TRPG流浪の時代 #06 【ラノベの源流が産声を上げた頃】
そうした中、私のいた学校の片隅では、新たな流れが出来つつありました。この中には後に一緒にTRPGでのグループ活動をするメンバーたちも何人かいたのですが、誰を切っ掛けとしてその流れ始まったものかは、今となっては全くわかりません。
その頃(1988年)になると、後のライトノベルの源流とも言える国産の小説が、少しずつ産声を上げるようになりました。
昭和の末期ですから、まだライトノベルなどという言葉はなく、言うなれば子供向け小説に近い位置づけだったと思います。
そうした新たなジャンルに興味を持ち、読み始める者がチラホラと現れ始めました。そうした人たちから作品を紹介され、自分も書店を回って買い求めるようになったのです。
私にとっても新たな方向への船出でした。
現在も当時の小説は所蔵しています。見てみますと『ロードス島戦記』、『ラプラスの魔』、『隣り合わせの灰と青春』(ウィザードリィの小説)、『Ys』(PCゲームの小説版)、『魔法使いの探索』が、該当するところでしょうか。『魔法使いの探索』を除き、残りの4冊はクラスメートの友人から紹介され、読んだ作品だったと思います。
残りの『魔法使いの探索』(サウロン・ハデシア著、イラスト:望月あむ)はウォーロック誌に広告が載り、書店で注文してようやく手に入れました。発売元が大手出版社では無かった(むしろ知らない出版社で、もはや現存していないと思われる)ためか、店頭では見かけませんでした。
その後、第2巻の予告がありながらも、結局第1巻が発表されたまま未完で終わってしまいました。内容も傑作でしたし、挿絵を含めてむしろ今のライトノベルにかなり近い書き方でした。それこそ、今であれば『なろう』サイトに掲載されていても、何らおかしくはない出来栄えです。
それだけに、埋もれてしまったのはとても残念に思います。
余談ですがその頃既に、月間コンプティーク(現在は随分と内容が変わっていますが、当時はPC9801やFMシリーズ、X68000などのPCゲームが扱われていました)に『ロードス島戦記リプレイ』も掲載されていました。リアルタイムで読んだことはなく、友人から話を聞いたものでしたが、当時は確かD&Dを用いて行われていたと思います。
書籍化の際に後に発売される『ロードス島戦記RPG』のシステムを用いて、新たに作られたものだったはずです。恐らく版権の問題だったのでしょう。
現在では国産TRPGが色々と誕生しているようですが、その源流もまたこの頃に生まれたものなのだと思います。
高校生の頃になって、一時期コンプティークを買うようになりました。PC9801を使うようになったからです。
その当時はエロゲーやエロマンガを紹介する袋とじがあって、思春期の自分はドキドキわくわくさせられたものでした(笑)。今に思えば、子供だましのような内容でしたけど(笑)。
考えてみれば、この1988年は昭和63年。昭和64年は1月7日までしかありませんから(このサイトにいる若い子たちは、殆ど知らないことでしょうね)、辛うじて昭和の時代に始まったものだったわけです。
今回の話に出てきた『魔法使いの探索』という作品。物語の展開は純粋な冒険ファンタジー。世界観は今のラノベに近い感じがします。
そう言えば冒険を始める前の段階で、仲良し兄妹(実際は従妹)ネタも少々出てきました。時代を先取りしていますね。
文章の書き方(主人公キャラの一人称)も、当時としては新しい発想だったのかも知れません。あと一年か二年あとであれば、スニーカー文庫やファンタジア文庫などのラインアップに並んでいても、まったく遜色ありません。
奥付を見ると1988年4月30日初版発行となっており、私が持っているのは同年5月15日付けの第2刷。短期間で増刷されていたことがわかります。
出版していたのは東京出版株式会社(その後の足取りはわかりませんでした)で、住所は神田神保町。
あとがきから、当時十九歳のかたが書かれていたとわかり、お元気なら五十三歳(2022年現在)くらいではと。今であれば若いラノベ作家さんのデビューは珍しくありませんが、当時としては異例だったのではと思います。
この本は今でも私の書棚に並んでいます。
どこかから再発されるとか、作者様ご本人がWEB掲載を始めるとか、そんなことが起こりませんかね。当時、中学生だった少年は、続きが気になったまま、三十年以上待ち焦がれています。




