと呼ばれたその怪人は屈強な鬼武者に

振り向きもせず只、鏡の中に移る

見慣れぬ出で立ちの男に釘付けである


「セキサイか…侵入者には違いないが

妙な奴だ」


セキサイと呼ばれた鬼武者は鏡の中に移る

異界の戦士を睨みつける


「コウギの隠密では無いようだな…

だが、ただ者ではないようだ面白い」


其れを聞いたゲンマは苛立ちの声を出す


「面白いものか!今が一番大事なときなのだ

殿がお目覚めに成りさえすれば我らの目的は

果たされるのだからな…それまで

慎重に事を運ばねば、事を仕損じ

…神の怒りに触れれば一大事だぞ!」


苛立つゲンマにセキサイは落ち着いた声で

そしてハッキリと言った


「神の怒りか…確かにあの神の機嫌を

損ねるのは宜しくないな…仕方ない

ワシが出よう」


ゲンマはその言葉を待っていた


「良かろう…ならばあの侵入者は

貴殿に任せる、頼むぞセキサイ」


セキサイは大降りの刀を抜くと

ガイストームを倒しに向かった


「もう案ずることはない…セキサイなら

どんな相手でも後れをとる心配はない」


ゲンマは闇の中にいるその影にそう呟いた

その目はとても優しく慈しみに溢れていた


ガイストームは

水路から城内への潜入に成功した


「どうやらここは城の最下部のようだな」


分かり切ったことを言うと

戦闘で消耗したストームは

ガイモードの変身を解いた


「此処からは敵も本気を出してくるだろうから

石碑を立てておく…シャレーダー君宜しく頼むよ」


シャレーダーは任せておいて艦長さんと

言うと直ぐにモノリスを構築した


「こんな物を作れるなんてシャレーダー

アナタ…一体何者なの?」


アイリがそう聞くからシャレーダーは

こう答えた


「ボクは正義の味方で宇宙一可愛い天使だよ」


うわー普通自分で可愛いとか言う~?

まあ確かに可愛いけど…


アイリは自分で自分のことを可愛いと言う

シャレーダーを羨ましく思った


「私だってあれくらい可愛く振る舞えたら

ストームさんに…」


可愛がって貰えるのにと言い掛け

ストームを強く意識している

自分に気が付いてしまう


「信じられない…私ったらストームさんに

頼りにされているあの子に嫉妬してるの?」


ミマサカ城に潜入を果たしたストームは

城の最下部から天守閣を目指す


目的は女神の石碑


「女神の石碑を天守閣に置いているのは

何か考えがあっての事だろうか?」


ストームがシャレーダーの中の

サエモン皇に聞いた


「ミマサカ城で一番高い場所だからだよ

…城の中央にある大黒柱の頂上に祭るのが

古よりのシキタリなんだ」


「シキタリか…つまり彼女の考えでそう伝えた…

ダークネスを倒す何かのヒントだろうか?」


シャレーダーはストームに

オンブされながらその意味を考えたが


「解らない…でも石碑に行けば

何か解る筈だよ」


ストームも同様の考えであった


「!」


だがその歩みは突然止まった


「どうしたの艦長さん」


空間が歪む

強烈なプレッシャーが

目前に迫った


「危険な存在が迫っている…私の肌が

其れを知らせるのだ」


シャレーダーが見ると

ストームの鳥肌が凄い事になっていた


「レーダー反応を見てみるよ…

斜め方向126°こっちに来る

強力なエネルギー反応1あり…」


その瞬間


「反応が消えた!」


シャレーダーの感じる

敵の反応が完全に消えた


「何処だ!もう見えてるはずなのに!」


慌てるシャレーダーに手を添え


「落ち着きたまえシャレーダー君」


シャレーダーは唾を飲み込み

気を静める


「は…はい…もう大丈夫です

艦長さん」


「でも敵は何処に?」


シャレーダーはストームが既に

目で敵を探している事に気が付いて

自分もそれに習う事にした

超能力が役に立たないなら

己の五感で探せと言うわけだ


匂いも音もしない…凄まじいばかりの静寂

この敵は完全に気配を消している


どこだ?どこにいる?

必ずどこかに潜んでいて

攻撃の機会を狙っている


シャレーダーはソードテンペストを

発動しストームはガイストームに

チェンジした


「無駄だ…」


「どのような戦士も極度の緊張状態が続き過ぎては」


「そう長くは持たない…」


静寂がさらに継続し戦士達の精神は

限界に達する


「緊張の糸がどうしても緩む」


ふう


ガイストームは一息を吐いた


その刹那


姿無き襲撃者が逆さまの状態で

突如としてガイストームの背後に

現れた


その速度は常識では考えられない

速さであり反撃の間もなく

強烈な斬撃をガイストームは

背中に喰らった


「ちっ!仕損じたか!?」


吹き上がる血飛沫と銀の髪の毛

これは…


「貴様…背にわっぱを乗せ戦おうておるのか?

とんだ外道よ!」


その言葉の方向にキルセプターを振るうも

正体不明の襲撃者の速さに届かず

空を斬るガイストーム


「シャレーダー君…大丈夫か?」


凄まじい斬撃にシャレーダーの

装甲でも耐えきれなかった


「心配しないで…ボクは不死身だよ」


そう言いながらシャレーダーは

体の再生を始めた


「ソードテンペストがなければ

危なかった…ボクをおぶっていて

正解だったよ艦長さん」


ガイストームは敵の動きを

捉えようと身構えている


「感謝するよシャレーダー君」


「どういたしまして…其れより敵は?」


ガイストームはキルセプターを受けの構えに

持ち帰る


「奴は天井にいた…それも我々の頭上に」


壁や天井を足で蹴り

跳ね回りながら我々を攻撃してくる

言わば跳躍剣の使い手だ


為す術もなく襲撃者が超スピードで

通り過ぎる度にキルセプターで防御できない

ガイストームの体が切り刻まれる


「ぐおおおおお」


もの凄い剣技の持ち主だ

とてもじゃないが私が勝てる相手ではない!


大統領判断でストームはシャレーダーに

こう要望した


「シャレーダー君今すぐこの場から

撤退したい亜空間ゲートを開けてくれたまえ」


シャレーダーは言われたとおり

亜空間ゲートを展開した


「開いたよ艦長さん」


其れを聞いたガイストームは

目眩ましの閃光をセプターで起し

それで襲撃者が一瞬怯んだ隙に

亜空間ゲートの中に逃げ込んだ


其れを見たセキサイはチッと

舌を鳴らし 卑怯なことばかりする奴だ…

それでも戦士かと罵倒した


亜空間に命辛々逃げ込んだストームは

そんなセキサイの罵りに苦笑いする


「悪いね達人君…指導者として生きてきて

今更、戦士面で潔く死ぬ訳にはいかんのだよ」


その言葉を聞いて同じ

亜空間に居たアイリは力強く頷く


「そうよ!詰まらない意地なんかで

死んじゃ駄目よストームさん!」


気が付くとシャレーダーと

アイリとバルド、それに老皇が

自分を心配そうに見守っていた


老皇がストームに謝罪した


「済まなかった…少なくともあ奴の

事だけは話しておくべきだったな」


ストームは老皇があの武人のことを

知っていると言うので有り難く

情報を提供して貰うことにした


その間もシャレーダーによる傷の手当てと

修復作業を受けながらである


「あ奴こそは神影流最強の使い手

カミカゲセキサイ」


「カミカゲリュウ…」


老皇の言葉に旋律を覚えるストーム


「何だこの身震いは…私の物ではない

これは私の内なる精神が高揚しているようだ」


その瞬間ガイストームの胸の顔が

意識を持つように喋り出した


「おいおいこんな宇宙の果てで

その剣技の名を聞くことに成るとは

思わなかったぜ」


「そのしゃべり方と声は…ガイ兄ちゃん!」


ストームも自分の胸の顔が只の

イミテーションだと思っていたのに

突然喋り出したので驚愕した


「ガイ ミツルギなのか君は!?」


ガイはストームの胸で独立した

存在感を醸し出す


「そう言うあんたはストーム大統領か

どうやらアンタじゃどうにもならない

敵が出たようだな」


「神影流…か…俺の御剣流と双璧をなす

最強剣技の一つだぜ」


「偶然じゃないのかね…幾ら文明が

渡瀬博士によって影響を受けたからと言って

同じ流派だとは限るまい」


だがガイは否定した


「いいや…アレは間違いなく神影の技だ…

建物内で四方の壁と天井を足場にし超高速

斬撃する殺人剣…それが神影流だ」


「そんな攻撃常識では考えられない

私のにわか剣術ではとても無理だ」


ストームは潔くそれを認める


「それなら俺に任せてくれよ大統領」


ストームは良しも悪くも

一も二もなく出来る人材に

仕事を振る性格だ


「宜しく頼む…恐らく君以外にあの敵を

倒せる物は居まいからね」


「良いのかい大統領…アンタの獲物を横取り

しちまって、まあ御剣流としては因縁の相手だ

こっちとしては願ったり叶ったりだがね」


「遠慮なくやってくれたまえ」


ストームはシャレーダーに言った


「ガイ君に一時的にでも私の体を

自由に使えるように出来るかね?」


シャレーダーは


「今のエネルギーだと5分が限界かな…

次の召還はお母さんの石碑を回収して

からじゃないと出来ないから一回勝負になるよ」


亜空間から出るガイストームの胸の顔が

上等だ!と一言放つ間に

亜空間から二人は出た


「気をつけて…敵は直ぐ目の前だよ」


セキサイは一瞬目の前から消えて

目標を見失い驚いた


「なんだこの技は!気配を一瞬消すとは」


だが直ぐに消えたときと同じ場所に

現れたのを見てニヤリと笑う


「中々味な真似をする…だが苦し紛れの技では

我が殺人剣には勝てぬぞ」


ガイストームはキルセプターを肩に抱える

構えを取った


「?」


セキサイは息を呑む


何だこの剣気は?

先ほどまでの奴とは別人のようだ…

此ほどの剣気初めてだぞ


セキサイの長い人生経験でも

此ほど研ぎ澄まされた剣気を持つ

戦士は初めてである


面白い…こ奴を素人と侮るのは早計だったな


その刹那先ほどまでとはまるで違う

一撃でも喰らえば命を絶たれる剣が

セキサイに向かって飛んできた


「馬鹿目!空中に飛べば我が剣の

良い的だ!」


だがガイストームは剣を持って飛んだわけでは

無かった


剣の起こした剣気を飛ばしたのだ

その剣気は間違いなく当たれば

全てを切り裂く斬撃となる


「むう!」


セキサイはその剣気を危うい所で

刀で反らし回避した


だがガイストームの剣気は

後方の壁を無惨に切り裂いた


だがそのままセキサイは構わず

ガイストームめがけて秘剣壁蹴りを始める


その攻撃を予測したガイもまた飛鳶斬を

飛ばし続け、壁を切り裂き天井を

滅多切りにする


「馬鹿め!如何に強力な技とて

当たらなければ道という事はない」


セキサイの言うとおりだ

ガイの技は壁と天井を斬るばかりで

全然セキサイ自身に攻撃を当てていない


だが其れがガイの勝利の方程式だとは

歴戦の戦士でも気が付くものではなかった


強力な脚力による壁蹴りの跳躍には

しっかりとした足場が必要不可欠である

セキサイの足が壁の亀裂にハマったとき

その周到な企みを知ることとなる


ガイはニヤリとし「どうやら罠にハマったな」

そう言うが速いかガイは超加速し

御剣流奥義の一つ肩から振り下ろす大技

背負い斬りを使う


鉄をも切り裂くと言われる戦場の魔剣

その威力がディーヴァである肉体と

破壊力抜群のセプター武器で放たれれば

どうなるかは秘を見るよりも明らかだ


セキサイは

我が身の足先を斬りその攻撃を

ギリギリかわした


「ぐぉおお」


ガイの一撃は空を切り

その斬撃は城の構造を無視する威力で

貫き通し石垣がバターみたいに斬れて

城の内側から3割も崩壊した


だがこの技が連撃でないことが

セキサイには幸いした


「…次で勝負をつけよう…御剣流の男よ」


己の流派を言われドキッとするガイ


その言葉を言い残し

セキサイは現れたときと同様に

音もなく消えた


「ふう…危なかった」


丁度ガイが技を放って直ぐ後に

蘇りの時間の終わりが来た


「だがトドメを刺せなかった

こいつは不味いぜ」


胸のガイの顔が苦い顔を見せる


「大口を叩いて置いて済まない大統領」


その言葉には慚愧に耐えないと言う

想いが籠もっていた


「もう一回の蘇りは無理かねシャレーダー君?」


ストームは青い顔で祈る想いで訪ねた

応えは芳しい物ではない事は解っている


「3秒なら…何とかいけるかも」


ストームは深く溜息をつく


「3…秒」


アイリはシャレーダーの中から

ストームを励ます


「だ…大丈夫ですよ 相手は大怪我をしていた

じゃないですか…だから」


だがアイリは知識の中で

ダークネスが不死身だと思い出す


「あ!」


「励ましてくれて有り難うアイリ君…

もう大丈夫だ心配はいらない」


嘘である

何の対策も有りはしない

神影流をダークネスの超能力で使うセキサイは

ストームがメインのガイストームでは

どうにもならいのはガイに体を貸した

ストームが一番良く理解している


「石碑だ…兎に角、石碑に触ることが出来れば

我々は再び戦う力を取り戻せるのだ」


「どうしてそんなに石碑に拘るんですか

命有っての物種でしょう?」


石碑にどんな秘密が有るかは知らない

だが形勢逆転のチャンスはそれしかない


其れだけではない

ガイミツルギの召還の5分間に使用した

エネルギー量は思っていた異常に消費が激しく

そのために隠していた


亜空間戦艦の全貌が見えた

その姿は想像とは違い

刃こぼれし消耗した見窄らしいものだ


「これは…」


1万人の乗組員も全員スリープ状態となり

精神だけはホログラフィの形で動いていたが

そのエネルギーも枯渇しホログラムの人も

全て消えボロボロになった本当の

マグニファイセントが現れたのだ


「前回の宇宙でダークネスと戦った結果だ…」


ストームは静かに喋り出した


「宇宙に出たダークネスは想像を超えて

強くそして凶暴さを増していた

我々は博士の残した石碑を頼りに

死力を尽くし戦ったが…マグニファイセントは


先のアステカ星系の大戦で

戦闘不能にまで消耗しきってしまった

…女神の石碑だけが艦を蘇らせる希望なのだ」


この話を秘匿したのは

石碑を交渉の道具にされないための

政治的判断だった、それとダークネスに

決して知られては成らないからだ


「済まないね…私は地球の代表なのだ…

だから簡単に艦の秘密を明かすことが

出来なかった」


アイリは首を振り


「いいえストーム艦長が

どこか焦っているように

思えたのは

其れが理由だったんですね

…納得しました」


バルドも 「旦那も…見かけに寄らず

苦労してるんですね」と言うのを

アイリの一言多いと肘鉄を喰らい

ゲホゲホとせき込む


「それにしてもお互い待った無しの状況

なのは確かだが…ただ

一方が一方だけを無条件に

救うと言う話ではないと言う

のはワシとしては少し嬉しい」


老皇の言葉にアイリとバルドも頷く


「そうね…昔からお互い様なのが

関係が良好になる為の最良の方法ですもの

助け合いましょう」


「妹の言うとおりですよ

俺達も何かお手伝いさせて下さい

ストームの旦那!」


「君たち…」


だが現状待った無しなのは変わらない

孤立無援のこの星系で

僅かな希望の光が見えたところで

石碑にたどり着くにはあの

セキサイに勝たなければならない


「ガイミツルギを再び召還するエネルギーを

手に入れる秘策は何かないのかね?」


シャレーダーも鼻に手を添え考える


「亜空間から…ボクのエネルギーを

マグニファイセントでなく艦長さんに

回せば…でもそれだとギリギリ持たせている

艦の皆が危ないし」


「アステカの戦いで何人も死にかけている

白鳥座x1との距離も限界だし

そろそろ次のエネルギー源を

お母さんが用意してくれてる筈なんだ」


「ダークネスは行った先々から惑星を喰らい

エネルギーなんか奪いたい放題なんだ

これに対抗するにはお母さんの知恵に

頼るしかない」


「その情報は女神の石碑にきっとあるはずだよ!」


シャレーダーそう断言した


「決断が必要だな…」


「乗組員全員の意見を聞こう」


全艦会議である

シャレーダーの力でスリープ状態の

全乗組員達とのセッションは可能だ


「成る程…命がけのリスクですねキャプテン」


イズミ副長はストーム艦長を中心にして

マグニファイセントの元の船体に利用した

東京都庁の会議室で各般トップを集めた

会議に入る


「アステカ大戦のダメージで我々は

キャプテンに望みを掛けるしかない

結論は出ているだろう」


「白鳥座からのエネルギー供給は

銀河内でなら無限に出来るけど

ここは銀河を遙かに離れた別の銀河

…そろそろ限界なのは解る」


「シャレーダーがディストラクションを

使えない程だしな」


「どんなに性能が良くても

燃料がなければどうにもならない」


「医療班としては反対です

生命維持装置に回すパワーを

一時的とは言え絶やすのは

医者として看過できません」


「俺達も戦って死ねと言われれば

死ねるが…そんな死に方をしに

こんな所まで来た訳じゃない!」


「この艦に乗っているダークネス野郎共の

エネルギーを全部奪ってしまえばいいんだよ!」


「馬鹿を言え!彼等と合体した人間ごと

殺す気かよ!」


意見がバラバラで収拾がつかなくなりそうだ


流石に乗務員18888人全員の

意見を聞くのは無理があった


ストームは今意見を述べた

全てのクルーの名を呼び

そして話を纏め決断を下した


「解った…やはり全エネルギーを

ガイの召還に使うのは止めよう

リスクが高すぎる…そのかわり

生命維持ギリギリまでのエネルギーを

この作戦に使用する、これは

大統領命令であり艦長命令だ」


最初の案では死人が出る程の

辛い話だったのが、かなり

辛いとは言え生き残れると知り

大多数が承諾した風となる


ここでアメリカ最後の大統領の言葉は重い

艦長命令の更に上のこれ以上ないトップの

命令なのだ聞かないわけにいかないだろう

所謂、厳命と言う奴である


ストームも心苦しいとは思うが

誰かが決断し責任を持たねばならないなら

自分しかいないと言う自覚はある


「人類の命運はこの一戦に掛かっている

私を信じ付いてきてくれ皆!」


キャプテンディーヴァと言う英雄に

姿を変えてストームは激を飛ばす


おおおおおおーっ


「アースソード!」


「アースソード!」


「アースソード!」


「アースソード!」


そうなのだマグニファイセントの

敗北は宇宙の破滅と地球の絶望を

表すのだ

人類に残された最後の希望がこの

マグニファイセント

敗北は決して許されない


「シャレーダー君…それでガイ君の

召還に使える時間は

どれくらいにあるのかね?」


シャレーダーは丸メガネ算盤を

弾き苦しい見積もりを

繰り返して時間を絞り出した


「3分22秒…それが限界時間です」


想像以上に短い…

だが皆が私を信じ命を掛け

作った貴重な時間だ


ストームもセキサイとの戦いに挑む

覚悟を決めた


「石碑にたどり着ければエネルギー問題が

解決すると言うのも予想でしかない

だが希望はある…地球一の頭脳に私は掛ける」


この一戦に勝って博士を追う

ダークネスキング

ゾスターを討伐する当初の目的

其れを果たすために…


亜空間ゲートから通常空間に出ると

そこにはストームだけでなく

バルドとアイリの姿があった


「なんのつもりだ危険だぞ!」


だがアイリは首を振る


「今行動できるのは私達だけだと知って

何もしないのは私 嫌なんです」


「そうだぜストームの旦那

俺達でも何か出来る所を見てくれよ」


しかし只の星人である二人を

戦いに参加させるわけにはいかない


それでも自分の星は自分達で守ると言う

意志は無視できない


「解った私は地球の大統領として…

日輪星系の君達に要請する

強敵を倒すため力を合わせ

一緒に戦って貰いたい」


其れを聞いた二人は誇らしい気持ちになり

星系の代表として戦うことを誓った


石碑の前には予想通り武将セキサイと

妖術使いのゲンマが待ちかまえている


「妖術使いの方はシャレーダー 君に任せる」


「それじゃあトドメは艦長さんに

お願いするね」


シャレーダーはそう言うと髪を剣に変えて

思い切りよく

妖術使いのダークネス 

ゲンマに向かって

走って行く


「喰らえ狐火!」


ゲンマは空中から狐火を出し

シャレーダーに向けて砲撃する


だがシャレーダーは伸縮自在の

ソードテンペストで

その狐火を次々に迎撃する


攻防一体のソードテンペストの

面目躍如と言ったところか


そしてガイストームとセキサイの

戦いも始まった


ガイ召還モードの5分でも倒せなかった

強敵を3分強では時間的に無理すぎる

要は奇策が必要なのだ


凄まじい勢いで壁を蹴り飛び回りながら

ガイストームを追い詰めるセキサイ

その戦いの様子を見守るアイリとバルド


「あの壁蹴りを邪魔できれば

ストームの旦那にも勝機はある」


「速さ的に素人じゃ狙撃も無理だし

何か手はないか?」


「思い切って水を撒くのって

どうなのかしら?」


「フザケているのか

そんなことで何がどうこう

出来ると」


バルドの意見は無視して

アイリは防火用の桶から水を汲むと

思い切ってそれをガイストームの周りに

まき散らした


通常の時間の中で撒かれた水は

只の水に過ぎないが


超加速の時間の中で

水は無数の水滴となり

その水滴に衝突すると

セキサイには途轍もない

障害となった


「こ…これは!?」


セキサイの居所が初めて

ストームの目にも見えた


水滴との衝突で超高速の動きが

阻害されその影が捉えられたのだ


「いける!」


ガイストームはその瞬間を逃さない


「召還!サムライディーヴァガイ!」


僅か3分の召還だが本物の

御剣流の使い手がストームの

肉体に宿った


「背負い斬り!」


セキサイの動きを完全に捉えた御剣流奥義は

必殺の間合いでダークネスの肉体を斬り裂いた


「手応え有ったぜ!」


ストームは「良くやってくれた

これだけダメージを与えてくれたら

後は私が」そう言うとガイの召還を

オフにする


「!ちょっと待て…先にトドメを」


その一言だけを残しガイの意識は消えた

ストームは召還に使う膨大な燃料を

少しでも節約したかったのだが


その判断ミスが思わぬ結果をもたらす


「ぐおおおおおーーー」


セキサイは致命傷を負った事を自覚した

その脳裏に城主である美作進次郎との

あの日の誓いを思い出す


「余は見た…ダークネスの深淵を」


「だが…」


「ダークネスは星を喰らう化け物だが

交渉の余地のない相手ではない」


「戦っても勝算のない戦だ…我等が生き延びる

には…我等自らが価値ある存在だと

ダークネスに認めさせるしかない」


「そのために余自ら…ダークネスと融合し

魔獣の船となる…決意をした」


戦艦獣になると言うことは

ダークネスの眷属となり

怪物の手足となって永劫に働かされる

地獄を選ぶことだ


セキサイは主君の悲痛なこの想いを

嫌と言うほど知っている


「殿が…この星系をダークネスに

喰わせないために選んだ決意を

台無しにはさせんぞ!」


そう叫ぶやセキサイは

瀕死の身で壁を蹴り血反吐を吐きながら

ガイストームの一瞬の隙を狙って

殺人剣を放った


ストーム!

危ない


アイリはストームに覆い被さり

その殺人剣からストームを庇った


「アイリ君!!」


セキサイは原子分解されながら

悔しそうに「抜かった…殿…申し訳…御座いません」

と言い残し光となって消滅した

咄嗟の出来事だった

どうにも後味の悪い結果となった

アイリは二度と目を覚ますことはない


ストームと兄の船の旅で

一度だけ関係を持った


どちらがと言う訳でもなく

自然にそうなった


船と乗員の命のこと宇宙の未来

その重責を一人で抱えるストームは

この純真なアイリの前では

大統領でも艦長でもなく一人の男として

接してくれた


何か大きな秘密を隠している

それも大きな秘密を…

ストームはそれをアイリにだけは

伝えたいと思った

だが…指導者として艦長として

船が今戦える状況に無いことは

言うわけに行かなかった


「済まない…済まないアイリ…」


「最初から船の状態を伝えておけば

いや私が油断せずガイ召還をあの時

解かなければ…君をこの戦いに

巻き込むべきじゃなかった!」


「シャレーダー君…転生を…時間を

元に戻すんだ!」


「そうすれば今度こそ私は油断しない

さあ速く!」


シャレーダーはゲンマを鱠斬りにして

連れてきた


「其れより速くこいつにトドメを…

直ぐに再生しちゃうよ」


シャレーダーはアイリの死体を見て

状況を理解した上でそう言った


ストームは無言でセプターを取り

ゲンマの心臓に突き刺した


「こんな事に意味はない

時間を巻き戻すのだからな…

さあシャレーダー君

やりたまえ命令だ」


シャレーダーは首を振る


「ストームさん…其れは出来ないよ

不可能だからね知ってるでしょ?」


ストームはシャレーダーの肩を掴む


「良いからやるんだ!頼む…頼むから!」


「そうか私が死ねば時間を巻き戻せる」


シャレーダーは肩に置かれた手に

自分の手を置いて

ストームの目を見て話す


「ボクは便利な道具だけど…

何でも出来る訳じゃない

燃料の切れかけた道具に

頼っても仕方ないですよ」


ストームは手を離した


バルドは妹の体を抱きしめながら泣いていたが

ストームの行動を見て泣きながら


「やめて下さいストームの旦那

アイリが命がけで守ったあんたの命を

…大切にしてくれ…お願いだ」


ストームは目を瞑り


「済まない…私がここで立ち止まってしまっては

アイリが一番悲しむ事になる」


ストームは石碑に目を向けた


「君が命を掛けて作ってくれた

このチャンスを無駄にはしない」


そしてストームが石碑に触れた時

ドンと地震が起こった


「これは…!!」


「石碑を亜空間に…早く!」


済んでの所で石碑を亜空間に収容できた

だが「やっぱり…石碑にロックが掛かっている

ダークネスに利用されないためにこの石碑も

封印されているんだ」


シャレーダーの言葉にバルドは

思わず悪態をつく


「封印だって!?アイリが命がけで

手に入れた宝だろ何とかしろよ坊主!」


「宝物だから鍵が掛けてあるんだよ

無理矢理こじ開けたりしたら中のデーター

つまり宝物が壊れるかも知れないよ」


三人の様子を見ていた老皇が

ベッドに寝かされたアイリの手を

握りながら呟いた


「鍵か…たしかアイリ君の研究で

女神の鍵が日輪大社に奉納されていると」


バルドがああと言う顔をして

ストームに伝える


「知ってます!そいつは帝都にある

皇家縁の大社ですぜストームの旦那!」


「帝都があるのは?」


「惑星京都です」


ストーム達はその星に向かうために

亜空間からバルドの船に乗り

大地震で揺れ続ける

惑星美作を飛び出した


「一体なんだってんだこの地震?」


酒類運搬船・酒天童丸が宇宙航行を始めると

惑星美作の地表を食い破る様にして

途轍もない大きさの生物、に見える

何か巨大な物が現れた


生物に見えるのは歯と言うか牙か?

いや人間のパーツらしき物が体中にあるからだ


「あれは…魔獣戦艦だ!」


シャレーダーがストームの背中で

そう言った


「戦艦?あれが?どう見ても気持ちの悪い

悪魔にしか見えないぜ」


バルドは必死に操船をするが

怪物の方は余裕うで酒天童丸に

追いついてくる


只の貨物船で相手にできる訳がない

だめだ!追いつかれる!


そう思ったとき、船に向かって

一つの通信が入る


「そこの船、助かりたければ

妾の言うことをお聞きなさい!

妾の名は美作陽和」


「陽和姫と言えば信じて貰えますか?」


怪物から必死で逃れようとする

酒天童丸は藁にも縋る状況だ

その助け船に乗らないわけにいかない


「バルド君、声の主に従ってくれ

今は其れしかない!」


バルドはストームの意志に従う事にした

妹が命を掛けて守った英雄だ最後まで

信じてついて行くと決めたのだから


「了解ですぜ!旦那」


酒天童丸が声の指示する進路に舵を切ると

明らかに敵魔獣戦艦に焦りの色が見えた


「あの魔獣戦艦の核に成っている者は

間違いなく美作進次郎であろう…

つまりこの声の持ち主は間違いなく

進次郎殿の妹君である陽和姫である可能性が高い」


陽和姫と言えば日輪3大美女の一角と

呼ばれる絶世の美女である

バルドでさえその名声は知っていた


「すげえ本物かよ!」


魔獣戦艦から明らかにその場所に船を

近づかせないように使用という攻撃が来る


だが、まだ調整が行き届いていないのは

明らかで隕石を電磁砲で飛ばす

馬手尾砲と言う攻撃は威力はあっても

全く明後日の方向に攻撃が飛んでいく


その攻撃の先には美作星の月の一つが

あってその月に誤爆してしまう


「きゃあああああーーっ!!」


自分の攻撃が月に当たったことを知ると

魔獣戦艦ゲルサンドは動揺し攻撃をやめた


陽和姫の悲鳴を聞いた酒天童丸の面々は

姫の安否を心配し必死に呼びかける


「大丈夫ですか陽和姫!?」


暫くの沈黙の後…「もしもし妾は無事です

…もう御存じとは思いますが兄は

あの戦艦獣と成り果てました

しかし何故か妹の妾にだけは手を出せません」


「だから妾を一緒に連れて行けば

兄に戦艦獣に攻撃されずに逃げおおせる

筈で御座います」


酒天童丸は月に着陸しストームが

陽和姫の居る牢屋に向かった


「当然だが牢番が無数にいる

シャレーダー君…石碑を造れるかね?」


シャレーダーは首を振る


「もう石碑を造るだけの力は残ってません

でも傷を治す事は可能です」


シャレーダーがそう言うと

ストームはボイストームに変身し


「十分だ」と強がって見せた


ここで死ねばゲームオーバーだ

リアルに全てがお終いになる

アイリの犠牲まで


シャレーダーはストームが

自分が油断したせいで

アイリ死んだとその

責任を感じる前に

気持ちを切り替えて

欲しかった


「自暴自棄になっちや駄目だ」


人間は仲間の死に敏感だ

そこがダークネスとは決定的に違う


仲間を殺されたことで一時的に

強くなることもあるけど

喪失感が必ず来て弱くなるんだ


シャレーダーのこの言葉に一瞬

ボイストームは怒りの表情を見せるが

直ぐにその怒りの矛先を

敵に向けた


「解っている…そんなことは

君に言われるまでもなく」


ボイストームは牢番ダークネス達を次々に

アックスセプターで薙払いしていく


だが一体の巨大な筋骨隆々のダークネスが

その眼前に現れた


「我が名は牢番長ニオウサ

いざ尋常に勝負!」


明らかにこの囚人衛生で最強の戦士だと

見るからに解る出で立ちであった


その両手に握られた武器は鎌

そして背中に巨大な釜がある


「身の丈6メートル強…私の三倍はあるな」


ボイストームは手に持つ斧を両腕で

持ち直し敵の出方を見た


「ぐおおおおーーーっ」


台風のように強烈な攻撃

威力だけでなく風圧も凄い

それを振り子運動で起こし

どんどん摺り足で前に出てくるのだ


「我が剛技を喰らうが良い」


「怒濤の大連獄風車」


仁王左の鎌は刃自体が分厚く重い

斬ると言うよりも打撃がその主な

攻撃方法である


ボイストームは斧で片方からの攻撃を

防いでも直ぐに逆方向から

強烈な鎌状の混紡に殴りつけられる


切り口も鋭利ではなく

肉が削げる格好でボイストームは

腕の装甲ごと肉を抉られた


「ぐおおおー」


ボイストームの戦闘スタイルは

打撃技が主体なのでストームでも

対処可能だ

アメリカ軍での海兵時代に身につけた

格闘術は此処では役に立つ

拳闘や柔術なら体の大きさとパワーで

相手を圧倒する身長2メートルのストームは

相当強かったのだから


だが打撃武器と斧で闘うのは

あらゆるスポーツで馴らしたストームも

そう簡単ではない


「アメフトやラグビーなら

得意なんだがね…種目を変えて

腕試しはどうかな野蛮人君」


仁王左は熊でも喰い殺しそうな顔で

ボイストームを睨んだ


「誰が野蛮だってんだ?この

優男が!」


仁王左が怒濤の勢いで

鎌を降りボイストームを追い詰める

その鎌はまるでトンファーみたいに

以外にも器用に操り

ストームは全身に被弾し

満身創痍の有様となる


「くっ!」


一撃で殺される暫激よりも質の悪い

殺し方だ、サムライディーヴァのガイならば

逆に一撃でしとめるのだろうが

生憎サムライを呼び出すコストがない


「金の切れ目が縁の切れ間ってな」


サムライディーヴァのガイならそんな風に

皮肉を言うのだろうか?


私は無力だ…罪のない女性一人守れず

こんな野蛮人に手も足も出ないとは


ストームは己の才能の無さを此ほど

恨んだことはない

自分に向かないからと

剣の練習をしなかったのは怠慢だった

筋トレをする時間を剣の修行にあてていれば

此ほど苦戦する事も無かったはずである


だが数十年前のアステカ大戦で極めた強さは

幻でも何でもなく自分自身が掴んだ強さだ…

あの時の自分に戻りさえすれば


そこに強烈な一撃をボイストームは

喰らったのである

現実は悪魔で非情だった。


血を吹きだし混沌する意識

次の瞬間、仁王左の繰り出す

鎌の尖った先端が

亀裂が入り鮮血を吹き出す

頭部に当たると思った瞬間

シャレーダーは観た


怪しい光を放つボイストームの

姿がかき消えて、目標を失った

仁王左の鎌が空を斬ったその時に


何時の間に後ろに回ったのだろうか

ボイストームが横凪に斧を振るう


間一髪、仁王左は腰を落とし

その強烈な一撃を命辛々凌いだのだ


「何だこの男…急に強くっ!」


頭で考えている場合ではなかった

右に左に転がりそれで何とか

ボイストームの斧の攻撃を避けている

殆ど野生の感頼りで


さっきまでの奴とは違う

何倍も何十倍も強い!

此だけの実力を隠し持って

いたというのか?


だが隠していた意図が分からない

実力を隠し持って奴に何の得があるというのか?

我等を油断させようとムムム~


何にせよ今のボイストームは

今までの奴とは訳が違う

此処は撤退も考えて闘う必要が


ボイストームは斧を違う武器にチェンジさせた

鎖の先に刺のある鉄球

モーニングスターと呼ばれる武器だ


モーニングスターセプターの

鉄球を振り回し視覚外から攻撃されると

仁王左は今度は自分が避けることが出来ず

被弾する


鎌で攻撃を繰り返すが

モーニングスターセプターは

確実に仁王左の視覚外から飛んできて

仁王左の絶技を潰していく


「怒濤の大連獄風車」


技を発動すると同時に

ボイストームのモーニングスターセプターが

体の回転方向の反対側から衝突する

それが絶妙のカウンターとなり

仁王左の技を悉く潰してしまう


「こやつ…!味な真似を!!」


そして仁王左の背中に背負われた釜から

老人の首がニョキっと出てきて

仁王左の耳に囁きかけた


「弟よ…この男…強いは強いが…意識がないぞ」


「何だと…其れは本当か?ゲンマの兄じゃよ」


何と弦間は死んでなどいなかった

シャレーダーにやられたと思わせ

身代わりをたて殺られた振りを

していたのだ


「先ほどの頭部への攻撃であの男の意識は

飛んでいたのだ…だから今の奴は

無意識で闘っている…だが気絶している方が

強い奴など見たことがない」


仁王左の背負う釜から首だけを覗かせる

恐怖の怪物、弦間は少し考え

「気絶しているのなら…目を覚まさせればいい

そうすれば元に戻るだろう」


「むむむ…其れは名案だがどうやって?」


「簡単じゃ…此処を引けば良いだけの話」


「何だと!?」


弦間は再びストーム見て


「次は奴が気絶する前にしとめるのだ…

引くぞ仁王左」


そう言うと弦間は黒い霧を術で作り

2体のダークネスは

亜空間に身を隠した


「剛力と呪術…二人で一組の敵だったのか」


シャレーダーはボイストームの背中から

一部始終を観察していた


「艦長さん気絶してからいきなり強くなって…

一体どうなってるの?」


数分後ボイストームは立ったまま

その場で目を覚ました


「むっお!」


そう息を吹き返すと同時に

アックスセプターを一度ぶん回す


「!!」


「落ち着いて艦長さん!」


シャレーダーの声に反応し

ストームは武器を降ろした


「私は…どうしたのだ?」


シャレーダーはキャプテンが意識が無く

その間に何があったのかを記憶映像で見せた


「信じられない…此を本当に私がやったのか?」


無意識で闘う戦士の話は聞いたことがあるが

こんな風にいつもの自分と比べ

圧倒的に強くなるなんて信じられない

事だった


「私の中には二人の超戦士が眠っている

その一人が意識を失った私の替わりに

闘ってくれたのではないだろうか?」


シャレーダーも考えながら


「それなら喋らないのは逆に変だよ…

だいたいボイストンなんて凄いお喋りだしね」


ストームも同意見である


「ああ彼は確かに無駄口が多いな」


二人はそう言って笑う


「兎に角…艦長…キャプテンさんには

まだ眠っている力があるみたいだね」


ストームは自分の拳を見つめながら

呟く「そんな力が私の中にあるなら…

愛理の危機に使いたかった」


「キャプテンさん」


だが歩みを止めている場合ではない

牢に囚われている日陰姫を救出しなければ

ならないからだ


「人間の生体反応あり…あっちです」


シャレーダーが示す方向に

次々に門番のダークネスが現れ

道を塞ぐ


「こんなに敵が待ちかまえているという事は

この道で間違いない証拠だ!」

ボイストームは敵を斧で蹴散らしながら

今度は順調に道を進んで


「模し…そこの方」


牢屋に近寄ると

牢屋ではなく牢屋敷と言う感じの立派な

御殿が目に飛び込んできた


「ここが牢屋?」


シャレーダーは眩しそうにその

御殿を眺める


「城主である美作進次郎殿の

妹君を閉じこめてある

場所だ…当然粗末には扱わないだろうな」


ストームもこのくらいは想像できる

範囲だと思った


「星系のために民も家臣も

自分自身でさえダークネスに捧げた男も

自分の妹には甘かったか」


だがこの御殿も堅牢な格子状の

結界に包まれていてはやはり

閉じこめられている身に代わりない


「なるほど此は確かに牢獄だ」


ストームとシャレーダーは

結界越しに日陰姫を発見した


「綺麗なお姉さんだね」


ストームも同意見である


「ビューティホー」


日陰姫の美しさには目を奪われた

どこか儚げで色の白い黒髪の

この星の人の目の標準色である

紫色の瞳に吸い込まれそうである


日陰姫の方もストームの姿に

胸をトキメかせた


「まあ何て頼もしく凛々しいお方…

それにとても強くて優しそう」


ストームは結界を破壊しようと

斧を振りかぶった


「姫…下がって下さい

今そこから

出して差し上げます」


「曾様少し下がりましょう」

姫は側付きの腰元に危険だからと

庇われながら少し下がる


「緒御津…」その腰元の名は緒御津

日陰姫にとっては友のような存在でもある

姫の身の回りの世話をし

しっかり者で頼りにもなる、そして

光線長刀の使い手でもあるのだ


そしてストームの背後から

生き残った牢番ダークネスが飛びかかるが

其の襲撃者は矢で射抜かれた


ストームとシャレーダーが怪物を射抜いた

人物を見るとそれは美しい着物を着たまま

見事な射撃で敵を射る達人級の弓手

日陰姫その人であった


負け次と腰元の緒御津も長刀で

残党をズバズバ斬りまくる


「此処から脱出するのに妾も協力致します

姫だからと言って護られるだけでは

大和撫子の名が捨たれますゆえ!」


「お…おおう!」


シャレーダーとストームは唖然としつつ

姫と腰元の二人の思いがけない助太刀で

ストームとシャレーダー双方とも

顔をヒキツらせながらも心強い思いだ


「助かったよ…二人も庇いながら

此処を脱出するのは正直大変だからね」


「ですが相手は不死身の怪物ばかりで

斬っても射ても数は減らせません」


姫と緒御津は走りながら敵を迎撃する

ストームと同じくらいの戦力はある


そうしてやっと宇宙港にたどり着いた

「船倉に…密造酒を少しばかりですね~」



01end



★付箋文★



敵は兎に角怖くて強いほうが面白い

それを目指して頑張ります

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